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禁止+足し算

「総理、私が提案する法案は足し算禁止法です」

議事堂内がその言葉にざわめき始めた。

「未成年飲酒禁止法と同じく満二十歳を満たない者の足し算を禁止するというものです」

総理大臣は彼のその法案に怪訝な顔をした。彼は財務大臣であるが、何故彼がこんな法案を提出しなくてはならないのか、そんな事は誰も知る由がなかった。

「君、足し算とは計算に於ける初歩も初歩で、これを無くして青少年の健全な教育は出来ないのではないか」

総理大臣の言葉に財務大臣は少しだけ眉を上げ、何をと言うような顔をする。

「その点については問題ございません。数学とは答えに対して複数ある道から一つ何か有益なそして最良の道を選ぶ学問です。足し算が無くなったからと言って衰退するわけでもない。また二十歳を超えている大学教授などは今まで通りのやり方で研究を続ければよろしい」

「いやしかしだな、計算という概念はまず足し算から始まるのではないのか」

「それは思い込みに他なりません。ならば引き算を教えれば良い。そのあとで掛け算、割り算と教え因数分解や二次方程式などを教えれば良いのです。何の問題もない」

総理大臣は難しい顔をした。

「そもそも君は何故このような法案を提出する?」

財務大臣は秘書たちに一枚の冊子を配るように示した。議事堂内のすべての人間にそれが行き渡ってから彼はまた歯切れの良い言葉で話し始める。

「ここに今回の趣旨を記載させて頂きました。青少年の育成に如何に足し算というものが不必要であるのか。そして足し算という考え方そのものが卑しく大人らしい考え方であり、寧ろ青少年育成に於いては不適切に他ならないという事をまとめさせて頂きました」

その資料に目を通した総理大臣は首を傾げた。

「君が言っているこの部分だが、ここは一体どういう……」

「ご説明致します。私が考えるに足し算とはあるものからあるものを足してその総数を求めるものです。この考え方は今持っているものから奪い取ったものを足して自分の資産を増やすという考え方とイコールだと言えます。逆に引き算とは、足し算とは根本的に違い、自分の所有している資産を分け合うという慈善的精神の現れです。子供達の育成に足し算のような危険極まりない自分よがりな考え方を押し付けるのは良くありません。日本の学力低下が足し算の導入から下がり始めていることでもそれは伺えます」

確かに彼の言うグラフは近年では一時期に比べかなり落ちているように思える。しかし、足し算導入から下がっているという根拠は全く伺えなかった。

「総理、ご決断願います。どうか正しいご判断を」

「しかし、これは全くもってこじ付けのようにしか見えんのだが、だいたい足し算と青少年の育成というものの繋がりは……」

「総理、今繋がりと仰いましたね。貴方のその考えが足し算に他ならないのです。政治家+金のようなそんな図式を子供達に押し付けるおつもりですか」

「それならば君の言っている理屈も足し算ではないのか」

「いえ、全くもって違います。私は既存の悪しき概念から足し算を引こうという実に慈愛に満ちた引き算的考え方をしているのです。いいですか総理、貴方のその考え方そのものが戦前日本が取り憑かれていた……」


このたび新しく足し算禁止法が制定されました。一年間は試用期間とし、

翌年から正式行使されるようです。


「また妙なのが始まったな」

「こんな事してどうすんだよ」

「まあ俺たちには関係ないか」

「いつも損こくのは子供だな」

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