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ある昼下がりの誘惑(5)

 雪菜は顔がぽおっと熱くなる。

「あ、あの――」

「ん?」

 直哉の顔の涼しさが、逆に雪菜を焦らせた。

「……」

 だが、その内心は酷く戸惑っていた。

 目の前にいるこの娘のことは、さっきからずっと自分の心を穏やかにさせていた。

 人と一緒にいるのに駆け引きもなく、いつも優しくて。

 こんな俺の言ったことをいちいち真剣に真に受けてしまう。

 そんな雪菜のことが、結衣に求められていない自分の空虚さに暖かなものを運んでいて。

 つい思わず口走ってしまった。

「……」

 それを聞いた雪菜の鼓動もどんどん速くなる。

 雪菜も初春ほどではないが、自分の周りにいる人間というのが少ない。

 自分にそんなことを言う人がいるという想定をあまりしてこなかった。

 しかもその初めての相手がこんなに格好いい人なんて……

この人のこんな言葉を断ることが、女としてどれだけ愚かしいことかは雪菜でも分かる。

 そして直哉がこんなことを誰にでも構わず言う人ではないことも分かっている。

 そうでなければ、神子柴くんが日下部さんを託そうなんて思うはずが……

「……」

 そう思った時、雪菜の脳がすぐに覚醒したのが分かった。

「わ、私――今日小笠原くんに、ずっと神子柴くんの影を見ていたんです……」

「え?」

「飄々としていても、いつも根は優しくて――そんなところが、ふ、二人ともそっくりで。で、でも神子柴くんより小笠原くんはそれがずっと洗練されていて、本当に一緒にいて嬉しい気持ちにさせられちゃって」

「……」

「昨日神子柴くんが言ってましたよね。自分は小笠原くんの劣化コピーだって。だ、だからきっと、東京にいた時はずっと神子柴くんは、小笠原くんの偽物、まがい物扱いをされていたんですよね――」

「あぁ……」

 直哉の脳裏に、東京にいた頃の初春に向けられる悪口雑言の数々が思い出された。

 俺達と一緒にいることで、初春の力を正当に評価する人間は誰もいなかった。自分達の金魚の糞で、大した力もないのに成り上がった気になっている卑怯者だと。

「で、でも――私にとっては神子柴くんは、偽物なんかじゃないんです――神子柴くんの代わりなんかいなくて……あ、あの……」

 こうして人に自分の気持ちを吐露することも、雪菜の生涯でまだほとんどない事態だから恥ずかしさに押しつぶされそうになる。

 小笠原くんは確かに素敵な人だ。

 だけど……

 それでも私は――この気持ちを偽物やまがい物で終わりたくない。

 ちゃんと神子柴くんのことを、最後まで……

「――そっか」

 直哉はもういっぱいいっぱいになった雪菜を見て、助け船を出すように頷いた。

「いいね、そういうの――そうやって脇目も振らずに誰かのことを信じられる恋って」

「あ、あの――で、でも私、小笠原くんのことも神子柴くんの代わりとかで見たくないんです」

「――分かってるよ。柳さんはそんな娘じゃないもんな」

 直哉は力なく笑みを浮かべたが。

 内心で酷く惨めな思いに苛まれていた。

 ――自分がここまで情けない男だとは思わなかった。

 結衣への想いは今でも強く心に残っているのに、不意に初春への劣等感や、雪菜の優しさで自分の心すら見失いそうになる。

 何なんだよこれは――俺はこんなことでここまで駄目になるような男だったのか。

 それに比べてハルは――あいつは他の女にも目もくれずにユイだけを想えているのか。

 こんなの――負けて当然だよな……



 水着しか着ていない紅葉の体はまるでクッションのように柔らかく。

 初春の腹に紅葉の生の肌が所々密着して。

 それは結衣に抱きしめられた時の高揚とはまた別の感覚で。

初春の前身の毛穴が泡立つような感覚を覚えた。

同じ女でもこんなに感触が違うのかということが、初春を驚かせる。

 夏の太陽に照らされた紅葉の肌が、水滴を纏ってキラキラと輝いている。

「神子柴くん……」

 自分の顔と30センチも離れていない距離で、紅葉はそっと目を閉じて見せた。

 もう初春に全てを任せる――もう、どうにでもなっちゃえ……

 そんな意思表示を的確に初春に伝える行動。

「……」

 初春は自分の股間に溜まる衝動を抑えることが難しくなる。

 ど、どうすればいいんだ、こんな時は……

 紅葉の感触や、甘く香る化粧品の香り。

 その全てに自分の本能的なところが揺さぶられるのを感じる。

 これは――そうだ。葉月先生の家で薄着でいつも無防備な恰好や表情をする葉月先生を見ていた時の気持ち……

 それが一層強くなった感じだ。

 そういう時、俺はいつも……

「……」

 そう思った時。

 ゴンッ、という音が目を閉じた紅葉の耳に届く。

 不審に思って目を開けると。

 目の前の初春が、右手で拳を作って自分の眉間に打ち込んでいるのだった。

「み、神子柴くん……」

「あ、秋葉――ちょっと離れてくれ……」

 初春は小さな声でそう言って、密着する体を引きはがす。

「はあ、はあ……」

 小さな息遣いで深呼吸を繰り返す初春。

「……」

 額から血が流れている。どうやら相当強く自分に打ち込んだらしかった。

「み、神子柴くん、潮が染みるでしょう? 一体どうして……」

「――大したことじゃないよ」

 初春は額を抑えて紅葉から視線を隠した。

「――私じゃ、結衣さんの代わりにはならない?」

「……」

「それとも――私のことは――嫌い、なのかな……結衣ちゃん以外の人間は」

「そんなんじゃないって」

「なら、どうしてか教えて……」

「……」

「私、神子柴くんの言葉で、知りたい……」

 自分は雪菜のように思いを推し量ることができない。

 だから初春の言葉を、しっかりと自分で聞きたい……

「――つい流されそうになったから」

 初春は額を抑えて紅葉から視線を隠した。

「俺はしんどい時とか、自分に都合の悪い時とか――すぐに自分の思想を捨てる癖がついてるんだ。そうして周りの状況に流されるのが俺の処世術だったからな」

「あ……」

 紅葉の脳裏に、初めて紫龍や音々を見た夜のことが浮かんだ。

 あの時も紫龍さんが言っていた。神子柴くんには悪党の才能などない――ただ単に思想を捨てて、人を傷つける罪悪感から目を背けているだけだと。

「水は方円の器に随う――そういう生き方が一番俺にとって正しくて、一番綺麗な生き方だと思っていたんだ。けど――決してそれだけで決めてはいけないことがあるって、最近少し思うようになっている――それが何なのかはまだ俺の中で上手く言葉に出来てないけど」

「……」

 結衣があの家で初春と一夜を共にすることになったあの日もそうだった。

 初春は玄関で手を縛り、固い地べたに座って自分を戒めた。

 そうでないと魔が差しそうだと思った。

 でもそれは、単に欲望に流されるということだけじゃなく……

 俺は何も感じぬままに結衣に酷いことをできてしまうのではないのか。

 俺は思想を捨てれば人の顔面に鉄パイプをフルスイングできてしまうような男だから。

 だから――結衣の傷心に付け込んでしまうことも、心にもない優しい言葉で結衣を惑わすことも。

――それこそ襲ってしまうこともできてしまうような気がした。

 それは紅葉に対してもそうだ。

 俺はここで思想を捨ててしまえば、紅葉にキスをしてしまうことも大した思い入れもなくできてしまうような気がする……

「でも――もうそれだけじゃ駄目なんだと思う。実際そのせいで俺は音々やお前達に何度も世話をかけちまったし――俺にはまだ背負いきれないものが沢山あるからな……」

 そう、結衣達が来る前――紅葉達に音々達のことを知られる事態になった時から。

 初春は自分の未熟さと生き方の限界を見て、もがいていた。

 人間嫌いの自分が紅葉達の善意に触れて、懊悩が増えていた。

「はぁ……秋葉。さっき農場で言いかけたことなんだが……」

 初春はそれを言いかけて後ろを向いた。人間嫌いの自分のらしくなさに変に気恥ずかしくて、目線を隠すだけでは不足なくらいに思えた。

「俺は――まだ上手くやれる確信はないけど――お前や柳や葉月先生のことを、もっと気を付ける――ちゃんと自分なりに考えるよ。もう都合のいい記憶を消すようなこともしないし、お前達の前で思想を捨てるようなことはなるべくしないようにする……ちゃんと向き合うことにするよ……」

「……」

 これは人間嫌いを高らかに公言している初春にとっては酷く敗北感のある言葉であった。

 それは紅葉にもわかる。今までの初春からは想像もできないくらい、声に余裕がなかった。いつもは思想も乏しいからか、のんびりとした口調に、初めて初春の心がこもっているように紅葉には思えた。

「それって――ちょっとは意識してくれてる、って、こと?」

「……」

 初春は沈黙したが。

「それより――一度帰って着替えねぇと野球の練習に行けねぇよ。もう出よう」

 初春は言葉に詰まってそう言って岩場に上がっていく。初春の履いていたジーンズが水にどっぷりつかってずっしり重くなっていた。

「秋葉も、午後に集合だから早めに上がれよ」

 そう言い残して、ジーンズをべちゃべちゃ言わせながら初春は岩場の向こうに行ってしまう。

「ちょ、ちょっと! さっきちゃんと向き合ってくれるって言ったばかりなのに!」

 紅葉は水辺から初春の背中にそう声をかけたが。

 本当は――心の奥が震えていた。

 やっと自分と初春の距離が、初めて少し近づけたような気がしたから。

「……」

 その紅葉の声を背中で聞きながら。

 初春は人間嫌いにあるまじき敗北に歯噛みをしながら。

 まだ懊悩していた。

 もう紅葉達を前に、思想を捨てたような行動で怖い思いをさせたくないという思いは間違いのないものなのだが。

 俺がこの思想を捨てる癖は、簡単には治らないことも分かっているんだ。

 俺がこの癖を封印したら、並以下の力しかない。

 だから俺は、ナオのようにはいかないのだから。



 神庭町の河川敷のグラウンドには、御伽士狼が農協の車に一通りの野球道具を乗せてもうベンチに全て荷下ろしを終えているところであった。

 農協の土手の向こうに隣町に続く国道が見え、その細い道をまたいでずっとだだっ広い田園が広がる、緑だらけのじゅうたんのようで、水平線の向こうまで緑が続いていた。川の前には背の低い網が野球のボールが川に入らないように張り巡らされている。外野も定位置あたりは草はないが、頭を超えるあたりはもう夏草がうっそうと茂っていて、初春の腰くらいの高さになるような草もある。

 バックネットの裏の土手の道も、さっきまで野球をやっていた小学生チームが、父兄の車で各々自分の家に帰ろうとしているところであった。

 一度家に帰り、潮を落とすためにシャワーを浴び、濡れた服を洗濯機にかけた初春が、紫龍と共に最後の到着となった。

「悪い、遅れちまった」

 河川敷のグラウンドには日陰もなく、炎天下の日光が容赦なく降り注ぐ。

「……」

 そんな初春に、結衣、紅葉、雪菜の視線が注がれる。

「――あれ? 柳、何か少し雰囲気変わったか?」

 直哉の買った服はさすがに着替えて、学校のジャージを着てきた雪菜であったが、化粧は落とさず、雪の結晶の衣装のヘアピンで降ろしていた前髪を上げている雪菜の変化に気付いた。

「あ、あの……」

「へぇ、そっちの方がいいじゃん。ナオに見立ててもらったのか?」

「は、はい……」

 雪菜は恥ずかしそうに頷く。

 分かってはいるけれど、神子柴くんは私が他の男の人と一緒にいても、別に嫉妬したりはしないか……

 でも。

 小笠原くんの言ったとおり、神子柴くんに自分の変化を気付いてもらえることが、こんなに嬉しいなんて知らなかった……

「……」

 しかし雪菜がそんな小さな幸せを噛みしめている頃。

 初春の視線はその隣でどんより浮かない顔をしている直哉に向く。

 ――何かあったのかな。柳のことだから喧嘩ってことはないだろうけど。

「そちらの方が神子柴さんの言っていた戦力ですね」

 御伽が前に出て、紫龍の方を見る。初めてスーツ以外の服を見たが、農協の丈夫な作業着が細身の色白の御伽は全く似合っていない。

「小笠原さんと日下部さんとは先程挨拶をさせていただきました。御伽士狼です。お見知り置きを」

 紫龍はこの暑いのに袈裟を着ているのも普通ならドン引きそうなものだが、元々夏場にスーツをジャケット付きで着る御伽も大概だからか、特に突っ込みもしなかった。

「紫龍だ」

 紫龍も御伽の差し出した手を社交辞令的に握る。

「しかしまだ8人ですか……明日神庭町から参加者を募りますが、ぶっつけ本番になりそうですね」

 そう、ここにいるのは初春、紫龍、直哉、結衣、紅葉、雪菜、夏帆、御伽の8人。

 試合をするにはあと一人足りないのである。

「それについてなんだが、俺から一つ提案があるんだ」

 初春はそう言って手を上げる。

「はっきり言って時間がない。ここで各々の意見交換に時間をかけるのも勿体ない――そこでだ、俺はこの中で唯一ここにいる全員の特徴を把握している。だから俺が勝手ながらもう打順とポジションは決めちまったんだ。それをまずは見て、それから微調整をする形で行きたいと思うんだが」

 初春の提案に皆は顔を見合わせる。

「私はその方が早くていいと思うな。どうせ私も得意なポジションと言われても分からないしね」

 最初に賛成の意思を示したのは夏帆だった。

「――そのポジションって言うのは?」

「うん、これだ」

 そう言って初春はポケットから紙を取り出して皆に見せた。


一番キャッチャー初春

二番セカンド結衣

三番ショート直哉

四番サード紫龍

五番ファースト御伽

六番センター

七番レフト紅葉

八番ライト夏帆

九番ピッチャー雪菜


「え? セツナがピッチャーなの?」

 全員がどよめきと共に雪菜を見る。

「実は昨日柳だけにはポジションを伝えてあったんだ。いきなりの指名じゃ気の毒だったし」

 そう、昨日布団のお礼をするための電話に初春が雪菜に頼んでいたのは、ピッチャーをやってほしいというお願いであった。

「心の準備、できてる?」

「そ、それは――ただ結果は保証できないんですけど」

「そのためにこの布陣なんだ。これからこの布陣にした根拠も説明するぞ」


「……」

 皆初春の立てた戦略に一様に納得した表情を見せた。

「成程――うん、面白いな」

 紫龍も頷いた。

「ハルのキャッチャーっていうのだけはちょっと勿体ない気もするけど……」

 結衣は首を傾げたが、それ以外は概ね納得していた。

「……」

 しかし直哉は複雑だった。

 すごい――ひとつの試合でそこまで考える。

 初春にこんな戦術家としての一面があることも、直哉は知らなかった。普段こういう時に一度も初春は発言をすることがなかったから。

「でも、問題はセンターね。ここを明日誰かに頼むことになるのね」

「あぁ、このポジションはすごく重要なんだ。本当にここに強力な人材が欲しいんだけど……」

 初春も紙を見ながら頭を掻きむしった。

「このセンターが上手くはまれば、大敗はなくなるはずなんだけど……」

 そう言いかけた時。

 大きなエンジン音が急に近くで停止する音が聞こえた。

 初春が音のした方向を振り向くと。

 土手の方に大きなキャンピングカーが一台止まり、そこから小さな子供と男女が3人で土手の階段を降り、こちらの方に歩いてくるのであった。

「あ、あの子」

 不意に夏帆と結衣が同時に声を上げる。

「やっぱりさっきのお姉さん達ですね」

 午前中に工房で二人が出会った、あの非常にしっかりした口調で話す幼児が男女に先駆けて駆け足でやってきた。

「すみません、車から姿が見えたものだから、つい」

 女性は隣にいた男性に付き添って、幼児から遅れて降りてくる。

 その美しい女性の姿に、初見の者は思わず息を呑んだが。

「……」

 夏帆と結衣はその隣にいる男性の姿に目を奪われた。

 その男性はステッキをついていて、足が不自由なようだったが、実際の年齢がよくわからないような童顔で、まるで女性のような優しい顔立ちをしていたが、凛とした切れ長の目が涼やかで男性的な逞しさも備える、不思議な光をたたえた瞳をしていた。

 体つきも初春に劣らぬ痩身だが、無駄な肉がついておらず、ジーンズとポロシャツの袖からは初春以上に鍛え上げられた、それでいて太過ぎない綺麗な肉体が見え隠れしていた。

「そちらの方が旦那さんなんですね」

 工房での話で気になっていた夏帆は、女性に訊いた。

「えぇ、まあ……」

 まるで恋をしたばかりのカップルのように、女性は照れ臭そうにはにかんだ。

「さっき車の中で二人に聞きました。木工芸品を作っていらっしゃったと」

 男性の声は非常によく通るが、声を張り上げているわけではなく、非常に落ち着いた優しい響きの声だった。

「ところで皆さんは、あの野球大会に出るんですか?」

「ええ」

 言い出しっぺの初春が返事をする。

「しかし見たところ人数が足りないようですが、もう一人これから来るのですか?」

「いえ、まだ決まってないんですよ。明日の当日スカウトの予定なんですが……」

 言いながら初春はその男性の体つきをじっと観察していた。

 そしてそれと同時に直哉と紫龍も悟っていた。

 この目の前の男、只者ではない……

「この流れだと僕が力を貸してあげたいけれど――生憎この通り、僕は足がまともに動かなくてね。野球をしても足手まといだろうね」

 助っ人を期待する空気を察したのか、男性ははにかみながらそうやんわり断った。

「しかし、君達の助けになる男を一人紹介はできるけど、どうかな」

「え? 本当ですか?」

「あぁ、攻撃力はからきしだが、守備に関しては一流なことは保証できる」

 それは初春にとっては願ってもないタイプの戦力である。

「ただしふたつ条件がある」

 男性は皆を前にVサインしてみせる。

「一つは、これから紹介する男はカメラマンなんだ。だから試合の合間にも野球の試合を撮影ばかりしているかもしれない。それを承知の上で受けてほしいということ。もう一つは……この二人を明日君達のベンチに入れてやってほしいんだ」

 そう言って、男性は女性と幼児の方を指差した。

「それくらいなら……」

「うん、いいんじゃないかな」

 皆その男性の妙に甘い雰囲気も手伝って、割と簡単にOKを出した。条件も大したことはないし、下手な人材を見つけるよりもここで手を打てる方が戦術的にもいいことは皆分かっていた。

「そうか、ありがとう」

 嬉しそうに微笑んだ男性は携帯電話を取り出して通話を始めた。

「もしもし、僕だ。今から車のある場所へ来てほしいんだ――うん」

 会話もそこそこに男性は電話を切る。

「しかしそれでも9人か……試合は明日だと言ってたね」

 男性が初春達8人をそれぞれ一瞥した。

「はい、これから一夜漬けの練習です」

「ふむ」

 男性はそれを聞いて、顎に自分の右親指を当てる仕草をしたが。

「人数ギリギリじゃ練習も非効率だろう。練習だけでよければ僕がノックくらい打ってあげようか」


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