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この能力は『強過ぎない』

「お邪魔するよ」

 夜になると初春達の家には比翼や顔馴染みの面々が集まりだす。

「どうも、いらっしゃいませ」

 音々はひとり、家の中で掃除を済ませて皆の到着を待っていた。居間のちゃぶ台には、初春が割り箸で作った社が置いてある。

「あれ? 今日は紫龍殿がいないんだね」

「お師匠様は仕事が終わったハル様と火車様と一緒に鍛錬に出かけました。ハル様がもっと実戦経験を積みたいって言うし、最近は前にも増して鍛錬ばかりになっちゃって……」

「あらあら……坊や――あのこわーい戦い方を更に極めるつもりだね」

 比翼が呆れるように笑った。

「しかし――紫龍殿も戦神なんだね。坊やのあの使い方を止めないんだもんなぁ……最初は半刻程度の片手間だったのが最近どんどん坊やの鍛錬の時間を長くしている――本気で坊やを鍛えるつもりになっているようだね。坊やの世話を焼くのは、今が面白いってことか」

「……」

 音々の表情は冴えない。寂しそうな顔でちゃぶ台に突っ伏しながら割り箸の社を見ている。

「なんだい、また坊やに構ってもらえなくなって寂しいのかい?」

「それもありますけど……」

 折節、庭に一陣の風が吹くと、上空に火車の息子と雷牙がおり、巨体に似合わずふわりと音も立てずに庭に着地する。雷牙には紫龍が乗っているが、火車の背中に初春はいない。

「お師匠様、ハル様は?」

「あいつは別に自分の力で帰ってくる。もうちょっと試したいことがあると言ったので先に帰ってきた」

 紫龍の言葉に音々はほっと胸を撫で下ろす。

「もうあいつは水と風の操り方もものにし始めておる。『行雲』の制御の両立もかなり出来ておるし、今なら小鬼程度の妖怪なら問題なく渡り合うだろう。心配することはない」

「だが紫龍殿、この娘が心配しているのはどうやらそのことじゃなくてね」

 比翼が音々の頭にぽんと手を乗せた。

「ふむ……まあその心配は察しがつくが」

 紫龍がそう言った直後。

 ガガガガ、という何かを転がすような音が次第に近付いてくる。

 山を登るそれは、スケートボードであった。

初春を乗せたスケボーは、初春が自転車でいつも息を切らせる山の斜面を登る馬力で山道の坂を登りきり、平坦な庭の敷地内に入ると急にスピードを上げて玄関に向かって突っ込んでくる。

「避けろ! 轢いちまうぞ!」

「うわああ!」

 時速80キロは優に出ていそうなそのスピードに前にいた妖怪達が道を空ける。

 玄関の引き戸に叩きつけられる5メートル前で乗っているスケボーが光を纏い、その光が消える直前になってジャンプすると、初春は腕にワイヤーつきの腕輪を瞬時に出し、具現化と同時にアンカーを射出し手近の木にアンカーを刺して、慣性の法則によって吹き飛ぶ自分の体の勢いを緩和した。

「おぉ、危ない。玄関をぶっ壊すところだ」

 初春はふうと息を吐いた。

「神子柴殿、それはさすがに欠陥品だと思いますが……」

 火車の息子は苦笑いを浮かべる。

「移動を重視した分ブレーキ無視だからな……『行雲』の重量制限的に沢山の機能は付けられないんだよ。一応消せば止まるしな」

 初春が『行雲』を使って出したこのスケボーは、腕輪のアンカーと同じく電動のモーターをつけてタイヤを加速させて進む高速移動試用である。大型のモーターで回す車輪は山道を初春を乗せても進む馬力がある。だがブレーキがないため一度加速するとモーターを止めてタイヤが勝手に止まるのを待つか消さない限りは走り続けてしまう。

「それに、こいつを使えばお前も逃げられなかっただろう?」

「――恐れ入りましたよ」

「え? どういうことです?」

 音々が訊いた。

「こいつはお前達二人で火車を捕まえた後も、鍛錬の合間に追いかけっこをやっておったのじゃよ。先日こいつは水と風――そしてこの板を使って火車を初めてひとりで捕まえたんじゃ」

「えぇ? あの火車様をひとりで?」

「だがあの時はスケボーのスピードの制御が出来なかったからな。たまたま落ちずに出来ただけだ」

 初春は疲れた視線を虚ろに向けながら、夜空を見上げた。

「でもお前のおかげでまたひとつ、力の使い方に手応えを感じたよ。あとはどんな状況でもこのスケボーを高速でも制御できるようにしないと……」

 初春は相変わらず愛想はないが、手応えを感じているようで声に張りがあり、楽しそうに話す。

「……」

 だがその姿を、音々は心配そうに見つめていた。

「どうした?」

 初春もその様子に気付いたようだった。

「この娘は坊やが危ないことをするんじゃないか心配なんだよ」

 比翼が説明した。

「坊やが今の力で人間に対しての攻撃も視野に入れているって知って、また瘴気を出さないかって不安になっちまってるのさ」

「……」

「――そうか。こいつは神使になってから強い瘴気を出していなかったな」

 失念していた紫龍も頷いた。

「でももし俺がそうなったら、俺はおっさんに斬られるんだろ」

 穏やかな口調で初春は紫龍を見ながら言った。

「俺は確かにこの前、この能力が気に入っているって言ったけど、気に入った理由はそれだけじゃない。特にいいのはこの能力が『強過ぎない』ことさ」

「強過ぎない?」

「ああ。確かにこの能力ってのは、俺の考え通りなら十分戦闘に使える――だが俺がこの能力で人間をいたぶることは出来ても、おっさんにこの能力は通用しない――追いかけっこで火車を捕まえることはできたけど、実際に俺が火車と死合ったら俺の負けはほぼ確実だしな――この能力を持ったからと言って自惚れられないんだよ。人間みたいに弱い者いじめをして悦に浸るようなこともできないってわけだ。必然的にお前の役に立つ使い方をするしかない」

「……」

 音々はまだ怪訝そうに、丸く大きな眼をしょぼしょぼさせている

「まあ、お前は心配性だからな――それで信じてくれるとは思わないけど、綺麗事を言うのも苦手なんでな。どうするかな……」

 初春は髪を切ってさっぱりした頭を掻いた。

「その話はまた今度でいいじゃろう。お前もあれだけ鍛錬で水と風を出したんじゃ。疲れておるじゃろう」

 平行線を辿りそうな議論に紫龍が楔を打った。

「え? そ、そうだったんですね。ごめんなさいハル様」

「いいって――でも先に上がって少し休ませてもらうわ……」

 そう言うと初春は一人家の中に戻り、部屋に上がっていった。

「あ、わ、私、ご飯の支度をしますね。もう温めるだけになってますから」

 音々はいそいそと台所に向かっていく。

「この家に来たばかりの頃を比べると、随分丸くなったね、坊やは」

 比翼が先程の答えに感心した。

「この町の暮らしで坊やの憎しみも和らいだのかね」

「そうではない」

 紫龍が言った。

「あいつは元々好戦的な人間ではない――あいつは肉食の獣と同じじゃ。腹が減っていなければ無用な殺生はしない――奴が戦うのは理由がある時だけさ。理由がない相手は、たとえ憎い人間だとしても手は出さん――自発的に瘴気を出すような強い殺意を出すほどの戦好きではないんじゃよ。以前も人間につつかれたことでそれを出してしまったがな」

「……」

「だが――奴の心には今も確実に強い瘴気がある。つつけばきっとまたあれが顔を出すが――今は大丈夫じゃろう。あいつには薬が効いている」

「薬――紫龍殿に斬られるってこともあるけれど、友達の記憶を消した時のことだね」

「ああ、あの時の人間をなぶった時のことが苦い薬になっておる――だから今のあいつは瘴気も出さずに安定しておる」

「しかし紫龍殿。今はあの時と違って坊やは音々と刻印で繋がっちまっているんだ。坊やがあの瘴気を出したら、音々が危険だからね」

「ぬ、確かに。それは失念しておったな。確かにそうじゃ。刻印で繋がった神使の出す瘴気は、主を蝕み穢れを生む――前に小鬼との戦いで小僧が瘴気を帯びても音々に影響がなかったのは、土筆の作った結界の中に隠れておったからじゃったな……」

「音々に念のために『主従の術』を教えておいた方がいいんじゃないかい?」

「『主従の術』か――」

「……」

 比翼は首を傾げた。

 本当に、紫龍殿の言う通り、坊やは安定しているのかね……

坊やはともかく――最近坊やからまた随分いい香りがついこの前から……以前よりも強い香りになって纏っているのだけれど。

 ふたつの強いいい香りに混じって、無邪気な香りが一つ、僅かな香りがもうひとつ……いや、ふたつ?

 今は安定していても、何だか坊やの周りは騒がしくなりそうだけどね……

 それも人間によって。

 坊やをつつくような人間が出てこないといいけれど。



 7月に入り、神庭町は梅雨明けの報を待つ。

 神庭町で育てている夏野菜畑は、梅雨明けと同時に収穫が始まる。

 初春が手伝っている秋葉家のピーマンもその時期を待ち、どんどんその身を大きくしていた。

 秋葉家では黄色と赤のパプリカも育てており、どれも肉厚で枝から落ちそうなほどずっしりとした重量に育っている。

「暑い……」

 初春は夏前に牛舎の屋根を直している。

乳牛が暑さに弱く、夏バテは牛乳の出荷量を減らすため、直射日光が当たらないように隙間を埋めるのだ。この牛舎には神庭町の清流を引いて、その川の水で冷却した風を換気扇で送り込む簡易的な冷房装置がある。その効果を高めるためにも屋根を見直しているのである。

 屋根に溜まったゴミや汚れを水で洗い落とし、割れているところにコーキング材を塗布して初春が一通りの修繕を済ませると、お爺さんが屋根に登って来る。

「おぉ、さすがだね。こういう工事はやっぱり上手だ。割り箸で家を作るだけある」

「どうも」

コーキング剤を塗ったところが水で流れないようにビニールシートをかぶせ雨除けをする。

「こんにちは」

 すると下から男の声がする。

 お爺さんと初春は首を屋根の下に出すと、そこにはスーツを着た一人の長身の男が立っていた。

「ああ、いつもお疲れさん」

 お爺さんは見知った顔という具合で下の若い男に挨拶する。

 お爺さんと一緒に屋根を降りると。

「あれ」

 そこには以前ラーメン屋『影法師』で会った黒いスーツの若い男がかっちりとしたスーツに革靴というこの町ではあまり見ない格好で立っていた。

「そうか神子柴くんは会うのは初めてだったな。この方は御伽士狼(おとぎしろう)さん。農協の方で最近神庭町に越してきたんだ。うちの畑や牛乳の出荷目安を確認に来たり、色々パイプになってくれている」

「秋葉さん――その子がよくお話されている期待の助っ人ですね」

「そうなんだ。こちら神子柴初春くんだ。よく働く子でね」

「ご挨拶が送れました。私、御伽士狼と申します」

 御伽は柔和は笑みを浮かべて初春に握手を求め、手を差し出した。

「――神子柴初春です」

 初春は手を握り返す。

「……」

「農協でレンタルしているトラクターの具合は?」

「ああ、まだまだ快調だね。故障箇所はないよ」

「そうですか――ではこれも」

 御伽はお爺さんにチラシを差し出した。初春はそれを横から見る。

「農協主催、町内対抗野球大会……」

「近隣の町同士の交流やレクリエーションも兼ねて、農協主催で催しをやっているのです」

「そうかもうそんな時期か。今年は野球なんだな」

「ええ。でも参加者がなかなかいないようで……助っ人でもいいので出てくれる方がいるといいのですが」

「言うな! 人口が足りんのだ人口が!」

 お爺さんがそこはかとなく寂しいことをムキになって言う。

「だが今年うちの町は違うぞ。若い力が入ってくれたからな」

 そう言ってお爺さんは初春の背中をどんと叩いた。

「――は?」

「それはいい――あなたと、あなたの何でも屋の力に期待しましょうか」

 それからしばしお爺さんと談笑して、御伽は去っていった。

「……」

「御伽くんとは歳も近いし、今度もっと話してみたらどうだ。神子柴くんもこの町に人脈はあって損はなかろう」

 お爺さんが言った。

「あの人――この町の人じゃないんですか?」

「ああ、つい最近この町に来たそうだよ。恐らく都会にいたんじゃないだろうか。雰囲気が都会人めいている」

「……」

 確かにこの町の牧歌的な雰囲気とはあまり溶け込んでいない雰囲気があった。

 だが前に会った時も違和感を感じた。この違和感の正体はそれだけが理由ではないということは改めて思った。

握手を交わした時――あの人の手はこの真夏にも拘らず手汗どころか川で洗濯でもしてきたのかと思う程に冷たかった。

この夏の到来も間もなくという太陽の照りつけるクソ暑い中で喪服のような黒いスーツを着ても、汗をかいている様子もなかった。

 それはもう見た目が胡散臭いとかそういうことも超越した、御伽の存在そのものに違和感を感じていた。

 ていうか、あの人って――

 ――折節、ポケットに入れていた携帯電話がメッセージを受信する。

『今日は冷やし中華が食べたい!』

「……」



「わぁ、冷やし中華! 夏と言ったらこれだよねぇ」

「……」

 初春は冷水で締めた麺に胡瓜、卵、ハムを千切りにして盛り付ける。

 リビングのテーブルに二人分を置いて手を合わせる。

「いやぁ、誰かに作ってもらうご飯は美味しいなぁ」

「いつも作ってもらってるじゃないですか、先生は料理しないんだから」

「いやいや、コンビニで買う冷やし中華とはまた別物だよ。中でもハルくんのご飯は美味しいなぁ」

「これも市販の素で作ってるんですけど」

 初春は最近、夏帆の家に来ると夏帆に料理を作っている。

「ハルくんの分のお金出すから、私の分も作って」ということで、初春も夕食代が浮くのでwin-winの関係なのだが。

「つーかいつも冷蔵庫にお菓子と酒しか入ってないし……普段何食ってるんですか?」

「いいじゃない。給料を食事代として一部納めていると思ってくれれば」

「まあそうですけど……」

 初春も黙って冷やし中華をすする。

 水は方円の器に随う――周りの環境に合わせて自在に自分の形を変える。そんな水や風のように決まった形を持たずに生きるのが俺の理想だが。

 この人の言うとおり冷やし中華を作るっていうのは、ちょっと違う気がする……

「学校がもうすぐテスト期間だから、美術教師だけが暇でね……そんな寂しい私に構ってくれる人がほしくて連絡してしまったのだよ」

「そうですか――俺はその分忙しいですよ。秋葉ももうテスト前なんで仕事を休んでますしね」

「秋葉さんは毎日友達と勉強会をしてるみたいよ。柳さんは元々中間テストがよかったみたいだけど」

「テストか……」

 初春は小さく溜め息をつく。

 俺、中学も団地を引き払った10月からは親戚の家を交互にお邪魔してたし、ほとんど行ってなかったな。もうすぐ丸1年テストとは無縁の生活を送ったことになる。

 テストなんて俺も高校に行っていたら忌まわしいものだったのだろうが、今は受けられる奴等が羨ましい。

 他の連中には当たり前にあって、自分にはそれがない。

 そういうものがないという事実が、自分の人生の脱線振りをまざまざと見せるようである。

「……」

 そんな初春の表情の変化を夏帆は見逃さなかった。

「――ハルくんは、学校に行きたいの?」

「――行きたいですよ」

 初春はすぐに答えた。

「珍しい――ハルくんが自分の願望を口にするなんて」

「そりゃ――俺は高校に行けなくなって、親友との約束も果たせなくなりましたから。高校に行ければ――もう一度やり直せるような気がして」

 直哉との勝負――実際ただそれをやることはできるのだろう。

 でも今のままじゃ――

 中学最後の全国大会で、俺が直哉と当たったらどうしようと考え、剣が鈍ったのと同じことを繰り返すだけだ。

 それは俺も直哉も望んだ決着ではない。

あいつも結衣も優しいから、俺のこの体たらくを見れば同情するだろう。

 だが同情ならまだいい。あいつらから憐憫や情けなんて貰ってしまった時、俺はどんな顔をすればいい?

 結衣が俺を哀れんだりしたら、あいつのことだ、直哉を好きでも俺を気遣いかねない。

 それに俺も――自分もあいつらと一緒に着れるはずだった高校の制服を着て、俺とは違う未来をもう歩んでいるあいつらを見て。

 俺はどんな気持ちになるのだろう……

 俺が家族に捨てられ、高校に行かない時点でもう『正々堂々の勝負』も『一世一代の想い』も歪んでいるのだ。

「……」

「何ですか?」

「ハルくんが『親友』なんて熱い言葉を口にするなんて……」

「……」

 つい無意識にそんなことを言っていたのに初春は気付き、恥ずかしくなって目を背けた。

「先生嬉しいよ。ハルくんにもそんな人がいるんだね……あ、あれ。嬉しいのに涙が出てきちゃう……」

 若干ふざけているが、本当に涙が溢れている。

「ちょっと、何でマジで泣いてるんですか」

「ごめんね。何か私こういうのに感情移入しちゃうタイプなんだよね」

「……」

「――ハルくんなら、神庭高校にはすぐに行けるんじゃない?」

「無理っすよ。義務教育じゃない高校行くには親権者の同意がいるんでしょ。偏差値が最低の学校でも入れませんよ。それに家族の籍のない俺に貸してくれる奨学金なんてどこにあるんですか。だから高卒認定しかないんですよ。あれなら履歴書と単独の戸籍だけで行けるし」

「……」

 淡々と話す初春に、夏帆は悲しくなる。

 そういう素振りを全然見せないけど、そこまでに来るまでに初春が何らかの地獄を見たことが、曲がりなりにも大人の夏帆にはわかったのである。

 これまでつい真面目で反応が正直な初春のことを放っておけなかった夏帆だが。

 これは本当に、夏帆にとって他意のない言葉であった。

「――ハルくん。辛いことがあったら、いつでもここにおいでよ。何でも話して」

「え?」

「ハルくんはひとりじゃないよ。秋葉さんや柳さんだって、本当にハルくんのこと心配してるもの――いつもハルくんにはお世話になっているし――困っている時はいつでも力になるからね」

「……」

「そうだ、今度よかったらうちの学校の美術室に遊びに来ない?」

「え?」

「私としてもそこでハルくんが絵のモデルになっているところを秋葉さん達に見てもらえば、まだ誤解されているのも解消されるんじゃないかなと思うし。きっと二人もハルくんが学校に来ているのを見たら、喜ぶと思うんだけどな」

「……」

 何気ないこの夏帆の一言が、初春の心の奥底のうねりに火を点けることになることを。

 まだ優しい夏帆は気付いていなかった。


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