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シェフを呼んでくれたまえ

 念のためということで、初春もさっきまで雷牙がいた開けた場所に立ち、周りの見物人達は少し離れてその様子を見守った。

 その中で音々だけが紫龍の指示で初春の隣に立つ。

「火車の場合は音々の神力も肌で感じられるじゃろうが、お前は初めてじゃから要領を掴むためにも、媒体になる主が側にいた方がいいじゃろう」

 紫龍が危惧したのは、以前初春が小鬼との戦いで発動させたあの謎の力である。

 あれは見たところ人間や神使には使えないはずの神力のように見えた。あの頃より更に未熟だった音々の力であれだけの力が出たのだ。当然紫龍も発動時に何が起きるか早めに見極めたかった。

「よく分からないが――どうすればいいんだ?」

「最初は二人で互いに手を握ってみろ。神使の力は神の力に影響を受けて発動するもの。お前はまだそれを感応する訓練をしていなかったから、最初は確実に繋がるようにするためじゃ」

「ふぅん。俺フォークダンスでも女子に手を繋がれるのを拒否されてたから、手を繋ぐのって逆に気持ち悪いけど」

 初春は頷くと音々の横に自分の右手を差し出した。

「……」

 だが音々は、初春を拒否した人間とは別の理由で初春の手に戸惑った。

 初春への想いを自覚した、土筆が消えた日の夜を思い出したのである。

 初春の、ずっとお前の側にいる、という言葉も……

「し、失礼します……」

 音々は戸惑いながら、初春のマメだらけの手をぎこちなく握った。

「次は?」

 初春は赤面する音々に気付かずに紫龍に訊く。

「お前の心の臓の周りにあるその神使の刻印――そこに今右手で握っている音々の力を流すような印象を脳内に構築しろ。それが出来たら、心の臓に溜めたものを体の外に出すことを考えてみろ」

「イメージか――基本的には『行雲』の制御と同じだな……」

 初春は目を閉じて、開いている左手を左胸に当てて右手の音々の気配を感じるために、右手に神経を集中させる。

 この世のものではない音々の手は、感触や体温などの物理的な感覚はあまり感じられない。

 だが――確かに『そこにある』ということは分かる――

 音々の優しく暖かな想いが、体温もないこの手を暖かく感じさせる……

 それを感じた瞬間。

 初春のボサボサに伸びた髪がなびき出し、左手には先ほどの暖かな音々の気配とは明らかに違う感覚が――これは確かに物理的な感触を伴って肌に感じた。

 その違和感に初春は目を開ける。

「は、ハル様?」

 戸惑った音々も握られた手を見る。

 初春の握った右手は、音々の手を包み込むように水の膜が出来、その水がぼたぼたと音を立てながら山の岩場に叩きつけられ流れ落ちていく。右手からは小川の清流のようにゆっくりと水が流れ続け、その水が絶えず落ちていく。

 そして左手からは、掌から風が巻き起こっている。まるでドライヤーを連想させるような風で、至近距離なら強い風を感じるが1メートル先にもその風が届かない――そんな風だった。

「……」

「――ぷっ……」

「わはははは!」「いっひっひっひ!」

 見物人達が大笑いする。

「い、いや、どんな恐ろしい能力を持ってしまうのかと心配したが」

「こ、これは雷牙殿の能力とは比べ物にならんな。人間界の危機は救われたようじゃ」

 あれだけ派手な雷牙の前フリがあっては、この貧弱な水と風の流れが笑いものになるのは当然である。

「……」

 初春は『行雲』の要領で右手の湧き出る水に対し、あるイメージを強く印象付ける。

 すると初春と音々の掌の間を流れていた水がぴたりと固定し、水の流れも止まり、初春の指先から前腕の肘半分までをコーティングするように水が纏わりつき、音々の手には一滴も水がこぼれなくなった。。

「音々、ちょっと手を離してくれないか」

「は、はい」

 そう言われて音々の手を離すが、初春の手はいまだに水が覆った状態を維持している。

 初春は右手を空に軽くかざして掌を月の方向へ向ける。

 腕の半分まで覆っていた水は徐々に上へと登っていき、初春の手の上でごぼごぼと音を立てながら、やがて水の音が小さくなると、水は初春の掌の上でさざなみひとつ立てぬまま林檎くらいの大きさの球体になって固定された。ブランデーグラスに入れる丸い氷よりも透明度が高く、月明かりが滑らかにその陰影を映し出す。

初春は一度目の前の岩の残骸に対し横向きに立ち、野球のセットポジションのように小さなモーションで腕を振り、その球体を岩に向かって投擲した。

 ばしゃっ、という音がしたかと思うと、水は初春がボールをリリースした頭上ではじけるように形を失い、自由落下して初春の頭に水をぶちまけた。

「ふむ」

 初春は濡れそぼったボサボサの髪をかきむしりながら左手から出続ける風にもイメージを送ると、微弱な風はぴたりと収まった。

「は、ハル様、もう要領を掴んだんですか?」

「ああ、水が出てからは『行雲』の使い方と要領は似ているからな。お前の気配っていうのも、何となくだけど分かる――おっさんと瘴気を読む訓練もちょっとやったからな」

 初春は自分の両手を見る。

「水と風、か……どうやら右手で触っている時にはある程度水の形を変えることが出来るみたいだな。そして離した瞬間にただの水になる」

「しかし――お前としては当てが外れたようじゃな。水も風もほとんどそれを発生させられるだけで広範囲を飲み込めるようなものはない。さっきの投げようとして失敗したのを見る限り飛び道具としても使えないし、戦闘で使うには力不足じゃろう」

「……」

 確かにまだ使いこなせていない今のままでは、水に関しては風呂場のシャワー、風に関してはドライヤー並みである。単なる手品の域を出ない。

「――まあいいさ。水は方円の器に随う――俺っていう器次第でこの水や風も化けるかもしれない――あとは器の問題だろ」

 そう言って初春は家に帰るために腕を組みながら山の下り道に向かって歩き出した。

「水は方円の器に随う――ハル様の好きな言葉ですよね。よく、水や風のような心で世界を見極めると仰ってましたし。ハル様の愛着のあるものですから、結構気に入っているのかも」

「実際気に入っているんだろうよ。その証拠にもうあの能力を有効に使うことを考えている。人間を憎んでいる坊やのことだ。力のない能力にがっかりするかと思ったけど」

「あいつは基本自分を弱いと考えることができる。そして学ぶこと、飲み込むことに貪欲じゃ。よいものを取り入れ自分のものにする――元々自分の思想がなくて自分のエゴを介入させない分飲み込みもいい。それを工夫で補い強者に対抗する――」

 紫龍はそれこそが初春の最大の長所であると見抜いていた。

「さて、あいつはこの能力をどのように使うかな……」



 バイト先のファミレスのキッチンも本格的に梅雨の蒸し暑さに入っていた。

 ランチタイムには保存用のホテルパンが冷蔵庫に入れていても汗をかき、サラダの野菜がすぐにぬるくなる。冷凍庫に入れているアイスも何度も出し入れしているために溶け出しており、常時稼動しているコンベアオーブンが熱を出し、湿度と混ざってうだるような暑さであった。

 農業と肉体労働者の多い神庭町では、夏が最も忙しい時期らしい。目当ては期間限定の冷やし中華とかき氷である。クールダウンをしたい肉体労働者が立ち寄ってはこのふたつを頼み、面白いように売れている。

「いやぁ、暑い……」

 店長は息も絶え絶えになってオーブンの側でランチメニューのハンバーグとエビフライを出し続けている。

 中学時代に剣道部で汗臭い道着を着て汗だくになっていた初春も暑さは堪える。だが一番忙しい冷やし中華とかき氷を任せられているだけまだましだ。忙しい分麺を冷水で締めたり、削る際に器から落ちた氷で体をクールダウンさせていた。

 やがてランチタイムのピークを終えるとキッチンは息も絶え絶えである。

「ふーっ。暑い……」

 店長は息も絶え絶えになりながらコック服の袖をばたばたさせている。

「店長、水をどうぞ」

 初春はピッチャーを持ってキッチンに戻り、コップに水を注いで店長に差し出した。

「おう、ありがとう」

 店長は天の助けとばかりにコップを取り、ぐいとそれを飲み干した。

「ふーっ、生き返るぅ。いつもより水が美味く感じるよ」

「……」

 初春はその水を飲み干して歓喜する店長の顔を窺った。

 水がちゃんと認識できるだけじゃなく、飲める――飲んで感じられるってことは、能力で出した水や風はちゃんと人間にもそのものとして作用するってことだな……

 初春はピッチャーの中の水を能力で出し、その水を実験のために店長に飲ませたのである(一応毒がないか事前に自分で飲んでみたが)。



「はぁ」

 秋葉紅葉は物憂げな溜め息をつきながら、教室で友人達とお弁当を広げて憩いの時間を過ごしていた。

「もうすぐ夏休みかぁ、楽しみだなぁ」

「その前に期末テストで赤点を取ると補習よ。あなたは気をつけなさい」

「今度勉強会しようぜ! 夏休みにどっか遊びに行く計画も立てながらさ」

 神庭高校は基本的にはほとんど小学校、中学校の顔馴染みがエスカレーター式に上がってくる高校だ。紅葉の周りにいる女子も中学校から一緒で勝手知ったる5人程度のグループでずっと一緒にいる。スクールカーストの上位に位置するグループで、みんな絶えず笑顔を浮かべている。

「クレハ、最近様子が変だよ」

 中でも一番の仲良しだった里穂が声をかけてくる。私のグループの中で一番成績が優秀で、

「随分とボーっとしているけど、ちゃんと勉強できてるの?」

「え?」

「そうそう、まあクレハがボケてるのは今に始まったことじゃないけどさ」

「その言い方酷くない?」

 周りの女子の笑い声。

 高校に入ったら少し自分を変えてみたい、少し今までになかったことをしてみたい。

 そう思って紅葉は周りの友達と一緒に、少しだけ髪を染めてみた。

 高校に行ったら、バイトもして、友達と遊んで、誰かと恋をして――そんな生活を夢見ていたが。

 今の私は、その時に考えていたものとはまったく異質のものに心が蠢いている。

「何かあっという間に一学期終わっちゃうなぁって」

「まあねぇ、何か高校に入ったと言ってもクラスメイトの男子も中学と代わり映えしないし、そう簡単には変わらないよねぇ」

「……」

 教室には弁当を食べていたり、プロレス技を掛け合っていたり、漫画を読んだり眠っている様々な男子がいる。みんな騒がしく、ほとんどが小学校か中学校で一度は同じクラスになったことがある男子ばかりだ。

 まあ、その中でもかっこいいと思う男子もいたりする。

 けれど……

「そうだクレハ。放課後よかったら一緒に勉強会しようよ。もうテストも近いし」

「あ……ごめん、今日はバイトがあって」

「え? クレハもうすぐテストなのに、バイトのシフト減らしてもらってないの?」

「油断したらマジでやばいよ。期末は範囲広いんだし」

「あはは……」

 そう、ほんの数ヶ月前まではバイトは片手間にやる程度の認識で、テスト前にはシフトを減らしてもらうつもりでいたのだ。

 でも私は今、シフトを減らしてもらうのを忘れていたのではなく、自分の意思でバイトに入ろうとしている。

 それは……



 ホールの仕事に入ると、初春は最近店長の仕事だったホールの備品の在庫チェックと発注に入る。いまだに人手不足が解消していないこのファミレスは、初春がどんなに従業員に嫌われてももう辞めさせることができないほどの仕事をこなしていた。

「コーヒー豆が2に、牛乳が7、紅茶は……」

 バインダーに挟んだ紙を見て、在庫をチェックしながらリストを作成している初春。

 夏至が近付き日の入りが長くなり、まだ外が明るいこの時期は農家の仕事も涼しくなってからやる家も多く、いつにも増して暇である。

 紅葉もパントリーに引っ込んで、スプーンやフォークを磨いてセットを作ったりしている時間が長い。

 その度に初春の仕事をしている姿も目に入り、紅葉の心はそぞろであった。

「……」

 紅葉の喉に、今にも出かかりそうな言葉が引っかかっている。

 見た目は髪もボサボサ、ぶっきらぼうでこちらから話しかけない限りまず自分から私に声をかけることはないから、話しやすいタイプじゃない。

 正直学校の男子に比べると非常にとっつきにくく、全然自分のタイプではない。

 でも――あのラーメン屋さんの恋の依頼に答えた時。心と一緒に遊んでいる時の神子柴くんはとても優しくて。

 その優しさが自分に向けられたら、私はどのような反応をするかなんて。

 つい、考えてしまう……

「秋葉」

 ふいに初春が声をかけてくる。

「はっ、はい!」

 人に話しかけない初春が声をかけるとは思わず紅葉は心の準備が出来ていなかった。

「大丈夫だとは思うがキッチンも人手不足だから、場合によっては俺もキッチンに入ることもあるけど、秋葉がやばかったらそっちを優先するからいつでも言ってくれ。入店の案内くらいはやるから、オーダー頼む」

「う、うん……」

 それだけ伝えると、初春はまた在庫チェックに戻った。

その時入店のチャイムが鳴り、初春はその場でバインダーを置いてパントリーを出て行く。

「あ」「あ」

 客は初春と同時に声を上げる。

「――柳」

「み、神子柴くん。お邪魔します……」

 雪菜はぺこりと頭を下げる。

「珍しいな。今日は図書館が開いているのに」

「ふえっ……」

 雪菜はそう言われて明らかに狼狽する。制服を着たままで明らかに学校帰りの寄り道というのは不自然だっただろうか。

「あれ? 柳さん」

 その様子を窺っていた紅葉も顔を出す。

「あ、秋葉さん。こんにちは……」

「……」

 もう表情に余裕がなくなっている雪菜の顔を見て、紅葉は察する。

「神子柴くん、柳さんは私が案内するよ」

「え?」

「いいからいいから」

「まあいいか――柳もここは涼しいしゆっくりしていけばいい」

 そう言って初春はパントリーに下がっていき、バインダーを取って発注業務の続きに入った。

その間に紅葉が雪菜を禁煙席に通した。

「メニューが決まったら、ボタンを押してね」

「は、はい……」

 雪菜はそわそわしたまま紅葉に何度か会釈を見せた。

「もしかして――柳さん、神子柴くんに用があったの?」

「え……」

 そう言われただけで、雪菜の顔は耳まで真っ赤になる。

「……」

 何となく分かる。

 柳さんは今、私とほとんど同じ心の引っ掛かりを感じているのだと。

「神子柴くんの何でも屋――またついていきたいと思ったの?」

「な、何で分かるんですか……」

「分かるよ。私もそうだもん。さっきからずっと言いそびれてるんだ。仲間に入れて、って……」

「……」

 紅葉のパントリーを見る目に、雪菜の心がひるむ。

 雪菜の心も、あの暗号を解いた日から同じように、初春のまとう不思議な空気に心が穏やかではなかった。

 実際の世界でまるで小説のページをめくり、先に進める時のような高揚感が、初春の何でも屋の仕事にはあった。

 そして、依頼の際の相手の心の機微を見抜いて力を貸す、初春の優しさに。

「……」

 ――この時、二人には当然認識などできていなかったのだが。

 紫龍がかけた術の蓋が、初春への感情の昂ぶりによって外れかけていたのだった。

 そして……

 また入店のチャイムが鳴った。それを訊くと初春がすぐにパントリーから出てくる。

「いらっしゃ……」

「あ、ハルくん!」

 初春の声を掻き消すように客は声を上げた。

「え?」

 その様子を見た紅葉と雪菜は一瞬凍りついた。

「――葉月先生」

「やっほう。食べにきたよ」

 葉月夏帆は満面の笑みで右手を開いて見せた。

「マジで来たんですか」

「私は自炊をあまりしてないからね」

「知ってますけど、威張らないでくださいよ。嫁の貰い手がなくなりますよ」

「あ、生意気」

「いいから飯食うなら座ってください」

「はぁい」

 初春は夏帆を禁煙席――立ち尽くす紅葉と雪菜の向かいの席に通す。

「か、夏帆ちゃん?」

「あ、秋葉さん――柳さんも。秋葉さんここでバイトしていたのね。でもテスト前なんだから、バイトは程ほどにね」

「……」

 学校でも美人教師として男子からの支持の篤い夏帆が、初春のことを『ハルくん』と呼ぶなんて……

 私だって、そう呼べてないのに。

「注文が決まったら、ボタンを押してください」

「待って待って。私のおなかは今日はオムライスに決まっているのだよ」

「そうっすか。じゃあオムライスひとつでいいですか?」

 初春はポケットからハンディを取り出す。

「ハルくんが作ってくれると嬉しいけどなぁ」

「――誰が作っても同じっすよ。マニュアル決まってるんだから」

「えー? でも私、ハルくんが料理してるって聞いているから来たんだよ。それが食べられないならがっかりだなぁ」

「……」

 初春は首を左右に振った。

「――秋葉。10分だけひとりでホール頼めるか?」

 初春はすぐ側にいる紅葉に訊いた。

「え?」

「オムライス以外に注文ありますか?」

「ドリンクバーと、食後にマンゴーココナッツプリンで」

「了解」

 初春はハンディをポケットにしまうと、すぐにパントリーに下がり、ホールの人間がキッチンに入る時に使う共用のコック帽をかぶって店長ともうひとり、パートのおばさんがいるキッチンに入った。

「そのオムライス、俺が作りますんで」

 初春はそう言って卵を3つ、ボウルに割り入れた。

「……」

 パントリーに戻って、キッチンの中をのぞく紅葉。

 非常に手際のいい所作でオムライスが整形されていく。

 提供目安を大きく下回る7分でオムライスを完成させ、デミグラスソースを回し掛けすると、初春は自分のトレイにそのまま乗せてキッチンを出、コック帽を脱ぎホールへ戻る。

「お待たせしました」

 初春が作ったオムライスはとろけるような半熟卵の黄色とデミグラスソースの茶色、そして飾りにかけたポーションミルクの白が合わさってとても綺麗な出来栄えだった。

「わぁ、美味しそう!」

「……」

 向かいでそれを見る雪菜も、思わず注文したくなってしまうような出来栄えだった。

 夏帆は席についたまま、初春の目を覗きこんでいたずらっぽい薄笑みを浮かべる。

「――何すか」

「おいしくな~れ、ってやってくれたりしないの?」

「――そういうサービスがほしいならそういう店の子になってください」

「お、ツンデレですねぇお兄さん」

「どこにもデレ要素はないっす」

「お、美味しい! ハルくん、シェフを呼んでくれたまえ」

「――いつまで続くんだこれ」

「……」

 傍から見たらアホのようなやり取りを紅葉と雪菜はじっと見つめていた。

 初春をまるで子供のように振り回す夏帆を見て。

 うらやましいと一瞬思った後に、酷く二人の胸を同時に締め付けた。

 酷く、胸が痛い……

「……」

 ふざけ倒しながら、初春の困った顔を後ろに気が気でないような表情で見つめている紅葉と雪菜に、夏帆は気付く。

「――そっか、なるほどね……」


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