印のようなものだけれど
どうにか今の所は上手くいっているなと思いながら部屋に引きこもっているのも何なので、私は授業中の静かな廊下を歩いて行く。
できるだけ足音を立てないように、ふらふらと。
この魔法学園の直ぐ側には森のようなものが広がっている。
ここには危険な魔物がいたりするのでは入り込まないようにねという説明がゲーム内であった。
もちろんそんな説明は入り込んでしまうフラグだったりするわけですが、
「でもベリオールルートだと、入り込んだりはしなかった気がする」
なのでそんな危険な場所に行かなくてすむなと思いながら、私は歩いて行く。
そしてそれは、ある場所に差し掛かった時に起こった。
こつん、こつんと、ハイヒールか何かのようなものが地面を打つ音が聞こえる。
今の時間は授業中のはず、そう思っていた所で一人の女性が姿を現した。
妖艶な色香を持つ胸の大きい美女。
ピンク色の長い髪がウェーブを描く、青い瞳の彼女。
マーガレットを大人にしたような、そんな女性だけれど……どうしてここにいる?
そもそも私は透明化しているのに、何で私をまっすぐ見つめているのだろう?
そう私が思って一歩後ずさると、
「貴方が私の見た“未来”を邪魔する悪い子ね。ルカに本当にそっくり。あの子には悪いことをしたと思うけれど、これも全部マーガレットのためなの」
「で、でもマーガレットは好きな人が……」
「そんな一時の激情で全てを決めるのは愚かなことなの。……だから邪魔する貴方にはしばらく、事が終わるまで捕らえておこうかしら」
クスッと笑った彼女に私はぞっとして走って逃げ出す。
けれど彼女の足音は大きく早く響いていてその気配は私の真後ろに迫る。
――嫌だ!
私は捕まりたくないと願い必死で、逃げて逃げて逃げて……気づけば外に出て、森の中に入り込んでしまう。
周りを見回すと、彼女はいない。
それに安堵しながらも、“捕まえる”と言った彼女に私は不安を覚える。
捕まったならどうなってしまうのだろう、そんな不安を私は今更ながら感じてしまう。
それにあちら側に私の存在がバレてしまったのだ。
どうしよう、更に不安を覚える私。
そう思いながらも蕎麦の暗い木の影から鳥か何かが不気味な叫び声を上げて飛び立っていくのを聞いて、ここは危険だから移動しないとと思う。
とりあえず魔法を使って姿を消せば追われないだろうと思って、先ほどの先読みの魔女がまっすぐに私を見ていた不安から魔法を再度使う。
これで大丈夫、そう思った矢先にそれは現れた。
狼のような魔物。
ゲームでも見たことがあるけれど、確かこの前レオ王子に教わって魔法を使ったけれど、
「た、確かこうやって……」
けれどその準備をしている間に、その魔物が襲ってきて……目をつむり、悲鳴を上げそうになった私は、そこで誰かに抱きしめられる。
同時に、
「“雷の槍”」
轟音と断末魔の悲鳴が私の側で聞こえる。
そして再び静かになって、私は恐る恐る目を開いて自分を抱きしめる相手を見上げると、
「良かった、間に合って」
そう微笑むレオ王子……だと思う相手がそこにいたのだった。
このレオ王子は、伶音に似ている。
そう思いながらも私の気のせいかもしれなくて聞くことが出来ずにいる。
そんな私はカフェ……の近くに連れて来られて、レオ王子が甘くて温かい飲み物を持ってきてくれる。
初夏の果実の香りのするお茶だ。
その甘さと温かさにようやく私の体の震えがおさまる。
先読みの魔女や魔物に追いかけられて私はとても怖かった。
そこで優しげな眼差しで私を見ていたレオ王子が私に、
「それでどうしてあの場所に?」
「実は……」
といったように事情を話す。
それにレオ王子は少し深刻そうな顔をしてから、
「そうなのか。そして、先読みの魔女から瑠香は走って逃げることが出来たと」
「うん、そうなんです……」
何となく今、ルカではなく私の名前が呼ばれた気がしたけれど気のせいだよね、と私は思ってから、
「それがどうかしたのですか?」
「いや、先読みの魔女もマーガレットと同じくらい危険な相手だったはずだから、よく逃げられたなと」
そう言われてみれば確かにそうだ。
ゲーム内もそれは言及されていた。
そう思うとまた体が小さく震えてしまう。
そこでレオ王子が私の頭を撫ぜる。
これはよく伶音が私を安心させるようにしていた仕草だった。
そのせいかもしれない、段々と私は落ち着きを取り戻していく。
それが分かったらしくレオ王子の手が私の頭から離れていく。
寂しいような気がしていると、そこでレオ王子が透明な石のついたペンダントを私に渡してくる。
「これは?」
「俺が何処にいても分かるようにという印のようなものだけれど……今は、瑠香の方が危険なようだから、持っているといい」
「いいの?」
「もちろん。何かあればすぐに助けに行くから」
「……うん」
その優しくて私を思いやるその言葉に私は、嬉しくなって頷き、その場は別れて私は部屋に引きこもったのだった。
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