サキシマの公開射撃演習......ギルドパーティと依頼
ノルト海、北にノルド大陸、南にオースト大陸、北西から南西にかけて中央大陸に囲まれた海域は、60年前まで絶えず、歴史上に残る海戦を経験していた。しかし、開拓地であるグラファイア領がフィルツェーン王国に正式に編入され、市場拡大を狙い、地域への介入を進めるに連れて、同盟国が増え、同盟国同士の会議で海域での領海や漁業海域の設定、共同海域警備組織の発足、などにより、現在まで平和が保たれてきた。
その海に今、グラファイア領の洋上メガフロートを実質的な母港とする、サキシマ国の空母打撃群、いわゆる艦隊が進入していた。1艦隊は空母1、潜水艦1、護衛艦3、潜水補給艦1、の5隻+1隻で構成されており、潜水補給艦は適宜、交代で物資を補給する役割だった。
(これが、グラファイア領を母港とする艦隊ですか)
(確かに巨大だが、艦隊がたった4隻というのは心許ないですな)
(海中にも艦がいるらしい)
同盟国に対して、公開射撃演習を実施していた。
(それにしても、速い船だ)
(しかし、大砲の口径も第一大陸の砲より小さく、数もたった一つとは......)
(我が同盟の中枢があの様では、不安が募る一方ですな)
タール海峡包括的連携協定、第三世界同盟とも呼ばれる。これは、50年前までグラファイア領は、各々の国に赴き、二国間条約を結んできたが、鉄道インフラや経済協力において、将来の経済戦略を見据える上で、非効率が指摘されていた。そこで当時の領主が条約締結国の首脳を集め、協定を締結した。以降、集団安全保障という概念、移民や出稼ぎなどの国境を超えた経済格差問題に対する対処、冗長性を有すインフラネットワークの構築、関税の撤廃や物流の円滑化などを実現した。
約半年前には、安全保障条項の改正に伴い、グラファイア領は領兵を憲兵組織に合併し、武器制限のある、いわゆる警察組織へと役割を変えた。グラファイア領は同盟各国の庇護の下、国家を維持する方針に切り替え、代わりに同盟各国に分担金の支払い、または必要装備の提供、もしくはその両方を実施する様になった。その上で、サキシマ国が新たに協定に参加した。
サキシマ国の保有する防衛能力が極めて強大である為、グラファイア領が最終意思決定を行うことが決まっていた。その上で、グラファイア領に駐留していた。
ドゴォン、ゴボッという音を出し、同盟各国提供の木造標的艦が正確に粉砕、貫通していた。
(40キロはあるぞ!それに命中させた......)
(あの砲、小さな口径に関わらず、あの威力か......)
(あの連射性能は一体......)
同盟各国の首脳は、その表情を隠せないでいた。
(第一世界の戦艦という艦も射程が40キロ以上というが、命中率が10%以下と聞く......)
(グラファイア領の艦載砲に照準機器もかなり優秀だったが、この遠距離と連射性能は......)
(はああ......)
そんな中、怪しい人影があった。
「サキシマ......聞いたことがない。優秀な艦を持つようだが、万を超える艦に対応できるかな......」
その男は、サキシマの艦隊を見ると、艦隊の運用に対する欠点を見抜いていた。
サキシマの空母打撃群は、地球での常識を考慮して進化してきた。それは対戦艦戦であれば必勝、しかし、木造艦であっても万を超えると対処は困難だった。
その頃、アハト共和国のオスミウムにいる3人は、ギルドに来ていた。
「じゃあ、パーティ申請を出すね」
シノは書類を受付に提出していた。パーティを組むと、メンバーの最上位ランクに合わせて依頼を受けられ、シノはB、ユリウスはS、オズはAだった。
オズはアハト共和国のどこか村出身で、12歳になると同時にギルドに加入していたらしい。
「申請書類を審査します。数日後にまたお越し下さい。仮パーティの証書を出しますので......」
仮の証書を受け取ると、依頼の掲示板を見に行った。
(あのガキ、勇者と一緒に居やがる)
(イケメンもか?)
(あのカード、パーティの仮証明じゃねえか!)
「シノ、仮証を貸してくれ。依頼の申請してくる」
ユリウスは慣れた様子で、依頼を受注申請をしていた。
(良いよな、あいつ。Sランクの成功報酬の3分の一とか......)
(服も第一世界とかグラファイアの流行モノとか)
(こんなギルドに車、乗り付けてくるかよ。普通)
「ところで、どういうの依頼?」
シノはユリウスに訊いた。
「シシ狩りだ。ちょっと火を吹いたりしているらしいが、まあ、集団駆除らしい」
「猪狩り......へえ。あれ?オズ、どうかした?」
オズの様子が変だった。
「集団の火を噴くシシって、獅子の方ですか?もしかして......」
「そういえば、キメラとかキマイラとか......」
「キマイラ!集団の?」
「えっと、イノシシみたいな魔物じゃないの?」
「頭がライオン、身体が山羊、尻尾が毒蛇の魔物......」
「気持ち悪!」
シノは不快な表情を浮かべていた。
「心配ない。シノは勇者の俺を倒した実力があるし、オズもAランクだから余裕だ」
「よかった......」
シノは安堵の表情だった。一方オズは......。
「集団で火を噴く魔物......」
オズは1人、不安を抱いていた。
次回、11/2 09:00に更新します。よろしくお願いします。