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俺と日記 二日目・三日目・四日目


――――――――――――――――――――――――


20××年 日付不明 二日目

天候 晴れ

・市場にてスイさんらしき人物が売りに出されていることを知れた。非常にラッキー!

・その副産物として奴隷を一人引き取ることになった。

・奴隷はよく思われていない様。


今日の発見

コルク

・顔は怖い、が親切。

・実際は優しい人かも。

・とりあえずはまだお世話になるので愛想良く。


ギン

・奴隷に命名した。

・なぜか恐怖を感じている→俺に?

・宿の食事から肉類が苦手の様子。


コーラルさん

・めんどくさいことに変わりはないが、基本的に親切。

・あと純粋。

・太陽神、邪険にしすぎじゃね?

・そういえば、「へえ」と「ふーん」の違いを聞きそびれた。

・頑なに領主の名前を言わないのはなんでだ?


ライトラスさん

・ギンに対して多少不思議そうにしてたけど、受け入れてもらえた。

・料理が抜群にうまくて、思わず泣きそうになった(泣いてないけどな)。


明日は衣類の購入をする。


――――――――――――――――――――――――




――――――――――――――――――――――――


20××年 日付不明 三日目

天候 曇り→晴れ→曇り

・金銭価値について教わったので、忘れないように記入。

 現在金貨は八枚、銀貨を八枚所持。

 金貨一枚→銀貨千枚、銀貨一枚→銅貨百枚、銅貨一枚→石貨千枚の互換性あり。

 通常の飯屋では銅貨一枚一人前。

 石貨はこのあたりで使うところはないらしい(どこで使えと)。

・町の人は基本優しい。

 だからといって割り引いてはくれなかったが。

・今日は一日衣類選びで終わってしまった。


今日の発見

ギン

・目が合うことが増えた。

・積極的に近づいてくれるのは良い傾向。

・顔色も良くなってきた。

・言葉を発してはくれないが。

・少し楽しげな印象。


コーラルさん

・今日は一日中付きっ切りになってくれた。

・ギンの衣類は任せたため、俺の趣味ではない。

・完全に家政婦的な感がある。

・色々聞きそびれた。


ヒワ・リコット

・露店で出会った。

・なんでも、屋敷のお茶選びで悩んでいるということだった。

・有能な執事……換金所って執事いたっけ? 疑問。


モンド・ウコン

・いたけど逃げた。


ヴィオ・カーバッジ

・相変わらずよくわからない、経過報告する必要があるのか?


明日はコーラルさんに教えてもらった加工店に行き竜笛を作る。

六日ほどで完成するのが望ましい。


――――――――――――――――――――――――




――――――――――――――――――――――――


20××年 日付不明 四日目

天候 雨

・相当どしゃ降り、ゲリラ的、だけど平常運転らしい。

・魔法の便利さ再確認。

・笛は三日でできるらしい、早い。

・ついでに冒険者組合を見学、デカい。

・コーラルさん曰く冒険者の才能はないとのこと、とほほ。


今日の発見

ギン

・外の世界には興味があるらしい。

・組合でも加工店でも随分と楽しそうだった。

・でも俺が素材を店主に渡した際、ちょっとだけ顔をしかめた感があったような。


コーラルさん

・今日もなんだかんだ一日付き合わせてしまった。

・家政婦と言うより姉の様。

・今日も聞きそびれた、俺にとってあまり気になることではないのかもしれない。


ヴィオ・カーバッジ

・THE謎。

・コーラルさんが妙によそよそしい。


明日は特に予定なし。


――――――――――――――――――――――――


 ふぅ、と一息つき、ランプに燈された明かりで部屋の置時計に目をくれる。

 時刻は既に深夜零時過ぎ。


 この世界における文字は未だに読めそうもない。

 しかし、時計そのものは元の世界と何ら変わりがなく、文字盤が読めなくても苦労することが無いことを知れたときには、非常に安心した。


「それにしても……」


 悪態をつく、否、ついて当然でしょ。


 この部屋、この元倉庫として活用していた宿屋の大部屋は、家具らしい家具はほとんど揃えられていたため、生活には全くもって不自由することが無い。

 それどころか、水回りの整備も申し分ないし、本当にこれで中世設定の異世界ファンタジーなのか? と思ってしまうのも、俺だけではないはずだ。

 まぁ、機械や工学系よりも魔法魔術が発展した世界だと捉えればいい話か。


 チンカラホイ。


 だからこそ、出費自体は抑えられて非常に助かっている。

 先日は予想に反して、衣類の購入に金銭をとられてしまったから、プラマイゼロな感じがしないでもないけど。

 それにしたって、コーラルさんが安くて質のいい店を知っていたから、多少は抑えられたのだ。


 本当にコーラルさんには、()()()()()()()()感謝している。


 問題なのはこの状況だ。


「ぐががががあああ、ごがががががああ、ぐががあああああ、ごががあああああ……」


 いびきがひどい。


 文として示しているから、こんな明らかに脈絡のない、棒読みのような文字の羅列に見えるかもしれないが、実際はこれよりもひどい。

 故意にいびきをかいている(もとい大声をあげている)のではないか、と疑いたくなる気持ちを分かってもらいたい。


 そして認識を共有してもらいたい。


 まず、これはギンのものではない。


 ギン自身はすやすやと、備え付けのソファの上で寝息を立てている。

 ある意味これはこれで才能だ。


 ちなみにベッドは余っている。

 ソファに寝かすよう仕向けたのはコーラルさんだ。

 なんでも、「奴隷との身分差ははっきりさせておかないと、あとあと寝首を掻かれることになる」と言うことだ。

 目が真剣だったあたり、実体験が伴っているのかも知れない。


 だからこそ、俺は仕方なくその指示に従うことにした。

 ギンも快くそれを受け入れ、今では寝返りをいくら打とうが床に落ちることはない。

 凄まじい体幹である。


 それはいい。


 次にコーラルさんだ。


 と言うかコーラルさんであること以外にもう伝えることはない。


 いびきの主、コーラルさんだ。


 悪態の原因、コーラルさんだ。


 お前が代表選に出ないのは勝手だ、けど、そうなった場合誰が代わりに出ると思う? 万丈d……じゃない、コーラルさんd……でもないな、うん。


 何が不満なのかって?

 いや、ここ俺の部屋なんですよ。コーラルさんの部屋は隣なんです。


 甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのはありがたいし、女性経験が少ないことを鑑みても(妹いる設定なのにとか言わない)、ギンの支援を手伝ってくれるのは本当に助かる。


 それにしても、だ。


 コーラルさんは純粋過ぎる。


 今日夕飯食べていきますかとか言ったら、さも当たり前かの様にうちの食卓に上がり込み、ルンルンとした表情で料理ができるのを待っているし、聞きたいことがあったから今日うちの部屋に泊まってくれませんかとか言ったら、どこからともなく寝具一式を取り出したし(たぶん魔法)、もうなんというか本音と建前の区別がついていな……


 あれ?


 この感じからすると、俺に非がある気がしてきた。


 そんな筈はない。


 誘ったのは一回きりであったし、それ以降そういう蛮行を行おうとするのを止めなかったっていうのはあるけれど……


 あれれ?

 俺が馬鹿なのではないか?


 確かに俺は建前のつもりで言った。

 それを真に受けたコーラルさんにも非はあるとは思う。


 しかし。


 それ以降をコーラルさんの所為にできるのか?


 ただ単純に俺の性格上の問題なのでは?


 ってかそれしか考えられない。


 はあ。


 見直そう、断れない体質。


 だとしてもだ。

 いびきには悪態をついたってかまわないだろう。


 俺の性質の所為だが。


 はあ。


 一頻(ひとしき)りため息をついてすっきりした。

 幸福が逃げていくとか言われることもあるけれど、その分息を吸うのだから五分五分だろう。


 今日はとりあえず寝ることにする。

 ランプも火を消し、部屋は暗闇に包まれる。




 ベッドに横になり目を閉じ、そして何気なく考え疑問を感じた。




 コーラルさんってもしかして……


 いや、憶測の域を出ない。


 ただの妄想だ。


 でも。

 

 それがもし真なら……


 そして再び目を閉じる。



 このことは明日以降、どうにか証拠を掴んでいけばいい、そう思いながら、しかし気づいたときには、すっかり朝日が差し込んでいた。

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