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星+増やす

ある日星が突如として消えた。

それは南南西の空に輝く三等星だった。地球ではその星が消えてしまう事を遥か昔から知っていた。それは約七百三十光年離れているその星が、消えてしまった瞬間を見た者が居た。彼はニール・クライフトという天王星を目指していた宇宙飛行士であった。

彼は何をしに宇宙へ派遣されたのか。それは星を増やす仕事だった。星には寿命があり、無数にあると思われた星々は寿命を尽き、宇宙は真っ黒な闇の中へ落ちようとしていた。

太陽が燃え尽きた約三百二十七億年。その静かな宇宙に派遣されたのが彼である。彼の星は地球と呼ばれ、古くから星を作り出す力を持った人間が、一万分の一の確率で生まれてくる種族であった。その人間たちはスターリフトと呼ばれ、彼らの独特な創造方法により星が生み出される。スターリフトには両の掌に正門と呼ばれる小さな穴が空いている。古くは星の門で星門と呼ばれていたが、いつしか正と漢字が変わってしまった。彼らはその正門を掌ぴったりと合わせそこを真空状態にする。そこから吸い付くような感覚が生まれると、次第にパチパチと痺れるような感覚を帯び始める。その瞬間一気に手を離す事で莫大な量の大気が一気に両手の正門へと入り込んでくる。正門へ大気が入ると腕は大きく腫れ上がり、血管は行き場を失ったように浮き上がる。それが破裂した瞬間、両肩から先がまるで爆発したような光に包まれる。その時、宇宙に二つ新しい星が出来るのだ。スターリフトは二つの星を生み出すと、残りの一生を両義肢で過ごす事となる。

クライフトは宇宙を旅していた時、自分が生み出すべき星に辿り着かぬままに、その何でもない小さな星が消える所を見てしまった。

彼は非常に悩んだ。

自分が星を生み出すべき場所はあと二ヶ月間宇宙を遊泳して辿り着く場所であった。彼は何故そんな名もない小さな星に想いを寄せてしまったのか。それは何でもない。星の消える様を初めて見たからだ。星は生まれる瞬間よりも、消える時の細やかな最後があまりにも美しかったのだ。それはさよからも告げずに去って行った人の最後のようにも思えた。

クライフトは消えて真っ暗になった宇宙をただぼんやりと眺めていた。彼は進路を変更させた。地球へ帰る為の軌道へと乗せる為だ。

彼は静かに手を合わせた。正門がお互いを吸い付いて離さないような感覚があった。彼は指先に痛みのようなものが走り、それがやがて電気のように弾ける感覚があった。彼はその消えてしまった星の位置を静かに見定めた。闇であった。誰もいない、そんな闇の中を彼は見た。

クライフトはぴったりと合わせた手を、勢い良く離した。宇宙船は閃光のに包まれた。そこからは出血によって薄れる意識の中、彼は帰路を行く宇宙船の窓に凭れるように座っていた。円い窓の外から見えた二つの星は彼が生み出した星がどうかはわからない。しかし、クライフトは何故か笑った。

彼は自分を生んだ母の痛みが分かったような気がした。

クライフトが見た三等星はその後約七百三十年後にこの世から姿を消した。当然彼はその姿を見ることはなかった。しかし、彼が示したその星の消える瞬間は、七百三十年後の世界の夜に、皆静かに見上げてその最後を見た。

やがて朝を迎える少し前に、新しい二つの星が生まれた。その星はやはり名前もない小さな星だった。

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