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影法師のラーメン(4)

「何でも屋――ですか」

 店主はその提案に若干引いたような反応を見せる。

「ハルくんはすごいんだよ。なんでもできちゃうの。このまえもココロにおばあちゃんたちとおはなみさせてくれたんだから。クラスのソウタくんも、ハルくんにがっこうに行けるようにしてもらったんだよ」

 心がはしゃぐ。初春はその心のフォローに内心で礼を言った。一度依頼を請けた人間が近くにいるというのは助かる。

「失せ物探しは得意な奴がいるんですよ。成功報酬なんで依頼出すだけでもどうです?」

 しかし、こういうことだ、こういう依頼を待っていたんだよ。

 初春はカウンターの下にさっきから持っていた携帯電話をポケットにしまう。

「その女の人って、店主さんの昔の恋人とかですか?」

 紅葉は質問する。年頃の女の子らしくこの手の話題は好きそうだ。

「はは――確かにいいな、と思ってた人だよ。でも今の君達くらいの歳の頃の話さ」

「わぁ、同じ高校だったんですか? いいなぁ。店主さんイケメンですし、モテたんじゃないんですか?」

 紅葉は一段と盛り上がる。

「今でもその人が好きなんですか?」

「――どうかなぁ。もう5年は会ってないからね。この店は親父がやっていた定食屋を改装してね。僕はラーメンが好きでどうしてもラーメン屋になりたかったんだけど、その話をよくヒノさんとしてね。ヒノさんは本が好きで小説家になりたがっていた。お互い夢の話は尽きなくて」

 店主は感情を確かめるように話した。

「高校時代から僕は試作のラーメンをよく作っていて、たまに食べてもらったことがある。今思えばお客にも出せないとんでもない出来のものばかりだったけど――でも僕がこの町を出てラーメンの修行にへこたれなかったのは、僕の試作のラーメンを応援してくれたその人のおかげなんだ。だからその人に僕の考えたこのラーメンを食べて欲しくてね」

「いいなぁ、そういうの」

 紅葉は嘆息しながら、一瞬反射的に横の初春の横顔を窺った。

「また質問で申し訳ないんですが――あなたが本当に『ヒノさん』に会いたがっているのかだけ、もう一度確認させてくれませんか?」

「え?」

 紅葉は首を傾げた。

「報酬に関しては、ラーメン10杯って成功報酬が提示されてるんで、今のままでも仕事をすることは問題はないんですが、何であんなまどろっこしい暗号なんかでその用件を伝えたんです? しかもあのチラシは先着一名がはがしてここに持ってくるって決まりだから、もうその暗号がこれ以上この町の中で情報として拡散することはない――なのに何でこのやり方を取ったんです? 正直本当にその人に来て欲しかったのか疑わしいと思ってしまうんですが」

「……」

「――すみませんきつい言い方で。俺も仕事をして『大きなお世話だ』って言われるような仕事はしたくないんで」

 あのお人好しの神様のためにもな。

「いや、君の言っていることはもっともだよ。確かに僕のしたことはあまりにも不自然に見えるだろう」

「……」

「彼女はこういう暗号とかミステリーの本が好きでね。よくこういうのを読んでいたんだ。だからもしかしたらこういうものに飛びついて読んでくれるかもしれない、と思ったんだ。でももう5年も経っている。あの人も恋人なんかがいて、結婚なんかしていてもおかしくないだろう。そんな時に僕の独りよがりの想い等見たらどう思うか――その恋人ともめたりなんてしたらそれは忍びない。そこであの人にしか分からないような暗号なら、もしかしたら気付いてくれるかもしれないと思ってね。ない頭絞って作ったってわけだ。勿論町中にこの暗号が知られてしまったらあの人が恥ずかしい思いをするんじゃないかと思って、先着1名にチラシをはがしてもらうって手を取った。それでヒノさんが暗号を読んで来てくれるならそれはそれでよし、もし違う人が来たらそれが縁だと思って諦めようと思っていたんだ」

「……」

 そうか――この人が俺達が暗号を解いたと言った時のがっかりしたような表情は。

「まあ、いいんだ。自己満足でもかなり身勝手な行動だったと思っているんだ。今更5年以上会っていない男がずらずらと思いの丈なんて言っても困ってしまうだろう――それに言えなかったからって、僕がラーメンを作るのに心血注いだ年月は無駄にはならない――これでいいんだよ」

「そんな」

 紅葉がいたたまれない顔をした。

「そうですか」

 初春は立ち上がった。

「俺としてはラーメン10杯をもらえないのは残念なんですがね」

 座っていた椅子を引いて丼を下げやすいようにカウンターの上に置く。初春の丼はスープも全部飲み干されている。

「このラーメンはすごい美味かったです。また食いたいんでまた来ます。お礼に俺も仕事しながらこの店の宣伝に貢献させていただきますよ」

 そう言うと初春は一礼して店を出て言った。

「ちょ、ちょっと神子柴くん」

「みんなまだ丼にラーメンが残ってるし、ゆっくり食っていけよ。夕方の営業時間再開の邪魔にならない程度にな」

 初春はそう言い残していく。

 店の前には火車の息子の背から降りる音々の姿が合った。

「ハル様――ちゃんとお仕事なさってたんですね」

「どんな感じだった?」

「――その方のことを思っていらっしゃることは確かです。でも、その答えには納得できてはいないようですね」

「――そうか」

 初春は店の中でメールを音々に送り、依頼人がいるかもということを伝えた。それを見て火車の背に乗って飛んできた音々は、店の外から店主の店に染み付いた店主の心情をアヤカシを通じて聞いていた。

「店主のお名前は影山師(かげやまつかさ)さんですね」

「……」

 初春はもう暗くなり始めた神庭町の空を見上げた。

 あの店主の気持ちは分からなくもない。

 俺だって結衣に自分の想いを最後に言ってから東京を出ることは、何度も考えたからな。

 だが――それをしたところでどうしようもないことがあるのも分かっている。

 結衣は優しいから、哀れな俺を見て変に気を遣うことも分かっていたから。

 それに――俺は数年後に東京に戻ったところでもう結衣の心に俺の居場所はない。

 想いを風化させずにいられることなんて出来ないから。

 それは分かるけど――

「ハル様?」

「あぁ、悪い、で、『ヒノさん』の方の情報はあったか?」

「は、はい、『ヒノさん』という方は……」

 音々はアヤカシから聞きだした『ヒノさん』の情報を初春に伝えた。とは言っても名前や見た目など、ほとんど断片的な情報しかなかったのだが。

「……」

 初春は踵を返して、ラーメン屋の看板を見上げた。

「そうか――そういうことね」

「え?」

「み、神子柴くん」

 看板から視線を下ろすと紅葉と雪菜と心が店から出てくるところだった。

「え……」

 それを見て音々は不意にまた不安な想いに駆られる。

「女を置いて一人で先に行っちゃうなんてひどいよ。もう暗いんだし送ってくれてもいいじゃない」

 紅葉が寂しげな顔をした。残っていたラーメンを急いでおなかに押し込んでしまって少し苦しい。

「――でも、秋葉のお母さんは中卒の俺と一緒にいる方が心配な顔してたぜ。俺じゃ送ってもあまり意味ないって」

 初春は言いながら、前にもこんなやり取りをしたことがあるなと思った。

「むー」

 紅葉はふくれ面をした。

 だが、仕方のないことだとは思う。確かにうちのお母さんは神子柴くんを快く思っていないらしい。いつ面識があったのかは分からないけれど、心が変な男に懐いていると漏らし、今日本を彼が取りに来た時も家の中でお母さんはいい顔をしていなかった。

「あ、あの」

 そんな紅葉の横で雪菜が口を開く。

「きょ、今日はありがとうございました……」

「ん? 俺は別に何もしてないぞ。暗号は実質柳が全部解いたしな」

「い、いえ――なんか今日はすごい一日だったなぁ、って。暗号を解いたり、生まれて初めてラーメンを食べたり――それは多分私一人じゃやろうとも思わなかったので」

 雪菜はこんなに一日を本を読む以外で楽しいと思ったことは久し振りだった。

「まるで小説に出てくるような不思議な一日でした。だから――変ですけど、お礼を言いたくて」

「……」

 初春はそんな雪菜の顔を見ながら、記憶を消す前のことを思い出していた。

 記憶を消した後、また俺がこんなことを柳から言われる事は、あまり考えていなかった。

 ――最後に、秋葉と柳は俺のことを『友達』と言ってくれたけど……

「まあいい。秋葉も柳も気をつけて帰れ。俺は仕事の準備をしなくちゃいけないんでな」

「え? 神子柴くん――もしかして『ヒノさん』を探すの?」

 驚いたように雪菜が言った。

「あの店主さん、もういいって言ってたのに……」

「そんな簡単に諦めるならそもそも暗号なんか作るかよ。俺もラーメン10杯を諦めきれないしな。俺の食費のためにも」

「えぇ?」

「でも――余計なお世話って言われるような仕事はしたくないって」

「したくはないが、言われること自体は慣れてるから別にいい。それに、これじゃ柳のおかげでラーメン恵んでもらっただけになっちまうし、俺にも思うところはあるからな」

「……」「……」

 それを聞いて紅葉と雪菜は同時に同じ思考に辿り着く。

「あ、あの、神子柴くん」

 先に口を開くのは、やはり紅葉であった。

「その――『ヒノさん』を探すの、私も手伝っていいかな?」

「え……」

 その様子を見ていた音々は動揺する。

「ここまで知ってどんな結末か知らないままって、私、気になるもん」

「――その台詞、すごいトラブルメーカー臭が漂うな……」

 初春は辟易した。

 しかし紅葉はあのラーメン屋の一件もそうだが、本当は初春の仕事が気になっていたのである。

 自分にお花見をさせた時に初春の仕事は、まるで軽い奇跡のような出来事である。そんな初春が自分の知らないところでどんなことをしているのか気になったのだ。

「ココロもハルくんのおしごとてつだいたい! いいでしょ?」

 初春の足許に、心がまとわりついた。

「手伝ってもらおうにもバイト代も出せないし、遠慮するよ。それに――ごめんなココロ。『ねんねこ神社』は今、俺の相棒が働かないと意味がないんだよ」

「あいぼー?」

「ああ。そいつの仕事をとらないでやってくれないか?」

「うーん……」

 心はしょんぼりする。

「じゃ、じゃあ」

 出遅れていた雪菜が遠慮がちに話に割り込む。

「も、もし『ヒノさん』が見つかったら――どうなったか教えてくれませんか?」

「――ああ、それならいいけど」

「やったぁ!」

 笑顔を見せる紅葉と雪菜。

「ふふ――俺の相棒、だって……」

 その隣で妙に嬉しそうににやにやしている音々。

「……」

 何なんだこいつら……



 それから紅葉、雪菜と別れた初春は人気のないところで火車の息子の背に乗って、家へと帰ってきた。

「よーし、久し振りにお仕事します!」

「気合を入れるのはいいが、台詞はまるでニートみたいだな」

 家に上がるなり気合十分の音々は居間に初春を迎え入れた。既に居間には今日もアヤカシ達が集まっている。

「――ん?」

 初春が家に帰ってきたのを見て、縁側にいた比翼が首を傾げる。紫龍はキッチンで今日もひとり酒をあおっている。

「でもハル様、私の仕事を見つけてくれたって連絡が来た時、私――すごく嬉しかったです。最近ハル様と一緒にお仕事できてなかったから……」

「お前に働いてもらわないと俺も困る。それだけだよ」

「ふふ……」

 最近音々は初春と一緒に仕事をしておらず、鍛錬ばかりの初春に構ってもらえてなかったので、久々の初春との仕事は嬉しかった。こういうぶっきらぼうな物言いも懐かしい。

 しかも先程『俺の相棒』と初春が何気なく口にした一言が、音々をご機嫌にさせていた。

「ようやく初めて失せ物探しの仕事だけどよ。その『ヒノさん』って人の私物の声は聞けないけど――探せそうなのか?」

「多分大丈夫だと思います。その人の私物じゃなくても、建物や物は意外とすれ違っている人のことを見ていますから」

「そうか」

「でも――ハル様、あの方はその女性を探すことをあまり求めてはいなかったようでしたけれど……どうしてそれでお仕事をお請けになろうと思ったんですか?」

「ん、まあ客になってくれるかもしれないからな。よっぽど暇じゃなければ請けないが、さすがに今の開店休業状態じゃ――な」

「……」

「明日はファミレスのバイトが夕方までだから、それが終わってから町を歩いて手がかりを探してみるか」

「は、はい!」

「――気合入り過ぎだろ」

 初春は呆れたような顔をして、すくっと立ち上がる。

「ハル様、お休みですか?」

「いや、ちょっと考え事をしたいんで、外に出てくる」

「鍛錬ですか? それなら私も付き合いますが」

「いや、ちょっとひとりになりたいんだ。多分30分もすれば戻ってくるよ」

 火車の息子の手合わせを断ると、初春は軽装のまま家を出て山を登って行った。

「もう――また行っちゃうんだから」

「しかし音々、坊やは今日、何かあったのかい?」

 比翼は心配そうに初春の登っていく方向に目をやった。

「坊やから、かすかにいい香りがしていたよ……」

「え?」

「しかも、あの時嗅いだのと同じ香りだね、これは」

「そ、それって……」

「紫龍殿、この前の『忘却の術』が解けかけてるんじゃないのかい?」

 比翼は縁側からキッチンの紫龍を呼んだ。

「あの術は蓋をしたに過ぎん。強い感情で外す力が働けば、その蓋も取れかけるさ。儂も本来あの術は苦手じゃからな」

「それにしても、随分早く解けそうになっているんだねぇ。強い感情って言ったってそうそうすぐには外れない術のはずだけどね」

「年頃の娘の恋心――げに恐ろしいものじゃな」

「こい、ごころ……」

「重ね掛けをしてやらないのかい? 坊や、もし消したと思った記憶が戻ったとなればきっと困るよ?」

「よいじゃろう。あの時はあの娘達が苦しまないように消してやったが――本来はあの朴念仁に背負ってもらわなければならんことじゃろう」

「……」

 音々は初春の登っていった山道を見上げて、また少し不安になった。



「はあ、はあ」

 山道を鍛錬も兼ねて初春は坂道ダッシュで登る。この町に来てから毎日のようにこの山道を登っているせいか、足に踏ん張りが効くようになってきた気がする。

 そうして初春がやってきた目の前には。

 かすかな星の光の中に佇む一本の大きな桜の木がある。

 もう花も落ち、下に花も咲いてはいないが、大きく広げた枝についた葉が夜風にざわめいて、まるで生きているように見えた。

 ここは、かつて何年、何十年もの間告げたかった思いを伝えようとして消えてしまった神の最期の場所だ。

 初春はあのラーメン屋の影山の話を聞きながら、消えてしまった神――土筆のことを思い出していた。

 あいつは俺に最期に言った。

 自分の中の捨てることのできない想い――それを伝えることもないまま死ぬ――その想いをなかったことにしてしまうのは、失うよりも辛いことだと。

 その言葉が、あのラーメン屋の話の中で思い出されていた。

 正直あのラーメン屋の行動は、あんな暗号を使ったり、初春には疑問だらけであった。

 だけどその一方で、あのラーメン屋の行動は正しいとも思ったのだ。

 実際に俺も結衣に想いを伝えずにこの町に来ているから。

 お人よしのあいつが、人生の落伍者になった俺の告白なんか聞いて心を痛めたりされたくなくて。

 何より、直哉と幸せになることに何の問題もないのにそんなことをしたって……

 そう思っていたのに。

 それを考えたら、あのラーメン屋の行動は相手の思いやりを持った、大人な行動であるとも思った。

「……」

 土筆――お前は自分が消えるだろう運命を知った頃に俺に出会って。

 お前はどういう想いで、俺達にあの依頼をしたのだろう……



 ――次の日、ファミレスのバイトを終えると初春は駐車場で音々、火車の息子と待ち合わせをし、合流した。

「ハル様を待っている間に、あのお店に行って、影山様の荷物から『ヒノさん』のことを聞いてみたんです。どうやらものすごい本好きで、よくこの町の図書館に来ていたみたいですよ」

「そうか――少なくとも二人の通った学校とかに行けば住所とかも残っているだろうが、そんな資料は滅多に人も触らないだろうから、アヤカシも宿ってないだろうからな」

「じゃあ、まずは図書館ですね」

「ああ、町立図書館でなら見覚えがある人もいるかも知れん。いなかったら学校の図書館で探ってみよう」

「はい!」

 方針が決まった二人はまずは町立図書館に向かうことにした。

「火車に乗って先に行ってろ。俺はチャリで追うから」

 初春はそう言ってファミレスの駐輪場に止めていた自転車にまたがり、敷地外を飛ばしていってしまった。

「え? あ……」

 初春の自転車の後ろに乗りたかった音々はちょっとがっかりした。



 ――町立図書館に入ると、相変わらず今日も人の気配が乏しいところだ。

「とりあえず俺は受付の人に話を聞いてみるよ。お前は分からなかった時のために、この図書館の本の声を聞いてみてくれ」

 そんな作戦を立て、受付の前で二人は別れて初春は今まで借りていた本を返すついでに受付に向かった。

「あ、今日も来たんだね」

 不意に声をかけられる。それは昨日図書館で初春と雪菜に仕事のやり方を指導してくれていた、雪菜とも面識のある受付のお姉さんだった。

「そうだ、二人のバイト代計算しておいたんだ。持って行ってよ」

 はいと言われて茶封筒が手渡される。茶封筒とは別に明細書も渡される。

「うお」

 明細に書かれた額は基本給以外のその他の欄にかなりの金額が上乗せされていた。

「こんなに?」

「過去最高の戦果だったからね。ひどい時なんて0冊とかもあったんだから」

「――なんだ、道理で普通にやってても集まらないと思った」

 初春は普段の戦果がそれならもう少し手を抜けばよかったかと思った。

「君、このまえ何でも屋のチラシを貼りに着たけど、なかなか優秀だね。しかも引っ込み思案の雪菜ちゃんを心配するなんて、意外と過保護なのね」

「……」

「雪菜ちゃんはお洒落すれば絶対可愛くなるわよ。今のうちに粉かけておいた方がいいわ。今日ももう来てるわよ」

 お姉さんは声を殺しながら悪戯っぽく笑う。

「――俺はしばらくは仕事が忙しいんで。今日は仕事でここに来たんですよ」

「お仕事?」

「ええ、この町にいる『ヒノさん』って女性を探しているんですが」

「『ヒノさん?』」

「ええ。この町にいる本が好きな女性らしいんですが」

「ちょ、ちょっと待って」

 初春の言葉を慌てて制した。

「ヒノは私だよ、ヒノノリコ、それが私の名前」

「――は?」

 初春は思わず顔をしかめた。

 おいおい、もう見つかっちゃったってのか? 確かにこのお姉さん、あのラーメン屋と同世代っぽいけれど。

 これまでの『ねんねこ神社』の依頼が流星雨を見せろとか、桜を咲かせろとか無茶な依頼が多かったので、こんなに簡単に仕事が出来てしまったのは初めてである。

「――こんな、うんまい話があっていいんですかね」

 上手い話に慣れていない初春は自嘲気味に漏らした。


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