お客様第一号はお酒飲み その2
「こちら、お客さんの住む世界の三個隣の世界にある異世界の、って、その辺はいいや。とにかく、そこにある、とある盃なんですがね」
店の奥から金色のコップのようなものを取り出してきた真。
取っ手は無く純粋に金で作られたコップに対し、平皿のような蓋が乗せてあった。
「これの不思議な所は、飲みたい飲み物を注ぐと、奥から奥から同じものが湧き上がって来るんです。ちょっと衝撃的なことをしますが、美味しいから気にしないでくださいね」
コップをテーブルに起き、たらいのようなものを取り出す。
再び店の奥に引っ込み、今度は一つの酒瓶を手にしてくる。
「こちらはこの盃と同じ世界の酒で、『酒飲み殺し』と言って、この組み合わせで飲むことは禁忌とされているのですが、それはそのまま飲むからであって、こうして割ってしまえば」
琥珀色の『酒飲み殺し』を盃に注ぎ、ライラの指を二、三本引き抜き、盃の中に注いで蓋を乗せる。
指を引き抜いた所で、女性は目を丸くする。
「あぁ、この子は特殊なスライムで、身体は美味しい水で出来ています。この酒は、いくらでも湧き上がってくるし、口当たりがとても良いのでいくらでも飲めてしまうのですが、アルコール度数がほぼ100%に近く、すぐに蒸発してしまうほど強い酒で、どんなに強い人でもほぼ確実に中毒死します。ですが、適切な分量で割るのと、きちんとツマミを食べることで、途中で切り上げることも出来ます」
たらいの真ん中にコップを置き、蓋を取る。
すると、コップの中心が少し盛り上がり、表面張力分耐えた後、酒が溢れ出す。
琥珀色の液体が次々と湧き出し、たらいに溜まっていく。
「このコップごとごくごく呑んでも良いのですが、それでもまだ強いから、このたらいから別にすくって更に割ると良いです。お客さんは初めてだからちょっと薄めにしますが、徐々に適量に慣らしてください」
ライラが持ってきた別のコップに酒をすくい、更に一本、ライラの指を取ってコップに入れる。
すると、自然と指の原型が無くなり、仕舞には見えなくなった。
「一応、これがお客さんの言ってる呑んでも呑んでも無くならないお酒です。まぁ、とりあえず呑んでみてください」