お客様第一号はお酒飲み その1
海の端っこの更に端っこ、無人島と思える場所にそのお店はあった。
『何でも屋 白線堂』
曰く、症状を伝えれば最適な薬をくれる。
曰く、悩み事を言えば解決策を教えてくれる。
曰く、夫婦の愚痴を聞いてくれる。
等々。
そこに辿り着くのは難しく、通常では店を知ることすら出来ないのだが不思議と必要な人はたどり着く。
そんなお店白線堂。
その名前の呼び名は、その店の看板娘、ライラの額に一本の線が縦に入っていることに起因する。
店主の名前は絆 真。
『きずな』と『まこと』ということで、キラキラネーム的要素は一切無いのに、合わせるとロマンの塊となる名前を気にしている若干23歳独身。
そんな真が看板娘のライラを呼ぶ。
「ライラー。客来たかー?」
店の中に設置されてるバーカウンターに突っ伏しながら尋ねる真。
その声に答えるライラは、離れたソファーに、ひっくり返りながら座っている?寝ている女の子。
「来るわけないでしょー、バカ店主ー」
ライラは世間ずれしており、以前来た客がツンデレで、恋人のことをバカバカ言っていたのでバカという言葉は親愛の言葉だと思っている。
それに気づいていない真は、罵倒されていると思い、こめかみに青筋が浮かぶがスルーする。
「お前なぁ、客が来ないと生活がままならないんだがなぁ」
そんなことをぼやいていた。
そもそも、必要な人にしか門戸を開かないこの店。
ここ数日お客は来ていない。
それを、不満を覚えている人が居ないということで喜ぶべきか、悲しむべきか。
「これでも呑んで元気だせー」
ライラが自分の人差し指をぽんと取り外し、店長に向かって放り投げる。
通常はそこから血が出るはずなのが、血は一滴も出ず、ニュルンと元の指に戻る。
ライラはスライムと呼ばれる種族の魔物だ。
身体の大半は水で出来ている。
通常のスライムは水の魔物で、知性はなく、ただの水滴の集合体なのだが、ライラは人間に擬態できる特殊なスライムだ。
形は人間そのもので、髪や服等も、自分の身体に色をつけ、工夫している擬態だ。
ちなみにスライムの身体は水で出来ており、その水はとても旨い。
先程の行動は、ちょっと水でも呑んで頭を冷やせということと同義である。
真が何度目かわからないため息をはいていると、入り口のベルが鳴る。
「すみません、ここは白線堂でしょうか?」
入ってきたのはすらっとした金髪の美女。
悩みとは無縁そうな高級感のある服を来ており、手持ちの小物も明らかに高いとわかる。
「いらっしゃい、白線堂にようこそ、お客さんは何が望みだい?」
白線堂にはメニューが無い。
項目も無い。
だから尋ねる。
何が望みだと。
「あの、その、お酒を用意して頂きたいのです」
女性を席に誘導し、自分も座り考える。
そして尋ねる。
「お酒ですか、どのような」
女性は答える。
「呑んでも呑んでも無くならないお酒を用意して欲しいのです」
女性はお酒好きだ。
しかし、旦那は一切お酒を飲まない。
お酒の楽しみを共有出来ないが、旦那はお金を自由にしていいと言われているので多数の酒を呑んできたが満足感を得ることは出来なかった。
だからこそ、量に依存しようと思った。
しかし、いくら呑んでも酔えなくなった。
お酒が好きなのに、呑んでも呑んでも満足感を得ることがない。
だから女性は考えた。
呑んでも呑んでも無くならないお酒であれば、呑んだ瞬間に得られる瞬間的な満足感を、永久に感じることが出来るのではないか。
「ですから、私、呑んでも呑んでも無くならないお酒が欲しいのです」
女性は笑われると思っていた。
この話をすると、大抵の人が頭がおかしい人という目で自分を見る。
病院を勧められることも多かった。
その目に慣れていたが、慣れてはいたが辛く無いわけではない。
目をつむり、普段と同じような蔑む声に耐えようとした彼女の予想とは異なり、真は淡々と答える。
「呑んでも呑んでも無くならないお酒、ありますよ。でも、あなたを満足させるお酒は多分別物です」