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猿+介護

うちでは猿を飼っている。

決して若くはない。年老いた猿である。これは私の小さい頃から居て、私に敵意を見せているような表情を今まで何度もした。私は猿の生態には興味がない。詳しく知っているわけでもない。ただ、あれのどういう時に発するのかもわからない金切り声が嫌いで、私は何度も泣いた事があった。その為にあれは私を蔑むような顔を見せるのかもしれない。

私がまだ幼い少女だった頃、その猿は家が貧しいにも関わらず太り始め、その身体は貧困に窮する幼子の空腹の腹の音を溜め込むように肥大していった。それから猿には新しい番いが出来た。その頃からは、家庭は豊かになり、猿は更に太った。

そして今度は私の苦痛を餌にし始めたのだ。

物々しく関節が浮き出た、しかし確かな脂肪を秘めているその指先は、浅黒くて醜い。猿はその手で私を何度も窘めた。何故そうされたのか、今ではあまりよくわからない。しかし、あれの目が、私は怖かった。私も猿が嫌いだったように、猿も私の事が嫌いだったのだろう。その時に心の中に出来た垢は、石化したようにその内壁にこびりつき、私の呼吸を浅くさせる。猿の姿を見る度に、何故か心臓が早く、そして痛く鳴くのだ。

私は少女から女性へと変わっていった。主人が出来、子供も出来た。そしてその時の流れに抗う事なく猿も老いていった。肥大化していたその醜い身体は、今では痩せこけ、目垢の溜まった虚ろな目は猿を更に醜悪にさせた。そして、それと同時に小さくもさせて行く。それはまるで、ろうそくが溶けてなくなっていくように、確かな歩調であった。

猿はもうあまり鳴かない。

日中の殆どを介護用のベッドで過ごし、何か話したと思うといつも昔の事や、同じ話を何度も繰り返した。私はそれに食事を作ってやった。毎日である。あれが食べやすいようになるべく柔らかいものを選んだ。しかし、離乳食のようなドロドロしたものは嫌った。形の残っているもので無ければそれをひっくり返し、自分のベッドを汚した。私がそれを拭いてやった。シーツも取り替え、汚れたものは洗ってやる。旦那は猿を手放そうかと言ってくれた。しかし、私は何故かあの猿が死ぬところを見たいと思っていた。だから世話をした。これが死んだ時、私は本当に泣くのだろうか。

そして、その時が来た。

娘が泣いて私を呼んでいた。

急いでそちらへ向かうと、娘は目を真っ赤にさせ、あれの部屋から出て来るところだった。

「ママ、ママぁ」

私はその小さな身体を抱いてやった。

「ミヨどうしたの?」

娘は何度も言葉を詰めながら話そうとした。

「おばあちゃんが、おばあちゃんが動かないの」

私は、その言葉に微笑した。

「ミヨ、あれはね。猿よ」

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