知っている人物にぶつかっていた?
マーガレットと密約を交わした私は、ヒロイン側の行動をこちらからも把握できるし悪いことばかりじゃないはず、と思っていた。
そして今は授業中で、てっきりルカも授業受けている頃だと私は思っていたのである。
折角だからこの人気のなさそうな校舎の中を通っていこう、ここなら私が歩いていても気づかれないだろう……と私は思って歩いていたのだけれど。
えーと、こういった人気のない場所というものは、色々とその……あれとかそれとかそういう事が出来ちゃったりというかしていたりする可能性もあったわけで……そしてその人物には見覚えがあった。
「や、やだ……放してっ」
「そんな風に可愛くお願いしても駄目だよ? 私はとても怒っているのだから」
優しい声で言うその人物だが、そこはかとなく怒っている、そんなものを感じさせるような怖い声音で、対する、可愛くお願いしていると称する声は、怯えたような涙声だ。
ちなみに、放してと言っている方がルカで、怒っていると言っている方がレオ王子だ。
現在二人は体を密着させていた。
その密着のさせ具合もあれというかなんというか……多分、ルカはレオから逃げようとしたのだと思う。
でも手を掴まれて、更にもう片方の手を後手に拘束されて壁に押さえつけられてしまったのだろう。
この位置からではルカの表情は見えない。
けれどレオの表情なら分かる。
笑っている……獲物を前にして舌なめずりをするような、猛禽類の笑みだ。
それを感じ取っているのかルカは、小刻みに震えている。
「ルカは怯える声も可愛いね。でも、どんなに可愛くても許せないことだってあるんだよ? ……何で僕を無視して逃げようとしたのかな? しかもずっと避けるように行動していたしね? どうして?」
「し、知らない」
ルカががたがたと震えている。
それに更に楽しそうな声になったレオ王子が、
「こうやって少し触れるだけでこんなに感じるんだね。ふふ、可愛いな」
「や、やだっ、……ぁあっ、耳はやめて」
そこで耳のあたりにレオが顔を近づけて何かをやっているらしい。
耳は止めてとルカは嫌がっている。
そんなルカにレオが楽しそうに囁く。
「ルカ、君の事は全部知っているんだ。人を送ってずっと見ていてもらったからね。……どうして自分から僕に会いに来ようなんて思ったのかな? ……大人しく僕を君は待っていれば良かったのに。どうしてそれが出来なかったんだい?」
「……貴方に、興味がなくなったか……ら……」
「ふーん、そういう事を言うんだね。そんな嘘つきないけない子は……どんな風になると思う? ルカ」
「は、放してください」
「……仕方がないな。今日はこれくらいにしておいてあげるよ。僕もルカには甘いようだね」
そう告げると同時に、ルカが走って逃げていくのが見える。
なのでここで見ているのはまずい、そしてルカに気づかれるのも気まずいと私は思ってその場から反対方向に移動する。
特に気づかれることもなく、追われることもなく私は逃げ切れた……そう思った所で、私は誰かにぶつかった。
「っ、すみません!」
「いや、こちらもよそ見していたから……君は……」
そこで私は、王子であるレオにぶつかってしまった。
何だか雰囲気が違うなと私は思いつつも、何で別方向からぶつかったんだろうと私は思いつつ、気づかれるとまずいと思って慌てて挨拶をしてその場から逃げる。
だって彼は不思議そうに私を見ていたから。
だから私は知らなかった。
私の後ろからもう一人のレオ王子が現れて、
「? 今、ルカのような子が君にぶつかっていたけれど……」
「ルカ? 俺には、俺の世界の瑠香に見えたな」
「……言われてみれば少し雰囲気が違う気がするね。……私と同じように、呼んだのかもしれないね。もしそうなら、君はどうする? 伶音」
それに伶音という人物は少し黙ってから、
「別に。約束どおり、レオ、お前の手伝いを俺をするだけだ」
その答えにレオは、よろしく、そう答えたのだった。
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