夢中になっちゃうので
紅葉からの連絡を受け、夏帆が初春の家の裏山を登ってきた時には、夏の日がオレンジ色になりかけてはいたものの、裏山の草原地帯はまだかなり明るい夕刻だった。
初春は皆から少し離れて火車の息子と対峙し、体をほぐしている。
そんな中、山道を登って夏帆がやってきた。
「あ、夏帆ちゃん――急いで来たの?」
「連絡を貰ったからね――ハルくんの鍛錬にも興味あるし」
紅葉達も、紫龍達と行っている初春の鍛錬を見るのは初めてである。
3人は倉庫に拉致された時に初春が『あの力』を使ってアヤカシと戦ったのを見ている。
それがなくても初春は何の力も使わずに、学校の剣道部の主将に防具なしで勝つという腕前を見せている。
その秘密に興味があったのだった。
「って――物凄いカッコいい子がいるわね」
直哉の姿を見て、夏帆は苦笑いを浮かべる。
「――小笠原直哉です。ユイから聞きました。ハルを高校に行かせようとしているって……」
「はは――と言ってもハルくんはあまり乗り気じゃないんだけどね」
「そ、そうなの?」
紅葉もその件に関しては触りしか聞いていなかった。
「しかしあなた――結衣さんと並ぶとすごく映えるわね……」
夏帆は並んで立つ直哉と結衣の姿を、指でフレームを作って枠に納める仕草をする。
「……」
雪菜も頷いていた。
初めてこの二人が並んで立つのを見た時、まるで無数のパズルのピースがぴったり一致した時のような感覚を覚えた。
『運命』なんて陳腐な言葉を信じてしまいたくなるほど、このふたりは一緒にいることが宿命付けられているようにお似合いなのだ。
初春と結衣のふたりも、非常に気の置けない関係というのは伝わったけれど、直哉と結衣の並びは実に華がある。
その場の空気を変えてしまうような穏やかな空気が二人にはあった。
「そういえば、音々ちゃんは普段、ハルくんの鍛錬にも付き添っているの?」
「いえ――ハル様は鍛錬になると、何て言うか……夢中になっちゃうので」
「夢中?」
「さて、はじめようか」
音々達の傍らに立っている紫龍の声がした。
「今回は火車とお前で、より実戦的な追いかけっこをやってもらう。火車は空を飛ぶのは禁止じゃが、小僧への攻撃を認める。小僧はその攻撃をかいくぐって火車に近付き攻撃を仕掛ける」
紫龍はそう言って錫杖の先を初春の右手に向けると、初春の手が赤く小さく光った。
「それで触れば彼岸のものに手形がつく。その手形を火車の体のいずれかにつければお前の勝ち、火車が逃げおおせるか、お前が火車の攻撃を食らえば火車の勝ちじゃ」
「要するに、避けて逃げきるだけでも俺の負けってことね……」
初春は自分に厳しい条件に苦笑いをした。
「そ、それって神子柴くん――大丈夫なの? あんな体大きな馬相手に」
「――ハルにとって勝ち負けは大した問題じゃない」
直哉はそう呟いた。
「え?」
「ユキクモ」
初春がそう呟くと、初春の首に下げていた短剣型のネックレスが初春の背丈ほどもある太刀に変わる。
「し、真剣?」
さすがに直哉もこれには驚いた。
「あぁ――行雲に関しては秋葉達にも説明がまだだったな。こいつは基本この太刀の姿なんだが、飛び道具にできないとか制約もいくつかあるが、短時間なら俺の意思で色んな道具に変化させられるんだ。」
「それって――あの時のグライダーも……」
「あと――俺の力はこれ」
そう言って初春は、右手に『波濤』を展開し、左手を直哉の眉間に向けて開き、風を起こす。直哉のさらさらの髪が風で揺れ、耳が風を受ける音が聞こえる程度の風が直哉に届いた。
「は、ハル――それって……」
まるで手品を見ているように、結衣は目を丸くする。
「その音々の使いになったことで使えるようになった、そいつの力のおこぼれだ。水と風を多少操れるんだ」
「……」
音々達、神様や妖怪と言われる人を紹介され、初春はその神様の使いになり、おかしな力を持ち――
直哉も結衣もいきなりの幼馴染の超展開じみた話に思考のエアポケットにでも入ったような、ふわふわした気分になった。
だが、完全に理解の追いついていない思考でも、直哉は気付いていた。
「――いくらアイテムがあっても、あんな水と風であんなでかい馬の動きを止めるなんて、それでもハルに分が悪いぞ。飛び道具がないんじゃ距離を詰めたり、足を止めるだけでも難しい……」
「見ていれば分かるさ。少なくとも紫龍殿は坊やのぼろ負けする勝負をあんた達に見せるなんてしないだろうし」
「制限時間は、行雲の限界時間の五分、その後五分の休憩――それを三度繰り返す。では、はじめ!」
紫龍の合図と共に初春と火車の息子は同時に斜め横に向かって走る。
「一応結界を張るが、多少の砂埃くらいは我慢せい。怪我したくなかったら儂の後ろから絶対出るなよ」
紫龍はそう言って、音々達ギャラリーの前に防御結界を張った。
火車の息子は鬣を震わせて、鬣を青白く光らせると、そこに直径5センチほどの火球が火車の息子の体の回りに20個ほど出来る。
「紫炎」
火車の息子はそれを初春に向けていくつか投擲する。
だがそのコントロール精度は悪く、いくつかはあさっての方向――そのひとつは音々達の方へ飛んでくる。
「わあっ!」
紅葉が声を出したのと同時に、紫龍は愛刀『白虎』を出し、横薙ぎ一閃で炎をかき消した。
「力加減が出来るようになったとは言え、命中精度がいまいちじゃな」
これはまだ子供である火車の息子の鍛錬も兼ねているのである。最近の初春の鍛錬は、同じ子供同士ということで、火車と共同で行うものが多い。
どぉん、という大きな音に一同肝を潰す。
地面に命中した火車の炎が付近の丈夫な夏草や土中深くまで根を伸ばす蒲公英ごと土を吹き飛ばしたのである。
「そ、そうだ、神子柴くんは?」
紅葉達が初春の方を見た時。
「水零」
初春は左手に持つ刀に『波濤』と同じく回転する水流を集めて剣先を火車の息子の方向へと突き出し、前方に来る炎を切り払うというよりは、水流で叩き落すようにして火車との距離を詰めていく。
炎は地面に叩きつけられると、どぉん、と小さく破裂音を出して土を掘り返す程度の爆発を起こす。
火車の息子は炎を生み出し投擲することを、走りながら同時に行うことはまだできない。炎を投げたが、それをいなして距離を詰めに来る初春との距離を取りにいく。
だが行き着く間もなく初春は行雲をお得意のワイヤーロープを携帯した腕輪に変化させ、近くの木にアンカーを射出し、巻き取りの力で一気に距離を詰めにいく。
だが火車の息子もこの移動による弱点を心得ている。直線距離から外れてアンカーを撃ちつけられない開けた場所に移動し始める。
だがそれでも方向転換を余儀なくしたため、必要以上に初春と火車の息子の距離は開かなかった。初春は腕輪を消して引っ張られる力を消すが、慣性の法則で勢いのついた動きを地面に足を踏ん張ってブレーキをかける。制動距離を取ったものの着地に成功。
初春と火車の息子は再び正面で対峙する。
「は、速過ぎてよく分からなかった……」
ただこれだけの攻防でも、初めて見る直哉達は度肝を抜かれていた。
あの馬の投擲した炎の威力は、人間の四肢をちぎる程度の威力はあった。
それを冷静に撃ち落とし、その後のワイヤーでのジェットコースター以上の加速と不安定な操作を淡々と行った初春の度胸に。
足の速さも体の強さも、初春と火車の息子では格段の差があるが、初春は確かに何かでその差を埋め、火車の息子に食らいついている。
「あのワイヤーでの動き――まるでサーカスの空中ブランコだ。あんなのをハルが使いこなすなんて」
「二ヶ月前はあれで擦り傷だらけになっていた。体で覚えこんだのじゃよ」
「あ」
不意に雪菜は、図書館で擦り傷だらけになった初春を見た時のことを思い出す。
「さて、ここからが見ものじゃな。火車には飛び道具があるから小僧を遠ざけることも、移動を制限することもできるが、小僧にはほとんど飛び道具がない――脚力に圧倒的な差がある以上、小僧は火車の移動を制限しなければ勝ち目はないがな」
その紫龍の解説を聞いて、音々達は初春を見る。
「……」
まるで感情の読めないような目で、目の前の火車の息子の一挙手一投足を全て凝視、観察するような目――
だがその口元は小さく薄笑みさえ浮かべていた。
「笑ってる……」
紅葉達はほとんど見たことのない初春の笑みに驚く。
「――な、何でこの状況で笑えるの? さっきの爆発――もし当たったら大怪我するかもしれないのに……」
「さあ、何故かな」
紫龍がそんな問題提議を投げかけた時。
初春は左手に持っていた行雲を地面に突き立て、右手に青い光を生み出した。
「大河の一滴」
初春はそう言って、青い光を帯びた右手で地面を殴るように振り下ろした。
水位3cmほどの水が初春を端にして前方に直径5mほどの円となって広がり、その水はまるで器に入っているように端がぴたりと固定され、こぼれることがない。
その水は火車の息子の足元にまで届き、火車の息子の蹄を濡らした。
そして初春はその水の円に入っているのだが、初春の足元は斥力が働いているかのように水が初春の足元を避けていて、初春の足元は少しも濡れていない。
「これは……」
初めて見る水の使い方に、初春の意図を皆予想する。
対峙する火車の息子はこの時思った。
この水に、何か仕掛けがあるのか、と。
まずはこの水の外に出ようと火車は踵を返そうとする。
だが。
その前に初春が前に動き出すと、それに合わせて水が火車の前にせり出してくる。
「そうか、あれは……」
直哉が紫龍よりも早く初春の意図に達する。
「くっ」
火車の息子は何とか水の外に出ようと走ろうとするが。
濡れた足が重く、蹄は泥に取られて踏ん張りが効かず、また滑って強く地面を蹴ることができない。
水に足を取られ、競走馬よりも早く走れる火車の息子の脚力は大きく減退する。
それに対して初春は自分が動くたびに水が進行方向に進むが、自分の両足はそれぞれ直径50cmほどの円形に水が中抜きされ、移動に水の制限を受けていない。
初春は水の円の中にいながら、水の影響がなく走れるのである。
「考えたね。水の抵抗で火車の足を封じたのかい」
「じゃがあれでもまだ脚力は火車の方が上じゃ。まして走れば当然先に小僧が体力の限界を起こす――これだけでもまだ勝てんぞ」
紫龍の言うとおり、確かに火車のスピードはほぼ半減――足の速い人間の走るくらいのスピードにまで落ちたのだが。
初春もそれほど足が速いというわけではない。一般の高校生と比べれば速い、くらいのレベルでしかない。
「さて、まだ勝負は分からん――あと三分で火車を追い詰められるかな」
初春はワイヤーを携帯した腕輪を両手に装着したまま火車を走って追う。
追いながら水の広がる部分を移動させ、山林方向へ向く道をとは逆の進路に水の中心部分を移動させ、火車の息子を水の外に行きやすいように誘い出す。
だが火車の息子もその狙いは分かっている。山林の方向に出た瞬間にワイヤーを射出して一気に距離を詰めてくるのが分かっていたので、警戒して絶対に山林の方へは近付かず、水の中心部に入ってでも開けたポジションをとることにした。
「火車の息子は長期戦の構えか。まあこのまま水の中にいても坊やは追いつけないからね」
「あぁ、それにあの水をこぼれさせずに維持し、自分の動きに合わせてついてくるように動かすだけでも相当の集中が必要じゃぞ。あれを小僧は長時間は使えないであろうことも奴は分かっておる。」
「……」
音々達の方からは初春は火車を追いながらの、夕焼けに照らされた横顔くらいしか見えなかったが。
初春の目は相変わらず静かに火車の息子の動きを追いながら、口元にかすかな笑みを浮かべていた。息を急き切りながら走っているが、確かに笑っているのだ。
火車の息子は水の中心付近に来て、水の外に出るよりもワイヤーを使えない草原地帯の真ん中に位置取ることを優先する。
勿論長期戦で逃げ切ることも考えたが。
初春は放置しておくと何をするか分からない。
鬼ごっこをしていた時から何度もしてやられた経験が火車の息子をいやがおうにも警戒させた。
だから時間を待つのではなく、ここでとどめを刺してやる。
その行動にも根拠はある。
初春のこのやり方で動きを封じる戦法には明らかな弱点があることを、火車の息子は見抜いていた。
それは。
追ってくる初春を牽制しようと、余裕のある距離から鬣を震わせてまた炎を生み出す。
今度は牽制ではない。先程よりも火球の数を増やしている。
「そうか! 足元の水を出している限り、坊やは遠距離攻撃の間合いから離れられない! 近過ぎて避けるのも難しいし、防ぐ術も行雲しかない! 複数の攻撃を防ぎきれない!」
「ああ、これを防ぐには水を一度自分に集めて防御するしかないが――いずれにせよここで足元の水を解いたらもう火車は水の射程内には近付かん――小僧の負けじゃ」
火車の息子の出した火球は50ほどの数になって火車の息子の体の周りに漂い始める。
「しえ……」
火車の息子がそれを初春に向けて一斉に発射しようとした時。
「間欠泉」
初春はそう呟いて右手の指をぱちんと鳴らす。
その瞬間、初春の展開している円形の水が空に向かって激しく吹き上がる。
「うっ!」
その勢いのある水流を体に受ける火車も多少はびっくりしたが、初春の水を動かす力は弱い。その水の勢いのダメージはゼロに等しかった。
しかし火車がそのダメージのなさを悟った時には。
火車の周りにある火球が全て吹き上がった水を浴び、水を蒸発させ、水蒸気を巻き起こらせていた。
火球のいくつかは水の吹き上がる力が弱かったため消えはしなかったが、大量に発生した水蒸気は火車の四方の視界を完全に塞いだ。前方にいた初春も影すら見えない。
「く――神子柴殿は?」
視界を塞がれても火車の息子は瘴気を読み取れる妖怪である。
鬣に小さな炎を起こし、初春の瘴気を察知する。
初春の気配は先ほどと同じく、自分の前方約4m程度の場所にいる。
だが。
その場所から一歩も動いていないのである。
何故?
そう火車の息子が考え、次の対応を考えたほんの一瞬の迷い。
そこで勝負がついた。
次の瞬間、火車の息子は四肢に無数の触手を絡みつかされ、それらが絡みついた瞬間に鉄の硬度に強度を変え、足を動かすことも出来ないままそこに拘束された。
水蒸気が晴れた時、火車の息子の目の前にいた初春は、何鞭も伸びた鞭を持ったまま、ゆっくりと火車に近付き。
「ほい、俺の勝ち」
火車の息子の鬣を撫でるようにタッチしたのだった。
火車の息子の鬣に、初春の手形が付く。
「勝負あり」
紫龍が手を上げた。
「ふーっ……」
その声を聞くと、初春は火車の息子を拘束していた鞭をアクセサリーに戻し、その場に座り込んだ。
「しんど……」
今までの何も考えていないような視線はどこへやら、初春は一気に表情が弛緩して、苦笑いのような表情になった。
「大河の一滴か――たったあれだけの水で火車の動きをあれだけ制限するとは、考えたな」
紫龍が二人の間に割って入り、総括する。
「お前、水蒸気に覆われて俺の方から見ても姿が見えないと思っていたようだけど、水蒸気の中でもお前の炎の明かりはよく見えてたぜ。場所が分かって足を止めさせれば、行雲のイメージだけでいいから簡単だった」
火車の息子に向かって笑顔を見せる初春。
「あんな水溜りであれだけ相手の動きを封じるとは」
「今は大したことはないけど、水位が10cmに達すればかなり決定力のある足止めになると思うんだよね」
通常自動車はタイヤの直径の4分の1が水没したらタイヤが滑って進行もブレーキも、まともな制御がほぼ不可能になると言われている。
車体の低い車の場合、タイヤの直径の3分の1の水没で車体が水の浮力の影響を受けて浮き上がり、タイヤがきちんと接地せずに走行不能になる車も出始め、半分が水没したら、マフラーが水没してエンジンの起動もできなくなると言われている。
勿論二輪のバイクや自転車などは、自動車以上に水位の影響を受けやすい。
当然馬の姿をした火車も影響は受ける。競馬で馬場状態は大きな影響を及ぼすのと同じ。
特にこんな山道の粘土状の土の上、3cmの水位があればそれはもう競馬の馬場状態『不良』なんてものじゃない。泥に足を取られて体重がある火車は足が深くめり込む。むしろ通常の初春と同じ速度で走れただけでも、奴の脚力の強さを物語っている。
これが単純にアスファルトの上でも人間が相手なら水がくるぶしあたりまで浸かっているだけでも地面を蹴る推進力はかなり損なわれる。接地面が滑って力は伝わりにくいし、靴を履いていれば靴が水を吸って重くなるから走るのに余計な体力をどんどん消費させられる。
それでいて初春は風の力で自分の周りの水を撥水して、通常の地面を行く状態で走ることができる――この条件下で人間との追いかけっこなら、ウサイン=ボルト相手でも初春が勝つだろう。
「はあ、はあ……」
しかし初春は勝ったとは思えないほど大きく消耗している。座り込んだまま、立つこともままならないほど疲れているようだった。
「随分消耗しておるの」
「――直径5m、高さ3cmの円柱の容量は588.75ℓ――風呂桶3杯分の水を使ってるんだぞ。今の俺の力じゃあれを維持するのはかなりきつい――直径10m、高さ10cmで『大河の一滴』を使うには7850ℓ――この10倍以上の水が必要か――果てしねぇ……」
呆れたような苦笑いを浮かべる初春。
「な、何であんな笑ってるの? 一歩間違えたらあの炎で殺されていたかもしれないのに」
初春があんな風に笑っている姿なんて、この町で紅葉達は見たことがなかった。
まるで子供のような笑顔で。
「……」
だが、15年一緒にいた直哉と結衣は、初春のその笑顔を思い出していた。
「――いつの頃から、ハルはあんな顔をするようになったんだ」
「え?」
「ああして今の自分では到底できない高い壁を前にすると、困ったような苦笑いを浮かべるんだ――そうしてあんな風に夢中になってそれを追いかける……」
「――どうやら言いたいことの少しは伝わったようじゃな」
そう言って紫龍は初春の方を向いた。
「火車。おぬしは小僧を乗せて先に家に戻っていろ。どうせその小僧、水の使い過ぎでしばらく立ち上がれん。先に休んでいろ」
「あぁ――そうさせてもらおうかな――」
「その前に小僧。行雲を置いて行け」
「……」
初春はその意図をあまり考えずに紫龍に太刀の状態での行雲を渡す。
暫定的に初春が持ってはいても、本来この刀の持ち主は紫龍だという考えがあったからである。
火車の息子が初春を背に乗せ、空を駆けていく。
その様を結衣はぽかんとして見つめていたが。
「さて――さっきの勝負、お主にはどう見えた?」
紫龍は抜き身の行雲を右手に下げたまま、直哉にそんな問いを投げた。
「あの小僧が火車を捕まえた戦法――作戦勝ちと取ることも出来ようが、能力と道具の性能だけで勝ったという見方も出来るじゃろう。評価は一定ではあるまい」
理系の方にはお目汚しでしょうが、円柱の器に入る水の量の求め方解説。
円柱の体積の公式は半径(cm)×半径(cm)×π×高さ(cm)
そして水は10(cm)の3乗=1立方cmが1ℓ。
つまりこの場合容積をℓ単位で求めたい場合は体積を1,000で割ればいいということですね。
作中で初春が展開した、直径5m、水位3cmの円に入る水の容量は
250×250×3.14×3÷1,000=588.75ℓになるわけですね。
就職活動のSPIなんかで器に入った水の量を求める問題とか結構見ましたが
読者様がこの作品で覚えた、ということがあれば嬉しいですね。




