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プロローグ

 ここは、上流階級の貴族・騎士・王族だったり、財を持つ商人だったり、はたまた才のある一部の平民だったりが通う王立カメリア学園の高等部。

 学園内は四季折々の植物が花開き実を結び、通う者の目を喜ばせる。校舎内には上流階級子息のための充実した設備が整い、不自由など感じることなく通うことのできる学園である。そんなどこの家でも自分の子供を通わせることに憧れを抱く学園に今年入学した1人の少女は、校舎を目の前に憂鬱を露わにしていた。

 肌理の細かい肌は日焼けをしたことが無いかのように白く透き通り、その整った顔立ちは全てがここに完璧に配置されていると言われるが如き比率を保つ。触れただけで壊れてしまいそうなか細く華奢な体は小さく、他の庇護欲を刺激することだろう。

 美しく儚げな少女は校舎を見上げ、そっとため息を漏らした。そうして、周りに人がいるかを確認してから自らの内にある不安をこぼしてしまう。


「こんな凄いところで、私、やっていけるのかな・・・」


 彼女の愛らしく瑞々しい唇はへにゃりと曲げられ、自信の無さが眉に現れていた。そこに、また1人女生徒が現れ力づけるかのようにその肩に手を置いた。


「フィオナ様、何ビビってんですか。見つけるんでしょ、運命の恋人」

「いや、やっぱり私にはムリかな・・・」

「何をそんな弱気になってんですか!」


 彼女とは正反対のはきはきと快活な少女はフィオナと呼んだ少女の視線を自分に向けさせると、満面の笑みでエールを送る。


「『カメコン』の悪役令嬢として名高いフィオナ・ニコラ・ボイル様が、そんなんでどうすんですか!」

「だから、『カメコン』なんて知らないよう」


 彼女たちには前世の記憶があった。エミリアは前世でしがない普通の女子高生だった。ちょっと恋愛シミュレーションゲームの好きな。そうして、彼女のプレイしていた恋愛シミュレーションゲーム『カメリア学園で今夜パーティを』略して『カメコン』の世界は、今目の前に広がっているのだった。

 最近は、『普通のちょっとオタクな日本人女子が死んでしまい、ふと来世で前世の恋愛シミュレーションゲームの中に迷い込んでしまう』っていうのが流行りなのだ。エミリアも自身で体験できるなんて、感無量の出来事であった。


「と言うか、『カメリア学園で今夜パーティを』(笑)って。最近は何でも題名が長いのね」

「うるさい。全国の『カメコン』ファンにケンカ売る気か」


 転生ものなんて言ったらエミリアの記憶では、大体がヒロインに生まれ変わって正統派な恋愛をするか、悪役令嬢になって誤解を解きながらサヨナラ逆転勝ちを狙うかが一般的である。「悪役令嬢の取り巻きに生まれ変わるなんて微妙。私ってマイナーなのね」なんて初めのころは呑気に考えていたが。

 ちらりとフィオナに視線を送る。目の前で何も分からないまま校舎を不安げに見上げるフィオナに、校舎内に誘導しながらエミリア・ノーリーン・サールは力強く伝えるのである。


「とにかく。悪役令嬢のサヨナラ逆転勝ちは今流行ってんだから!悪いようにはしないよ!」


 これは、フィオナ・ニコラ・ボイル悪役令嬢が、没落すること無く恋愛をするための、熱き戦いを記した物語であった。

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