されど、空の深さを知る(7)
『え……俺とお前で?』
戸惑ったような声を出す直哉。
「――何だよ、決着を付けられなくて未練が残っていたのは俺だけか? これにすぐ乗れないんじゃ、お前、よっぽど心身弱っているな」
初春は軽く鼻で笑うような吐息を漏らす。
「ユイを賭けての勝負――お前の大好きな『激アツ』の勝負で、お前を目覚めさせてやる――その協力くらいはしてやろうって言っているんだよ。俺じゃお前を熱くするには役不足だが、ユイがかかっていれば少しは燃えるだろう?」
『お前……』
「ユイが心配なら、本気でユイを攫いに来いよ。さっさとユイを守れる男に立ち直って、俺を踏み越えるんだな」
『お、お前はそれでいいのかよ』
戸惑ったような直哉の声。
『お前だってユイのことは好きなんだろう? だったら俺のことなんて放っておいて、あいつをものにしちまえば……』
「そう出来ればそうしたかも知れん――だが俺は、もうユイの側にはいられないから」
初春の目はふっと光を失う。
「俺はもうお前に勝とうが負けようが、ユイの側にはいられない――だから俺はユイを賭けてじゃ、お前との神経勝負が成立しないから身を引いたんだが――だが、お前を立ち直らせるためだったら、真剣勝負が成立しそうだからな」
『え……』
「俺がユイを好きかどうかなんて、俺があいつを守れない以上瑣末な問題だ。それよりもユイが東京で笑って暮らせることの方が今の俺にとって重要な問題だ。そのためには、ユイを守れるお前にそうして腑抜けてもらってちゃ困るんだよ。だから俺がお前を立ち直らせてやる――それが惚れた女にできる、俺の精一杯のところなんだよ」
「……」
初春の言葉は直哉に向けられた言葉だったが。
それを傍で聞いていた結衣の耳にもはっきりと届いていた。
「それに――お前は人間の中で唯一俺にフェアに接してくれた。中学で神高の推薦を譲られた借りもある。俺は今になって、お前が何で俺に推薦を譲ってくれたのか、少し分かる気がするんだ。それについては、高校に行けなくなった今でも感謝している」
そう、この町に来て自分の思想のなさ、生きるための夢を持たないことを痛感して、初春は中学でふたりが推薦を自分に譲った理由が分かるようになったのである。
「ユイを泣かせないためにはお前に立ち直ってもらわなきゃ困るってのが一番だが――お前は一度俺にフェアな勝負を望んだ。だから俺も、弱っているユイに手を出すことはしないさ。お前が諦めない限りはな。それが親友に対する、俺の義だ」
『……』
直哉はしばし黙り込む。
「どうした?」
『いや……」
直哉は言葉を詰まらせる。
その久々に聞く初春の声は、静かだが実に雄々しく一本気が通っている。
声すら張りを失う自分とはまるで対照的だ。
昔はおどおどして弱かった初春が、また一つ大きくなったのがその声だけで分かった。
「ま、言いたいのはそれだけだ。突然のことで戸惑うのも分かるが――俺からユイを攫う気があるなら神庭町に来いよ。お互いユイに対してつけなきゃいけないけじめがある身だしな」
その初春の声は、スランプに入った途端に自分から離れていく人間を見ていた現状の直哉には、とてもあたたかなもてなしの心に溢れているように感じられた。
その歓待の声に、不意に心が安らいだ。
「あとは自分でどうするか決めな。もう答えは出ているかも知れんがな」
そう言い残し、直哉の返事も待たないまま、初春は電話を切った。
「ふぅ……」
初春は携帯をポケットにしまって、いまだ流星の落ちている空を見上げる。
「さぁて……俺も気合を入れなきゃな……」
初春が流星の光に目を細めると。
不意に自分の着ているシャツの裾を結衣がきゅっと掴んだ。
「ユイ……」
「……」
結衣は言葉が出なかった。
ただ、表情は見えないがただならぬ空気を結衣がまとっていて。
それを見て、初春も困ったような顔をする。
「まあ――色々俺が勝手に決めちゃったのは申し訳ないけどさ。とりあえずお前が東京に帰っても安心できるように、あいつを立ち直らせてやるから」
星の光に照らされた初春の目は、実に澄み切っていた。
「俺はもう東京でお前達と同じ未来を歩くことはできん――だから攻めて――ひとつでもお前を不安にするものを取り除いてやるよ」
だが。
結衣は困ったように立ち尽くす初春の体にぎゅっとしがみついた。
「ハル……」
結衣の目は再び涙が溢れ出していた。
「ゆ、ユイ……」
ファミレスでも結衣にしがみつかれたけれど……
自分がいつも使っているシャンプーの香りも、結衣から香ると特別な香りに思えてくる。
その匂いも、体の柔らかさも、形も、温度も……
自分の体が感じる結衣の情報の全てが、初春の血を熱くさせた。
「ど、どうしたんだよ……」
戸惑う初春の声。
「……」
結衣は初春を困らせているのは分かっていたけれど。
でも、止められなかった。
色々な感情が坩堝になって、とても今の気持ちを言葉にできない……
初春の胸に押し付けた瞳から、涙が再び零れる。
俺がユイを好きかどうかなんて、俺があいつを守れない以上瑣末な問題だ。
それよりもユイが東京で笑って暮らせることの方が重要な問題だ――
そう初春が言った時。
自分の想いが初春と同じく通じ合えたことに感激した。
自分のことを好きだと言ってくれたことも、初春が自分を大切に思ってくれることも、はっきり言ってくれたのは嬉しかった。
それはまるで世界中の白い鳩が飛び立つような嬉しさを結衣に運んだが。
それと同時に、初春がもう自分と同じ未来を見てくれないことも――もう私達はこの先一緒にいることはないと、初春が思っていることも分かった。
それが怖くて、悲しくて――いっぺんに来た正と負の感情に、どうしようもなくなって。
何とか初春のことを繋ぎ止めたいと、そう、思ってしまった。
「泣くなって――安心しろよ。俺がいなくても、ナオが立ち直ればちゃんとお前を大事にしてくれる――俺にできることでナオにできないことはないことは、お前が一番よく知ってるだろ。それに――お前ならお前のために何でもしてくれるような男、いくらでも現れるって」
「ひっく……」
――いないよ……
もうハルみたいな人――東京中探しても、きっといないよ……
私達が駄目になっても、こんなに私達のことを考えて、一生懸命になってくれる……
ピンチの時にいつだって、自分のことを後回しにしても味方になってくれる……
そんな人、ハルしかいないよ……
「……」
結衣とて直哉のことが嫌というわけではない。
直哉が立ち直ってくれれば、勿論結衣も嬉しいのだ。
直哉のことも同じように結衣は好きだった。
直哉が立ち直れれば、それこそ初春の言うとおり、きっと何の問題もなく私を大切にしてくれることも分かる。
けれど――
初春は弱い人、持たざる人の悲しみを知っている。
だから誰よりも優しくて――困っている人のために一生懸命になれる。
そんな初春がそばにいる安心感は、もう他の誰にも代えられない……
今の気持ちを、上手く言葉にできなくてもどかしい……
嬉しいのに、嬉しくなくて……
悲しいのに、嬉しくて……
そんなふたつの気持ちがとめどなく溢れてくる……
いやだよ――ハル――
帰って来てよ――私のそばにいてよ……
私は――ハルとまだ大人になる未来を見たいんだよ……
「――どうやら、俺はまたお前を不安にさせたみたいだな……」
初春は頭を掻きながら、結衣のこの涙の意味を考えたが。
きっと俺じゃ考えても分からないだろうと、すぐに考えるのを諦めた。
不意に顔を上げると、まだ流星の降りしきる夜空が目に入る。
「俺にはロマンチック過ぎるが――まあ、いいか……」
そう言って、初春は結衣の両肩に手を置いて、自分の方へ結衣を小さく引き寄せた。
「は、ハル……」
初春の目はしっかりと結衣の目を見つめていた。
「ちゃんと見てな」
そう言うと初春は結衣から背を向けて、星空を見上げて両手を上げる。
「この星に祈ろう! 小笠原直哉と、日下部結衣へ最高の祝福を!」
「……」
「この星に誓おう! 神子柴初春は、小笠原直哉と日下部結衣を裏切らない! 絶対に!」
初春は今なお流星の降り注ぐ空に向かって叫んだ。
結衣も空を見上げ、流星雨を見つめる。
初春はそう叫ぶと、ふうと息を吐いて結衣の方を振り向いた。
「はは――柄でもないから、結構恥ずかしいな、これ」
苦笑いを浮かべて頭を掻く。
「でも――叶うかどうか分からないけれど――とにかくこれで俺の想い――もう星に届けちゃったから。もう取り消せない――キャンセルもできない。これからお前といる僅かな時間――お前達の笑顔のために使う」
「……」
「絶対にお前を笑顔で東京に帰してみせるから……だから――少しは安心して俺に任せてくれないか。もうお前にそんな顔、絶対にさせないから」
「……」
その言葉は結衣の涙の理由からはまるで的外れのものだったが。
昔は頼りなかった初春の言葉が、今はすごく心強い――
そして、一生懸命だ。
自分の少ない選択肢の中で必死に考えた最良の手を完遂させようと、前を向いている。
そんな真剣な顔でそんなことを言われたら……
怒ることも、泣くこともできないまま……
その優しさに、身を委ねるしかなくなっちゃうよ……
――ふたりの頭上に、星がいつまでも降り注ぎ続けていた。
「ううう……」
「秋葉さん――眉間にシワできちゃうよ?」
「だ、だって……」
朝6時半を過ぎた時分――紅葉、雪菜、夏帆の3人は朝露の落ちる農道を、初春の家に向けて歩いていた。
「……」
「柳さんもとりあえずハルくんを信じなさいよ。あのハルくんがそんな女の子に変なことなんてすると思う?」
「そ、そうは思いませんけど……」
「複雑な乙女心じゃのう」
夏帆は一応教育的指導と銘打ち、男と女で一夜を過ごしたふたりの様子を見に初春の家に向かい、二人を誘ったのだ。
「それよりも私は音々ちゃんが心配だなぁ……もし本当に何かあっても下手に耳がいいから、全部筒抜けだものね……」
そんな話をしているうちに、初春の家のある山道に差し掛かる。
少し道を登り、頂上へと続く道を反れて左に曲がると初春の家と、その前の庭とも言えないような広い敷地に入る。
そこでひとり、箒を使ってむしった夏草の残骸を片付けている人影を見つける。
「音々ちゃん」
3人とも首に紫龍から貰った翡翠を下げているため、家の外でも音々の姿は見られた。
「あ――皆さん。おはようございます」
音々は不自然な様子もなく挨拶した。
紅葉達も、もう音々が同様が自分達以上に顔に出ることを知っているので、この様子では酷いことはなかったと胸を撫で下ろす。
「音々ちゃん――いきなり昨日は来客があってびっくりしたでしょ」
紅葉が自分の不安をかき消すように紅葉に声をかけた。
「は、はぁ……」
「結衣ちゃんは、どうしてるの?」
「――結衣様は、泣き疲れていたようで、まだお休みです……」
「泣き疲れた?」
その状況が分からず3人は首をかしげた。
「まあいいわ。ところでハルくんは今どこ?」
夏帆は庭を見回す。
「もし彼女と同じベッドなんかで寝てたら、叱ってやらないと……」
「そ、それが……」
音々は言い淀む。
「何? どこにいるの?」
「と、とりあえず縁側から家に上がってください――そうすれば分かりますから」
音々は一度箒を置いて、縁側から今に登り3人を促す。
3人は家に上がるが、初春の姿は居間にもキッチンにもない。
「あれ――神子柴くん――」
「こ、ここにいないってことは、やっぱりふたりで部屋に……」
雪菜が顔を真っ赤にして言った。
「そ、そんなわけないって!」
そう言って紅葉は居間を抜け、廊下に出て2階の階段を登ろうとしたが。
その瞬間、足が止まった。
「どしたの?」
夏帆も廊下に出て紅葉の横から顔を出す。
するとそこには。
両手を合わせて手首を縛り、靴を履いたまま玄関の引き戸に体を軽く預け、小さな寝息を立てている初春がいた。
「……」
それを見て思わず紅葉と雪菜は肩の力が抜け、膝から崩れ落ちそうになった。
「あはははは!」
夏帆は大笑いした。
「あの両手――音々ちゃんが縛ったの?」
「はい――ハル様が、今夜は魔が差しそうだから、って――どうしてもここで寝るって……」
確かに、靴を履いたまま玄関で手を縛って寝ているなんて――
どう考えても何も起きなかったと考えるしかない……
――夏帆の笑い声を聞いて、結衣が階段から降りてくる。マキシ丈のワンピースを部屋着にして、髪には少し寝癖がついていたけれど、むしろ自然体の美少女らしさが際立って寝起きでも変わらず美しい。
「え?」
階段を下りながら、両手を縛って靴を履いて寝ている初春の姿に結衣はびっくりする。
「おはよう――結衣ちゃん」
夏帆が微笑んだ。
「お、おはようございます――あ、あの――これ、どういうことですか?」
本気で驚いている結衣の表情。
「それはこっちが聞きたいけれど――」
「う……」
騒がしくなった声に反応して、初春はゆっくり目を開ける。
しょぼしょぼした目を上げながら、初春の目は3人の姿を確認する。
「おはよう、ハルくん」
ニコニコ顔で夏帆は言う。
「どうやら間違いを起こさなかったみたいだね。偉い偉い」
「――俺が何すると思ってたんですか……」
のそのそと立ち上がる初春だが、布団ではなく固い床の玄関に寝袋も使わず寝ていたので、少し体が痛そうだった。
「み、神子柴くん――何で玄関なんかで……」
雪菜が心配そうに訊いた。
「――念のためさ。昨日はちょっと――危険だと思ったから……俺が……」
「……」
「悪い、顔洗ってくるよ……」
初春は居間からキッチンに移り、蛇口を捻って一度顔を洗う。
「……」
夏帆は結衣の顔を窺った。
確かに音々の言うとおり、結衣の目には涙を流した跡がある。
そしてこの場面で結衣が涙を流す理由はひとつ……
そしてその理由は、思想のない初春が間違いを犯しかねない唯一の条件。
結衣が初春を好きだった、というものに他ならない。
「あぁ、そうだ……」
水で顔を洗って思考をすっきりさせると、初春は居間にいる3人の顔をそれぞれ一瞥した。
「3人いるなら丁度いい――3人に少し頼みたいことがあるんだ」
初春は顔をタオルで拭きながら居間に戻ってくる。
「た、頼み?」
「ああ、俺今日は朝から仕事だから、今は時間がなくてざっくりした説明になるんだが――あいつの――ユイのことで」
「……」
その名前が出たことで、紅葉は不意に身構える。
「た、頼みって――恋愛関係――ですか……」
雪菜が訊いた。
「――まあ近くとも遠からずってところだな」
「……」
その返事は、紅葉の心に死刑宣告を浴びせるような絶望を浴びせたが。
「今日これから、あいつの騎士がこの町に来るんだ」
「え?」
初春の思わぬ話に紅葉達は頭にクエスチョンマークを点灯させた。
「でも今そいつが俺のせいで腑抜けちまってて……」
「ちょ、ちょっと待って――」
初春の言葉を紅葉が制した。
「れ、恋愛関係の頼みって――神子柴くんと結衣ちゃん――の話じゃなくて?」
「……」「……」
初春と結衣はその質問に少し言葉を探す。
「――そうじゃないな。まあお前等の予想通り、俺がユイを好きなのは確かだけれど……」
「は?」
「俺はそれよりも、こいつの騎士を立ち直らせてやらなきゃいけなくなった。何でも屋の依頼じゃないし、虫のいい話しているのは分かっているけど――もしよかったらお前達の力を貸してほしい」
そう言って初春は居間の畳に膝を突いて、額を畳にこすりつけた。
「無理なら無理で構わない――けど、もし許されるならお前達の力を貸してくれ。このとおりだ」
「み、神子柴くん?」
さすがに結衣も音々も含めてそこにいる誰もが面食らった。
あの人間に頭を下げるのが大嫌いな初春が、こうして頭を下げるなんて……
「か、顔を上げてよ、ハルくん……」
夏帆が初春の顔を上げさせる。
「そ、その返事をするにも私達、何が何だか……」
今初春と結衣の纏う空気は、紅葉達が一晩あらぬ想像をした無数の可能性のどれにも当てはまらない。
一体この一晩でどういう経緯があってそんなことになったのか。
安易というほど簡単にした初春の土下座も含め、訳が分からなかった。
「――それを説明する時間がちょっとないんだ。俺は今日8時からバイトだから、もう家を出ないと……」
そう言って初春は結衣の方を見る。
「ユイ、悪いが着替えを取りに部屋に入らせてもらうぞ」
そう言って初春は階段を上がり、部屋に行ってしまう。
「……」
あまりの初春の忙しなさに、誰も話についていけていなかった。
「――昨日一体何があったのか、聞いてもいい?」
夏帆が結衣に訊いた。
初春は朝食もそこそこに家を出ていってしまった。
家に残された結衣は紅葉達に昨日の話をした。
自分が初春に助けを求めて神庭町に来たこと。
幼馴染の直哉のこと。
初春に「好きだ」と言ってしまったこと。
昨日の流星雨の下での出来事を全て話した。
「俺がユイを好きかどうかなんて瑣末な問題だ。それよりもユイが東京で笑って暮らせることの方が重要な問題だ――か……」
「……」
「そんなこと言ってもらったら、そりゃ女としたら嬉しいだろうけど……悲しいね」
その言葉は又聞きで聞く紅葉と雪菜でも複雑な心境にさせるものであった。
「ハルくん……あなたはまたどうしてこう……」
「でも――それを言えるって、本当に神子柴くんってすごいなって思う……」
紅葉は心中複雑ながら言った。
「それを言わせる結衣ちゃんも……」
「――え?」
「私達がどんなに近づいても、離れていっちゃう神子柴君が――結衣ちゃんのことだけは特別なのは分かるよ……私は――この先一生一緒にいられなくても、そんなことを言ってほしいって、思っちゃうかも……」
「本当に――神子柴くんって、結衣さんの言ったとおりの人なんですね」
不意に雪菜が口を開いた。
「井の中の蛙、大海を知らず――されど、空の深さを知る……確かに神子柴くんは色んな事が見えていないのかもしれません――人の気持ちとか、全然見えていない――でも、結衣さんを泣かせないことが一番大事だって――そんなことを言えることだって、なかなかできることじゃないと思います……」
「むむ――確かにそれって大事なことよ。でもねぇ……」
夏帆は首を振った。
ハルくん――確かにあなたには大事なことが見えているのかもしれない。
でも――何だろう。
そのことを、ちっとも褒める気がしないのは……
そうじゃないよ、って、怒ってあげたいのは……
ハルくんにとって、結衣ちゃんが本当に大切な人なのが分かるからだ。
今日、あなたは玄関で寝て自分を戒めなかったら、結衣ちゃんを求めてどうしようもなかったんでしょう?
結衣ちゃんに告白されて――あなたの心は何か変わったはずで。
あなたはこれからそれを自分で捨てることを――もう覚悟しているの?




