可愛い系ショタ男子:ジョシュア・デーヴィッド・ハワーズ
次の日には、エミリアが斡旋しなくても攻略対象の方自らが赴いてくれた。
「フィオナちゃん大丈夫?倒れたって聞いたよ」
攻略対象No.5ジョシュア・デーヴィッド・ハワーズ。王位第二継承者にしてフィオナのフィアンセであるエルバート殿下の弟君である。『カメコン』ヒロインにとっては唯一の年下ポジションであり、可愛いは作れる男子だ。
前世にてエミリアの好みは年上だった。最低でも同い年でいてほしい。なのでゲーム攻略時、彼は可愛いとは思うが年下のため何となく食指が動かなかった。ただしハーレムエンドに持ち込むためには全攻略対象をクリアするのが条件に入っていたため惰性でプレイした記憶を持つ。
もっとも、今はジョシュアと2人は同い年であった。悪役令嬢はヒロインの1つ年下の設定だったので仕方ない。隣のクラスから様子を見に来てくれたジョシュアは人懐こい笑みを浮かべフィオナの様子を窺った。
「大丈夫、ちょっと気を失っただけだから」
「そう。怪我はないの?」
「まぁ、怪我はね・・・怪我はないよ・・・」
エルバートの弟であるがため、フィオナとジョシュアは顔見知りだ。エルバートと交流があるのと同じようにジョシュアとも交流していた。なので自然と会話できるのは当然であるが、あんなにもイケメン拒否反応を示していたフィオナであるのにこの対応にはエミリアが驚いてしまった。
「フィオナ様、なんでジョシュア様には自然体で接せられるの?」
「だってジョシュは良い子なんだよ」
フィオナはジョシュアの頭を撫でつつ説明する。
彼はフィオナとの良い距離感を演じるのが相当長けているようだった。エルバートの婚約者であるためあまり近づきすぎず、けれども療養に行って田舎で暇をしているフィオナに季節の手紙を送る程度の気遣いを見せる。そうして貴女のこと分かってますよ感を出してフィオナの警戒心を解きつつ好感度を上げる強者であった。
併せてジョシュアは女子の母性本能を本気でくすぐりにくるタイプ。あざとかわいいが、彼にとってはそのあざとさが良いと武器になっている。成人してから十数年の精神年齢を有するフィオナのような大人(?)の女性が一番堕ちやすいタイプであった。
「ジョシュ、うちの領地のビワが、また今年も出来が良いらしいの。良かったら送るよ」
「わーい、嬉しい!ありがとうフィオナちゃん」
しかしそれは恋愛対象ではなくアイドルに対する熱のようなものだ。隣にいたいのではなく入れ込み応援したい対象としての存在であった。
それでは少しジョシュアの性格について触れよう。
彼もまた劣等感の塊であった。よくできる兄を持ち、それと比べられるストレスを常に感じながら生きてきたのである。その中で、処世術として他人を観察し空気を読むことに非常に長けることとなった。
一番抜け目なく狡猾であるのはジョシュアであった。そして、劣等感を持つジョシュアは兄エルバートを嫌い、彼を傷つけたい、彼の大事なものを奪ってやりたいという卑屈な願望を持つ。
ヒロインとの恋愛は、エルバートではなくそんなジョシュアを選んでくれる彼女の包容力の高さがキーとなるのであった。初めて安らぎを感じるジョシュアは、年上好きのエミリアも思わずキュンとさせられたものである。
「ジョシュにあげるんだからね。エルバート殿下には内緒よ」
「うん。2人の秘密ね」
2人は可笑しそうにクスクスと笑いながら、さながら仲良し姉弟のようであった。
それもその筈である。ジョシュアもフィオナも共にエルバートに対して劣等感を抱く謂わば同士である。ジョシュアは幼い頃からフィオナがエルバートを苦手とすることを感じ取っていたし、同じく卑屈な感情を抱きながら過ごしてきた。
ジョシュアにとっては兄の婚約者と兄よりも親しくなることができ、さらに同じ卑屈な感情を抱く同士として、フィオナは非常に都合の良い存在であった。フィオナも多かれ少なかれ似たようなことを感じ取っていたし、何せ自分に懐く素振りを示す男の子は年配者的精神年齢のフィオナには可愛くて仕方ないのである。
2人はエルバートを除け者にしながらほくそ笑む実に陰険な義理姉弟であった。
「仲睦まじい姿のはずなのに。陰険だ。すごく卑屈な空気を感じる・・・」
エミリアは愕然として2人の様子を眺めた。
「フィオナはいるかい。昨日、倒れたと聞いて様子を見に来たんだが・・・」
そうしてご都合主義のタイミングで現れるのはエルバートであった。途端、いつもは青ざめるフィオナも仲間がいることに気を強く持ち、2人でエルバートに陰険な笑みを向けるのである。
「エルバート殿下。ご心配なく。すでにジョシュがお見舞いで来てくれてますので」
「そうだよ兄上。フィオナちゃんの様子は僕が見てるから」
悪魔の笑みが見える。エミリアは2人の一糸乱れぬ連係プレイを見て、心からドン引きした。
きっと幼少期、2人が分かりあった時からこうして嫌がらせの如き行いをしていたのだろう。
しかし、相手は完璧人間エルバート殿下である。
「ジョシュとフィオナは本当に仲が良いな」
ピカーッと全てが浄化されるような微笑みだった。何なら本当に心の底からそう思っているだろうことが伝わる気持ちの良い笑みである。今までの逆恨みで泥ついた嫌な空気が一掃されるようであった。
「2人が仲良くしてくれて、私も婚約者の立場ながら非常に嬉しく思うよ」
ニヤニヤと相手の嫌がる顔を心待ちにしていた2人の空気は一気に萎んだ。何をしても敵わないのがこのエルバート・クライド・ハワーズ殿下でありジョシュアの兄なのである。
「はぁ、どうも。それは、何とも」
「兄上に、喜んでもらえるなら。ええ。こちらもね」
先ほどまでの喜びようも幻かと言うように、2人は眩しい存在であるエルバートにやっとこさの返事をするのであった。




