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私は、人のお役に立てる神様になりたいんです

 初春の以前住んでいた東京都豊島区には、池袋駅に日本一大きな家電量販店があり、電化製品の入手には苦労しなかったが、神庭町には大手の家電量販店はなく、買うとなると個人でやっている電機屋である。

 初春はバイトの前に、電機屋に行き、店内にあるカタログを見て、少し旧式のノートパソコンを選んで注文した。インフラのないこの町では、注文から届くまで数日かかるという。

 電機屋がその時点でプロバイダ契約の書類も持っていたので、初春もその時点で契約を済ませた。

 二日後にパソコンが電機屋に届き、初春はバイト帰りにそれを受け取りに行き、家に戻って取扱説明書を読みながら、居間で無線LANの調整を始めた。

「――出張で取り付けとか配送をしてくれるとありがたいんだが――競争相手がいない田舎ってのは、サービスが悪いんだな……」

 自転車にパソコンを乗せて、舗装されていない農道の多い神庭町の道を走るのは不安だったため、バイト先に自転車を置いて、8時間働いた後に、歩いて帰ってきた初春は、少々疲れていた。

「ほぉぉ」

 今日も家に来ている神や妖怪達も、初春の持ってきたパソコンに、一様に興味を示す。

「この弁当箱のようなものが『ぱそこん』か」

 一つ目の大きな頭の妖怪がその目でパソコンの筐体を覗き込む。

「お前ら、絶対にこの機械に悪さするなよ。旧式の平均スペックだけど、思い切って買ったんだからな。他の奴にも言っておけ」

 初春は周りの連中に、最初に釘を刺した。

「……」

 音々も、初めて見るその機械に、首を傾げた。

「――そんなに高価なものなのですか……うーん……」

 次第に音々は目を回してしまう。

「お、おい……」

「す、すみません――私、難しいことを考えるのが苦手で……値の張るものは緊張しますし……」

「……」

 ――これまた絵に描いたような、頭の弱い子だな……

「この機械の元を、これから取ることはできるのでしょうか」

「少なくとも、最初はまず無理だな。現時点では、月の契約のプロバイダ代が埋まれば上出来だろう」

 初春は即答した。

「だから、頑張らないとな。このパソコンの元が取れたら、またプリンも食えるさ」

「ぷりん……」

 音々は以前食べたプリンの味を思い出し、恍惚とした顔で、口の中に唾液を浮かべた。

「――ハル様、私のためにこんな高価なものを――ありがとうございます」

「勘違いするな。俺も就職とかを考える頃になれば、必要になるだろうし、お前のことはついでだよ」

「……」

 ここ数日、初春の働きぶりに、音々は感謝のしようがないほどであった。

 いつもぶっきらぼうだけれど、いつも一生懸命で。

 そんな初春に、音々はいつしか全幅の信頼を置くようになっていたのだった。

「ハル様、私はこれからこの機械で何をすればいいのでしょうか」

 俄然やる気になる音々であった。

「簡単に言うぞ。この機械ってのは、世界中の他の同じような機械とつながっていて、ひとつの部屋になっているんだ。そして、別の機械を持っている人に、手紙を送ることができる。お前はこれから客に、この機械の中で、手紙のやり取りをするんだ。依頼内容を聞いたり、料金を交渉したり……その手紙のやり取りをしながら、請ける仕事をお前が選ぶんだ」

「――わ、私が交渉などしても、よいのでしょうか」

「現時点で、お前が実行部隊で、俺はお前の代理人だ。だから、仕事はお前がやれるかやれないかが肝になる。その判断ができるのは、お前自身が一番だ」

「……」

「――まあ、それはしばらく先の話だな。まずはこれを使って、手紙の打ち方からだ。横に座れ」

 そう言って、初春は今のちゃぶ台の横に、音々を呼び寄せた。

「いいか、この四角のマス――キーボードって言うんだけどな、このマスを押すと……」

 音々のレクチャーに、興味を持った神々も脇でそれを覗き込みながら、液晶画面を見つめる。

「おぉ、この板の中に『あ』という文字が出たぞ」

 他の神々達も、見慣れない機械の使い方に、いちいちオーバーな反応を見せていた。

 適当に打った文章を、初春の携帯電話のアドレスに送信して見せた日には。

「ま、まさかこんな一瞬で手紙が届いたというのか? 何も線などつながってないのに?」

「よ、妖術だ! こんな一瞬で手紙が届くなんて!」

「――面白過ぎるなお前等」

 初春も無愛想な顔が、嘲笑風に歪んでくるのを必死でこらえた。

「お前はまず、文字を打つところからだな。じゃあ、このマウスってのを持って……」

 初春は、音々に体を乗り出して、指差ししたり、丁寧にメールの打ち方をレクチャーした。

「……」

 音々が何かの教えを受けるのは、天界を追放されて以来、初めてのことである。

 天界にいた時ですら、落ちこぼれの役立たずと馬鹿にされ、教えがいもないからと、最後には誰からも見放され、高天原を追放された音々にとって、初春の丁寧な指導は、胸の奥を締め付けるような思いにさせた。

 音々も、初春同様、誰かに優しくされることが、照れくさく、恥ずかしくて、戸惑うのであった。何もしていない自分を神様として――ひとつの生き物として扱ってくれる初春に、何をしてこの思いを返せばいいのか、分からなかった。

「……」

 酒を飲みながら、パソコンを囲んで盛り上がる神々や妖怪達――それを傍目で見ていた紫龍も、この家の久し振りの賑やかさに一人笑みを浮かべた。

「あの坊や、すっかり妖怪や中級神と打ち解けちまったねぇ」

 紫龍の脇に来た比翼は感心した。

「こんなに私達の世界に踏み込んで、私達に怯えない人間なんて、初めてだよ。ましてや本気で、落ちこぼれを天界に戻そうとする人間なんて……紫龍殿ともあれだけやりあえたし、あの坊や、色んな意味で私達を惹きつけるわ」

 この神庭町に逃げ、紫龍の元へ来る家に来る神々は、皆決まって、力を失い、いつか自分の存在が消えることに怯えている者達である。彼らはもう現代の人間が、自分への信仰を失っていく様を身を以って体験している。

 そんな連中だからこそ、初春と音々の試みと、神のために知恵を絞る人間――初春は、他の神から見ても興味深いのである。

「思想がない故に、偏見もない――純粋故に、人間と神、妖怪の垣根もない……」

 紫龍はその点では、初春に対しては好感を持っていた。

「じゃが、あの小僧にとっては、人間も妖怪も同じじゃ。これから出会う妖怪に悪がいれば、すぐに悪に染まる――だから、危ういんじゃ、あいつは」



 初春は勿論家庭ではパソコンを持っていなかったが、中学時代に生徒会の業務を行っていたため、書類の作成やタイピングに関しては心得があった。

 だが、webの編集や動画のアップ、写真の取り込みなど、インターネットに関する知識には乏しかった。貧乏暮らし故に、音々ほどではないが、初春も機械音痴の部類であり、デジカメも使ったことがない。

 初春は今度は図書館で、web関連の本を借りて、パソコンの勉強を始めた。

 彼が次に取り掛かるのは、『何でも屋』の、ホームページの作成である。

 音々が自分で仕事の窓口をするのであれば、サイトからメールで仕事依頼をしてもらう依頼システムを作るのが適当であると考えたのである。電話では、初春もバイトをしているので、迅速な対応をするのは難しい。一日中家にいる音々であれば、慣れればメールでの対応は十分可能である。

「うーむ……」

 初春はバイトの休憩時間も、基本的にweb関連の本を読み漁った。

「――今バーコードって無料で作成できるのか……今後チラシを作るとしたら、バーコードリーダーからこのサイトに飛べるようにしないと……」

 バイト先でチキングリルを食べながら、思いついたことをメモ帳に書き記す。

 折節扉が開いて、学校の制服を着た秋葉紅葉が入ってくる。学校が始まっても、明るい茶髪は相変わらずだった。

「神子柴くん、お疲れ様」

「秋葉――そうか、今日は始業式だったのか」

「――うん、これから高校生組はディナータイムに入ることになっちゃうから、神子柴くんはランチタイムばかりになっちゃうのかな」

 紅葉は寂しそうに言った。

「まあそうなるかもね」

「……」

 二人の間に、微妙な空気が流れる。

 初めての高校への登校、部活動の勧誘と、高校生らしいイベントに胸は膨らむけれど、基本的にこの小さな田舎町では、高校も、ほとんどの人間が昔から知っている同世代ばかりである。

 だから、分かってはいたけれど、紅葉は学校の入学式で、つい、同級生に初春の姿を探してしまった。

 本当に初春が高校に行かないのか――そのことが、いまだに紅葉には上手く整理できずにいた。

 そして、同時に初春も、紅葉の制服姿を見て、自分の中にどす黒い嫉妬が芽生え始めたことが、はっきりと自覚できた。

 直哉と結衣が、神代高校の制服を着て、桜の舞う道を二人で歩いていく姿が瞼に浮かび。

 祝福も素直にできそうになく、貶めることを考えると、自分の醜さに、虫唾が走るような思いにさせられる。

 ――とにかく目を背けたい。

 結局初春は、今音々の世話をすることで、余計なことを考えない――まだそこから抜けられていないことが、はっきりと自覚できたのだった。

「神子柴くん、たまにはディナーにも入ってよ。今もディナーはホールもキッチンも、ランチタイムもやばいんだよ。神子柴くんがいないと……」

「俺は働く時間はいつでもいいって希望は出してる。あとは店長が決めることだ。まあ、ディナーの連中は俺を嫌っているみたいだから、優先はされんだろうがな」

「……」

 このファミレスでは、店長と、皿洗いの障害者クルーを除いて、初春を厄介者扱いする人間が多い。

 同僚の首に包丁をあてがったという事件が、いまだに尾を引いている。仕事はホールもキッチンも、一ヶ月でどちらも十分戦力になっており、肝心のお客様からのクレームがゼロのため、再び店長には重宝されており、今もここで働けているのだが。

 だけど、その状況で言い訳のひとつもしない初春が、紅葉には悲しかった。

 一緒に仕事をしていたから分かる。この人は優しい。本当なら、誰かを進んで傷つけようなんてことはしない人だ。

 店の中で障害者をいじめたり、中卒ってだけで彼を見下したり、悪いのはむしろ、この店の方だったのに。

 どうして、みんな彼のことをちゃんと見てあげないのだろう……

「あ、そ、そうだ」

 紅葉はその空気に耐え切れずに、女子用のロッカーに一度行き、中に入っているビニール袋を取り出した。

「神子柴くんが前に言っていたの、集めておいたよ」

「――サンキュ」

 初春は立ち上がって、ずっしりと中身の入ったビニール袋を受け取った。

「だけど、そんなもの、何に使うの?」

 紅葉は首を傾げた。

「ん? まあいつ終わるか分からん、長い休みの自由課題だな……」



 学校が始まる頃になると、紅葉もバイトのシフトを少し減らし、初春もディナークルーが来る前に帰るように努めるようになる。バイトが終わる時間が早くなり、初春も図書館で過ごす日が多くなってきた。

 柳雪菜も紅葉と同じ高校に入学し、学校が終わると、図書館に相変わらず入り浸っている。

 初春と雪菜は、図書館で会うと互いにどちらからともなく会釈を互いに返し、閉館時間直前まで何かしらの本を読むか勉強をして、貸し出しカウンター前で互いに本を借り、初春が夕食の買出しをするスーパーまでの帰り道を一緒に帰る。

 そんなルーチンを繰り返すようになった。

「――ホームページ、ですか」

「ああ、機械音痴なんで、悪戦苦闘しながらやってる」

 今日も初春は自転車を押しながら、雪菜と並んで星空の下を歩いていた。雪菜は新品の皮製のスクールバッグを持ち、ブレザーの上からまだ少し肌寒い4月の夜に備えて、青のカーディガンを羽織っていた。

 初春も細身だが、雪菜も同様に色白で細い。よく言えばスレンダー、悪く言えば凹凸がなく、黒い髪を肩まで伸ばし、前髪で少し目線を隠している。名前の通り、さながら柳の枝のようにすだれ状になっている。

「ノートパソコンを持ってるなら、お洒落なオープンカフェのテラスとかで作ればそれなりに様になるんだろうが、貧乏なんで、今日も図書館だ」

「ふふふ……」

 ところどころに自虐を混ぜる初春は、人といると気後れする、自分に自信のない雪菜にとっては圧迫感がなくてよかった。お互い相手に無理な会話を強いるタイプではなかったので、無口な二人でも会話が成立していた。

 雪菜は、何でも屋の進捗状況を初春から聞くのが楽しみだった。彼の話は、まるで小説のページをめくるように、話が前に進んでいる。だからいつも、続きの話が気になるのだった。

 でも――

 男の子と帰りながら、外の道を一緒に歩くのは、いまだに緊張する……

 雪菜は初春との帰り道は、楽しみである反面、いつも肩に力が入っていた。

「素人自作のホームページでどれだけ集客できるか怪しいがな……」

「宣伝は、その後ですか?」

「――あぁ、一応ホームページへ行くURLを宣伝に載せなきゃいけないからな」

 そうして、家に帰って毎晩悪戦苦闘しながら、初春は1週間かけて『何でも屋』のホームページを8割方完成させたのだった。



 この頃になると、何とか音々も、徐々にキーボードの文字の場所をある程度覚えてきたようで、少し前に比べて格段に打ち込みが早くなっていた(音々はローマ字が読めなかったため、ひらがな入力であるため、位置を覚えるキーボードの数が多い)。

 初春は家のパソコンを起動させ、作ったホームページの欄を開いた。

「うーん……坊やが頑張って作ったとは言っても、やっぱり文字だけで味気ないねぇ」

 比翼が苦笑いを浮かべた。

「柳の言っていた、可愛いマスコットとか、その発想は重要だったようだな……」

 作成した初春自身も作りながら思っていた。確かにそのようなものがない、文字だけのホームページは実に味気ない。何か写真なりイラストなりを添付するのは必須といえた。

「メールアドレスを設定して、マスターのパスワードを入れればそれを閲覧できるシステムを組み入れてある……あと、このホームページで埋まってないのは、3つ――この何でも屋の『名前』と、『料金規定』と『仕事の依頼方法』だ」

 ここがビジネスとして重要な場面になる。

「お金の流れを作る上で重要な点になる……料金を下げれば依頼は来るだろうが、下げすぎても困る……何分初めての試みだからな」

 音々自身に関しては、最悪食事をしなくても生きていけるし、金を稼がなくてもいいのだが、それに時間を割く初春はそうもいかない。それに仕事をすれば、交通費等の活動資金はどうしても必要になってくる。

「この点に関しては、俺も俗物のようにならざるを得ないんだが……」

「――ハル様、私、その点で考えがあるんですが」

 音々が口を開いた。

「お値段は、お客様自身に決めてもらう、というのはどうでしょうか」

「え?」

「はじめにこの『ぱそこん』に依頼内容を送ってもらうんです。そこで、達成できたらこの額を支払う――その額はお客様に最初に提示していただくんです。私達は、その依頼を見て、達成できそうなものから片付けていく――その時初めてお客様から料金を受け取るんです」

「――つまり、成功報酬型、ってことか……依頼を出した時点では、料金を発生させない……」

「最初は、依頼を出すだけならタダ、っていう点で、依頼を増やして、知名度を上げていけたらな、と思って」

「……」

 ――確かに。胡散臭い何でも屋とは言え、達成されなければお金は発生しない、ということを考えたら、依頼者にとっては気楽である。期待はしていないが、依頼だけでも出しておこう、という気になるのは、金のない少年も理解できる。向こうが依頼を書き込むだけで、大したやり取りもせずにこちらが仕事を始動できるのもメリットが大きい。

 しかし……

「世間知らずの極みじゃ」

 脇で聞いていた紫龍が呆れたように言った。

「そんなことをしたら、間違いなく金を払わん人間や、『1円で仕事をしろ』なんて人間も出てくる。誰だって自分の懐は痛めたくないからの。お前はそんな奴から金を取れるのか?」

「……」

 初春は紫龍の言葉に頷く。

 確かに音々の意見は面白い。人間というものが全てにおいて優しいのであれば、その試みは何の問題もない。

 だが、人間なんてそんな綺麗なものじゃない。それを初春は知っているのである。

 少しのことですぐクレームを起こし、ネットではいたずらの書き込みが蔓延、殺害予告や爆破予告さえいたずらでネットに書き込む世の中である。依頼料ゼロ円で受け持てという書き込みが増える危険性は当然無視できない。

 他者の生活や、他者に対する礼儀や礼節も知らない、自分が得できれば、ルールを破っても何食わぬ顔をする――それが人間であることは、初春は誰よりも知っている。

「でも――私は人を信じてみたいです。私は、人のお役に立てる神様になりたいんです」

 音々は迷いもなくそう言った。

「……」

 その自分の考え方とはまったく真逆をいく音々の言葉……

 ずっと前から言っていた。音々の長年の夢、か……

 思えば初春も、そんな音々の思いと、自分が消えるかもしれないのに、自分と心のために家を飛び出したこいつの決意に、手を貸してやろうと思ったのだ。

「――まあいい。依頼請負に対する最低提示額を決めて、それ以下の依頼は無効――という規定をつけて、そのスタイルでいこう」

 初春は言った。

「――意外じゃな。人間をこれっぽっちも信じんお前は、この案に反対するかと思ったが」

「信用はしてないが――人間を曇りなき心で見極めるのにいい機会だと思うことにする。いたずらで埋まるようなら、はじめから期待していなかった――それでいい。それに、依頼を集めやすくするには、音々の提案は確かにいいし――今は依頼を集めるってことが先決だ。客の自由度が高いってのは、宣伝の強みになるかも知れん」

 初春は頷いた。

「最低依頼料はどうするんだい?」

 比翼が訊く。

「音々の活動時間の関係上、出張はできないし――最初は失せ物探しなら、一律2000円で様子を見よう。その他の仕事は時間で区切る――最初の2時間は1500円――そこから一時間ごとに1000円プラスだ。交通費等を差し引いたら、もっと取り分は減るがな……それ以下の依頼じゃ、さすがに厳しい」

「1500円か……」

 比翼が煙管を燻らせた。

「坊やを2時間1500円で借りられるなら、安いくらいかもしれないねぇ。腕っ節もいいし、行動力も頭もなかなか――お得なもんだ」

「……」

 初春は、ふと、中学時代に、担任の白崎に言われた言葉を思い出していた。

『オール4.5の男』なんてあだ名をつけられたっけな。

 あの頃の俺も、同級生からは直哉と結衣の腰巾着扱いだったから、そんなに自分のスペックが誇れるようなものだとは思わなかったが……

 今では間違いなく、オール1の人生になった。何だかんだ言って、俺は今もけじめの外で、社会の最底辺を這いずり回っている。

「――俺の力を借りたって意味ないだろ」

 初春は座って、キーボードを叩いて『仕事の依頼方法』のページを更新した。


・当社は完全成功報酬型です。依頼の時点での料金の請求は一切いたしません。

・依頼料はお客様の自己申告制です(最低依頼料あり)。作業員1名のため、同日の依頼の場合、料金の高いものを優先させていただきます。

・当社の最も得意なものは『失せ物探し』です。失せ物探しを依頼する場合、メールに探してほしいものの写真を添付してください。

・成功の報告後、お客様の入金確認の後、依頼品を送付、または当社で手渡しで渡させていただきます。成功の報告後、入金がされない場合、依頼品を処分する場合もございますので、ご了承ください。


「――こんなもんかな」

「なんか本当に『何でも屋』っぽくなってきましたね」

 音々もわくわくした表情を見せる。

 依頼に必要な、依頼者の名前や、連絡先を書き込むテンプレートを貼り付けた後、トップページにも、簡単なセールスポイントを書き込む。


『成功報酬型! 依頼無料! お客様は基本待つだけ』

『料金はお客様がご自由に設定ください』

『迷子のペット、思い出の品、昔の同級生――お探しいたします』


「とりあえず、これで仕事を始める準備はあらかた完了だな。」

「それじゃあ、あと残っているのは……」

 初春と音々は首を傾げる。

「この何でも屋の名前ですね」


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