こういうのをテンプレって言うんです
数時間歩いた。
俺は歩いてないけど。
しかし、この娘中々の体力である。
鞄と俺を持ち、徒歩で山道を歩いている。
道はある程度、舗装されているとはいえ歩くのは辛いはずだ。
しかし汗を少し掻いているだけで、疲弊している様子はない。
ふっ、さすがは勇者ということか。
その汗、売ってください。
金髪美少女の汗なら高く売れるから、ね、ね!
しかし見た目はいいのに、中身は女王様だしなぁ。
俺としては性格もバッチ来いなんだけどな。
普通の人からしたらうざったがられそうな。
まあ、いいか!
俺には関係ないもんね!
と、
「魔物!」
ソーニャが叫ぶと当時に、俺を抜いた。
思ったんだけど、俺を抜くってなんかちょっとエロいよね。
俺を構え、ソーニャは魔物と対峙した。
魔物。
なるほど、敵は液状の魔物、つまりスライムらしい。
ふふ、スライムと言えばRPGの雑魚として有名。
さあ、やっておしまい!
「とおおっ!」
とおって、あーた。
ま、まあ、掛け声は個人の自由だし、ね?
ソーニャはうねうねと地面を蠢くスライムに向かって斬りつけた。
だが、スライムは意外にすんなりと避ける。
しかも刃先が上手くまっすぐ振り降ろされず、平らな方が地面に叩きつけられた。
岩場に比べると痛みはマシだが、軌道が悪すぎる。
これがいったいんだわ。
なんかズバッとやると痛くないんだよな。
視界が動きまくるからちょっと疲れるけど。
『い、痛いんですけど』
「う、うるさいわね!」
『ちょっとソーニャさん真面目にやってくださいよ。
俺、横で叩かれると痛いんで、ちゃっちゃとやっちゃってください』
「わ、わかってるわよ!」
なんかすごいキレられた。
なんだよ、いつもガンガン叩いている癖が出たのか?
と、ソーニャは再び走った。
ソーニャの攻撃、ミス、スライムは華麗に躱した。
ソーニャの攻撃、ミス、スライムは華麗に躱した。
ソーニャの攻撃、ミス、スライムは華麗に躱した。
ソーニャの攻撃、ミス、スライムは華麗に躱した。
おいぃぃっ!?
三度目の正直って言うけど、四度目まで来たらもう無理だろ!?
まさか、この娘。
『ソーニャさん、もしかして剣術、習っていらっしゃらない?』
「……拳術なら得意よ。拳の方」
『ちょ、勇者! おい勇者! 勇者なら拳じゃなくて剣を扱いなさいよ!
しかも聖剣を抜くって目標があるのに、なんで剣習ってないんだよ!?』
「う、うっさいわね! 私も、みんなもまさか抜けると思ってなかったの!
何となく試験受けて、何となく高台で聖剣抜こうかなってノリで思っただけなのに!
なんか抜けちゃったんだもん、しょうがないじゃん!」
『ノリで抜くなよ!?』
「うっさい! もう今更言っても遅いの!
そりゃ、もしかしたら勇者になれて、みんなからちやほやされるかもって思ったわよ!
で、でもまさか抜けると思わないじゃん! だ、だから、後悔してるのに……う、うぇ」
あーあ、また泣いちゃったよ。
なんだよこいつ。
すげぇ、涙腺弱いじゃん。
ていうか、態度でかいのに気が弱いってどうなの。
性格的には好きだけどさ。
好みだけどさ。
勇者としてどうなのよ。
はぁ、と嘆息していた俺だったが、ソーニャに迫るスライムの姿に思わず叫んだ。
『避けろ、ソーニャ!』
「ひゃああああ!?」
スライムの体液がソーニャの衣服と肌にかかった。
ジュウと衣服が蒸発する。
しかし肌は無事なようだ。
「うぇぇ、ぬるぬるするぅ」
ほほう?
これはこれは。
まさか、ほほほほほ。
スライムが再びソーニャに飛びかかる。
『上だソーニャ!』
俺の指示に従い、ソーニャは横に転がろうとしたが、スライムは横から来てるので意味はなかった。
「ひゃああああ!?」
全身が濡れ濡れになるソーニャ。
そう、その姿はローションプレイを今まさに始めようとしているかのようだった。
いいよ、いいよ。
そのままの君でいてぇ。
そして無限大の彼方まで一緒に行こうねぇ。
いやっふぅぅぅぅぃっ!
「ちょ、ちょっと上じゃないでしょ!?」
『あ、ごっめん、ごっめ、マジごめ。勘違いだったわ』
「は、腹立つわね、その話し方!」
衣服の半分が蒸発し、ソーニャは半裸状態になる。
しかし最悪なことに、ギリギリ衣服の体裁を保っているのだ。
くっ、なんて運が良い。
これでは腕や足で胸や股間を隠しながら、顔を赤らめて屈辱に耐えるソーニャが見られない!
スライムめ、そんなことではエロ魔物筆頭の称号は得られんぞ!
『ゆけっ、スライム! 粘液のこうげき!』
「どっちの味方なのよ!」
『俺はエロの味方だ!』
しまった本音が出てしまった。
だが、もうしょうがない。
そこはかとなく、俺のエロさはバレつつあったし。
ここまで来たらいけるところまで行こうぜ!
スライムは俺の命令に従い(?)粘液を飛ばした。
ソーニャは緊張が解けたのか、見事に回避してしまう。
『おい、当たれよ!』
「当たるか、バカ!」
『くっそぉ!! なんでだよぉっ! ちくしょおおおおおおおおっ!』
「必死過ぎて、引くわ……もう、こうなったら!」
ソーニャは俺をスライムに向けて放り投げた。
ザクッと地面に刺さる俺。
だが、スライムは綺麗に避けた。
液状だから中々当たらんのですわ。
「砕けぇっ!」
ソーニャが即座に腰を低くし、全力でスライムを殴った。
ズバンと衝撃波が周囲に広がる。
有り余る威力から木々が葉を揺らし、砂礫を舞い上げる。
そして。
スライムは吹き飛んでしまう。
『スライムゥゥゥゥゥゥッ!』
俺は絶叫した。
走馬灯が駆け巡る。
るーるーるーるー。
出会いは突然、けれど運命的だったあの頃。
スライムちゃんは俺に言った「あなたのために、その娘の服を溶かしてあげるんだから!」と。
俺は涙ながらに頷く。
ああ、なんて優しい子なんだ。
この戦いが終わったら俺達結婚するんだ。
村に戻ってお父さんと仲直りするんだ。
勇者を倒して、みんなに認められるんだ。
そして、俺達は誓った。
勇者の裸体を見ようね、って。
なのに、ちきしょおおおおおっ!
『お、おまえ、それでも勇者かよ! なんでこんなことするんだよ!
ひどいっ、しどいぃっ!』
「ひどいのはあんたでしょ!」
ソーニャは怒りのままに、俺を振り上げてスライムの残骸に叩きつけた。
ベチョベチョ、ガンガン。
不思議なコラボレーションが生まれる。
ああ、顔面がなんかヌメヌメする。
これは、新しい、か・ん・し・ょ・く。
結局、俺は何でもいいみたい。
人生、楽しんだモノ勝ちって言うじゃない?
そういうことなんだよ、きっと。
否定するより受け入れよ?
そうしたら世界って変わるよ?
ようこそ、変態の世界へ!
俺は達観と共に、万感の思いを込めて痛みをかみしめた。
「このエロ剣! 変態、キモイ、さいってい!
今までも私のことエッチな目で見てたんでしょ!
最悪、マジうざい! 死ね、死ね! 鍛冶屋に行って溶かして作り直してやるから!」
ソーニャはぷりぷり怒っている。
貧困な語彙力で、俺を罵倒している。
ちなみに際限なく俺を木や岩に叩きつけるおまけつきだ。
なんという暴力!
これにはさすがの俺も、気持ちいいよ?
でもさ、一方的に言われると腹立つよね。
「聖剣とか言いつつ、煩悩しかないんじゃん!」
『それの何が悪い!』
「は、はっ!?」
『エロいのが悪いのか? おまえをエロい目で見て何が悪いんだ、言ってみろ!』
「そ、そんなの悪いに決まってるじゃん!
エッチな目で見られて嬉しいって思う女の子がいると思う訳!?」
『少数派だろうな。表向きはな』
「だ、だったら」
『だが! エロい目で見られるということはそれだけ女性として魅力があるということだ!
おまえはそれを否定するのか!?』
「え、え!? な、何を」
ソーニャは思いの外、反応が鈍い。
ふむ、これだけの見た目だ。
もっと褒められ慣れていると思ったが、そうでもないらしい。
いけるぜ!
『いいか、エロいということは雌としての素質があるということだ。
性欲がなければ子作りも出来んのだ。つまり、貴様は人類繁栄の才能があるということ。
人間として生物としてまっとう、むしろ優れているのだ!』
「そ、そんな話は今してない!」
『している! エロがなければ子供は生まれん!
それを阻害し、あまつさえ少子化だの結婚率が下がっているだの、愚かにもほどがある!
いいか、エロを否定して生物の繁栄はあり得ん!
そして、貴様! エロを否定したな!?』
「そ、それが何よ!」
『だったら、なぜそんな恰好をしている!?』
ソーニャはスライムに服を溶かされる前から露出が激しい服装をしている。
ミニスカートだし、胸元はかなり見えている。
「そ、それは、村の規範で」
『なるほど、つまり仕方なく、だと?』
「そ、そうよ」
『では貴様は、自らスカートも履かない。胸元が開けた服は着ないのだな?』
俺の問いにソーニャは口をつぐむ。
ふ、愚かな!
『貴様、まさか肢体を覗かせる服装をしながら、見るな、いやらしいなどと言うのではあるまいな?』
「そ、それは。そういうのはお洒落で」
『つまぁり! お洒落で裸になっていたら見るなと? 半裸でも見るなと?
足も胸元もうなじも腋も太腿も見るなと? 見た方が悪いと、そう言っているのだな?
きさまぁ、自己中心的な考えもいい加減にしろ!
見られたくないならズボンを履け。男にエロい最低と言うなら自分達も肌を見せるな!
貴様らがやっているのは、目の前に餌をぶら下げ、食べるな、食べるなと言っているようなものだ。
根本的に間違っている。文句があるなら餌をぶら下げるな。
個人の自由などというならば、見るのもまた個人の自由だ。
公共の場で露出をし、周囲の人間に考えを強いるとは何事か!
いいか、文句を言う前に省みろ! おまえの行動が、周囲に影響を及ぼしているのだ!
エロは嗜好であり至高。否定するおまえは人類を否定し、子供の存在を否定している!
子供だけが欲しいだと!? 愚かな! だったら一人寂しく枯れ果て死ねい!
エロを否定するな! エロはすべての根源だ!
男はモテたいから努力し、女は持てはやされたいから見た目を磨くのだ!
違うなどという人間がいるのなら、一人で閉鎖された場所で孤独にお洒落とやらをしていろ! 外に出るな! わかったか! わかったら、サーイエッサーと言え!』
「……サ、サーイエッサー!」
俺は早口でまくしたて、満足した。
ふぅ、言ってやったぜ。
これでわがまま御嬢さんも少しは静かになるだろう。
と思ったのだが。
ソーニャは不機嫌そうにして、首をひねる。
「でも、それと私がスライムに服を溶かされたのって別じゃない?
あんたがやったことって、私の服を脱がすのと一緒のことでしょ?」
おい、おい!
こいつ、思った以上に頭良いぞ!
くそ、とりあえず適当に理由をつけて、うやむやにする作戦が!
俺は口笛を吹こうとした。
口がないので吹けなかった。
ふ、御嬢さん、やるじゃねえか……。
どうやら俺は負けたらしい。
俺は、ソーニャを見上げ。
『ごめんなさい』
即座に謝った。




