冒険者ギルド......加入申請
アハト共和国、最西端の都市オスミウム。
魔力溜まりを中心に広がる魔物の生息領域を、迷宮と呼び、動物だけでなく、植物まで魔力の影響で、人間の五感を妨げる状況を生じさせる。それを、あまりに広大な宮殿で迷う様子になぞらえ、迷宮と呼ばれる様になった。
そこへ向かうシノは、自動車の車窓から街の様子を見ていた。車内に誰もおらず、自動運転だった。
鉄道の駅周辺は、非常に豊かで、様々な店が軒を連ね、市場では取引されていたが、裏路地に入ると、一気に貧困街や闇の市場、全く景色が違っていた。自動車が珍しいのか、人々がジッと見ていた。一応、新興の街で、道は車が通行できる規格に対応していたが、馬の荷馬車以外、見かけなかった。
[冒険者ギルド、オスミウム支部、依頼受付、入寮申請、総務]
裏路地にギルドの案内が見えると、ギルドの入り口で車を停めた。もちろん、シノが降車し、手荷物を手に取ると、車は自動発進し、グラファイア領系列会社の駐車場に移動した。
ギルドの周りは、なかなか荒れくれ者というか、なかなか特殊な人々が掲示板の前で、何かを待っていた。シノが降車する際、物珍しそうなものを見る目をして、車とシノを見ていた。
「いらっしゃいませ。この度は、依頼受付ですか」
ギルドの周りにいた人々と違い、パリッとした格好の紳士が、シノに尋ねた。
「あの、ギルドの加入をしたくて......」
「加入申請ですね。どの様な技能がありますか?」
「魔法、だけです」
「ご希望の職種はありますか?」
「魔物の退治、とか......」
「分かりました。魔力測定と技能試験を行います。整理券を持って、このまま奥のグラウンドへ進んで下さい。ご不明な点はありますか?」
「奥の?」
「ギルドの建物の裏側にグラウンドがあり、通路を直進して頂くとグラウンドに出られます」
「ありがとうございます」
グラウンドに出ると、いかにも冒険者らしい身体つきの人は少なく、いろんな人がいた。
「シノさん、ですね。魔力測定を行いますので、こちらに」
案内通りに進むと、机に置かれた水晶と椅子の配置された場所があった。
「ここでは、日々の訓練の一環として、魔力の減衰率を把握する為の場所になり、訓練前後に使われる方が多いです」
イメージでは、ジムと血圧計で、運動前と後に測る事と似ていた。
水晶に手を乗せると、水晶内に白い光が現れた。
「魔力量の二類水準です。属性は恐らく、全てでしょう」
「二類水準って、どのくらいなんですか?」
「魔力量は絶対的な計測が困難ですので、相対水準法による計測が一般的です。一類は全体の8%で、二類は15%、三類は30%と以下、五段階に分類されます。つまり、中の上という所です」
シノは少し残念だった。何か、この世界に来て絶対的な何かが得られると思っていたからだった。
「属性は無いのが一般的です。ごく珍しく属性持ちがおられますが、威力は高いのですが、汎用性に難があり、あまり喜ばれません」
「そうなんですか......」
「はい。続いて、現ギルドメンバーとの模擬戦をして頂きます」
「この方と対戦してもらいます」
案内された所には、軽武装に、腰に剣を差す、身軽そうな青年がいた。
「俺は、フェリクスだ。君の模擬戦相手になったから、よろしく!」
「シノです。よろしくお願いします」
シノは緊張し、動揺していた。
「基準線から合図で開始です。剣でも魔法でも、何でも幾つでも、1人なら問題ありません」
「分かりました。剣を貸して頂けますか?」
「分かりました。それでは基準線に待機して下さい」
(マジかよ。あのフェリクスと剣でやりあうって......はっh)
(まさか、大陸の勇士と剣で......)
周囲の反応が耳に入り、さらに動揺するシノと平生を保つフェリクスは、基準線に待機した。
シノはサキシマのARバイザーを掛け、剣を握った。フェリクスの剣は、装飾が無く、かなり使い込まれていた。剣帯から全く音を立てずに出し、そのまま片手に構えた。
シノが握る剣は、ギルドの常備品で、錆や刃こぼれがあり、さっきまで埃を被っていた。
6ヶ月の間、ARバイザーと魔法を使った練習を繰り返し、今日、ギルドで初めての模擬戦だった。
シノは深呼吸し、覚悟を決めた。
「模擬戦、開始して下さい」
フェリクスが先に、急速に前に出た。