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影法師のラーメン(3)

 それから答えを知りたがった連中の教えてくれた住所を尋ね、一つ一つの家で本を寄贈してもらいに回り、図書館に戻った頃には5時を過ぎた頃だった。

 最後に紅葉達の家を訪ねると、もう玄関の前に沢山の本を出して待っていた。

「あ、ハードカバーの本がいっぱい。この町じゃ珍しいです」

 雪菜が嬉しそうに本を手にとった。いわゆる町の本屋さんでは平置きで存在感を放つ新刊のハードカバー本はよほどの話題作でもない限りはほとんど置かれない。だからこの町にあるハードカバーと言えば、ほとんどが映画化された有名作家のものばかりだ。

「全部初版ですし――本が好きな方がいるんですか?」

「両親がちょっとミーハーなだけだよ。流行りもののチェックが好きでね」

紅葉の家はでかい。祖父母が別の家で農業をやっていて、両親の仕事は分からないけれど、恐らくこの町に土地を持っていることは間違いなさそうだった。

 本は段ボール4箱分ほどにもなったので、男手の初春がリアカーに積み込む。

 家の中には上がらなかったが、庭の向こうのリビングの窓から紅葉達の母親が初春の方を見ているのが分かった。最初に会った時に明らかに初春を不審に思って見下したような言動を取っていたが、心を懐かせている中卒男に明らかにいい感情を持って見ていないことはガラス越しでもはっきり分かった。

「秋葉の家で随分数を稼いだな」

 150キロ程度を積載できるリアカーは、一部は処分品だが本が底を埋め尽くす程度には集められている。

「ハルくんもラーメンたべにいくの?」

 心はリアカーの中の沢山の本を見ながらテンションが上がっているようだった。

「これを図書館に届けて、仕事が終わったって行ってからな」

「じゃあココロもついてく! これにのりたい!」

 ココロは初春のリアカーに乗せてもらいたいらしかった。

「――生憎リアカーは軽車両だ。公道を人乗せて走るとおまわりさんに捕まっちゃうぞ」

「――そうなんだ。ざんねんだなぁ」

 紅葉が意外そうな顔をした。

「――秋葉。もしかして秋葉も乗りたかったのか?」

「そ、そそんなわけないでしょ? もう子供じゃないんだから!」

「……」

 そんな姉妹の様子を雪菜は別世界を見るような気持ちでひとり見ていた。

『女子力』という辞書に乗っていない名詞があるが、二人を見ていると、自分にない可愛さに不意に自分のスペックの低さを思い知らされるようだ。

 秋葉さん――何だか可愛いなぁ。

 私も――あんな風に笑えたら、もっと色んな人と話せるようになるのかな……



「すごい――こんなに集まったのって初めてかもしれない」

 図書館の前で待っていた職員の女性にリアカーを見せると、本の一つ一つを手に取り状態を確認した。

「うん――いくつかは処分だけど、ちゃんと置ける本ばっかりだし、ちゃんとバイト料の上乗せは上申しておくわ」

 職員の女性は親指をぐっと突き立てて前に出した。

「しかし、この図書日照りのこの町でどうやってこんなに本を集めたの?」

「あぁ、これですよ」

 そう言って初春は鞄からはがしてきたポスターを取り出して見せた。

「この暗号を柳が解いたんです。近くで頭抱えてた人に答えを売る代わりに本を寄贈してもらいました」

「へぇ、どれどれ……」

 そう言って女性はポスターの暗号に目を走らせる。

「――じゃあこれからそのラーメン屋にタダでご馳走になりに行くのね」

「そうなの!」

 初春の足許にまとわり着く心が満面の笑みで言った。

「最近出来たラーメン屋なんだね。美味しかったら私にも教えてね」



 夏至の近い6月の空は5時でもまだ明るくて星も見えない。

「ティンクル・ティンクル・リールースター」

 リアカーに乗れなかった代わりに初春に肩車されてご機嫌の心が初春の頭の上で歌を歌う。

「――それも学校で習った曲か?」

「そうだよ。こんどじゅぎょうさんかんでげきをやるんだよ」

「そうか――今から練習してるんだな」

 俺も昔は直哉と結衣と一緒にそんな練習をしたっけな。いつも主役の二人に比べて、俺は隅っこで木の役とかをしていたが。

「……」

 そうして歩く初春の後を、紅葉と雪菜は不思議そうについていく。

「も、ものすごい懐いてますね……」

「何故かすごく神子柴くんのこと好きなのよね、ココロって」

「……」

 この時二人の胸には、同じ想いが沸き起こっていた。

 ふざけているようだけど実際は真面目で、決して仕事を投げ出さず。

 ぶっきらぼうだけど、面倒見がよくて、優しくて。

 困っている人を放っておけない。

 そんなこの人を――ずっと前から知っている気がするのに。



 ポスターに書かれた地図は駅前から少し離れた商店街の一角に小さな佇まいとしてあった。

 座席数はカウンターにテーブルが2つだけの小さなスペースで、10人も客が入ったらいっぱいだ。2階が居住スペースのようで、本当に小さな貸家のようだが、店内は綺麗に改装されていて、木目の出たシンプルだがお洒落な内装になっている。

 花輪のような派手な飾りはないけれど、立て看板も全て新品で古い商店街の中にひとつだけ目立って明るい雰囲気であった。

 引き戸を開いて中に入ると、丁度夕食時の時間の直前のため、ラーメン屋に多い中休みの時間のようだった。店の前で若い男店主がカウンターの中で何かを刻んでいた。

 店主の年齢は25歳くらいで、葉月夏帆よりも社会人としての年月を感じた。整えられた顎鬚が少し生えていて、今の初春のようなボサボサの髪を店のロゴの入った黒いバンダナでまとめている。いわゆるラーメン屋の店員のような威勢のよさというものはあまり感じず、気弱そうな印象さえ感じる柔和な笑みを湛えた、二枚目の部類に入る男だった。

「すみませんもう少ししたら開店なんですが、それまでちょっと待ってもらっていいですかね」

「一応人がいないだろう時間を狙って来たんですよ。逆に営業中じゃ邪魔でしょうから」

 初春がそう言って、モールではがしたポスターを差し出した。

「この暗号の答え合わせをしてもらおうと思って」

「ほぉ」

 店主が少しがっかりしたような顔を浮かべながら頷く。

「今日貼ったばかりのポスターだったんですが、もう解かれてしまいますか。あなたが解いたんですか?」

「解いたのは彼女です」

 初春は横の雪菜を指差した。

「ほぉ――確かにまだこの暗号を解いたという方はまだ現れておりません。では、この暗号の答えをお聞きしましょうか」

 店主は雪菜の目を覗き込んだ。

「――ヒノさんという方に、ラーメンを食べに来て欲しい、という内容だと思います」

「え? それだけなの?」

 店長より先に後ろにいた紅葉が首を傾げた。

「どうしてそんな訳に行き着いたの?」

 紅葉のその質問に、初春は持っていたメモを開いた。


1=J 一=H 零=R 日=S 山=Y 


一五⑪羊獅8 ⑪一土。

魚天射七⑩零483土⑪金4九8七蠍土五日射549五十8。

羊零土一4射天魚⑫土瓶牛三8十天土六4獅魚。



「まずこの暗号はアルファベットの置き換えで解読が可能な暗号だ。そして『踊る人形』のように単語の区切りを表す法則性がない故に、ローマ字での読みになると判断する。柳がそれからやったのは、母音の特定だ。その中で『羊』や『牛』『射』あたりは知っての通り星座だ。『山=Y』は山羊座から来るってことで読み方もそのまま。ここで牡羊座、牡牛座、乙女座で『O』が確定、射手座で『I』、魚座が『U』を確定させた」

「そこまでは一緒にやったからわかるよ」

「その次に母音になる可能性が高いのは、文章の末尾にある『土』と『8』そして大量に登場する『4』だ。この3つは特に『A』か『E』の可能性が高い。そしてこの文章では『4』と『8』は必ず連続しない。一度『4』が使われたら、次に『8』を挟むまで絶対に『4』は登場しない。そこからこの2つの数字は同じ母音を表していると考えられる」

「あ、あぁ、そっか! 『April』と『August』ね!」

「その通り。算用数字は月の英語読みだ。それで『⑩』なんて数字の記号も説明がつく。数字の記号で一番大きい数字は『⑫』だからな。12月までを読ませるために、数字の意味が変わらないように10月以降をこういう形にした」

「なるほど――言われてみれば」

「それで残りの母音は『E』――出現頻度から考えて『E』になるのは間違いなく『土』になると考える。それから残りの漢字の意味を考えるために、数字と星座のものを抜いてみると、残るのは『土』『金』『日』だ。このうち『日』が『S』なのは答えが出ていて残りの2つがこれってことは、取っている元ネタはひとつだ」

「七曜ですね。月火水木金土日です」

「あぁ。『日=S』は恐らく英語読みの『SUN』ってことだろう。これは曜日の『Sunday』でもイニシャルが同じだからいいんだが、『金』の場合『GOLD』と『Friday』の両方でスペルが変わっちまうんだが――土曜日は英語で『Saturday』だから、『E』にならない。だが『土』を『Earth』に訳せば今までなかった『E』になる。つまり七曜の漢字を英訳した頭文字が、残りの漢字の正体だ」

「『Earth』……」

 しっくりいかないらしくて、紅葉は首を傾げる。

「で、最後に二人とも漢数字に取っ掛かりがないって言ってたけど、これは解けたの?」

「はい、秋葉さんの『和風』ってアドバイスのおかげです」

「どういうことなの?」

「じゃあ実際にココロ先生に実演してもらおうか」

 そう言うと初春は店長に断ってカウンター席の箸置きから割り箸を無造作に何本か抜いた。

「ココロ、今俺は割り箸を何本持ってる?」

 初春は手一杯に持った割り箸を心の目線まで下げて見せる。

「えっとねぇ――」

 そう言ってココロは指を立てて。

「ひとつ、ふたつ、みっつ……」

 たどたどしく数を数え始める。

「そ、そういうこと?」

「あぁ『一=H』は『一』を『ひとつ』と数えるから『H』になるってことだ。『零』は日本語読みでは『れい』だから『R』――漢数字は要するに、日本の数え方で読め、ってことだったのさ」

「そっか――だから二人とも、分かった時は拍子抜けたような顔していたんだね」

 紅葉が頷いているところで初春はメモのページをめくる。



1=J 一=H 羊=O 日=S

2=F 二=F 牛=O 月=M

3=M 三=M 双=F 火=F

4=A 四=Y 蟹=K 水=W

5=M 五=I 獅=S 木=W

6=J 六=M 乙=O 金=G

7=J 七=N 天=T 土=E

8=A 八=Y 蠍=S

9=S 九=K 射=I

⑩=O 十=T 山=Y

⑪=N 零=R 瓶=M

⑫=D      魚=U


「使ってない文字もあるけど、これがこの暗号の解読表だ」

「この解読表どおりに読むと、この暗号は――

ひのさんへ。

うちのらあめんがかんせいしました。

おれはいつでもまってます。

になるんです。だから暗号の答えは、ヒノさんという方にラーメンを食べて欲しい、ってことだと思います」

「……」

 それまで黙って聞いていた店主は弱々しく幾度か頷いていたが。

「――お見事、その通りですよ」

 そう言って手を叩いた。

「では特典のラーメンをご馳走しましょう。皆さんお座りください」

「え? 4人ともいいんですか? このチラシだと、先着1名になってますけど」

「ええ、その代わりといっては何ですが――女性も多いようですし、試作したラーメンを食べていただけますか?」

 4人はカウンター席に腰掛ける。初春はホールの仕事の癖で、手近のピッチャーの水を注いで4人の前にそれぞれ置いた。

 カウンターに座ると、煮詰めた豚骨の癖のある臭いが、野菜の匂いで中和されてまろやかな旨みを感じる匂いが漂っている。

 店内が狭く、カウンターから見える厨房は寸胴が2つ。調理台は二人が限界といった造りで、店の入り口横に飲み物のクーラーボックスを置いている。

 店の壁に「当店にはお品書きはございません。一種類のラーメンのみです」と書かれている。小規模な店が食材のロスを避けるために一種類に特化することは正しい選択といえる。

「俺はこの普段のラーメンをください。比較できる方がいいでしょうし」

 どうやら女性の意見を聞きたいらしい店主を察して、初春はそう提案した。比較対象として売り物との差を知りたかった。

 店主は注文を訊いて、厨房の中で忙しく動き始める。

「……」

 雪菜は思わず厨房でラーメンを作る店主に、視線が釘付けになる。

 初めて来たラーメン屋は、独特の匂いがして、テーブルが熱気でじとっとしている。

 食券システムでないこういうお店で、不安もなくラーメンを注文できるという環境。

 友達のいない雪菜にとって、他に人がいることで可能になるこの状況は憧れに近いもののひとつであった。

 隣に座った初春の方を見る。

 実は初春も店でラーメンを食べるということは人生初の体験である。なので目の前でラーメンを作られるという行為を興味深そうに見ていた。

「……」

 その自分の未知のものには素直に興味を示して、飽きもせずじっとラーメンを作る様を見ている初春の横顔に、雪菜はつい恥ずかしくなる。

「ところでお客さん、あの暗号は結構解くのに苦戦しましたか?」

 麺を熱湯に入れてスープを小さな鍋で煮立たせ始めた頃、店主は調理場から初春達に話しかけた。

「私もない頭なりに色々考えたんですが――あの暗号は簡単過ぎましたかね」

「――柳、どうだった?」

 実際に暗号を解いた雪菜に初春は見解を求めた。

「――え、あ……」

 文学が絡まない雪菜はさっきまでなくなっていた自信のなさが戻っていた。暗号を考えた本人に評価を下すのだから、大人しい雪菜が戸惑うのは当然と言える。

「その――すごく考えてあるのは分かりますが――かなり無理があったと思います」

「――何故そう感じたんだい?」

「た、多分あの暗号、七曜を足したのは、どうしても母音の『E』が足りなかったからです――そして漢数字を足したのは、『ラーメン』という単語を作るために必要な『R』がなかったから――それを成立させるために沢山の要素をつぎ込みました――その分同じアルファベットが沢山かぶってしまって、ごちゃごちゃになってたと……」

 横にいる初春が、ひええと慄きたくなるような感想だった。

 だが初春もタネが割れた時に同じ印象を受けた。

 一言で言えば、この暗号はエレガントさに欠ける。

暗号として成立させるためにまず成立する字数を確保しようとしたが、上手く字数を確保できずに様々な要素を追加した。いわば素人が適当に具材を突っ込んだラーメンのスープのように濁っている。推理小説のマニアに対する暗号には使えないだろう。

「ふむ――まあその通りだ」

 折節タイマーが鳴って茹でていた麺を熱湯から上げ、大きなストライドで水を切り始める。

「実は僕はまったく文学はからきしでね。あの暗号も自分なりに一生懸命考えたんだ。それこそ三日三晩ああでもないこうでもないとね。開店の準備もそぞろだったよ」

 はっはっはと笑っているが、気弱そうな表情から若干痛々しさが漂った。

「はい、お待ちどう」

 先に初春の注文したラーメンが出てきた。

豚骨で出汁をとっているからスープは白濁しているが、醤油が味のベースなので真っ白というほどではない。青ネギとメンマ、唐辛子と胡麻油で和えたもやし、ニラ、チャーシューじゃなく角煮の薄切りが3枚乗っている。

「……」

 一目見て分かる。香りをかいでそれは確信に変わる。

 特徴には乏しいのだろうが、これは美味そうだ。

「おいしそう!」

「ココロもちょっと食うか?」

 初春は小皿をもらって少しだけ取り分け、心の前に出した。

「いただきます」

 二人は手を合わせて、初春はスープを飲む。

「うお、美味い」

 初春は箸を持って麺をすする。

 初春は日本屈指のラーメン激戦区、池袋の近くに住んでいたが実際に店でラーメンを食べたことはない。

 だがこのラーメンは特徴には乏しいがラーメンの激戦区の町でも十分渡り合えるほどの完成度を誇っていた。

 ゆっくりとだが、箸を止めずにラーメンをすする。

「あー、これがラーメンって食い物か――何かすごくいい香りがするけど」

「香味油だよ。特製のブレンドで作ったんだ」

 とにかく味が濃厚で、その香味油が味の強さと独特の香りを添え食欲をそそる。重たいがすっきりしていて、具に乗っているもやしやニラの食感がそれを爽やかに変え、飽きの来ない味になっている。

「おいしい!」

 心の舌も絶賛だ。

「おねえちゃんもどう?」

「あーうん――私は……」

 だが、心が進める一口に紅葉は難色を示す。

「ん? どうした? 美味いから食ってみろって」

「……」

 紅葉は心の中で初春に憤る。

 そりゃ私も食べてみたいよ。でも、今はさ……

「分かるよ。このラーメン、異性と一緒には食べられないよね」

 店主が理由も分からずにいる初春に助け舟を出す。

「このラーメン、ニンニクやニラとか、香りの強いものばかりだ。食べた後に臭いがついてしまうのが恥ずかしいんだよ、彼女は」

「……」

 紅葉は沈黙を以て答えた。

「僕もそれが気になっていて、オープンに合わせて女性向けのラーメンを試作してみたんだ。それがこれ」

 そう言って店主は紅葉と雪菜の前に丼を差し出した。

「おぉ」

 その丼は初春の前にある丼の底が見えないような濃厚な色ではなく、黄金色に輝くような澄んだスープだった。人参、水菜、ほうれん草に白髪葱と、色の違う野菜がトッピングされて色どりのコントラストも美しい。麺は初春の丼のものよりも細い。肉は乗っておらず、代わりに中央にホタテの貝柱が乗っている。

「綺麗……」

「ニンニクとか香りの強いものは入れてないから」

 店主がそう断ると、紅葉と雪菜はレンゲを手に取り、スープを一口飲んだ。

「美味しい……」

 雪菜が息を漏らす。

「ホッとする味というか――すごく甘くて、でも薄くなくて」

 紅葉も一口食べて、笑みがこぼれている。

「干し貝柱と煮干し、削り節でじっくりスープを取ったからね。動物性の出汁は使ってないんだ」

「でも、ちゃんといい香りがしてますね」

「香味野菜を油を通さずにそのまま使ってるからね。沸騰すると香りが飛ぶから、結構大変なんだけどね」

「……」

 雪菜は饒舌になる紅葉の隣で、細麺を口に入れる。

 お、美味しい――これがラーメン……生まれて初めてこんなもの食べた。

 静かに雪菜はその味に感動すら感じていた。さっきまでは紅葉と同じ、男子と初めてする食事でラーメンはどうなのかと女ながらに心配していたが、もうそんな思いはこの美味しさに吹き飛ばされてしまうほどだった。

「そっちもおいしそう!」

 心もはしゃぐので、紅葉が少し自分の分を丼に取り分けてもらう。

「……」

 初春は黙って自分の前にある丼と、二人の前にある丼を見比べていた。

「――聞きたいことがあるんですが」

 初春ははしゃぐ3人をよそに口を開いた。

「これは明らかに女性に食べてもらいたくて作ったラーメンです。てことは――あの暗号にあった『ヒノさん』って方は女性ですか?」

「……」

「あの暗号のチラシにはこう書いてありました。この暗号を解読できた先着1名の方はラーメン無料、またこの暗号の意味を答えられた方にはラーメン10杯無料の優待券を差し上げます――つまり読むだけじゃなく、その意味ってのは、その『ヒノさん』にラーメンを食べさせるってことでしょう?」

「そ、そっか、読むことと意味っていうのが分けられてるってことは、そうなるよね」

「あぁ、店主さん、暗号を解いたのが俺達でがっかりしていたようだし、最初から『ヒノさん』を待っていたんだ。その期待を裏切っちまって寝覚めも悪いしな」

 初春は箸を丼に置いてカウンターから顔を上げた。

「店主さん、『ヒノさん』を俺たちが探しましょうか? 何でも屋、『ねんねこ神社』がね」


暗号を解いた人がいるのかわかりませんが、いかがだったでしょうか。閃く人はあっという間に解けるような暗号だったかもしれませんね。ヒントを出す場所をもう少し分散させてもよかったかもしれないと思っています…

ラーメンの描写は作者が仕事帰りにたまに行くお気に入りのラーメン屋のラーメンの描写にアレンジを加えたものです。

学生時代はよく食べたんですが、なかなかラーメンを食べに行けてないなぁ。


暗号の解読表、Wordでルーラーを使って文字の縦列を揃えているんですが、こちらにコピペするときに文字がずれますね…文字がずれずに縦を揃える方法を知っている方がいたら、やり方教えてください。

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