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精霊と魔族と勇者とオレとレヴィアたん


 一時間も歩かずに辿り着いた。

 階段を下り、行き着いたのは『琥珀の樹海』だった。

 琥珀色の樹木が並び、琥珀色の果実を実らせている。

 めっちゃ目が痛い。

 なんか輝きが強すぎる。

 天井はない。

 庭園のような場所には澄んだ泉が広がっている。

 都市並の広さを誇る場所だ。

 広場にはエメラルドグリーン色に発光した何かが飛翔している。

 蛍のような羽虫かと思いきや、人型をしている。

 おお、こ、これが、精霊!?

 手のひらサイズの精霊たん来たあああああああ!

 しかも女の子ばかり。

 なんか精霊ってより、妖精ってイメージだけど、精霊なんだろうな。うん。

 なんか薄着だし、ちらちらと太腿やら胸やらが見えそうだ。

 しかし見えない。

 ひえええええ、ふぁんたじいいいいいいい!

 俺は狂喜乱舞したいが身体が動かず苛立ちを覚えてしまう。

 見えそうで見えない、チラリズムを甘受していたが、二人の様子に気づく。

 彼女達の視線の先には、泉の中央に立っている子供程の大きさをした精霊が見えた。

 なんか他の精霊とは違ってちょっと大人な女性みたいな感じだ。

 まあ、小学生と中学生くらいの差しかないけどな。

 俺は幼い子供に興味はないんで。

 ……ウソですごめんなさい、悪くはないと思うよ、うん。

 嫌いじゃない、好きかと言われたらちょっと悩むふりをするけれど。

 安心して欲しい。

 俺はムラマサちゃんがギリギリオッケーな感じだ!

 じゃなくて、だ。

 あの精霊、もしかしてあれが大精霊か?

 いや、それよりも、だ。

 もっと気になる部分があった。

 泉のほとりに、人影が幾つか見えたのだ。


「あ、あれは、他の勇者候補さん達……?」


 ムラマサが呟き、俺は思い当たる。

 遠目だが何とか見えた人物は、姉御達だった。

 四名いたはずだが、三人しか残っていない。

 姉御の後方には情けなく尻餅をつき、恐れおののいている男がいた。

 もう一人の男は剣を構えているが、その豪奢な剣は、刀身の半分まで折れている。


「ひぃぃ! も、もうやってられるか!」

「に、逃げるぞ!」


 他の二人は……今、俺達の横を通り過ぎて逃げた。

 あ、それに釣られて他の勇者候補も逃げちゃった。

 残ったのは姉御だけ、か。

 姉御以外は剣を折られてしまっていた。

 つまり偽物だったわけだ。

 そして対峙している相手。

 あれは、一体。

 何なんだ。

 あの、エロい魔物は!

 頭にはうねった角が生えている。

 肌は褐色。

 体躯は人型。

 露出が激しく、乳房と臀部の半分が出ている。

 部分的に鎧を装着はしているが、身を守れているのか微妙だ。

 手には禍々しい剣が握られている。

 牙も翼も生えており、爪も長い。

 亜人に近い容姿だ。

 ただ今まで見た亜人とは違い、邪悪な雰囲気がある。

 ムラマサちゃんとは大違いだ。

 魔物だよね?

 それとも亜人扱いなのか?

 ソーニャとムラマサは咄嗟に走りだし、姉御達の下へ向かった。


「な、何よ、あれ!」

「も、もしゅかして、だ、大精霊を狙った、ま、魔物、かも」

『勇者候補の試験日と重なるってことは、魔王側に知られていたのか?』

「かもしれないわ」


 おいおい、あの王様に比べて、魔王って結構頭が切れる感じか?

 やっべ、なんか怖いわ。

 あの魔物のお姉さんは、うん、いいね、エロいね。

 ソーニャとは違った感じでサドっぽいよね、うん。

 お相手願えませんかね。

 と、姉御達の下に辿り着き、ソーニャは構えた。

 ムラマサちゃんと俺はちょっと遠くから見守る形になる。

 ……共闘できないじゃん、俺達。


「あ、あんた達は」

「助太刀するわ、よくわからないけど!」


 ソーニャ、成長したね……。

 あんな仕打ちをした姉御を助けるなんて。

 うんうん、それでいいんだよ。

 俺は何もできないけど、ごめんね?


「……助かるね」


 姉御はそれ以上なにも言わない。

 ふむ、ここで以前のことを謝るほど無粋ではなかったようだ。

 まあ、ムラマサちゃんは近寄れないから二人とは距離をとっているけど。

 俺はムラマサちゃんと一緒に居るので、二人の会話は何とか聞こえるくらいだ。


「ふん、所詮人間。何人増えようと我の敵ではあるまい」


 女の魔物がシャベッタアアアアアアアアアアアア!

 我系ね、あ、なるほどね。

 嫌いじゃない、いやむしろいいよね。

 偉そうな言葉遣いなのに照れたり、女を見せられると魅力的に見えるよね。

 エロいならなおいいね!

 魔物は流れるように剣を正面に伸ばし、切っ先をソーニャ達に向けた。


「我は、四天魔ルファナティアだ」


 四天魔? ってなんすか?


「四天魔ですって!?」


 知っているのか、ソーニャ!?

 とは言えない雰囲気だな、なんか。

 俺はそっとムラマサちゃんに聞いてみた。


『四天魔って何?』

「え、えと、魔王直属の部下、で……将軍、みたいな感じかな。

 すっごく強くて、配下も十数万匹以上いる、とか言われてる」

『へぇ……じゃあ、なんで一人で来てるんだ?』

「さ、さあ?」


 たまにあるけどさ、こういう展開。

 部下を総動員したりした方がいいんじゃねえの、って思うんだけど。

 周りを見た感じ、部下らしき存在はいないし。

 やっぱり一人らしい。

 ルファナティアとか言いにくいから、ルファちゃんにしよう、そうしよう。

 なんか、ちゃん、というより、さんに近い気がするけど、顔はちょっと幼いし、俺よりは年下だから、ちゃんだな、うん。


「……私はソーニャ」

「あたいはジーナ」

「あ、あたしはム、ムラマサ」

『そして、俺が! この俺が、オレ! 聖剣オレだ!』


 時が停まった。

 何これ。

 場の雰囲気、流れ的に自分がボケたり、同じようなことをしたら周りがシンとした時みたいな。

 あの気まずい、え、なんでお前が入って来るの? みたいな空気。

 やめて! あれ、ほんと死にたくなるんだから!

 ああ、何よ、俺が悪いのかよ。

 沈黙が流れる。 


「い、今のは一体、なんなのだ?」


 おい、魔物がタジタジなんですが。

 俺は魔物をドン引きさせるんですか。

 そんな存在ですか、そうですか。


『俺は、聖剣オレ。これ、剣ね、うん、剣が喋ってんの……。

 なんか、ごめんね、空気読まなくて』


 俺は申し訳なくなって声を徐々に小さくしていく。

 い、いたたまれない。

 俺の返答を聞き、ルファは目を見開いていたが、やがてフッと笑う。


「くく、なるほどそう来たか。確かに、聖剣ならばそれくらいあり得るであろう。

 だが、勘違いするな。インテリジェンスソードは貴様だけではない」


 いんてりじぇんすそーど?

 知識がある剣みたいな、感じ?

 なにそれ、格好いい。

 なんか頭良さそう。

 なんて思っていたら、ルファは剣を掲げた。


「さあ、魔剣レヴィアタンよ、今こそ、貴様の声を響かせよ!

 愚昧な人間どもに、涅槃より生まれし声音を聞かせるのだ!」


 レヴィアたん? 自分の剣に『たん』付け?

 なにこの娘、可愛いじゃないの。 

 普段はつんけんしてて、女らしさなんてなさそうなのに、家にはぬいぐるみが一杯とか。

 実は恋人と二人きりになったら甘えたがりだとか、そういうギャップ?

 演出してるの?

 そんな安易な設定に俺がなびくとでも?

 なびくよ!

 ギャップ最高、ひゃっふいぃ!

 が、剣は応えない。

 何も言わない。

 反応なし。

 なのでルファはずっと剣を掲げたままの姿勢でいた。

 やがて、ちょっと気まずくなったソーニャ達は顔を見合わせていた。


「……ちょっと、待ってくれ」


 ルファは真顔で言った。

 何だか言い返すことができずに、ソーニャ達は構えたまま、ど、どうぞ、と言った。

 ルファはそそくさとその場から離れて、遠くで何やゴニョゴニョ言っている。

 俺は耳を澄ませた。

 発動、オレイヤー!

 改めて説明しよう。

 オレイヤーとは、何となく頑張って聴覚を鋭敏にして、遠くの音を拾う技なのだ。

 これがあれば扉一枚挟んだ先にいる女の子の着替えの音も聞き取れる。

 遠くにいる人たちの、俺への悪口も全部聞こえちゃうのだ!

 なので、今使っちゃおう。

 ちなみに、必要そうな情報は俺からムラマサちゃんに伝えている。


「お、おい、レヴィ、なぜ答えない。事前に練習しただろう」

『えー? 超面倒臭いしぃ、ってか、恥ずいじゃん。なにあの名乗り。

 演技がかってるしさぁ、ウチはちょっと無理ってか』

「そ、そう言わずに、見せ場なのだぞ!」

『いいじゃん、普通に戦っちゃえば。ってか殺しちゃいなよ。なんで剣を折るだけなん?』

「そ、それはやはり人間といえど、無闇に殺生するのは気が引けると言うか」

『はあ、マジ。ルファは優しすぎ。

 そんなんだから部下も引き連れずに単身で敵陣に乗り込んじゃうんじゃん?

 もっと周りの奴ら使えばいいじゃん、めんどくさ』

「そ、そうはいかん。今後、もしかしたら人と魔族が共存する世界が訪れるかもしれん。

 禍根は残さない方がよいに決まっておる」

『はいはい、もう勝手にどうぞぉ。とにかくウチはああいうのやらないから』

「くっ! わ、わかった。しかし力は貸してくれ」

『わーってるって。ほら、行った行った』


 ……なんか、えらく人間臭いな、こいつら。

 俺はルファとレヴィアたんとの会話を聞き、戸惑った。

 もっと凶悪な感じかと思っていたのに、これではちょっといい奴じゃないか。

 レヴィアたんはちょっと親近感があるな、俺としては。

 ルファは即座に元の位置に戻った。


「待たせたな!」

「あ、うん、も、もういいのよね?」

「ああ! いつでもいいぞ!」

「あ、そ、そう」

『その前に、一応、なんでここにいるのか聞いてもいいかな?』


 俺は普通に会話する感じで、ルファに話しかけた。

 そして、え? という顔をしたあと、合点がいったとばかりに何度も頷いた。


「うむ、そうだな、貴様らもいきなり攻撃されたのでは、疑問がわくだろう。

 よかろう、説明してやろう」


 何こいつ、いい奴過ぎるんですけど。

 ソーニャとジーナはよくわからないけど、とりあえず話を聞こうとしているようだ。

 うん、なんか緊張感ゼロだね。


「先日、我々魔王軍の偵察部隊の連中から、人間の国で勇者達が続々出現しているという報告を受けてな、それで各国の勇者達が力を蓄える前に打倒してしまおうと思ったのだ。現在、魔王軍は人間世界を領地とすべく各地で戦をしているが、その妨げになりかねないと考えたわけだな。なので一時、侵攻作戦を中止し勇者の討伐作戦を遂行しようとしたのだ。他の四天魔もニの国、サンの国、ヨンの国、に向かっている。もちろん魔王様の命だ。我はイチの国担当でな、本来は部下数万を連れてここに来る予定だったのだが、どうもそこまでする必要がなさそうに思えた。そこで我は単身琥珀の樹海に乗り込み、貴様ら勇者候補達を倒そうと思ったのだ。だが、改めて考えると殺す必要はないのでは、という考えに行きついた。勇者は聖剣がなければただの人。聖剣があるからこそ魔王様を倒せるのだ。ならば聖剣を破壊すれば問題ない。そうだろう? だが部下達は気性が荒い。様々な魔族がいるからな、仕方のないことだ。ゆえに我はここで単身、貴様達の剣を折り、追い返そうとしているというわけだ。わかったか?」


 俺達が無言でいると、ルファは悩ましげに眉根を寄せた。


「ふむ、わかり辛かったか、つまりだな。ここで貴様ら勇者候補の」

『いやいや、説明はわかったから』

「そうか、ならばよかった」


 ルファは満足そうに頷いている。

 問題はそこじゃないのよ。

 本人は気づいてないみたいだけどさ。

 何この娘。

 馬鹿なの?

 いや、違う。

 こいつ、馬鹿正直なんだ!

 真面目に馬鹿なんだ!

 俺達とは違う種類の馬鹿だ!

 しかし、何と言っていいかわからず俺達は動揺したまま黙していた。


『ルファ、馬鹿じゃん? 作戦内容とか魔王軍の動向とか詳細まで説明してどうすんの?』

「はっ! ま、まずかったか!?」


 うわぁ、剣に説教されてる……。

 いや、俺とソーニャは逆なだけで、傍から見れば異常だし、こいつらと同じようなものだけど。


『はあ、いっつもこうじゃん。真面目なのはいいけど、もっと嘘を吐いたりしないとさ』

「嘘は吐けん!」

『その無駄にでかい胸張るの止めてよね、うざいから。ってか何偉そうにしてんの?

 あんたさ、敵に馬鹿正直とか、真面目に馬鹿とか思われてんのよ? それでいいの?』

「うう、ごめん……」


 ん? 何か違和感が。

 気のせいか?

 いや、違う。

 だって俺は声に出していないんだ。

 なのにこいつ『馬鹿正直とか、真面目に馬鹿』という言葉を出したのだ。

 ……こいつ俺の心読まなかった?


『察しはいいんだね、ま、そういうこと』 


 マジか!?


『マジ』


 ふわあああ、怖いよぉ。


「え、ど、どういうこと?」

『そこの剣、俺の心を読んだんだよぉ』

『ちなみに、そっちの大人のお姉さんはルファを攻撃しようかどうしようか迷ってる。

 その隣の胸が大きい娘は、もう帰りたいとか考えてる。

 そこの鬼族の女の子は、ルファの胸が大きくて羨ましいって思ってる。

 ってか、二重人格っぽい? なんか声が重なって読みにくいっての』

「ちぃ、バレちまってるみたいだね」

「ちょ、嘘だから! 私は戦う気満々よ!」

「ふ、ふわっ、あ、あたしは、そ、そにょ、うううっ、ごめんなさい……」


 これは本物だ。

 おいおい、マジかよ。

 なんでその能力を俺にくれなかったの!?

 はあ、やる気なくなるわ。


『バカじゃん、あんた』


 うるさい、俺の心を読むな!


「と、とにかくだな! 魔王様の命により、おまえ達の剣を折る。

 すまないが、そっちの聖剣オレとやらも破壊せねばならん」

『え? そ、それはちょっとなあ、さすがの俺も半分に折れたら死んじゃう!』

「申し訳ないが、諦めろ」

『イヤだ!』


 見た感じ、このルファって魔物、ものすごく強そうだ。

 だって他の勇者達と戦っているはずなのに、傷一つないんだもの。

 これはやばい。

 逃げ切れそうにもない。

 大体ボス戦では逃げられないものだからね!

 まあ、俺はムラマサちゃんと一緒に居るし、早々やられはしないと思うけどさ。


「とにかく、あんたを倒さないと大精霊の加護は貰えないってわけね」

「ふっ、そうなるな」

「やってやろうじゃない」


 ソーニャは負けん気をそのままに、ルファを正面に見据えた。

 おお、さすがソーニャさんやる気ですね。


「気をつけな、こいつ、強いよ」

「わかってる」


 姉御の助言を受けつつも、ソーニャはルファから目を逸らさない。

 それだけ警戒していると言うことだ。

 ムラマサちゃんは戦いに参加するのは困難だから、少し離れた場所で観戦だ。

 ……難儀な性格だね、君。

 次の瞬間、剣戟が辺りに鳴り響いた。

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