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渡辺誠子は仕事やファン活に忙しい

作者: 花園茉莉


 世間ではアラサーと言われる歳になってしまった。

それほど交友関係が広くない私でも結婚祝い、出産祝いでご祝儀貧乏状態である。

当然、周りからの結婚へのプレッシャーも年々強くなっている。

だが今、私はそれどころではないのだ


会社が終わり、足早に家に帰ると一目散にパソコンを起動させ、動画サイトに直行。

 

 「今日もう来てるかな~ よし、来てる!!」


私はシャレードという動画投稿者グループの大ファンなのだ。

ほぼ毎日投稿される動画を見ることが今日の癒しとなり、明日への活力となる。

2、3回ほど繰り返し視聴は当たり前。

気に入った動画なら7、8回はリピート。

今日のように帰宅時点で投稿されていれば、食事もお風呂も後回しになるだけでいいのだが遅い時間になるとつい、夜更かししてしまうのが玉に瑕。

最近ではSNSでファンアカウントを作って情報収集と交流を楽しんでいる。


私がシャレードに出会ったきっかけは半年前、帯状疱疹(たいじょうほうしん)になってしまい会社を休職していた時だ。

外に出ることもできず、やりたいことなく、毎日が憂鬱(ゆううつ)で暇でどうにかなりそうだった。

本を読むのも億劫だし、かといって面白いテレビ番組もない、それでふと動画サイトでも見ようかと思い立った。


 普段、動画サイトなど全く見ないのだが、気休めでもこの退屈を紛らわせてくれるなら何でもいいとアクセス。

‟おすすめランキング”というのに入っているのを適当に見ていき、ある一つの動画にたどり着いた。


動画は3人の男性が部屋で中高生のころの思い出を語っていた。

わいわいとノリもいいがハイテンション過ぎず、過激なところもなく、まるで私には風邪を引いた時のおかゆのような優しいものに思えた。

特に強いインパクトがあるわけでもなかったのだが3人の話す内容が私の中高生のころの思い出を引き出したのだ。

あの時は楽しかったな、心の底から笑ったり、泣いたり……

いろんな思いがこみ上げて何時しか涙がこぼれていた。


それから私は3日かけてすべての投稿動画を一心不乱に見つくした。

とまぁ、きっかけはあまり関係のない個人的なことで、具体的な理由で好きになったというよりか、何となくが積み重なって沼から抜け出せなくなってしまったのだ。


 社会人になってから5年、日々の目まぐるしさに心の底からわくわくするような感情を忘れていた。

シャレードの話している姿、遊んでいる姿や演技している姿にまるで自分のことのようにわくわくどきどきするようになっていた。

そして今は、ただ尊い、ひたすら尊い……ただそれだけなのだ。


シャレードの動画を見るようになってから、世界の色が鮮明になって、音がクリアになった。

あと、冗談ではなく帯状疱疹が目に見えて良くなった。

無くしかけていた生きる気力が戻ったのだ。

これらを高校からの親友である立浪友里亜(たつなみゆりあ)に切々の語ったら

 「あんた、そんなキャラだっけ、どうした悪いものでも食べた」と言われてしまった。


シャレードに熱を上げていることを知っているのは何でも話せる友里亜一人だけ。

ほかの人に話すと年甲斐もない、現実を見て婚活しろ、とか言われそうで言えない。

良いじゃないか、毎日に身を粉にして働いているのだから生き甲斐ぐらい有ったって。

私自身は何言われても良いのだが、シャレードを悪く言われると途轍(とてつ)もなく落ち込むので内緒にしている。


そして2カ月前から仕事復帰することができた。

心に余裕ができたため自分の行動も人の行動もニュートラルに見れるようになったと思う。

完全にストレスを感じなくなったわけではないし、問題が解決したわけではないが。

これは、まぁ少しずつ取り組んでいくしかない。


 「ああ、もうこんな時間だ! ご飯食べなきゃ」


明日は復職後、初めての夜勤だから頑張らなければ。


私、渡辺誠子(わたなべせいこ)は仕事やファン活に忙しいのだ。



この小説はすべてフィクションです。実在の人物・グループ・団体等とは一切関係ありません。

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