再会と別れにびっくりしました
竜に揺られて数週間。
竜です。
ドラゴンです。
その上に乗っています。
ひゃああああああ、飛んでるぅぅぅぅ!
って最初は驚いていましたが、いずれ破壊されるのだと思うと意気消沈しました。
でも俺は元気です。
無言だった俺だったが、気になってきた。
一体、俺をどうするつもりなのだろうか、と。
竜の背には小屋が二つある。
どういう原理かはわからないが、揺れは少なく普通に地上で暮らすような生活ができる。
魔王と側近と俺しかいない。
どうやら護衛は必要ないと思っているらしかった。
魔王を殺せるのは勇者だけであり、聖剣がないと倒せないわけだし。
一人でも大丈夫だからな。
魔王は別の小屋。ちょっと豪華な方にいて、俺は側近と一緒の小屋だ。
で、だ。
新事実。
この側近、実は女だった。
女だった。
おんなあああああああああああ!
ひゃああああああああああああ!
いや、ま、会話もできないんですけどね、ほぼ無視されてるんで。
今では重苦しい空気の中で生活するのも慣れましたよ。
小屋の中にはベッドが一つ、簡単な棚と箪笥があるだけだ。
食事は地上に降りて動物や植物を獲り、調理する。
双方とも魔術らしきなにがしかの力が使えるらしく火を出したり水を出したりもできるわけだ。
ただ食事はあまり必要ではないようで、数日に一回程度だったが。
側近ちゃんは無言で目を瞑り、ベッドに座っている。
俺は壁に立てかけられている。
この状況がずっと続いているのだ。
もう死にたい。
生殺しだ。
でも死にたくない。
ああ、ソーニャの罵倒が懐かしいな。
一体どうなるのか、そういう不安はもう薄れた。
でもやはり気にはなるので、どうするつもりなのか教えて欲しい。
そう思いつつも無言のまま時間は過ぎ去るだけなのだった。
――それからさらに一週間経過。
ようやく魔王の統治する都市へと到着した。
魔族の住まう土地ならもっと邪悪感があるのかと思ったが、意外に普通だった。
というか人間の国と変わらない。
生活しているのが人間でないだけだ。
広場に竜が降り立つと、俺達は地上へと降りた。
出迎えが数十人。
誰もが魔族だ。当然だけど。
「魔王様、準備はできております」
「うむ、早急に向かうぞ」
俺は側近に抱えられたまま魔王の後へと続く。
城へと入ると長い廊下を進む。
次第に薄暗くなり、地下へと降りて行った。
おいおい、一体どこへ行くつもりだ。
これ、あれだよな。
もしかしなくても、俺に何かするつもりだよな。
えー、ただ痛いのはイヤだな……。
殺すならいっそ一思いにやってくんないかしら。
そう思っていたら、目的の場所に着いたらしい。
気づけば広い地下室にいた。
複雑な模様をした魔法陣が地面に描かれ、儀式的な道具がそこら中に置いている。
何すんの? ねえ、めっちゃ怖くなって来たんですけど?
『あ、あの』
思わず側近に声をかけた。
ギロッと睨まれただけだった。
この人嫌い。怖いんだもん。
俺は無言で動向を見守るしかできない。
魔王やローブを着た魔族が魔法陣を取り囲み、何やら呪文を呟く。
カルト教団的な風景だ。
名状しがたい冒涜的ななにがしかを召喚したりする、わけじゃないよな。
やがて呪文が終わると、魔王が振り向いた。
「ここへ」
「は」
側近の手から魔王の手へ俺が渡される。
あ、やっぱり男に持たれるのイヤだわ。
なんか手汗があるし、硬いし、不快感抜群だぜ!
ああ、側近ちゃんの手の方がまだよかったよおおお。
男装の麗人的な側近ちゃんもありだと思っていたのにいいい!
「ふん!」
ふん! じゃないよ!
魔王は俺を魔法陣の中央に突き刺した。
痛くはないけど、なんかじゃりじゃりする。
もうイヤな予感しかしないし、後戻りはできない感が素晴らしいのだけど、今しかチャンスがないと俺の本能が叫んでいるので、俺も叫んだ。
『あ、あの! 俺はどうなるんですかね!?』
「……貴様には元の世界に戻って貰う」
元の世界?
どういうことだ?
どうして魔王が、俺がこの世界の住人でないことを知っている?
その瞬間、魔王の表情が優しくなった気がした。
そして魔王はぼそっと呟く。
「おっちゃん」
その目、その言葉、その表情、そして俺をおっちゃん、というのは一人しかいない。
俺は瞬間的に誰かわかった。
人生で唯一、俺が友人と呼べた人。
『え? い、石垣君? 中学高校とモテモテ人生を歩んで性格もイケメン、家柄もイケメン。最高、石垣ファンクラブまであった、石垣君!?』
「もう、それやめてよ」
何がなんだかわからなかったが、彼は人生で唯一俺へ優しくしてくれ、仲良くしてくれた石垣君であることは間違いなかった。
名前通り、日本での話だ。
だがここは異世界。
互いに姿は全く違う。
あ、ちなみに何度かモノローグで出していたから読み返してみてね!
なぜ、どうして、そう思うけど答えは出ない。
ただこう思った。
彼ももしかしたら俺と同じように転生したのではないか、と。
「おっちゃんが転生するってすぐわかったよ。僕、そういう能力があるから。
ずっと元の世界に戻る方法を探してたんだ。けどすごく時間がかかって、その間に魔王なんかになっちゃってさ。もう友達や大事な物ができちゃって帰れない。
だからさ、おっちゃんだけ戻って欲しいんだ。
ごめん、本当はあの女の子と一緒に居させてあげたいんだけど」
『まだ混乱してるけど……大丈夫。わかってる。
石垣君の立場だと、そうするしかないんだもんな。
でも、俺を壊すこともできたのに』
「それはできないよ、友達だからね」
あー、ほんとイケメンすぎるわ、石垣君。
魔王になってもどこに行ってもイケメン。
こういう人は、どんな状態でも環境でも変わらないんだろうか。
彼だけはそうであってほしいと、俺は願わずにはいられなかった。
「魔王様、いかがなさいました?」
「何でもない、気にするな、すぐ始める」
「は」
側近ちゃんが怪訝そうにしている。
会話も限界らしい。
石垣君にも色々と事情があるんだろう。
この会話ももしかしたら、彼にとっては危険なことかもしれない。
反応からして、側近達には、俺のことは話していないようだ。
ということはこの魔法陣の効果も彼等は知らないのかもしれない。
単純に聖剣を唯一破壊する方法、とか教えていたりして。
ま、真実はわからない。
そんな疑問を口にするよりも、言うべき言葉があるからだ。
「ありがとう、石垣君」
「ううん。おっちゃん、元気でね」
それだけだ。
彼がどれほどの苦労をして今の状況を作り出したのか、俺は想像することしかできない。
彼の苦労はたった一言からしか窺い知れなかったからだ。
すごく時間がかかって、そんな単純な言葉だけだ。
俺は石垣君を知っている。
彼ほど優しく強い人間を知らない。
石垣君は俺から離れ、陣の外に出る。
そして彼だけが何やら呟く。
次第に陣が発光し、力の奔流が俺を押し潰すような感覚がした。
不安はない。
俺は石垣君に絶大の信頼を寄せていたからだ。
俺はじっと石垣君を見た。
面影がある。
きっと俺にしか気づけないほどの微細な。
眩いばかりに陣が光を放った。
熱さと下から上る重力に、俺は意識を失いかける。
さようなら。
誰かの声が聞こえた瞬間、俺はすべてを手放した。




