まさかの・・・
嵐のような入学テストが終わった後の職員室、試験官を務めた職員たちが集まって会議をしていた。もちろん全ての受験生の合否を話し合う場のはずだったが、もっぱら話題の中心になったのは言うまでもなく、ある少年についてだった。
「りゅ、竜人ですと??」
「うむ。黄金に輝くドラゴンに変身しておった。どうやら我が校に入学したいらしい。先程確認したんじゃが筆記試験も100点満点、本来満点を阻止するために設置した問題もなぜか答えておる。」
「なんですと!あれは光の勇者の逸話の中でも、誰も知らない世間認知度0の手記が出典ですぞ!」
ザワザワ。
「静まるのじゃ、それだけではない。実技試験も満点オーバー、おまけに我ら教師陣の攻撃を20発以上集中砲火受けたが無傷。極めつけは、破壊した結界を無詠唱で元に戻しおった。もはや点数のつけようが無い。彼が首席で合格じゃ。」
「そんなバカな。いくら竜人といえども、そんな規格外な話がありますか!あの防御結界は我々が複数人で張ったものですぞ!」
「じゃがそれが事実じゃ。のうヤードや?」
「俺は・・・いや私は・・・気絶していたのでよく分かりません。」
ザワザワ
「し、しかしそれが事実なら彼に我々が一体何を教えると?」
それは禁断の一言であった。この場にいた全員が、あれ?もしかして俺達より強いんじゃね?と思っていたのだ。生徒よりも弱い者が、教師として魔法を教える。そんな滑稽な話があっていいのか誰も判断できない。ここは文官を育てる場所ではない、戦闘を、そして魔法を教えるための場所なのだ。
「・・・。」
しばらくの間沈黙が場を支配した。
「そもそも我が校は、現状不良のたまり場となっております。そんなすごい人材ならば、なぜ王立魔法学院にいかないのだ??面倒事になりそうな予感しかしない。いやもしかしたら、誰かの陰謀かもしれない。」
それは当然の疑問だった。だがこの場に真実を知る者はいない。
「・・・そうじゃな。なぜうちに来たのかは儂も分からぬ。じゃが儂は、あの少年がこの学校を立て直す台風の目となってくれるような気がするのじゃ。学校の入学試験はどんな人間にも公平に開かれておる。よって彼は首席で合格じゃ!」
♢
俺がドラゴンと間違われ数日が立った。あ、いや間違いではないんだが。試験当日に、お爺さんから合格だと言われたが、合格発表の確認には行くことにした。万が一という場合もあるし、受かっていた場合そのあと教科書などを受け取らなければならない。
一週間ほどお世話になっている宿を後にして学校まで手ぶらで出かけた。
辺りを見回すと、緊張した面持ちの少年たちが掲示板の前でたむろしていた。今か今かと幕が下ろされるのを待っている。中には目をつぶり精神統一している者や、緊張を紛らわすために腕立て伏せに励んでいる者もいる。
・・・ん?
ここで俺はものすごいことに気が付いてしまった。全員男なのだ。どこを見ても男と男。試験の時は、男女で分けられているのかと思ったが、どうやら違うらしい。周りに控えている在校生たちも全員男。いや、ただの男ではない。男の中の漢。リーゼントは当たり前で、特攻服を着て旗を振っている奴もいる。
「そんなバカな・・・女の子がいない学園生活とか何をモチベーションにすればいいのだ。」
これまでは魔法に没頭していたためあまり気にならなかったが・・・学園生活、キャンパスライフといったら男女の関係無くしては語れないだろうによ。
頭を抱え地面にうずくまる。
しかしそんな俺の行動も目立つ事は無かった。なぜならちょうどその時、合否の幕が下ろされたため、同じように打ちひしがれている奴がたくさんいたのだ。もちろん理由は違うが、傍から見れば大した違いは無い。
ガッツポーズをしてから在校生に胴上げされる者、カツアゲされる者、先ほどよりも高速で腕立てをする者、みんな反応はそれぞれだ。
すると横に立っていた少年が声をかけてきた。俺と同じ金髪で、というかほとんどの人間が金髪と茶髪なわけだが、前髪が長いイケメンだ。
「そこの君、そんな落ち込む必要はないよ。僕は運よく合格したけど来年なんてすぐ来るんだから。」
「いや、違う。俺が落ち込んでいるのは、たった今ここが男子校だと知ったからだ。」
「・・・え?そんなことも知らなかったのかい?」
「・・・。俺は山で育ったんだ。」
「そうか。ここら辺に魔法学院は3つあるんだけど、ここは男子校で、センチュリオール魔法学院は女子校、王立魔法学院は共学だよ。試験はここが一番遅いからもう無理だね。」
「・・・はあ。」
「ところで君は受かったのかい?」
「たぶん・・・だがそれどころではない。」
「ちなみに受験番号は何番だい?」
「666。」
「・・・666・・・残念だけどその番号は乗ってないよ。」
「え?」
落ちてんのかよ俺。じゃあ何のために落ち込んでんだ。どうせ入学できないなら男子校でもなんでもいい。
「・・・・いや・・・ってええええぇぇぇ!その番号は今年の首席じゃないか!!しかも奨学金が月に大金貨2枚だと!?」
やっぱり受かってんのかよ俺。前髪イケメンが騒ぐもんだから周りがザワついてしまった。首席とかもうどうでもいいのだが。
ザワザワ。
(おい、アイツが首席らしいぞ。なぜ泣いてるんだ。まるで落ちた奴みたいだぞ。)
「ってことは入学式で新入生代表として挨拶しないといけないな。」
「・・・え?」
なんと憂鬱な展開だ。
「君名前は何ていうんだい?」
「・・レオナルドだよ。」
「そうか僕はルークだよ。これからよろしく。」
「・・・うん、よろしく。」
そして一緒に新学期の教科書を受け取ってから分かれた。時間が経つにつれだんだんとショックは薄らいでいった。男子校とはいえ首席で、しかも奨学金ありで合格したのだから悪い話ではないはずだ。そう思いたい。そう思わなければ立ち直ることが出来ない。王立魔法学院の新入生は今頃女の子とニャンニャンしているかもしれないが・・・気にしない。俺は気にしないのだ。目から血の涙が流れてるのは、気のせいだ。
その日のうちに家賃が大金貨1枚、つまり日本円で10万円ほどの物件を借りた。学生が借りるにしては少し高いような気もしたが、レッドウルフの討伐で大金貨が35枚ほどあったし、学院と冒険者ギルドから、それぞれ毎月大金貨2枚支給されるのでそれほど痛い出費でも無かった。なにより、学校に徒歩10分で行ける距離だったのでそこに決めた。
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それとむさ苦しい展開になってしまいましたが、もちろん女の子がいつまでも出てこないということは無いと思います。