無人島+2g
「博士、この薬は?」
助手が机の上の薬包紙をつまみ上げ私に聞いた。
「ああ、それは昨日私が調合したものだ」
助手の目が輝き始めたのがわかる。
彼は私の下についてもう3年になるが、薬剤師の父を持つお陰か、薬などに詳しく、また一番興味をそそるものであった。
「で博士、この薬の効果は?」
彼は半ば興奮気味に聞いてきた。
「そうだな、まず0.5gで手足が痺れ麻痺し始める」
「えっ?危ないですな、それは」
「いやいや、まだまだ。次に1gで笑いが止まらなくなる」
「一体何と何を調合したんですか?」
「まあ待て。次に1.5gで発熱が起き、2日ほど眠ってしまう」
「ほう…」
「次に2gで記憶障害や幻覚が見え始めるんだ」
「幻覚ですか」
「そうだよ。そして3gで致死量だ。死んでしまう」
「博士、そんな危なっかしい薬なんか作ってどうするんですか」
助手は私に本当に不思議そうな顔をして聞いてきた。
「ああ、それはね、この無人島から出られんからだ」
博士がそういうと目の前の助手が霧のように蒸発し、枯れた木が艶やかに現れた。
鳥が上空を迂回し、船一つ見かけないだだっ広い水平線が後ろに広がっている。
額に汗をかき、髪や髭が伸び放題の男が一人、無人島の海岸沿いに立っていた。
彼は絶望した表情を浮かべ、なけなしの最後の水を手に取った。
「あと1g…飲むとするか」