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悪党の才能(12)

 ある程度の金の回収を済ませた頃、初春は智の家を訪ねていた。

 智の家はどこにでもあるような中流よりもやや下といったところの平凡な家庭であった。

 身を隠すために智に学校を休んでもらうことをお願いした際に初春は智の両親にも会っている。智がいじめのために両親の財布から金を抜かなければいけないことも既に説明していた。

 初春は智と両親の前で居間に通される。

「先輩が連中に盗られた金、主犯の鳴沢鳴を除いて8割方回収できましたので、現状分を納めに来ました」

 初春は現金を入れた封筒を置く。

「お、おお……」

「本当に戻ってくるなんて」

「一応集めた情報から算出した額、54万3千円――回収した額がそれを超えましたんで、実際に盗られた額をお渡しします。確認してください」

「そ、そんなに?」

「回収している額はこれに法的金利の限界の44%を加えました。合計で78万1920円。利息額だけで23万8920円――この利息分の3分の1の7万9640円が私達の今回の仕事料として納めさせてもらいます。残りの15万9280円は回収次第皆さんにお支払いします」

「あ、あらそうなの……」

 母親はがっかりしたような顔をした。

「……」

「し、しかしこれだけの額を盗られていたとは――確かに毎月お金がなくなるとも思ってはいたが……智がここまでのいじめを受けていたなんて」

 父親はまだ信じられないといった様子であった。

「だ、だがこれだけの被害が出ているんだ! 法的金利だけで手打ちなんて――それならいっそ損害賠償を訴えることもできたはず!こんな半端な額を取っても」

「そ、そうよ! 逆にこの額を盗ったことで、正式な示談ができなくなっちゃったんじゃないの?」

「こっちは証拠も握っていたんだ。もっと追い詰めることもできたと思う――何で法的金利なんかで許したんだ?」

 歩原家の人間はやや不満そうな顔をした。

「これだけの証拠があるなら徹底的に戦えたのに!」

「――俺は法的な謝罪を求める法律屋じゃありません。盗られた額を取り戻すのが仕事です。その先のことは弁護士にでも相談してください」

 初春はそう言って席を立った。

「また利息額を取り返したら来ます」



「くそ、好き勝手言いやがって……」

 初春は居間でぐったり倒れこみながら唇を力なく噛んだ。

「こっちは同情してサービスで取り分を利息の3分の1まで減らしてやったってのに」

「まあ、ここ半月絶えず動き続け、手も汚した割には合っておらんな。連中は何もしなければ盗られた額の回収すら出来なかったというのに……」

「自分で手を汚さずに復讐なんて、いい気なもんだよ……」

「……」

 音々も複雑な表情を浮かべる。

「しかし人間にあの能力が使えると分かったことが収穫か……」

「――最初の相手であのでかい人に試せてよかったよ。『四海』も『波濤』もあの人の筋力にも負けない抵抗は付与できることが分かったし――貴重な情報を得た」

「一対一なら大抵の相手の攻撃を封じられるな。だがその度に水を使い過ぎてこうなっていたら、勝っても意味がないがな」

「意味がない、か……」

 初春は目を閉じた。

「――今になって俺も、先輩を助けるなんて意味がなかったと思ってるけどな……」

「え……」

「弱い奴を守るためにクズをぶちのめしても、今度は被害者がクズに堕ちるだけだ。俺は盗られた金を返して少し色まで付けたが、もっと絞るか苦しめろって反応だった――しかも手を汚すところは俺にやってもらう気でいたみたいだし――報復防止のために恐喝の証拠は全部先輩に渡してるけど、あの調子じゃそれが逆に恐喝の材料になりかねん……」

「憎しみの連鎖、ってやつだね」

「俺はいじめの再発も止めるほどにクズをぶちのめせば解決するとも思ったが――あまりにやりすぎると被害者側が結局立場を変えて振り出しだ――無意味、徒労だったのかと考えていた。俺は今回の件で改めて人間を救うなんてことを馬鹿馬鹿しいと感じてるよ……まあそれで加害者の連中をぶちのめしたことは間違ってはいないと思っているし、その仕事で金貰ってる俺が言うことではないけどさ……」

「坊やがぶちのめした相手も悪事を働いているんだ。私はそれをやり過ぎとは思わないけど――やり過ぎと言うのだとしたら、被害者に同情し過ぎたことだろうね。確かに坊やのやり方で再発は防げるかもしれないが、解決までを坊やと音々がやり過ぎた。それじゃ被害者があまりのちょろさに強気になるはずだよ」

「……」

「情けは人のためならず――人を救うってことの難しさだね、音々も坊やも、まだ正解じゃなかったってことさ」

「……」

 初春はうんざりした気分になった。

「お前の拷問はそれこそ悪鬼羅刹のようじゃったな。嫌いな人間をあそこまでぶちのめせて、本懐を遂げたような気になっていると思ったが――あそこまでやって一方的に相手をぶちのめせて、気分はどうじゃった?」

「――我ながら最低過ぎる力の使い方だよ。一方的過ぎて卑怯過ぎる。実際に人間に使ってみてその理解を深めたよ」

「ほう」

「特に自分の拳が痛まないってのがすげぇストレスだったよ。傷つけた感覚がない暴力ってのは人間は好むみたいだが、俺には向いてないみたいだ――これを繰り返す毎に自分が腐るような気がする――この能力は、本当に止めなきゃいかん奴以外には使うべきじゃないと思った」

「ならもう金輪際その能力を使わないか?」

「いや――どうあっても止めなきゃいけない人間(クズ)が出たらそんなことは言ってられん――だが人間(クズ)以外には絶対に使わない――正々堂々筋通す奴にそれで負けたら俺が悪いんだ」

「まあ、と言っても生存確率の計算をしているお前のことだ、やばくなったらとっさに使ってしまいそうだが」

「その時はおっさん、俺を愚物として斬ってくれていいよ。つまらんものを斬らせて申し訳ないがな」

「……」

「まあもう仕事は余計なことをするなって依頼主が言っているようだが……最後の主犯には俺も借りがあるしな……」



 終業式前日――鳴沢達のクラスも損傷の軽かった者は皆無理をして学校に出てきた。

 とはいえ皆軽くても肺に穴が開くような大怪我をしている。呼吸をするだけで肺は痛み、くしゃみでもしようものなら体中がバラバラになりそうなほどの内部激痛を味わうような有様で。

 鳴沢鳴も何とか登校してきた。

 だが久々の登校では信じられない光景が広がっていた。

 机が『死ね!』「無能」などの落書きで埋め尽くされており、学校に置いてあった私物は皆なくなっていた。

 あの倉庫で初春は鳴沢の頭の悪さ、判断の鈍さ、仲間意識の希薄さを全て曝け出され、全滅した理由は鳴沢の判断ミスだと思い込ませた。自分がこんな目にあったのは鳴沢のせいだと、初春に逆らえない分矛先が鳴沢に向いたのだ。

「……!」

 鳴沢は激高したが、肺が酷く痛んで声も出せない。

 他の連中も体がまともに動かなかったが、鳴沢に文句だけは伝えたくて無理に学校に出てきていた。

「へへへ……」

 一人五体満足の智が微笑んでいる。

「クソがっ……」

 だが今の体では智にさえ勝てそうにない。誰もがその笑みに怒りを覚えても、どうすることもできなかった。

 だが鳴沢だけではない、他の人間関係も初春に滅茶苦茶にされた今、皆怪我で喋れないような有様でも他の人間と会話をしなかっただろう。

 結局お通夜のような雰囲気のまま教室は静かに時を浪費し、放課後になる。

 鳴沢もそそくさと家に帰ろうとした。

 校門に向かいながら鳴沢は歯噛みをする。

 やはり今、誰も手を出せない状況であるうちに僕の立ち位置を確認するため無理に登校したが……

 やはりこのままでは、二学期に入れば僕はクラスメイトからリンチの的にされてしまう……

 僕がポチにしてきたことと同じことを……

 ――体が震える。

 鳴沢は智とは比べ物にならない程金を持っている。その分むしられる時の被害は見境がなくなるだろう。

 一体どうしたら……

 その時。

 眼前の校門前に人だかりができているのが見えた。

 何だ、と疑問に思いながら校門に近づくと。

 鳴沢は恐怖に体が固まる。

「やあ、先日はどうも……」

 校門のすぐ横に、スーツ姿の初春が腕組みして待っていた。

「!」

 もう体中の激痛が初春の恐怖を覚えてしまっている。初春の顔を見ただけで鳴沢の体は恐怖に震えた。

 先日同じ場所で鳴沢に宣戦布告した初春のことは、一部の生徒に知られている。その直後に鳴沢達のグループが壊滅したのだから、注目の的になって当然である。

「な……」

「安心しろって。戦意のない戦闘不能者嬲る趣味はねぇ。『交渉』の続きに来たんだよ」

「……」

 怯える鳴沢の肩を初春は抱く。

「ひ……」

 初春に『触れられる』ことの意味は嫌と言うほど見せられ、体に叩き込まれている。触れられただけで恐怖がどんどん強くなり、肌が毛羽立つのが分かった。

「お父様に会わせてもらえるとありがたいなぁ」



 鳴沢の豪邸は元々この町の有力者である市長の意向の賜物である。

 鳴沢の父親は元は土建屋で、農協の有力者からの支持もあり既に5期連続の市長当選を果たしている。

 ここがその土建屋兼、市長の事務所でもある。

 客室に一人通された初春は、強面の市長と用意した顧問弁護士と医者に出迎えられた。

「貴様――私の息子をこんなにしおって!」

「言っていることの意味が分からないんですが」

 初春は睨み返す。

「隣にいるおたくの馬鹿息子は、俺にこう言ったんだ。『あっさりやられたんじゃつまらないから、僕を少しは楽しませろ』って。つまり俺は抵抗することを容認されたわけだし――これからいたぶろうとしている奴が楽しませるために見せる『芸』なんて、殺し合う芸以外にないでしょう――俺の芸を堪能したならこうなるのは当然の成り行きでしょう」

 初春はあの保健室で聞いた『僕を楽しませろ』という言葉がずっと癇に障っていた。

 それは本来、自分が負けても相手を恨まない覚悟がある奴に許された言葉だ。そんな正々堂々の技のぶつかり合い――負けても戦いを楽しいと思える奴だけの言葉。

それを知らずに戦いに愉悦を求め、こんな台詞を吐く奴が初春は心底嫌いだった。

 初春は鞄から資料を取り出す。

「あんたの馬鹿息子が人から巻き上げた金は20万――それを外貨なんかに変えて資産運用の真似事をして更に利益まで挙げてる――取り敢えずこの全額に44%の利息をつけて返していただきましょうか」

「こんなはした金いくらでもくれてやる。だが覚えておけ、貴様のような小僧、私は簡単に潰せるのだぞ!」

「――もう裁判とか法の裁きの話はいいって」

 初春は頭を掻く。

「て言うか、随分と権力に居座っているようですね。状況分かってるんですか」

「何?」

「公職選挙法って知ってます? 公職のあなたは票を買うバラマキは禁止されているはずなんですが……あなたの息子はあなたの選挙区の人間にそれを行った……そして」

 初春は鞄からもう一つクリアファイルを取り出し、鳴沢の父の前に出した。

「!」

「賄賂を贈ってあなたの土建屋に国の工事を回すように色々やってる――まあそれくらいなら役得で流せるかもしれんが――その帳簿記録が『飲食代』『出張費用』だぁ? レストランの会計が10万? 出張費用が30万? どうやってこんな金を毎月のように使ってるんだよ。おたくも税金で随分バラマキもやってるし、賄賂も捻出しているようだね」

「く……」

「こんな田舎町じゃ汚職はすぐに広まる――6期目の当選はおろか、土建屋を続けられるか――いや、この町に住めなくなるんじゃないですか?」

「く……」

 鳴沢の父は額に油汗を浮かべた。

 まさかうちの事務所の帳簿を手に入れているとは――こ、この小僧、一体どうやって。

 い、いや、そんなことよりも……

「な、何が望みだ。口止め料か、その証拠を金で買い取れというのか……」

「そんな反吐が出そうなことをする気はないよ。今のところ」

 初春は一笑に付した。

「息子さんのボディーガードとして、俺を雇いませんか?」

「な、何?」

「このままいったらおたくの息子さん、二学期になったら確実にいじめの標的になると思うし――五体満足じゃいられないんじゃないですかね。だから俺が護衛してやろうかって言ってるんですよ。他のクラスメイトの連中にも俺の強さは知れ渡っている――俺がいりゃ息子さんは迂闊には手は出されないと思いますけど」

「……」

 横にいる鳴沢は驚いた。

 確かにこいつが自分の護衛をすれば、僕の安全はかなり保障されるだろう。

 だが……

「ただ、月10万での契約ですがね。普段は俺も別の仕事をしてるからつきっきりじゃない。おたくの息子さんがやられたら動くって形態ですが」

「10万だと? ふざけるな! 何もしなくても月10万も貴様に払うだと?」

「良心的な額だと思いますがね」

 初春は言った。

「この汚職がばら撒かれて無職になりかねないあんた達が、引っ越して息子を別の県の高校に入れるといたら、残り1年半にいくらかかります? 県立の高校の転校はハードル高いから、私立高校に転校になるだろうけど、そこの入学金に授業料に、アパートの費用見積もっても月にその倍は吹っ飛ぶでしょ」

「く……」

「おたくらとしても俺を手近に飼っておいた方が安心なんじゃないの? ま、10万貰ってもお前等みたいな悪党のために俺が働くかは保証しないけどね……一応の抑止力にどうかと思ってね」

 勿論初春は金など貰う気はない。

 俺を手近に飼うか、汚職をばらされるか、その前にこの町を去るかの三択。

 この中で一番連中にリスクが少ないのが3つ目だ。それを選ばせるために交渉という名の圧力をかけている。

 俺を飼っても、放置しても俺という存在は鳴沢親子にとっては爆弾でしかない。俺がいる限り、こいつらは俺に強請られ続けることに怯える必要がある。

 俺にとって今回の依頼は、智がどう願おうが、智への校内のいじめを再犯含めて完全沈黙させることだ。

 主犯のこいつらをこの町から追い出せば、その依頼は完了するというわけだ。

「ま、無理にとは言いませんよ。俺はあくまで選択肢を提示しただけなんでね」

 初春はそう言って立ち上がる。

「ま、断るならあとは勝手にしろ。それ次第で俺の対応も変わるんでね」

 用が済んだので初春は見送りも求めず、客室を出て行った。



「くそっ……父さんまで弱みを握るなんて……」

 初春が帰った後、鳴沢は自室のベッドで恐怖に震えていた。

「どうする――このままじゃ僕は家ごとあいつに乗っ取られる――放置しても飼っても、あいつらは毒みたいに中に入ってくる――でもこの町を捨てたら父さんは終わりだ――今の暮らしも失って一気に貧乏人に――僕も神庭高校の公示偏差値じゃ転校先は更にランクの低い高校に――お、終わりだ……」

 この時改めて鳴沢は、初春という男を敵に回したことを後悔していた。

「何か――何かないのか策は――」

 恐怖と焦りで鳴沢の思考は錯綜する。

 その時。

『いイ――方ホウが――有るヨ……』

 頭の中に声が響いた。

「……」

 布団の中から稲妻に打たれたように、鳴沢はがばっと起き上がる。

「で、でもこれをしたらマジで殺人に……」

『構ワねぇヨォ――あんナ屑――やっチャいNA』

『ばれなキャ平キ――やらなキャやられチャうYO……』

「……」

 鳴沢の目がらんらんと輝いた。

「そうだ――殺さなきゃ……そのためには絶対にやってやる……」

 鳴沢は携帯のグループアドレスで智以外のクラスメイト全員にメールを送った。



 次の日――

 終業式を終えた神庭高校は、これから来る夏休みに向けての浮ついた空気を抑えきれないように、生徒達が開放的な表情を浮かべていた。

「いやぁ、終わったぁ」

 秋葉紅葉も初春の一軒でテストが危ぶまれたが何とか補修ゼロで乗り切り、柳雪菜も不調ながら学年5位を何とかキープし、無事夏休みを迎えることができたのだった。

 雪菜は席を立ち、打ち上げに行こうとするクラスメイトの喧騒をよそに今日も図書館に向かおうと帰り支度をした。

「……」

 そんなことを考えながら、脳裏にはまだ初春のことが残っている。

 この前の一件で、初春は明らかに私達を拒絶したけれど――

 ――どうしてだろう、あの時の神子柴くんに何か引っかかる……

 その思考の引っ掛かりを、雪菜はずっと考えていた。

 そして――その考えを続ける度に。

 初春に逢いたいという思いが募った。

「……」

 ――確かに神子柴くんには『悪党の才能』が並外れてあるのかもしれない。

 でも――私はあの人がただそれだけの人とは思えないんだ。

 私の話をいつも聞いてくれて――落ち込んだり、弱気になったら背中を押してくれて。

 そんな私に、少しの勇気をくれたあの人は、きっと……

 学校を出て、制服のまま図書館に向かいながら、雪菜はずっとそんなことを考えていた。

 図書館まであと少し――駅前を抜けて、静かな農道とまばらな住宅地に差し掛かる。

「うっ!」

 突然後ろから雪菜は何かに抑えつけられ、口をハンカチのようなもので強く塞がれる。

「口に布を噛ませろ! 早く縛れ!」

 後ろから数人の男の声。小柄な文系少女の雪菜ではほとんど抵抗もできないほど強い力で抑えつけられる。

「よし! 運ぶぞ!」



 その日初春は紅葉がバイトに復帰することもあり、久々のファミレスのバイトが休みなので、農場のバイトを終えた後、午前中に家に帰ると久々に軽くクーラーをかけた居間で弱った体を休め、久し振りの怠惰な時間を過ごしていた。

「ハル様……」

 気休めではあるが、音々も治癒術をかけながら、久々に初春の世話を焼けることを喜んでいた。

 初春も久々の休みにもう畳の上で眠りについてしまった。これで弱っていた体調も回復するといいけれど……

 その折。

 初春の携帯が鳴った。

「う……」

 初春はその音に目を覚ます。

「ハル様……」

「……」

 初春はまだ寝ぼけ眼のまま、相手の番号も見ずに電話に出る。

「もしもし」

『やあ、何でも屋』

 電話からは鳴沢の声がした。

「――何の用だ」

『いや、君を止めるには君を殺すしか方法がない――君にはもう守るべき人生がないっていう話をみんながされたって聞いてね。それが本当かなぁと思ってちょっとした趣向を思いついたんだよ』

「何?」

『まあこれから送る画像を見れば、状況も理解できるんじゃないかなぁと思うけど? 君の何でも屋のホームページのメールに画像を送ってあげるから、確認してよ』

 そう言って鳴沢の電話が切れた。

「……」

 初春が寝ぼけ眼からすぐに鋭い目になったのが音々にはわかった。

 初春は今のパソコンを立ち上げて、ホームページを開く。

 そこには添付ファイル付きのメールが確かに一件あった。

 初春はファイルをクリックして開く。

 その瞬間、初春の目は大きく見開かれた。

 そこには猿轡をされ体を縄で縛られ、頭上の柱に手錠の鎖を噛まされ、両手を吊られたように上げさせられている紅葉、雪菜、夏帆の姿が写っていたのだった。


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