それは貴方がたがされて一番辛かったこと
コツコツと靴の音がして現れたのは、マーガレットの母である“先読みの魔女”と一人の中年の男だった。
私達がこんな状態にあるのは、きっとこの二人のせいでそしてこれからどうなるのだろうと私は思う。
そこで、ルカが震える声でその中年の男を呼んだ。
「スノーホワイト公爵様」
「ルカ、マーガレットを狙って魔物を放ったそうだな」
「……はい」
「私が命じたのは、マーガレットと恋仲になりそうな男を邪魔する事だ。なのになぜマーガレットを狙った」
その怒気を含む声に、ルカがびくっと震えながらも、
「……私が、我慢できなくて……」
「お前のいた孤児院の援助を、減額する」
「! それは……」
「当然だろう。我々の命にも従わず、マーガレットに攻撃を加えて、しかもそこにいる自分に似た協力者を呼びこむなど……まさか同じような姿の一般人がこの世界にいたとは知らなかった。しかも我々の隙を突いて接触をはかっていたとは思わなんだ」
どうやらこの人は私が異世界のルカだとは知らないようだ。
もしかしたなら、これはとても特別な魔法だったのかもしれない。
そう私が思っているとそこで先読みの魔女が、
「それで、貴方の命を握っても邪魔をされるのが分かったから、別の方法を取ろうと思うの。例えばもう一人の“貴方”とかね」
笑うように私の方を見る。
それが怖いと思うと同時に、許せないと思う。だって、
「どうして全く関係のないルカをこんな酷い目に合わせるのですか?」
「関係なくはないわ。だって王子はこの子の事しか見ていないもの」
「だったら諦めればいいでしょう」
「残念ね、それは出来ないわ。私達にも目的があるもの」
「自分達の娘であるマーガレットを、王子に嫁がせたいという目的ですよね」
私がそれを告げると、先読みの魔女とスノーホワイト公爵は表情を消す。
そう、私は知っていたのだ。
そしてだからこそマーガレットをレオ王子に嫁がせたいと願っていた事を。
先読みの魔女は私を値踏みするように見てから、
「貴方、私と同じような力があるの?」
「いいえ、でも私は知っています。そして、マーガレットはレオ王子と結ばれない事も」
「……そんな未来、私には見えないわ」
「貴方の力が弱まっているのでは?」
つい言い返してしまったのは、私の怒りだ。
無理やり不幸な未来を彼女らの望みで捻じ曲げようとしている。
それはこの二人の復讐だ。
「貴方方二人は、貴族と平民、だから結婚はできなかった。古い習慣に縛られて、けれど、二人の間にはこっそり産んだマーガレットという娘がいた」
「スノーホワイト侯爵は独身で通っているわ。何故貴方はそう思ったのかしら」
今更ながら誤魔化そうとする先読みの魔女に私ははっきりとした言葉で伝える。
「私はそれを知っているからです」
ゲーム内の設定で私は知っていた。
本当はマーガレットも巻き込まれた被害者なのだ。
けれどそれでも彼女は自分で大切な人を掴みとっていた。
そしてこの世界でも私はほんの少し背中を押したけれど、彼女は自分の大切な人を見つけて、一緒に歩む相手を見つけていた。
それはかけがえのない幸せな時間だろうと私は思う。
「マーガレットが選んだ、掴んだ幸せを貴方方は奪うのですか?」
「……黙りなさい」
「それは貴方がたがされて一番辛かったことではないのですか?」
「だまりなさい! ああ、鬱陶しい。そこのルカと同じ顔なのに、もっと不愉快だわ。……やはり捕まえた当初の予定通り、この生意気なこちらの方にしましょう」
先読みの魔女が私にそういった。
今更ながら言い過ぎたという後悔が私に浮かんできたけれど、そこでルカが、
「止めてください、彼女は関係ない! 罰を受けるなら私が……」
ルカが焦ったようにそう叫ぶけれど、それに先読みの魔女はようやく笑みを浮かべて、
「あら、駄目よ? だって貴方……自分よりも自分の大切な人が傷つくのを恐れるタイプでしょう?」
「何をする気なんですか! 彼女に手出しをするな!」
「貴方が全部悪いのよ。私とスノーホワイト侯爵の“夢”を潰そうとしているのですものね」
先読みの魔女がそうやって笑い、指を鳴らす。
同時に私の直ぐ側にぼとりと何かが落ちてきたのだった。
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