入学試験
王都にやって来て早いもので、魔法学院の入学テストの日となった。冒険者登録をしてから今日まで、大金貨35枚と給付金の大金貨2枚、つまり日本円で370万をニタニタしながら見ていたらあっという間に過ぎてしまった。まあもちろんトレーニングはサボっていないし、試験会場となる学校は事前にチェックしたのでやることはちゃんとやっている。
そんなこんなで、ゆとりをもって宿を出た。天気は快晴で空気が気持ち良い。街中に目をやると受験生の列がワラワラと学校まで続いている。ここを歩いている奴全員がライバルとなるのだ。
パッと見た感じ男しかいないが何か意味があるのだろうか?まあ、今は人の事なんて気にしている場合ではないのだが。
俺の受験番号は666番だ。ということは定員100人に対して、少なくとも666人は受けにくるということなので倍率は確実に高い。
う~む。こうやって周りを見るとみんな優秀そうにみえるが、田舎に籠っていた俺の力なんて通用するのだろうか。日本でも個人差はあるだろうが、やはり有名大学に受かりやすいのは教育環境の整った都市部というイメージがある。毎日訓練を行ってきたがもう少しやっておけば良かったかもしれない。
若干の後悔と緊張を感じながらいよいよ入学テストが幕を開けた。
まず最初は筆記テストだ。
特筆すべきことは無かったが、問題文に出てきた光の勇者の名前と、魔王の名前が偶然にもママンとオヤジ殿と同じだったので、吹き出しそうになってしまうというハプニングはあった。おそらく生徒一人一人に合わせて、問題文が両親の名前に変化する魔法でもかけてあったのだろう。この粋な計らいによって緊張感が和らいだ。まあ、その他の問題も、なぜか昔ママンが自慢げに話していた事をなぞったような問題ばかりだった。手応えとしてはマズマズといったところか。
それよりも問題は実技試験だ。なにせ配点が筆記試験の2倍もある、どれだけ筆記が出来ても実技が出来なければ合格することは出来ない。
内容としては、試験管の前で20メートル離れた的に向かって魔法を放つという至って単純なものだった。的は全部で7つあるので、いくつ壊せるかというのも試験の判断基準になるようだ。
運が良いのか悪いのか、俺の順番はこの組の最後だったため、前に並んでいる受験生の観察がじっくりできた。
「とこしえの精霊よ、悠久の時を超え我に力を与えたまへ、ファイアーボール!」
シュボッ!
弱々しい不安定な火の玉が的に向かって飛んでいきギリギリのところで当たった。周りの受験者から「おお~。」と感嘆の声が漏れる。なかには、あいつ合格間違いなしだな、とか呟いている奴もいる。
みんなでそろってコントでもしているのだろうか。そんな台本は受け取っていないのだが。魔法のレベルは低すぎるし、何より詠唱が恥ずかし過ぎる。しかも何やら30センチ程度の杖を持っている。なぜ魔法を使うのに杖なんて持っているのだろうか?ママンやオヤジ殿も持っていなかったと思うが・・・ないと失格だろうか?
「次の受験者。」
「はい!」
返事をした少年は、シルバーの長い髪をオールバックでまとめている。眉毛は下と上、両方から剃っているのだろう、極細だ。そのせいもあってか顔の印象がキツイ。
彼が詠唱してから放った魔法は、今まで見た中では1番安定したファイアーボールだった。20メートル先まで威力を持続させたまま、寸分の狂いなく直撃した。しかも連続で魔法を撃ちだし最終的に的を5つ破壊した。
ザワザワ!
これには他の受験生もあちこちで驚きの声を上げ、彼の事を称賛した。そのため振り返った彼はとてもドヤ顔をしていた。「フっ」と口元がニヤつき他の受験生を見下さんばかりだ。彼と目が合った子は、実力の違いを痛感し、ただ縮こまった。
そんな様子を見て、疑問に思うことが山のようにあったが誰かに聞く事も出来ず、その後も試験はつつがなく進んだ。今のところ、この組でトップは先ほどの銀髪君で的5つ、次いで的2つが1人、2つが1人、1つが3割ほどという分布だった。つまり6~7割は1つも当てていない。このぐらい3歳の俺でも出来そうだが、どういうことなのだろうか?
まあいい、次は俺の番だ。
「次の者。」
「はい!」
試験管に呼ばれとうとう俺の番になった。
「この組は君で最後だな。」
「そうみたいですね・・・あ、あの、質問なんですが、的って一発で全部当てても良いんですか?」
これはちゃんと聞いておかなければならない。全て破壊した後にルール違反と言われたらたまらない。しかし俺の質問を聞いた試験管は、なぜかあきれたような表情になった。
「ん?出来るならそれでもかまわないが、あまり試験管をからかうんじゃない。そんなこと学校に入ってすらいない君が出来るわけないだろ。」
「え?・・いや。」
「それより杖はどうした?」
「持ってませんが。」
「・・・それでどうやって魔法を放つんだ!?・・・ああもうそれでいい!早いとこやっちゃってくれ。」
なんだか不親切な人だ。めんどくさいから早く終わらしてくれって感じだ。
すると俺と試験管の会話を聞いていたのか、先ほどの銀髪君が馬鹿笑いをはじめた。
「ハッハッハッハ!いや~この学校がここまでレベルが低いとは思わなかったよ。王都の3つの魔法学校の中でも1番レベルが低いとは聞いていたが、魔法の杖すら持っていない奴が受けにくるなんて!王立魔法学院の時にお腹を壊してしまった自分が情けないよ。」
どういうことだ?魔法学校が3つあっただと??そんな話聞いてないぞ!!
「え?ここ以外にも学校あったの?」
「ブフッどんだけ田舎もんなんだよ!」
オイオイオイ、ひどい言われようだな。確かに魔法の杖は持っていないのだが・・・なぜママン達は杖の事を教えてくれなかったんだ?
もしかして・・・そうか、うちは貧乏だから買うお金が無かったのか・・・
どうしよう。
だが・・・これでもし落ちてしまったら、杖を買い与えなかったから息子は落ちてしまったのだとママンが自分を責めてしまう可能性がある。そんな思いをさせるわけにはいかない、大丈夫、今まで修行してきたんだ。
「棄権するか?」
試験管がめんどくさそうに尋ねてくる。
「いえ、やらしてもらいます。」
挽回しなくては。普通にやってもダメだ。今自分が出来る範囲で最良の結果を出すには・・・
「変身!」
光が爆散し黄金に輝くドラゴンが突如グラウンドに降臨した。大きな翼をバサッと広げ仁王立ちする。その佇まいは、見るものを畏怖させ深層心理に恐怖を植え付ける。嫌でも生物としての格の違いを思い知らされる圧倒的なまでの存在感。
いいぞ、力が溢れてくる。いつも通り冷静にやればいいんだ。
「獄炎!」
ブフォ~~~~!
「「えええええぇぇぇぇ!!」」
驚き目ん玉をひん剥いている他の受験生と試験管をよそに、俺は口から赤黒いマグマのような炎を吐き出す。7つ全ての的を一気にぶっ壊すつもりだ。大気が震え蜃気楼のように視界が揺らめく。
ドオオオオォォォォォォ!バリンバリンバリン!
「「ギャ~~~~~~~!」」
「あれ?」
勢い余って・・なんか後ろの建物壊しちゃったかも・・・
「やばい!結界が壊れちまった!逃げろ~~~!」
「「えええええ~~~~!!」」
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