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俺と竜種誘拐殺人事件②

先週は体調が芳しくなく臥せっていました。

今週はちゃんと投稿させていただきます。

 コーラルさんの嘘の見抜き方講座。





 難しいことはほとんどありません。


 私に続いて練習すれば、あなたも確実に嘘発見器として活躍できることでしょう。





 と言ってしまえたらどんなに楽なことであろうか。


 レッドなら、あのドラゴン、レッド・ドラゴルーツであるのなら、自慢の鼻を駆使することでコーラルさんがついたやわな嘘など、たちどころにばれてしまうことは明白である。

 しかし、俺にはそんな大層な嗅覚は取り付けられていない。

 チート性皆無だ。

 だからこの推理は当てずっぽうと言われてしまっても、取り付く島もないわけでありまして。


 まあそれ以前に両者を引き合いに出すのであれば、顔を突き合わせただけで殺し合いに発展してしまう可能性も考慮しなくてはいけないか。


 ……


 ……あれ?


 そういえば……?


 俺、昨日は……レッドに会って、た?


 ……うん、そうだそうだ。

 絶対そう。


 で?

 何をした?

 何をしに会いに行ったんだっけ?


 そうスイさん。

 スイさんと再会させようとして……


 俺は……?


 その時の俺は……?


 スイさん、に……

 スイさんに腹を刺された。


 刺された!


 お、お、お、思い出した……!

 すんごい唐突に……!


 だけども!


 だけれども、このタイミングで思い出さなくてよかった奴やん。

 何でこのタイミングなのさ。


 この、俺が今滞在している地域の、一番偉い人と面会している最中の、最も重要な場面だというのに、ドラゴンの、よりにもよって人間との相性は最悪であるドラゴンとの記憶が呼び起こされてしまったのか……

 訊ねたくても無理じゃん。

 俺とレッドの関係性ばれるじゃん。

 つまりドラゴン派閥の人間っていう扱いになっちゃうじゃん。


 どう考えてもそれだけは確実に避けなくてはならない。


 ならない、どころか避けられなかったら、死あるのみ、って感じがする。

 俺の普段は活躍してくれない第六感が叫んでる。


 このことはこの身に秘めておこう。


 よし。


「えと、何の話でしたっけ?」

「だから、コーラルの嘘をどう見抜いたのか、そういう話だ。

 何を一人で「第六感が叫んでいる」と口走っている。

 そういったたわごとは後にしろ、後に。今重要なのはその方法だ」


 独り言が酷い!


 前々から思ってたけど、独り言の頻度と言うか独り言発生度合いおかしくなってる気がする。

 元の世界では独り言なんて終ぞしたこと無かった、と思う。

 いや、でも、俺自身が気付いてなかっただけなのかもしれないし、確実性は乏しい。


 まあ何はともあれ御所望の様であるから、とりあえずの推論を話してみることにしよう。


「えと、ここ数日、コーラルさんと行動を共にして気づいた、と言うよりは、気づかされたと言う方が表現的には正しいんですかね。

 なんにせよ、コーラルさんの動向を見ていてわかったことがあるんです。

 それは」


 それは、


「コーラルさんはひどく正直な人である、ということです」


 彼女の行動は時と場合によっては、鬱陶しいことこの上ないはた迷惑なこともある。

 しかしその一方で、困った人を放っておけない、人権を無視する奴隷制を憎んでいる、問いには正しく答えてくれる、他人付き合いも良くこの町の顔としても名が通っている等、人柄は頼りがいがある優しい人物だ。

 そしてそこから考えられるのは、嘘をつくのが苦手なのでは無いか、と言う点。


「彼女の奴隷制への反感は、話を聞けば誰だって理解すると思います。

 並々ならぬ負の感情を奴隷制に向けている。

 しかし」


 しかしそれは、行き過ぎれば主人への反逆と見なされたっておかしくない言動だ。

 奴隷を認めているのは、何を隠そうこの町であり、そのトップは領主様なのだから。

 だいたい、こうやって話している最中だというのに横をちらりと見れば、顔を青ざめさせたコーラルさんが、「面を上げろ」って言われた割には凍り付いているかの如く、かたくなに地面を見ているわけでありまして。


 恐らく彼女は、建前というものが極端に下手なのだろう。


 言い換えれば平気で嘘をつけるような人間ではないのだ。


 まあ、その辺りのことは御主人様も重々承知のことなんだとは思うけどさ。


「だから彼女は嘘をつくことが出来ない。

 けれどときにはそういったことが必要になるということは、彼女であっても理解している筈です」


 彼女の業務はその全てを話していいわけではないだろう。

 何しろ、雇用主は領主、現代社会で言えばコーラルさんの役職は、地方公務員と称してしまっても差し支えないはずだ。


 そのため守秘義務とされるものもあるだろう。

 そうでなければ、領主本人への危害が加わらないとも限らない。


 いわゆる口止めだ。


 その義務が生じている筈なのだ。

 ともすれば、


「ともすれば、嘘をつくのが苦手な彼女はこう考えたことでしょう」


 「嘘がつけないなら、真実を隠せばいい」


「似ていますが本質は違います。

 申し訳ないですが、失礼を承知でお願いしたいことがあります」

「ん? 言ってみよ」

「少々お耳をお貸し願えないでしょうか」

「構わん」


 即答。


 無礼よりも興味が勝ったということか。


 そうして二言三言伝え、俺はコーラルさんに向き直る。


「今から会話をしましょう。

 僕の質問にコーラルさんは素直に答えてください。

 その質問へと回答した後は、逆にコーラルさんが僕に質問を返してください」


 青ざめた顔をこっちに向けんな。

 そして急に血の気を戻すな。


 カメレオンか、あんたは。


「……では三回ほど繰り返しましょう。

 好きな食べ物は何ですか?」

「ば、バジリスクの丸揚げ、かな?

 この辺りじゃあ滅多に取れないようなものだけどね」

「そうですか」

「じ、じゃあ、少年くん、君は?

 君の好きな食べ物は何だい?」

「そうですね……コクスウリシャエイとかですかね」

「ふ、ふ~ん、コクスウリシャエイ、ね」

「じゃあ好きな飲料はどうでしょう」

「あたしはやっぱしエールだね!

 暑い日に飲むのがまあ最高!

 少年くんは? まさかこの間の酒が気に入ったとか?」

「まさか。

 僕は、そうですね、エールはエールでもエルエルエールエールですかね」

「ふ~ん、中々渋いチョイスをするじゃない」

「じゃあ最後に。

 僕の名前は何ですか」

「それはもちろん、少年くんでしょう?」

「それはあだ名っていうんじゃ……」

「関係ないない。

 じゃあそっくりそのままお返しするわ。

 あたしの名前は一体何?」

「コーラルさん、コーラル・マンスチンさん、ですよね?」

「へえ、ちゃんと憶えてたんだ。

 感心感心」


 劇場終幕。


 当の本人はきょとんとした表情でこちらを見つめていた。

 まあそうだよね。

 コーラルさんにしてみたら、延々と意味の解らない会話を続けていたわけだから、当然だよね。


「ふむ、なるほどな。ロクル・サクラガワ、君が言うことにも一理ある」


 どうやら多少は納得してくれたらしい。

 流石御領主様様だ、理解が早い。

 そして名前はロクロウなわけだが。


「コーラル、実は私はお前のことがあまり好きではない。

 お前を傍に置いているのは、護衛のためだ」

「……ふ、ふ~ん、そそそそ、そうなんですか?

 しししししってましたよー」


 遊び方もエグい。

 悪意が無い分余計酷い気がする。


 と言うか純粋にコーラルさんが可哀想に思えてきた。

 あんなにも(うざったらしい程に)御領主様の自慢を、私事かのように話してくれたコーラルさんだ。

 少なからずこのお方に好意を抱いていたっておかしくはない。


 それが俺のお遊びの様な検証に振り回され、結果的に傷つけられているのは見ていて心苦しいものがある。

 種明かしとしましょうか。


「コーラルさんには嘘がつけない。

 それが無意識的なものなのかそうでないのかは不明ですが、コーラルさんは良くも悪くも正直者で、嘘がつけない体質なんだと思います」

「そ、そうなの……?」


 まだきょとんとした表情でこちらを見つめている。


 まあきちんと話を聞きなさいって。


「先ほどの検証はそれを確認するために行いました。

 コーラルさんは嘘がつけない、反面、知らない物事に対しても見栄を張る癖があります。

 人間、生き抜くためには時として嘘は必要です。

 でもコーラルさんは致命的にそれを行うのが苦手だった」


 それ故、嘘をつく、のではなく、真実を隠す、のだ。


「既知の物事にも、未知の物事にも、基本無関心を装うことでそれらの差を無くすことにしたんです。

 つまり、嘘はついていない。反応を薄くさせることで、両者の違いを目立たないものへと変化させたわけです」


 だが、それすらもコーラルさんは苦手としてしまった。


「コーラルさんの話題に対する返答の仕方は二種類あります。

 「ふ~ん」と言うものと「へえ」と言うもの、完全にこの二つのみで返事はなされます。

 ただ本人は自覚しないうちに、これら二つの返事は使い分けられてしまっている。嘘をつくのが苦手というのはこの点からも推察できます」

「え、と、じゃあ今の質問の意図は?」


 そうくると思いました。


「会話の内容とコーラルさんがとるであろう行動を事前に御領主様にお伝えして、それを観察してもらったんです。

 まあ、会話の内容をオウム返ししてくれるかどうかは賭けでもあったんですけど」


 ただ、会話を唐突に始めれば、人間誰しも対処が追い付かない筈だ。

 だからこそこちらの質問をそのまま返してくれると思ってはいた。

 計画通り……! と言ってしまってもいいかも知れない。


「質問の内容は三つ、好きな食べ物、好きな飲料、そして自分の名前であると。

 食べ物、そして飲料の名称は適当に答えます。

 コーラルさんが嘘をついて知ったかぶりで答えたら、きっと「ふ~ん」と言う言葉で返すでしょう。それ以外なら「へえ」の筈です。

 こんな感じで領主様には伝えたんです」


 案の定コーラルさんは作戦に引っかかってくれた。


 コクスウリシャエイとか五科目言ってるだけだし。

 エルエルエールエールってなんじゃいな。


「で、さっきの御領主様の言葉に対しては」

「ああ、「ふ~ん」で答えていたということは、知ったかであったということだな。

 安心しろコーラル、あれは嘘だ」


 魂が抜けたかのようにため息をはくコーラルさん。


 良かったですねー。


「確かに、確かにこれでコーラルが嘘をつくのが苦手であるということはわかった

 で? それでだからどうしたというのだ?

 それだけではとてもじゃないが」


 そう、とてもじゃないが。



 まだ詰め切れない。

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