駆除されそうになる
うむ。みんな腰を抜かしながら逃げてしまった。はて?どうしたものか。もちろん実技試験の的には7つとも全て当てたんだが、、、というか跡形もなく消滅したわけだが・・・誰も見ていない。これで俺は合格できるのだろうか・・・
逃げた生徒たちと入れ替わりで、騒ぎを聞きつけた別の試験官と受験生たちが走って集まってくる。しかし俺を見て「ド、ドラゴンだ~!」と腰を抜かして逃げ惑う。そしてその一団が去ったかと思うとまた別の一団が来て「ド、ドラゴンだー!」と喚き散らして逃げていく。
いやね、もうね、劇団でも雇っているんですかね。殺意も向けてないしただ立っているだけなんですが。なんなら「食べてやろうか~グハハハハハ」ぐらいの事を言ってやった方がいいのだろうか?絶滅寸前の希少種族とは聞いたが、都会人なら誰でも見たことぐらいあるだろし・・・過剰反応すぎやしないだろうか。
ふと横を見ると、俺の試験官が白目を剝いて気絶していた。半開きの口からはよだれが垂れ顔面蒼白だ。少しだけ心配になり、爪で服を摘まむように持ち上げると目を覚ました。
「ギャア~~~~!」
そして再び白目を剝いて気絶した。まったく忙しい奴らだ。
♢
今年はどんな人材が入学してくれるだろうか?最近私が校長を務める魔法学院は近くの2校と比べてもレベルが大きく下がってしまった。生徒たちは荒れに荒れ不良たちの巣窟となってしまっている。もはや力及ばずの心境じゃ。
校長室の椅子に腰かけながら大きなため息をつく。どうしてこうなってしもうたんじゃろうか?昔はみなやる気に満ち溢れておったが・・・徐々に風紀が乱れ始め、今ではその波が教師にまで蔓延しておる。教師の質が下がると生徒の質が下がる、生徒の質が下がると教師の質も下がる・・・この負のスパイラルから抜け出す方法が見つからない。
「はあ~」
ドガアアアァァァァァン!
んん!?今のは何の音じゃ?ビックリして紅茶をこぼしてしまった。いや、今はそれより何が起こったのか確認せねば・・・
慌てて部屋の外に出て、音のした方に向かう。すると向かいから大勢の受験生と試験官たちが何かに怯えるように走って逃げてきた。その形相を見るやただ事ではないとすぐに分かる。
「どうしたのじゃ?」
「ド、ドラゴンが現れてぶっ壊しました!」
すれ違いざまに話を聞こうとしたがまともに話せる奴がいない。
ドラゴンとはなんぞや?まさか本物のドラゴンなんかこんなところにいるわけがないしな。この方向はグラウンドだ。どうやら実技試験会場で何かが起こったというわけか。
「校長!一体何が?」
騒ぎを聞きつけた何人かの教師が集まってきた。
「分からぬ。とりあえず状況を確認するのじゃ。」
「「はい。」」
老体に鞭を打ち無我夢中で走る。そして視界を遮るものが無くなったところで足を止めた。
「・・・んん!?」
何かがいる・・黄金に輝く大きな背中、尻尾、翼。圧倒的なまでの存在感。間違いない。
「ド、ドラゴンじゃ~~~!!」
「こ、校長~~~~~!」
これは緊急事態じゃ!!しかも試験官のヤードを持ち上げて今にも食わんとしている。ああ、何ということじゃ。助けるなら今しかない。幸い、まだ儂はターゲットになっていない。って・・・・えええええ!?結界が破られて後ろの建物が壊れているじゃないか!あそこから入ってきたのか??
ああああ!儂死んだかも。えええぇぇい!なんとか被害をここで収めるんじゃ。
「古の星に浮かぶ天の定めを・・・~~ゴニョゴニョ・・~~拘束魔法インビネーション・ドリーチェ!」
対象物を中心に三重の大きな輪っかを形成し、ギュンと収縮して締め上げる高等魔法の一種である。この魔法にかかった者はどんな大男でも指一本動かせなくなる。即ち成功した時点で儂らの勝ちは確定したわけじゃが・・・相手はドラゴン。念には念を。
「よし!今のうちに魔法を撃ち込んでさらに弱らすのじゃ!」
「「はい!」」
周りに立っていた教師たちに指示をだし様子を見守る。
ドーンドーンドーン・・・・~・・・・・ドドドドドーン!
最低でも20発は撃ち込まれ、辺りは砂煙が巻き上がった。何も見えない。ちとやり過ぎてしまったかのう。
「打ち方やめ!」
流石にこれは勝負ありじゃろう。固唾をのんで視界が晴れるのを待つ。真横に立っておった奴も喉をゴクリとさせている。なぜかそやつと手を握っているのは儂が凡人だからじゃろう。
すると地鳴りのような低い重低音が辺り一帯に響いた。
「ウウウウゥゥゥゥゥ~。」
みなの顔からサーっと血の気が去っていくのが分かった。もちろん儂もじゃ。
「「うわあああああぁぁぁぁぁ!」」
その場にいた儂以外の全員が地面を這いつくばりながら逃げ出した。儂はただただボーっとする事しか出来なかった。現実逃避というやつじゃろうか。いや、それとも、身の程も弁えず攻撃を仕掛けた自らの愚かさに呆れてしまったのだろうか。
視界が完全に晴れると何事も無かったかのように黄金に輝くドラゴンが立っていた。固い鎧のようなうろこの前には、儂らの攻撃など全く無意味なのじゃろう。
目が完全に合ってしまった。あああ殺される。なすすべなくそっと目を閉じる。
・・・
・・・
「おい、じいさんいきなり何すんだ!?」
「ん?」
そっと目を開けると、金髪の少年が試験官のヤードを脇に抱えて突っ立っていた。んん?この少年はどこから現れたのだ?いやそれよりもドラゴンはどこに行ったのだ?もしかして・・・
「・・・お主まさか竜人か!?」
「そうだけど攻撃してくるなんてひどいじゃないか?俺が守らなかったらこの人ケガしてたよ?それに試験官がノビてるけど俺の実技はちゃんと評価してもらえるんですか?」
「・・・我が校を受験しに来たのか!?」
「はい、そうですけど。」
的が設置してあったはずの場所に目をやると・・・燃えカス以外何もなかった。しかも万が一に備えて、衝撃を吸収し、生徒を保護するための結界にもやはり穴が開いている。後ろの建物も半壊だ。
「結界とその後ろの建物を破壊したのもお主なのか?」
「ああ、そうです。すいませんつい力が入っちゃって。まあ、あれならなんとかしときますよ。」
「!?」
そういった少年は、建物の前まで移動すると何かの魔法を発動した。今まで見たことも無いぐらいの量と練度を兼ね備えた驚愕の魔法だった。しかも無詠唱だ。気のせいか髪の色が変わったような・・・いや、流石にそれは無いか・・・年かもしれぬ。
みるみるうちに建物と結界は修復し何事も無かったかのように元に戻った。
「ご、合格じゃ!いや合格どころか首席間違いない。それにこちらから奨学金を出す。月に大金貨2枚でどうじゃ。」
「え?ほんとですか!?喜んで通います!」
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明日は、もう一作の更新しないといけないので・・・こちらは気力があったらの更新になります。すみませんがよろしくお願いします。