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悪党の才能(13)

「貴様……」

『どうやら写真は見れたようだね』

「……」

『君と初めて会った時にこの3人を君は遠ざけていたのを思い出したんだよ。君はどうやらこの3人に自分の本性を見せたくなかったようだね――誰かに惚れているのかい? 誰に自分の本性を見せたくなかったのか分からないから、取り合えず3人ともこっちに来てもらったよ』

「……」

『あれ? 怒っているのかい? 君も女に随分酷いことをしただろう?』

「ああ、そうだな。俺にお前のやり方を糾弾する権利はない。だがな……」

 初春は立ち上がった。

「その3人に手を出したらお前を殺すぞ」

「……」

 その言葉を口にした初春を、横にいた音々は息を呑んで見た。

 ――普段感情の起伏の乏しい初春がここまで怒りの感情を出したのは最初に会った時以来だった。

 今までも多少怒っていることはあったが、今までの静かな怒りとは違う――

「う……」

 そして、それを見た直後に脳裏に痛みのような感覚が走る。

 音々はそれを感じて、居間の縁側へ通じる障子を開けた。

「あ、あれは!」

 神庭町の町を一望できる山の上にある庭の向こう――神庭町の海岸に面している場所の一点から、紫と黒が斑になって狼煙のように点に向かって立ち上る靄のようなものが見えた。

 初春が音々の声にそちらを向いた瞬間。

『いやあぁーっ!』

 電話の向こうから、紅葉の声がした。

「――何をした?」

『なぁに、ちょっと顔を舐めた奴がいてね……その写真、いい眺めだろう。3人とも綺麗どころだからね……この3人を男ならどうしたいかなんて、君も男なら簡単に想像できるだろう? クックック……』

「!」

 初春は電話を切った。

 それと同時に白蛇に乗った比翼が血相変えて庭に降りたった。

「はあ、はあ、な、何だいあの瘴気は?」

「比翼様。やっぱりあれは瘴気なんですか?」

「紫龍殿はいるのかい?」

「いえ、お師匠様は天界に行くと言って……」

「こんな時に……」

「火車! 来てくれ!」

 その二人をよそに初春は外していた短剣型のアクセサリーに形を変えていた『行雲』を首に巻いて、脱兎の如く庭に飛び出していた。

「ハル様!」

「この瘴気はあいつらのものだ。あの下にあいつらがいる……」

「で、でも明らかに罠です! 絶対にハル様が来ることを想定して相手は待っています……お師匠様と一緒に策を練って」

「放っておいたら秋葉達が何をされるか分からない……行くしかないだろ……」

 初春の胸にある音々との神使との契約は火車の息子の体にも刻まれている。いわば初春と火車の息子は兄弟子弟弟子のような関係であり、二人もこの刻印を通じて多少の意思を疎通できた。

 火車の息子が山の向こうから空を蹴って庭に降り立つ。

「神子柴殿、あの瘴気は……」

「お前にあの瘴気はきついだろうけど、あの瘴気の近くまででいい、俺を乗せてくれ!」

「……」

 初春がここまで感情を露にするのを火車の息子は初めて見て、面食らった。

「早く!」

「わ、分かりました」

「ありがとう」

 初春はひらりと火車の息子の背に跨る。

「音々、比翼、山の連中が瘴気に中らないように呼びかけてこの家に避難させてくれ」

 足早な指示を飛ばした後、火車の息子が空を蹴って、海岸の瘴気の柱へと飛んでいく。

「ま、まずいです……」

「あぁ――あれは怒りで我を忘れかける寸前だ。あんな瘴気の渦に坊やが行ったら、火に油だ。坊や自身の瘴気も噴出しちまうかもしれない」

「……」




「ははは、上手く行ったな!」

「あの野郎電話を切っちまいやがったぜ! 今頃作戦会議でもしてるのかね」

「狙い通りだ。やっぱりあいつは本来はある程度礼を尽くすタイプだ。こういう無関係の女子供を盾に取られりゃ何も出来ないさ」

 数日前に集まった倉庫に鳴沢達は集結していた。それぞれが覆面をかぶり、誰が誰だか分からないようにしている。

 鳴沢はクラスのグループメールで起死回生の策に乗ってくれる仲間を募り、今回の紅葉達の誘拐を決行したのだった。

 他のクラスメイトも鳴沢に疑念はあるものの、初春を殺して止める策は是が非でも欲しく、どうせ殺されるなら最後に紅葉や夏帆を犯すような思い出があってもいいと半ば捨て鉢になって集まった連中ばかりであった。

「……」

 紅葉、雪菜、夏帆の3人はそれぞれ体を縛り付けられ手錠まで付けられている。宙吊りにされて完全に無抵抗の状態である。

「あ、あなた達一体何を……」

「黙ってこれからの顛末を見ていてくれればいい。僕達はあなた達に何かをする気はないが――奴の行動次第じゃあなた方に犠牲になってもらう」

「……」

 その時。

 ドォン、という大きな音がひとつ、倉庫の外に響いた。

「な、何だ?」

「ま、まさかもう来たのか?」

「落ち着け! 奴が常識外れなのはもう分かっていたことだ! 武器を用意しろ!」

 その音のした直後。

 入り口に一人の少年が姿を現した。

「神子柴くん!」

 紅葉が歓喜の声で叫んだ。

「き、来てくれた……」

「い、一体どうやってここが――場所も言わないうちに電話を切ってから、まだ5分も経っていないのに」

「テメエらのクソにも劣る臭いが垂れ流されてりゃ、場所なんて聞かなくても分かる」

 初春の声は明らかに怒気を孕んでいるのが分かった。

 入り口に立つ初春と、紅葉達が捕らえられている柱までは約30メートル。

「今すぐ秋葉達を離してぶっ倒されるか、ぶっ倒されてから秋葉達を離すか、さっさと選べ」

 初春の声は、以前に保健室で聞いた声以上に怒気を孕んでいるのが3人もすぐに分かった。

「ふ……」

「ふっふっふ……」

 覆面越しに倉庫内に散開している連中達が笑っている。

 恐らく鳴沢だろう小柄な男は初春のまん前――紅葉達が揃ってくくりつけられている柱の側――紅葉達に手を伸ばせば触れられそうな程の距離におり、そこに5人ほどの男が紅葉達を囲っていた。

 その5人が一斉に紅葉達3人に手を伸ばし、紅葉と雪菜の制服のワイシャツの袖口のリボンを引きちぎり、ワイシャツを引き裂いた。

「い、いやあっ!」

「や、やめ……」

「きゃあっ!」

 3人の悲鳴が聞こえると、ワイシャツのボタンは全てはじけ、3人ともワイシャツの前が開き、ブラジャーで抑えられた胸と白い肌がそれぞれ露わになった。

「やめろ!」

 それを見て初春は前に向かって一気に距離を詰めようとした。

 その瞬間。

 ぱぁん、という音と共に初春の足元で火花が散った。

 とは言っても爆竹レベルの小さなものだったが、音と警戒で初春の足は止まる。

「何だ、突っ込んでくりゃよかったのに」

 鳴沢の声は残念そうに言ったが。

 足が止まり、一度情報がクリアになった初春の鼻は何か不快な臭いを嗅ぎ付ける。

「灯油か……」

 中が暗くてよく見えなかったが、初春の眼前――紅葉達のいる場所との間に灯油が横一線に撒かれているのが分かった。

「突っ込んできたらさっきの発火装置で今度は君と僕等の間に炎の壁を作る――君がこちらに近づけない間、この3人は僕達に何をされるか……」

「い、いや……」

 紅葉は顔を真っ青にしている。

「この胸のでかい子は2年でも評判だったんだ。やっぱり女は胸があるに限るな」

「じゃあ俺は夏帆先生だ。こんな女教師に色々指導して欲しいと思ってたんだよ。どうせ殺されるなら思い出欲しいぜ」

「この大人しいのも、何も知らない娘にあんなことやこんなことをさせていじめてやるのもゾクゾクするよなぁ!」

 ヒャハハハハ、と、大きな笑い声が大反響する。

「テメエら……」

「おっと、動くなよ」

 そう鳴沢が言うと、取巻き達が一斉に何かを取り出した。

 それは大型のエアガンだった。遊戯用ではなくアルミ缶くらいなら貫通するような弾を撃ち出せるものだ。

「少しでも動けばこの女達の服を更に剥ぐ」

「……」

「勿論『あの力』を使って弾を防ぐことも『動いた』と見なす。さあ、この意味が分かるか?」

「……」

 初春は両手を上げて頭の後ろに組んだ。

「ふっふっふ――よーくできました」

 その直後、倉庫の全方向から初春に向けてエアガンが一斉乱射された。

 激しい勢いで初春の体をびしびしと叩くエアガンの弾は、着弾は小さいがまるで石つぶてのように重く感じられた。

「く……」

 20秒近くエアガンの銃弾を浴びせられた初春は、何も言わずに口を真一文字につぐんで立っていた。露出した肌は真っ赤になり、弾の着弾した跡が体に無数に出来て痛々しい。何度も当たった箇所が皮膚を抉り、体のそこらから出血となって小さく血が流れ落ちていた。顔も額や瞼などの薄い部分が切れて、顔の上半分は既に血で汚れていた。

「み、神子柴くん……」

弾込め(リロード)の時間の隙を窺っても無駄だぞ! 再充填済み(フルリロード)の銃を全員持ってるからな!」

 初春を囲む連中が全員足元にあるもう一丁の銃を構えながらマガジンを取り出す。

「……」

 しかし初春は微動だにせず、目の前の紅葉達の隣にいる鳴沢を睨んでいた。

「無駄だとは思うが――まあ言って損はないか……」

「あ?」

「――なあ、お前手錠の予備はあるのか?」

 初春は落ち着いた声で言った。

「要は俺が抵抗できないなら人質なんて不要になるだろ――俺が手錠をはめるから、その3人を解放してやれよ」

「やーだよ、バーカ」

 呑気な声が響く。

「お前は俺達に口を出す権利もねぇんだよ。この体の痛み、テメエに万倍にして返してやる。復讐してやることしか頭にねぇんだ俺達は!」

「……」

「まあ僕達も鬼じゃない。君が自分で自分の手を使えなくするというのなら、考えてやってもいいが」

 そう言って鳴沢は初春の前に自分のタクティカルペンを投げた。初春の眼前にタクティカルペンが転がる。

「ふ……」

 初春は血まみれになった顔で失笑を漏らした。

「まだハンデが足りないのかよ……」

 初春はしゃがみこんでタクティカルペンを手に取った。

「柳――お前はしばらく目を閉じていた方がいいぞ」

「だ、駄目です! 神子柴くん!」

 そう言って初春は掌が天井を向くようにして左手を床に置いて、タクティカルペンを右手で握り締めた。

 ガッ、という鈍い音と共にタクティカルペンが初春の左手の真ん中を貫いた。

 血しぶきが飛び、初春の掌の下はあっという間に血だまりが出来た。

「み、神子柴くん!」

「う……あ……」

 我慢強い初春の表情が苦悶に歪み、歯を食いしばっていても声が漏れる。

 体がぶるぶると痙攣するような痛みが全身を駆け巡った。

 だが。

 初春が手を貫いたのを見た取巻きのひとりが初春のすぐ側に近付き、初春の掌に刺さったタクティカルペンを足で踏みつけ、その先端を掻き回すように抉った。

「オラオラァ! こんなもんじゃ終わらせねぇぞ!」

「う、うう、ああ!」

 初春も思わず苦悶に絶叫じみた声を上げる。

 そして一通りペンで傷口を抉った後、ペンを踏みつけた一人は苦痛に崩れ落ちる初春の顔を思い切り蹴り飛ばした。

 初春は芋虫のように倉庫の入り口付近に這いつくばった。

「ヒャハハハハハ! 最高だぜ!」

「気持ちいいわぁ……」

 初春のみっともない姿に鳴沢達は復讐の完遂に手応えを得、歓喜した。

「はあ、はあ……」

 いまだに左手の真ん中からは血が噴出し、どくどくと血管から血が失われていく音が耳で聞こえてくるようだった。

「――秋葉達を離せ……」

「あ?」

「秋葉達を離せって……言ってんだよ……クソ野郎……」

 初春は必死に歯を食いしばって連中を一瞥した。

「ハハハ! 俺達はこの女を離すことを『考える』って言ったんだぜ? 離すなんて一言も言ってないんだよタコ!」

「テメエが勝手に手に怪我させただけなんだよ! 文句あるかよ! お前だって俺達にやったことだぜ?」

 馬鹿笑いが倉庫中に響く。

「――そうか――まあ……そうだよな……」

 初春は頷いた。

「俺ひとりの問題なら、絶対こんなことはしなかったんだが……」

「惚れた女のために、ってかい?」

 鳴沢は鼻で笑う。

「そんな気はないが――だが、さすがにこいつは笑えんな……キレたよ……久々に本気で……」

「ハハハハハ! 今頃この女達が捕まったせいで、自分がこんな目にあっているって怒りを感じているんじゃないかい?」

「――勘違いするなよ。俺はこんな――クソ野郎の嫌がらせで怒りの矛先を見失ったりしないんだよ……」

「は、ハルくん……」

「秋葉も――柳も――葉月先生も……気にしなくていい……むしろ謝るのは俺だ……はあ、はあ……」

「……」

「はっきり言って――お前等を人質に取られるのは……想定してなかった……こんな怖いことに巻き込んで……お詫びのしようもない……でも――お前等はただの被害者だよ……ことを犯したこいつらの自己正当化の材料にされてるだけ……気にするな……」

「み、神子柴くん……」

「……」

 初春は周りの連中を再び汚物を見るような目で睨む。

「何だよその目は。俺達はますます気分を損ねたぜ。人質には手を出す気はなかったが――気が変わった」

 そう言って取巻きの連中はエアガンを構えながら紅葉達の方に集まっていく。

「お前をサンドバッグにするのは簡単だ。だがその前に俺はお前の屈辱にまみれた面を見て楽しみたいんだ。その反抗的な目をやめないなら――本当にこの女をお前の目の前で犯すぞ」

「!」

 手錠をかけられた3人の体が震える。

「惚れた女が目の前で犯される様を、たっぷり見せてやるからよぉ! ほら、嫌ならみっともなく俺達の靴でも舐めながらお願いしてみろ!」

「……」

 馬鹿笑いの響く倉庫の中、初春の頭は妙に冷え切っていた。

「そうしたいところなんだがな――自分も同じことをやった以上、殺される時は虫けらみたいに汚く死ぬ覚悟も出来ているんでな」

「あ?」

「まあそれでも、頭じゃお前等の汚いやり方にキレてはいるんだが……その怒りを表現する上手い罵りの言葉が思いつかないんだよ……」

「は?」

「ふ……」

 初春は自分のセンスに笑った。

 こんな時に命乞いの言葉も、こんな連中を罵る言葉も浮かんでこない。

 全く俺と来たら――こんな時でさえ思想の薄さが際立ってばかりだ。

「だが……改めて理解は深まったよ」

「は?」

「俺は人間が嫌いだ、っていう理解が……」

 それは思想に乏しい初春の精一杯の罵倒に過ぎなかったが。

 その言葉を発した瞬間。

 初春の左胸の音々の刻印が白色に輝き、その閃光が倉庫中をまっ白に包み込んだ。

「うっ!」

 鳴沢達も紅葉達もあまりの眩しさに目をつぶる。

 そして瞼が光が収まったことを感じた頃に目を開けると。

 目の前にいた初春は、烏帽子に白の羽織、黒のふくらはぎまでの丈の袴に草鞋という時代錯誤の出で立ちになって、体中が白い光に覆われていた。

 さっきまでエアガンの銃弾の雨を浴びて真っ赤だった肌も、みるみる普段の初春の白い肌に戻って行き。

 初春は穴の開いた自分の左手を広げて見つめていた。

 さっきまでぼたぼたと血の滴り落ちていた左手の出血がぴたりと止まっていた。軽く指を動かしてみて、ちゃんと動くかどうかを確認している。

 そしてそれを確認し終えたのか、初春はもう一度目の前に集まっている連中を睨んだ。

「……」

 それはまるで時が停止しているかのような――淀みのない水のように静かで澄んだ目だった。

 その初春が静かにジークンドーの構えを取り、臨戦態勢に入る。

「て、テメエ! 一歩でも動いたら人質を……」

「――蒼穹の弓矢」

 そう初春が呟きその場で回し蹴りを放つように足を軸に回転しながら両手を横に薙いだ。

 その瞬間に初春の眼前に竜巻が起こり、鳴沢達を飲み込むと激しく空に向かって立ち上る竜巻は鳴沢達を一人残らず宙に巻き上げた。

「わああああっ!」

 倉庫の天井を木の葉のように舞いながら鳴沢達はもう浮いているのか落ちているのかもわからずにいた。

 初春はそんな鳴沢達を見上げながら右手で水の弓を作り出し、左手で弦を引くようにその水を引き絞り、天井に向けて放った。

 その水は天井に当たる直前にはじけて無数の小さな水の粒となり、超圧縮された水はまるでクラスター弾のように鳴沢達に降り注いだ。

 血の飛沫が竜巻によって勢いよく広範囲に散る。さっきのエアガンなど問題ではない、体に水の粒が鏃のように食い込み、肉を抉った。

 全員風と弓矢の切り裂きにより覆面を割かれて素顔が露になっていた。竜巻が消え、皆がどさどさと落下し床に叩きつけられる。

 この時点でもう既に全員痛みと落下の衝撃で失神していたが。

 初春は前に突進して鳴沢を落下の寸前に首根っこを左手で掴んで受け止め、そのまま右拳を真っ直ぐ鳴沢の顔に向けて放った。

(バク)!」

「!」

 背後から声がしたかと思うと、その初春の拳が硬直したように止まった。

「な、何?」

「あ、あれは?

 紅葉達は目を見開いた。

 初春の背後――入口からこちらに向かってくるもの。

 それはまるで象のように大きな白い山犬と、袈裟の上に軽鎧を纏った中年の男――そして艶やかな小紋を羽織った見目麗しき少女であった。

 少女は親指、人差し指、中指で銃の形に指を作って、人差し指と中指で初春の体を指していた。苦しそうな表情を浮かべている。

「は、ハル様! その力でそれ以上は……」

「間一髪じゃ……『主従の術』――仕込んでおいて正解じゃった」

 紫龍は山犬から降りて鳴沢を動けない初春の手から引きはがす。

「相手を間違えるな。こいつらはもう本来の心を乗っ取られておるのだ」

 動けない初春にそう言うと、紫龍は小さな声で念仏を唱えた。

所封百鬼(しょほうひゃっき)降魔戦神(ごうませんじん)――その拠り所、この光にて打ち払う! その姿を示せ!」 

 倉庫の床下に八角の八卦陣が白い光を放って現れ、地面から空気が吸い上がるようにびりびりと音を立てながら、風を巻き起こす。

 その陣の中――先程初春が倒した連中の口から黒い霧がそれぞれ漏れ出したかと思うと、やがてそれはそれぞれ、イタチの風貌に蝙蝠のような形をした翼を生やした、黒い体毛に身を覆われ、口が裂け、鋭い牙と爪を持つ二足歩行の恐ろしい容貌のアヤカシへと姿が変わっていった。


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