投函口+アナフィラキシーショック
「次お願いします!」
北川エミはそう言って次のカルテを手渡した。室田ユウジはそれを受け取ると書かれている達筆な文字を訝しげな目で見ている。
「蕎麦アレルギーはまずいだろう」
室田はそう言うとカルテの端に×の字を書いて北川に返した。
「しかし。少量なら構わないのでは?」
「君、蕎麦アレルギーを甘くみちゃいかんよ。中には蕎麦屋の室外機から出る空気で発作を起こす者だっているんだ」
北川はふ〜んというような表情を浮かべ次のカルテを差し出した。
「ではこれは?杉アレルギーです」
室田はカルテの隅々まで目を通した。
「まあ、やってみようか」
彼はそれに大袈裟な程の大きさの判子をついた。受理という赤く大きな文字がカルテに押され、それを丸めて脇にある投函口に入れた。
「杉とかの花粉によるアレルギーは口腔アレルギーと呼ばれてね。喉が腫れたりして食物アレルギーとは違う種類になるんだよ」
「そうなんですか。では今までとは違うサンプルが取れるんですね」
「まあそういう事だね。下では上手くやってくれてるはずだ」
北川は次のカルテを探し始めた。彼女はまるで宝探しでもするような表情である。まだあどけなさの残る横顔だが、それは彼女がただ童顔なだけであろう。
「次はこれをお願い致します!」
「おいおい、小麦もまずいだろう。特定原材料は十分なサンプルが取れてるし危険だからよせ」
「杉は良いのに」
彼女は不満そうに頬を膨らませた。赤いチークが愛らしく思えた。
「他のものは無いのか」
北川はそうですねと言いながらまた大量のカルテを漁り始めた。
「ではリンゴなんてどうですか?可愛らしいでしょう?」
北川は満面の笑みでこちらを見た。
室田はカルテを受け取りそれを眺めている。カルテの端にチェックを入れた。
「どうかなさいました?」
室田は解せないというような表情を浮かべた。
「いや、さっき杉を与えただろう?花粉のアレルギーと果物のアレルギーは構造が似てるんだよ。だからアナフィラキシーショックを起こさないかなと思ってね」
「よろしいんじゃないですか?それに今日はこれで最後にして……」
北川は室田の胸元に手を寄せた。室田は心臓が高鳴るのを感じた。
「そうだな」
室田はカルテに判をつき、それを投函口に投げ入れた。室田は北川に向き直った。彼は彼女の背に手を回す。右手が別の生き物のように彼女の衣類越しの肌に吸い付いた。
「今日はこれで終わりだね」
「あとは下の人たちに任せましょう」
北川は優しく微笑んだ。
彼女の綺麗に並んだ歯が美しかった。
室田は彼女に口づける。舌が入り込んできた。
下から断末魔のような苦痛に歪む声が響いた。




