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一番綺麗な星は(5)

 初春は右腕の腕輪からワイヤーを飛ばして絶えず火車の近くに寄ってくる。

 しかし初春がこの一週間で大分この行雲で化けさせたワイヤーの使い方に慣れたとはいえ、火車もこの追尾には慣れている。

 ワイヤーを固定するアンカーが刺さる場所がない場所では上手く機能しないという弱点は見抜かれている。

 なので火車の息子もなるべく周りに木々の生えていない開けた場所に行く。

 神子柴殿の対策はこれでいい。問題は……

「それっ!」

 自分のいる近くの木から音々が飛び出してくる。

 刃の揺れる音を聞いて火車の息子は咄嗟に後ずさる。

 音々は着地するが、火車の息子は音々の脚力でももう追いつけない距離へと離脱する。

「!」

 その離脱したところのすぐそばに、初春がワイヤーを使って迫ってきている。

 火車の息子は大きくジャンプして初春と音々を飛び越し、離脱する。

 初春は足でアンカーの刺さった木にクッションを使って着地し、一度ワイヤーを腕輪にしまう。

「ふう、危ない危ない」

 問題は瘴気で気配の見えない音々殿の方。あのようにいきなり近づかれた時に神子柴殿と連携されると厄介だ。

 だが音々殿は神子柴殿と比べて奇襲をする上で、瞬間に声を出したり自ら気配を出してしまう癖がある。神子柴殿と比べて戦闘の経験はまったく劣り、奇襲の適性がない。

 自分が音々殿のいる木の真下にでもいない限り、まず捕まらない……

 なおのこと火車の息子は、周りに木のない開けた場所にまずポジションを取る。

「まったく……」

 紫龍は夜目も効く。上空から神獣に乗ってその様子を窺っていたが、音々の奇襲の適性のなさに目を覆った。

 確かにいい考えだが、あの馬鹿正直な阿呆に奇襲なんて敵を欺くようなことは出来ん。この作戦は決定力には欠けている……

 音々は一度ジャンプして木の梢の中に隠れる。音々は体重は人間と酷似した姿をしているが、体重は数分の一程度しかないため跳躍力がその分高い。木の枝に登り、10メートル近く離れた木の枝に飛び移ることは十分可能だった。

「……」

 すごい、ハル様の言うとおりだ。火車様は私が奇襲役になったら間違いなく開けた場所に出てくる……

 おっと、でも感心している場合じゃありません。時間がないんです……

 既に音々の眼下では初春が追撃を開始していた。火車の息子に考える暇を与えない。

 だが、火車の息子が既に開けている場所に出ているために、上手く動きを取られられないままでいた。

「やあっ!」

 音々も度々樹上から飛び出すが、やはり距離を取られている分一瞬で動きを捉えられる場所に肉薄できない。

「……」

 紫龍はあまりにあからさまな音々の飛び掛かりに、見てはいられないと目を背ける。

「やはり人間がいくら神の道具を使っても、火車を捕まえるなんて」

「ああ、頑張っておるのは分かるんじゃが」

 ギャラリーの中級神や妖怪達も二人に否定的になる。

 音々は着地するとまた走って火車の息子を追撃する。初春が後ろを取って前後に挟むと火車の息子は飛んで二人の間を離脱してしまう。

 音々がまた樹上に隠れると、火車の息子はまた開けた場所に出て音々を警戒する。そこから仕切り直すとまた同じ流れの繰り返しである。

「神子柴殿。今日の攻めの限界が出てきている。そろそろ行雲も休ませなければいけない時でしょう。一度頭を冷やして休んでは?」

 火車の息子はそう提案する。さすがにもうこの追撃にも慣れてきてしまったので、無益な時間を使わせまいという善意の提案である。

「いや――あと1分程度変化に余裕があるはずだ。あと1分粘らせてくれ」

 初春はそう言って、同じく下に降りていた音々の方を一度ちらりと見た。

 音々が樹上に飛びあがるのと同時に初春は右手のワイヤーを上に射出して樹上に隠れた。

 火車の息子は辺りを見回す。

直線の動きでは捉えられない分、奇襲に賭けながら行雲を休ませ、長期戦に持ち込んでいく構えかと火車の息子は推察した。

しかし――音々はともかく瘴気のある初春の動きは私なら察知できる。

火車の息子は鬣に浄化の炎を小さく灯らせる。

初春は樹上――私のいる場所から離れた位置にいる。

やはりここで一度時間を取って一息入れるつもりですか。奇襲にしても行雲を使う時間はもう限られている。

だが火車の息子は上からの奇襲を警戒し、山林の開けた場所へと出る。

わずかな篝火で視界もあまりよくない中、あまりに静かな山林に風が吹き抜ける。

「……」

何か――見落としていたか?

その不気味な静けさが火車の息子の思考をそこへ導いた。

神子柴殿が樹上に上がり最後に姿を見た瞬間——あれは行雲の変化を解除していない証拠。

つまりまだ初春はワイヤーを持っており、行雲を休ませるために距離を取ったのではないということ。

と、いうことは……

そう思った瞬間。

火車の息子の足元が四方丸ごと浮き上がり、まるで地面の中で口を開けて待っていた魚のように火車の息子を飲み込んだ。

地面の泥や雑草、落葉ごと飲み込みながら地面に飲み込まれた火車の息子は何が起きたかも把握できないままそのまま上へと引っ張り上げられてしまう。

「――は?」

火車の息子はそう声を上げるのが精一杯の中、状況の把握に努めた。

自分が今、地面四方から網に捉えられ、そのまま宙に網ごと吊り上げられて脱出できないことが分かった。

「音々! 早く!」

 遠くから初春の声がした。

 その声に反応して樹上から音々が降り立ち、網の外から火車の息子の体をタッチした。

「火車様、捕まえました!」

 その声を聞くと網はゆっくりと降ろされていき。

「!」

 火車の息子が異常に気付いた。

 初春の将器が真下に落下しているのに気づいたのである。

 だが初春の様子を夜目で上から窺っていた紫龍が全速力で神獣を向かわせ、その柔らかい毛並みで木から落下した初春を受け止めた。

「ハル様!」

 音々が異常を感じて駆け寄る。

「体中痛ぇ――さすがにあの巨体を腕に取り付けたワイヤーで引き上げたのは無茶だった……」

 この5分で自重を絶えず支え続けて反動を受け止め、最後に火車の息子の重さを樹上で踏ん張ってこらえた初春の体はボロボロであった。


「はあ、はあ……」

 少し体を落ち着けた初春は、まだ驚きを隠せない中級神や妖怪達の祝福と驚嘆の声を浴びて、木の幹に背を落ち着けていた。

「神子柴殿、音々殿、お見事でした」

 火車の息子は勝者を讃えに近くに歩み寄る。

「しかし、あんな網をどうやって」

「あぁ、あれは左腕の腕輪から伸ばしていたんだよ。左腕からワイヤーを、俺の服の袖の中に通してそのままパンツの下まで通して、俺が右腕の腕輪でお前を追う度にワイヤーが伸びていたんだ。で、ワイヤーが伸びきったら、そのワイヤーの末端がフックの付いた4つの金具になっていた。それを音々に上からの奇襲をさせておきながら末端を渡して、俺が追撃したり、お前が離脱したりしている間にフックをワイヤーの用意した突起に取り付けてもらっていたんだ。4つ全て取り付け終わったらそのワイヤーの中間にあるフックに俺の右腕のワイヤーがあるアンカーに引っ掛けて木の上に飛ぶ。あとは太い木の枝にワイヤーをひっかけて滑車代わりにして、お前がその場に足を踏み込んだら右腕のワイヤーを巻き取れば、張り巡らせれたワイヤーが持ち上がってお前を吊り上げる――反動のない上に吊り上げればお前は空を飛んでの離脱もできない、ってわけだ」

「そんな準備を……」

「瘴気のない音々が奇襲になればお前は上を警戒して下を見ない――そしてお前は確実に周りに木のない開けた場所にポジションを取る。俺が上に行けばお前は俺の位置が見える。離れた場所にいればお前は俺への警戒を解く――それだけの条件が揃っていたからな。でも、音々がワイヤーを連結してくれたり、木の上でワイヤーをひっかけてくれたり、下準備をしてくれなきゃ無理な作戦だったがな」

「坊や、やったじゃないか」

「あぁ、だが思ったよりこの作戦も問題があってな……」

 初春はそう言って、長袖のTシャツを脱いで見せた。初春の上半身の左側は一本の真っ赤な線がくっきりと食い込んでいる。

「服の中に通していたワイヤーを伸ばすたびに体に直に擦れてな――さっきからこれがすげぇ痛いんだ。何か自分を保護するものをつけておけばよかった――詰めが甘いぜ」

「わっははははは!」

 その初春のしまらなさに周りの妖怪や神々も大笑いした。



 病院で蒼太はベッドに体を預けながら今日も『よだかの星』を読みながら、窓の外を見ていた。外は夕暮れが近づき、オレンジ色の光が窓から差し込んでいる時間。

 隣では母の千穂が椅子に座り、林檎を剥いていた。

「明後日が手術日ね――お母さん、毎日神社に行ってお祈りしちゃってるの。ソウちゃんが元気になりますようにって」

「……」

「あのお兄さんを待ってるの?」

「え?」

「ソウちゃん、あのお兄さんだけは何だか心を開いていたみたいだから……」

「……」

 また来るって言ったのに――あれから一度も音沙汰がないじゃないか。結局あいつも嘘つきだったのか。

 その失望と怒りが、蒼太の心をまた頑なにし始めていた。

 すると自分達のいる病室の扉ががらりと開いて、息をせき切らせた初春が現れた。

「な、何でも屋さん?」

「はあ、はあ、ごめん、ちょっとバイトの後――いやいや、仕事の後だったんで思わず走ってきちゃったよ」

 千穂は初春にお茶を差し出した。千穂は一週間ほど前に合った初春の体が、無数のすり傷だらけになっていることに驚いた。

「こ、この体は――」

「あぁ――ええ、ちょっと星を見せる準備のためにちょっと。あ、でもちゃんと受付で消毒したんで不衛生ではないですよ」

 その擦り傷だらけの初春に呆気にとられている蒼太。

「待たせたなソウタ。今俺にできる精一杯の星空を見せる準備が整った」

「……」

 この10日弱、実は本当に楽しみにしていたのだが連絡がなかった失望から、諦めようとしていたので少しむすっとしてしまった。

「手始めってわけじゃないけど――今空に一番星が出てるぜ。それを蒼太に見てもらいたいなって思って、走ってきた。ちょっとだけ、外に出られるか?」

「あ、あの、それは外出許可が」

「――行きたい。お母さん、僕、一番星を見たい」

 普段笑うこともしない蒼太のたっての希望に、千穂は急いで受付に走った。

「おんぶしてやるよ。そら」

 そう言って初春はずんぐりとした蒼太の体を背負って外に出る。確かに平均的な子供よりは重いが、毎日走り込んでいる初春の足にはどうということはない。

 外に出る前に一通りの消毒を行い、3人で病院の外に出る。

 病院の敷地内の庭に出ると、太陽はほぼ沈みかけて空の上の方は群青色に染まり、そこに一つだけ一際大きく輝く星が見えた。

「わぁ、本当によく見えるんですね」

「この時期は西の空に金星が見えるんだ。俺も神庭町に来て知ったんだけどな」

 この町に来てファミレスのバイトが終わって図書館に向かう途中、初春は毎日のようにこの星を見ていた。東京では見た事もなかった大きく光る一際目立つ星が気になって、図書館でその星の正体を調べたりもした。

「宵の明星――学名は美の女神から取ったヴィーナス。そんくらい綺麗な星ってことだな」

「……」

 だが、初春の背中にいる蒼太には反応がない。

 確かに綺麗だと思う――でも――

 自分の心が今荒んでいるのか、流星雨を見たい蒼太にとって、ダイヤモンドのようだが空に一つだけ輝く金星のその美しさは満足できなかった。

「安心しろって、この金星はまだ露払いだから」

 初春は言った。そして横にいる千穂に聞こえないように耳打ちする。

「今日の夜、真っ暗な部屋でなるべく光を見ずに、目を暗闇に慣らしておいてくれ。夜中に迎えに来るから――お母さんにも内緒だよ」



 初春に言われた通り、夕食を食べてから部屋の明かりを消しきって、真っ暗な部屋の中で一人待つ蒼太。

 しかし――どうやって来るっていうんだ。もう面会時間は過ぎているし、病院は鍵がかかっていて、当直が入れるはずないのに……

 不意に、窓の外からこんこん、という音が響く。

 びくっとなって蒼太は窓を見る。

「ソウタ、迎えに来たぞ」

 そう初春の声が聞こえたので、蒼太は安心して窓を開ける。

「う、うわっ!」

 だが、窓の外にあったのは蒼太の想像もできないような異様な光景であった。

 まず黒い毛並みの馬、白い毛並みの狼のような巨大な山犬、そして真っ白な肌の大蛇が自分の病室の窓の上でぷかぷかと浮いており、馬には小紋を着た少女、山犬に初春と袈裟を着た中年男、そして蛇には蛇のような髪の毛に雪のように色白の女がそれぞれ乗っている。

「あ、あう……」

 その光景に腰を抜かす蒼太は尻餅をついた。

 本来蒼太には音々達の姿は見えないのだが、紫龍が結界を周りに張ることで小さな範囲なら彼岸の住人を人間の目にも見せることができるようになっている。

「紹介するよ。その馬に乗っているのは、うちの何でも屋の社長だ」

 初春はにこやかに言う。

「お、お兄さんって――もしかして人間じゃないの?」

「ん? 人間じゃない? そうであったら嬉しいんだがなぁ、残念ながら人間だよ」

「……」

「ソウタに星を見せるためにこいつらの力を借りるために、少し手間取っちまった。これからお前をこいつの背に乗せて、一番空に近い場所で星を見せてやる。来るか?」

「……」

 目の前の状況に驚きを隠せない蒼太だったが。

 今まで楽しいことや、誰かと遊ぶ経験のなかった蒼太にとっては、恐怖よりもこの体験への好奇心が勝り、心が躍った。

「行く、行きたい」

「よし、じゃあ少し冷えるから上着を着てきな。40秒で支度しな」

 初春は往来がないとはいえ、神獣の姿を人に見られないように蒼太に早めの準備を促した。

「おっさん、すまないな、あんたの手を煩わせて」

「仕方ない。あの娘に案内させるからこそこの何でも屋が意味があるんじゃからな」

 音々は火車の息子の体にしがみついていた。手綱なんて野暮なものがなくとも火車の息子は音々の言う通りに動いてはくれるのだが、音々の空中馬術はまだぎこちなかった。

 上着を着た蒼太が出てくる。

「その娘の後ろに乗れ。一応反重力を展開しておるが、念のためじゃ、娘と紐で結んでおけ。

 紫龍はそう言って音々に紐を渡した。音々は蒼太の腰を自分の腰へとかけてしっかりと縛った。

「蒼太くん、それから山に向けて出発するんで、心の準備はいい?」

「は、はい」

「じゃあ、出発!」

 音々の号令で3頭の神獣は宙を蹴って空に舞った。

 あっという間に上空に飛び出し、神庭町の街並みが眼下に広がる。

「わあぁ」

「下の町の明かりは見るなよ。折角目を慣らしたんだ。星を見るだけにしておけ」

 そう横に初春から声が飛んだ。蒼太はそう言われて上を見上げる。

「……」

 そこには、息を呑むほどに美しい無数の星が集まっていた。

 今まで行ったプラネタリウムの比ではない。暗い空がまるで青く蛍光しているように見える程、暗闇に慣らした目はその星の光を鮮明に捉えていた。


 音々達は山の中腹――いつも初春達が火車の息子を追い回していたあたりに着地し、開けた場所に出る。

「すごい……これが本当の星」

「今日は新月だからな。今日に間に合わせるために結構頑張ったんだぜ」

 初春の言葉に、周りにいた連中はしみじみ頷いた。

「でも――本当は流星雨が見たかったな」

 蒼太は呟いた。

「お兄さんにはすごく感謝してるんだ。こんな綺麗な星を見せてくれて。多分これ以上の星空を、あんな空の近くで見れるなんてこと、もう絶対できないと思う」

「……」

「でも――やっぱり流星雨が見たかった。自分が手術に失敗して、死んだら星になって……そしたら僕はどんな星になるんだろうって」

「ソウタ」

 初春は言った。

「今この光っている無数の星空の中に、夕方に見た星――金星はどれかわかるか?」

 その初春の問いに、蒼太は空を見渡す。

「あれ――かな」

「残念、あれは乙女座のスピカだな。春の星空の中じゃ明るい星だけどな」

「……」

「意地悪な問題だったな。答えは――この中にはない、だよ」

「え? あんなに明るいのに?」

「地球よりも太陽に近い天体だから、真夜中には太陽に隠れて見えない――だからあの時間にしか見れない、宵の明星って名前ってわけ」

「……」

「この中には目立たない星もある――多分名前もついてないような星もあるけど、それでも金星が見えないのに、そいつらは見えている――輝けない奴は輝けないなりの戦い方があるってことだな」

「輝けないなりに……」

「ソウタ、お前は自分のことを醜いって言ってたな。沢山周りの人間に蔑まれたって。だったらさ――流星雨みたいに綺麗な星じゃなかったら意味がないみたいな考え方したら、今までお前を馬鹿にした連中と変わらなくなっちまうぞ」

「え?」

「お前は輝けない奴の痛みを知っているはずだ――だからそんなお前が、流星雨みたいに一瞬で終わっちゃいけない、金星みたいにお山の大将になっちゃいけない、この星空みたいに――ちゃんと見ている人はいるから。今はその人のために、輝き続けるってことが大事なんじゃないかな」

「……」

 そう初春に言われた時。

 蒼太の脳裏に、母の千穂の姿が浮かんだ。

 お母さんはいつも僕のために――僕のために捧げたような人生を送って、いつも僕の身を案じてくれた。

「お母さんの人生も、きっと周りから見たらそんなに綺麗じゃないかもしれない……」

「そのお母さんの人生を笑わせないようにする奴は、この世にお前しかいないんだ。そのためにお前は、まだ流星雨になっちゃいけないよ」

「……」

 蒼太の目から、涙がこぼれた。

 散々自暴自棄になって、むしろ早く死にたいと思ってお母さんにも当たり散らして。

 お母さんの自分への愛情にただドロドロに甘えていた自分を恥じたのと、申し訳なさ――それらを酷く反省させる涙が溢れた。

「それでもお前が流星雨が見たいなら――夏にまた見せに来るよ。今日みたいに特等席でな。きっとそこまで生きたら、ソウタの星を見る価値観はまた変わっているはずだが……それを知るためにも、もう少しだけ、生きてみねぇか? 手術を受けてみてさ――」

「……」

「それでもしダメなら、俺が空まで連れて行って、お前をよだかの星にしてやる――どんな星になりたいかお願いしてくれたら、何とか俺達何でも屋で頑張ってみるよ……だからさ」

「――うん、わかったよ、お兄さん」

 初春の言葉を蒼太が遮った。

「お母さんのためにも――手術を受けてみたくなった。最期の最期まで――僕はお母さんの星を汚すことは出来ないんだ」


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