武器探し......後に人助け?
裏路地のギルドから街道沿いの宿泊施設まで、かなりの距離があった。
しかし、シノ自身はオスミウムの街について全く知らなかったので、徒歩で様子を見ていた。
裏路地から街道に出ると、広い道路、中央分離帯や歩道との境界にある植え込み、歩道の側に軒を連ねている店々、そこそこ人通りが多かった。
それからまた裏路地にある、工房街に入った。武器や防具、靴や魔法道具、いろんな店があった。
今のシノは、バイザーのみで魔法以外の戦闘手段を持っていなかったので、剣を探していた。
「どうした、坊主。武器でも探しているのか?」
店内で剣を手に取り、刃をじっと見たりして、探していたシノは少し驚いた。
「すみません!触るのダメですか......」
振り返ると、前掛けをした職人っぽい服の若者がいた。
「いやいや、随分じっくり見て、悩んでいるなあ......と思って......」
「あはは......実は、今日から冒険者になったんですけど、武器を持ってなくて......」
「今日からか、それは良い。俺の工房の剣は、基本出来合いのものだ。例えば......この剣......」
そう言って、一本の剣を手に取って、シノに見せた。
「この剣は、重心が刀身だから、勢いとかで力を乗せやすい。それでも、剣を動かす腕の力がいる。つまり、力自慢の奴が持つヤツだな。坊主だったら......」
そう言って、別の剣を取った。
「重心が手元にあるこの剣だな。しかも、この大きさの刀身でかなり軽い。コイツを扱うヤツは、腕の力が弱い、相手の太刀筋を流して、機会を見て一太刀入れる......ってところだな。剣の型が多いヤツは特に、扱いやすいだろ」
シノはその剣を受け取った。
「軽い!こんな立派な大きさで、こんな軽いんだ......。これにするよ!」
「そうか。値札は1万だから......今日は坊主の冒険者デビューだ、8千でいい。1年は刃こぼれの面倒も見てやるから、その時は持って来いよ!もし金がないなら、分割とか仕事の手伝いでもいい」
シノは今日、今さっき冒険者カードを受け取ったばかりで、口座にお金が無かった。
「小切手は使えますか?」
「どこのだ?」
「世界通貨銀です」
「ああ、いいぞ。しっかし、坊主は小切手なんか持ってるんだな?」
感心しているような、珍しいというような表情だった。
「......」
「ひょっとして坊主......」
シノは身元がバレたと思っていたが......。
「貴族か富豪の家か?」
「......。えっと.....前にしていた事業の名義が銀行に残っていて、便利だから......」
適当に言い訳を並べた。
「そうか。まあ、金を持ち歩くのは面倒で、強盗もあるからな......」
「そうですよね......はい、こちらが代金です」
そうして、小切手に金額と判子を押し、一枚を束から切り離し、渡した。
「坊主、1万になってるぞ?」
「これは、お世話になったお礼と、また次も......という意味です。俺は、シノって言います」
「俺の工房を気に入ってくれたんなら良かった。俺は、エドヴァルドだ」
「今後も、お願いします」
シノは、シンプルで、軽量な剣を購入して、店を出た。
シノはそのまま裏路地を歩き、街歩きをしていた。しばらくすると、周囲の雰囲気が大きく変わり、ボロボロの穴の空いた服、ギリギリの服の人や、服すら身に付けていない子供が多くなった。
(おい、お前!村長の息子だったからって、良いよな?)
(俺ら相手には、力すら出せねえだぁ⁉舐めてんのか!)
(また、服全部、剥いじまおうぜ)
そんな会話が耳に入り、シノは角を曲がった。すると、1人に大勢の若者が殴る蹴る、そんな様子だった。
「ちょっと!止めろよ!」
シノは大声で言った。
「誰だよ、お前!......もしかして、ご貴族様ですか?」
大勢の中の1人が怒鳴ったかと思うと、急に言い方を変えた。
「違うけど......とりあえず止めろよ」
シノは今、身分を隠していたので、否定して続けた。
「何?バカにしてるのか?」
(ガキ、さっさと帰んないと......知らないぞ?)
(お前、何言っちゃってんの?)
「だから、止めろって!痛そうじゃんか!」
シノは再び、同じように言った。
「じゃあ、お前が代わりになるか?」
「えっ......無理」
「やっぱコイツ、俺らを舐めてやがる!ヘンテコな仮面に、無駄に高そうな服着やがって!」
シノは遂に大勢に囲まれ、身動きが取れなくなった。だが......。
「おい、お前ら何やってるんだ!コイツの代金、世話、誰の金でやらせる気だ?」
背後から身なりの整った男が怒鳴っていた。
「......」
(......)
途端に皆が沈黙した。
「あの......」
シノはその男に話し掛けた。
「こちらの奴隷が失礼したね、坊や。大丈夫かい?」
「うん。でも、ひとついい?」
シノは14歳オーラを全面に出し、言葉も変えて言った。
「その、いじめられてる人、買ってもいい?」
「えっ......」
シノの質問に男は唖然とした。
「お願い!その人、欲しい!」
シノは駄々をこねた。
「う.....っうん、いいかい坊や。奴隷はね、とても高いんだ」
「うん、でもお金ある!」
「ホントに良いのかい?この奴隷は250万の借金を、自分を担保に借りたんだ。とても力が強くて、従順で、かなり内向的なんだ。奴隷としてはとても扱いやすくて、使い勝手も良い」
「うん」
「250万に、今までの食事が15万、治療費が10万だから、275万だったら良いかな。でも坊や、さすがにこんな大金は持って......えっ......」
シノは小切手を見せた。
「じゃあ、小切手を切るね。275万っと、判と......はい!」
シノは小切手に金額を記入し、判子を押した。
「えっと......うん。良いよ。分かった。拘束術を解いてあげる」
男はボロボロに怪我した奴隷の首に、何か魔法を使った。
「もう良いよ。これでこの奴隷は君の物だ。じゃあ......」
その後、車を手配し、その奴隷だった人の傷をハンカチで抑えた。
「どうして、俺を買ったんですか?」
その人は小さな声で言った。
「なんか、あんなにボコボコにされているのに、とても痛いはずなのに黙っていられる人、初めて見たから......なんか......」
本心でチグハグな答えしか返せなかった。
「そうですか......」
すると車が着いた。
「乗って!」
「えっ、でも......車が......汚れて......」
その人は何かボソボソっと言っていた。
「どうしたの?車、怖い?」
「いえ、ただ、車が、椅子が汚れてしまうと......」
「別に良いよ。早く乗って、ホテルで手当ての準備もさせてるから......」
その後、車に乗せてホテルに向かい、処置をした。