006 魂の輝き
初手は上手く行った。
親友の考えた通り、タラブの放った技はミオぴー自身に通じなかった。これで敵が特技の効果が無いと気付くまで、多少の時間稼ぎにはなるはずだ。
今は一秒でも長く時間が必要だった。時間を延びれば延びた分、参道区に辿り着ける可能性が上がる為だ。
アイネは移動魔法によって、タラブとの距離を稼ぎつつ、移動阻害魔法によってタラブの動きを断続的に停止させていた。大きく離すことは出来ないが、それでも近くで暴れ回られるよりはマシである。
視界に捉えたタラブが地面を蹴り跳躍する。爆発的な推進力を得て進む体は、瞬間移動系魔法のようだ。
ミオぴーはタラブに向き直り云い放つす。タラブの構えた刀から目を離さずに。
「同じこと何べんもしよってっ! 人形みたいなやっちゃなアンタこそっ!」
「……ぴいぴい喧しいネズミだよっ!」
上段から振り下ろされる刀に炎が纏う。ミオぴーは防御をしない、多少だろうとダメージを与える為に拳を振るう。それに、自身が拳を振るえば振るうだけ、相手の攻撃はこちらに集中するはずだ。
身を焼こうとしていた炎を伴う一撃は、ミオぴーに触れる前に空間に阻まれる。アイネかダマの魔法のお陰だろう。
タラブへカウンターを仕掛ける為に後方に重心を移動する。
(とにかく距離を稼げばええんやろっ!)
スリングショットのように打ち出した拳は、タラブのがら空きの腹にめり込む。
間髪いれずにタラブの首へ片手を回し体重を掛けて引く。重心を崩されたタラブは前傾になる。反射的に起き上がろうとするタラブの重心が後方へ向かう力を利用し、体ごと前方へ飛び出す。超低空飛行の跳躍後、着地と同時に回転し蹴り払う。
飛ばされたタラブはゆっくりと立ち上がると目を細めて楽しそうに云う。
「……逃げるだけしか能の無いウサギかと思ったんだけどねぇ。そうこなくっちゃなぁ。いやしかし、どういう手品でお前らは無傷なんだい?」
「いやいや、逃げるだけやし。教えへんで?」
不思議そうに聞いてくるタラブを相手にせず「ほなさいなら」と、仲間達の元へと飛ぶ。
野性動物の如くに機敏に跳ね、あっという間に仲間に合流する。
アイネに「どや! これで結構距離稼げたやろ」と云うが、返ってきたのは小言であった。
「今のは危険すぎやろー。アイツが特技使わんかったらピンチやんか。ミオぴー以外にアイツの攻撃に耐えれるのおらんねんから、気ー付けーよー」
ジトりと見つめるアイネの視線から叱られた様な気分になる。堪えきれず目を反らし、アイネの隣に立つソードフィッシュを見る。彼は救出してからこの片、全然話をしない。その上、顔も凄く疲れているように見えた。
ソードフィッシュのMPはほとんど空だ。ミオぴー自身、体力が減ってくると敗北感のような物が心に溢れる感覚がある。そう云うのが関係しているのだろうか、とも考える。
(……まぁ喋らんのは元からか)
「ソードん何か老けた?」
「冗談を言ってる場合じゃないだろう」
「また息子さん怒る見たいに怒られてもた~」
「……息子? 何のことだ?」
「えっと、冗談云うてる場合やないやろ?」
そう云うと、ソードフィッシュは訳が判らないと云った表情を見せる。云ってはならないことを云ってしまった気がして、慌てて誤魔化す。
「あぁっ! アタシの従姉妹の子供の話やったわぁ、ごめんごめん」
「混乱し過ぎだ。そんな状況ではないぞ」
ざらりとした感覚が心を撫でる。それは不安のようにも感じたし、何故か高揚のようにも感じた。その高揚を忘れるように思考を切り替える。
ソードフィッシュが子供のことをとても大切にしていたのは、良く記憶にある。その子は電車が好きで、嵐山にはトロッコにも乗りに行ったと話していた。
けれど、そんな彼が「冗談」と云う。しかし、それは冗談では無いし?彼がその様なことを云うことの方が冗談と云うものだろう。
〈イズモオオヤシロ〉で彼に何が起きたのだろう。そんなことを考えていた。
「ミオぴーっ!」
アイネの呼び掛けでハッとする。
今一番優先するべきは生きてここを出ることだ。ミオぴーが後ろを振り返ると、タラブは刀を横薙ぎに払おうと、刀を引いていた。
左足で大地を蹴り、回転する。その動作でタラブへと向き直る。直撃を避ける為バックステップで距離を取る。タラブの一刀は脇腹を切り抜けた。タラブは刀を手のひらで器用に返す。直ぐに切り返しの刀が迫る。ミオぴーは返しの刃と逆方向へ回り込むようにステップを踏む。影を伴いタラブの背後に回り込んむ。タラブの刀は空を切った。タラブが向き直るより速く〈エアリアルレイブ〉で上空に打ち上げると、空中で回し蹴りをあびせる。
タラブが後方に飛ばされると同時に背後に現れた〈フリップゲート〉を潜り抜け、タラブとの距離を取る。仲間達に合流すると、ダマが「お疲れはん」と、回復魔法を掛けてくれた。今のところ作戦は大成功だ。このまま参道区まで走りきる。そう心に決めて、第2ラウンドを開始する。
◆
先程の切り合いには少々肝を冷やした。
アイネは、こちらの技が相手にどの程度効果があったかについて振り返る。
まず、ゴゴルが弓を使い〈停滞の矢毒〉を放ったことに関しては、元々の効果である「大幅な行動速度の低下」は見られなかった。
次に、アイネが唱えた〈アストラルバインド〉は、視覚的に茨は出現するものの、1秒も持たずに消滅した。
それで判ったことはレベル差が尋常でない為、殆んどのバッドステータスが効果的を成さないと云うことだ。元より、効果があるとも考えて居なかったけれど。
ゴゴルの2射目と同時に〈アストラルバインド〉を唱えたのは偶然だった。タラブの特技ではない通常攻撃の2連撃がミオぴーに襲い掛かる刹那だ。
タラブが切り返しを行う瞬間、躊躇ともとれる停滞が僅かに生まれた。ミオぴーはその隙に〈ファントムステップ〉を使い、背後への回り込みに成功したのだ。
ゴゴルとアイネのスキルは確かに僅かだが作用していたのだ。ほんの一瞬の隙を作るだけしか出来ないが、ミオぴーを死なせないことが全員が生き残る条件である以上、アイネは有効な一手として戦術に組み込むことにした。
「ゴゴル、あーしの合図する時だけ矢を射るんやで」
「了解、ボス」
ゴゴルは、ことアイネの指示にだけは反発することは無い。ボスと呼んで慕ってくれている思慕は本物だとアイネは感じていたし、割りとお気に入りだった〈パンプキンマスク〉をプレゼントしたのも、そんなゴゴルが子分のようで可愛らしいからだ。
(あーしがしっかりしとる限り、あーしには手がもー2本あるよーなもんやな)
逃走劇も中盤に差し掛かり、もう少しで境内区に入る。手持ちの戦術は死と隣り合わせのギリギリのものでしかない。それでも今はそのギリギリに活路を見出だすのだ。
しかし、脳裏に不安が過る。視界の端に見えるMPの残量は半分を切っていたのだった。
◆
ソードフィッシュは仲間達の後を着いて行き、タラブを倒すための方法を模索する。
頭に過るのは〈口伝〉、秘宝級アイテムである、〈エーテルシャード〉を利用した〈エーテルバースト〉である。
しかし、MPが足りない。全開の状態で〈エーテルシャード〉に逆還元させる必要がある。今はその時ではないだろう。参道区まではまだまだ掛かる。
ソードフィッシュの体力はダマの回復魔法で回復しているが、それによって状況が好転するわけでは無い。ソードフィッシュは前衛職ではなく、〈妖術師〉なのだ。
アイネの戦術は良いものだったと評価する。タラブと比べると圧倒的にレベルの下回るミオぴーが無事なことがそれを裏付けていた。
(強制的な属性付与と、属性防御の魔法を組み合わせて使うとはな。確かにこの方法であれば、通常攻撃より高いダメージのスキルをそれ以下に出来るだろう)
アイネを見て、彼女もまた記憶に欠落が見られた事を考える。もしかするとアイネは既に気付いているかも知れないと思いつつ、彼女に話し掛ける。
「アイネの記憶の事だが、どうも死に過ぎた事が原因の様だ。私の記憶にも損傷が起きたことを自覚した」
「こんな時に何ゆーんよ!?」
答えるアイネはソードフィッシュを見ない。タラブの動きを把握し、戦術を組み上げる必要がある為だろう。彼女の云う通り、こちらの発言はこの状況下に置いてはノイズでしか無い。
アイネはタラブから目を話さずに云う。
「今更ゆーんもアレやけど、あーしは記憶無くなったん、ゆーほど気にしてへん」
そう答えるアイネの表情は真剣で、少しだけ寂しそうに見えた。それは寂しいでは無く、後悔と形容すべきかも知れない。
「あーしは多分、そんなに真剣に向こうでは生きてなかったっちゅー事やと思うわ。まー、まだまだガキやしな、しゃーないんちゃうかとか思っとる」
「真剣に生きる……か」
呟いたこちらに、アイネは目を向ける。そして、アイネは困惑した表情で聞いてくる。
「アンタ、逃げ回ってたんちゃうくて、死んでたんか?」
「そうなるな」
「やのに何で〈イズモオオヤシロ〉の入り口に帰還せんかったんや?」
「良く判らないが、強制的にその場で蘇生された感じだった」
「蘇生魔法っちゅーことか?」
「いや、規格外の強さだがアイツはゲームとしてのルールに縛られていると思う。タラブはあくまでも戦士職だ。蘇生魔法は保有していないと見て良い」
「せやったらどーやって蘇生すん……ねん! ゴゴル!」
「あい!」
アイネはソードフィッシュと会話を続けつつも、タラブへの行動阻害魔法を唱える。それに合わせる形でゴゴルも弓を弾く。
ソードフィッシュは、死の瞬間の記憶を辿りアイネへ伝える。
「あの刀が何かしていた感じだ。死ぬ時はいつもあの刀に引かれる感じがしていた」
それを聞いたアイネは何も答えない。彼女の中でも整理しきれていないのだろう。そんな彼女の代わりに口を開いたのはダマだ。
「〈落魄〉によって溢れた魄を、強制的に留めて置いて十分な量を充填後に肉体へ還元出来れば理論上は可能でおますね。そんなエーテルを貯めるような道具見たことあらへんどすけど。仮にそれが出来る道具があったとしても、通常の蘇生とは随分勝手が違うてはります。〈落魄〉時の欠片を全てひらうやなんて真似は多分不可能、かなり粗くひらわれて蘇生されはったんやと思います」
「ダマ嬢ちゃん、ちゅーんはアレっちゅーことか……」
「そうでおます。ソードフィッシュはんの魂は、蘇生の乱暴さから著しいダメージを受けてはると思います。それは……お二人の会話から察するに、記憶の部分に通常受ける損傷以上の被害があるんやと思います。他にもありそうですけど……」
ダマの云ったことに頷く。恐らくはエーテルを拾い上げる機能を持ったアイテムがあの刀なのだろう。これ以上仲間の意識を戦闘から離れさせるわけにもいかず、前を向き鼓舞する様に告げる。
「境内区に入るぞ!」
◆
境内区に入る。そこまでは無事に、作戦通りにこれたとアイネは評価する。同時に後一歩及ばないのでは無いかと云う不安が頭から離れない。アイネのMPは底を尽き掛けていた。参道区までの阻害系魔法を唱える為の量が明らかに足らない。このままでは、タラブの攻撃に耐えきれずミオぴーはいずれ死んでしまう。それは全滅を意味していた。〈冒険者〉の仲間達とは〈ナカスの町〉で合流出来るかも知れないが、他の、〈大地人〉仲間とは死別する。ゴゴルも恐らくは復活出来ないだろう。
(せやけど、ソードんの話やとあーしらも無事に復活出来るとは限らんか……どの道全滅はアカンねや、どーにかせんと。どーにか!)
失敗したと思う。相手の攻撃を無効化出来る事に喜んで、維持すると云う事が抜けていた。
アイネは仲間達のMPを確認する。ソードフィッシュは1割も無い。エリューと、ミオぴー、ゴゴルは共に3分の1と云った所だ。ダマはと云うと、まだ半分以上温存していた。
(リアクティブヒールで温存してると云ーても、余力やな……)
アイネはタラブから逃走を続ける仲間達に向かい伝える。後少しだけ延命する為の作戦を。
「あーしのMPが足らんから、みんなのMP分けて貰うで!」
一度足を止めて、唱える魔法は〈マナチャネリング〉、これによってパーティーメンバーのMPが均一化する。体に力が流れて来くる。それは軽い頭痛を伴っていた。回復したMPで、ミオぴーに迫るタラブに対し〈アストラルバインド〉を唱える。続く連撃を〈エレメンタルシェル〉でカバーする。再度タラブが攻撃を行う、これに対してはダマの魔法でカバーする。
しかし、ミオぴーの悲鳴によって戦術が機能しなかったことを知らされる。
大きく飛ばされてアイネの足元で倒れたミオぴーを見て、アイネは慌ててダマに〈ヒール〉を要請しようと横を見る。
―いよいよ敗北が迫って来ていた。
ダマは息も絶え絶えと云う様子で頭を抱え蹲っていた。彼女の口から漏れる嗚咽が、正常では無いと警鐘を鳴らす。ダマのMPの残量は不可思議な点滅を繰り返していた。
タラブは立ちはだかるゴゴルとエリューに刀を振るいゴゴルが飛ばされた。エリューはタラブの太刀を合い口で受け止めるも、力で押し負けて吹き飛ばされる。タラブはこちらに刃先を向けて嘲る様に云う。
「なんだ、どうした!? 早く逃げなよ! 走り回らなきゃ狩りはつまらないじゃないかっ!」
万策尽きた。アイネは仲間達の姿を見て、絶望した。
◆
頭が痛い。割れそうだ。
アイネが魔法を唱えた直後だった。
身体中から力が引っ張られる感覚を覚え、それはやがてとてつもない頭痛となってダマを襲った。エーテル体の比率が高いと自覚していたこの体は、彼女の魔法に敏感に反応した。相性が悪かったのだ。魂を削られる様な感覚に襲われ走る事も、仲間達を見ることも忘れてしまっていた。
横を見るとアイネが悲痛な面持ちで立ち尽くしていた。そしてタラブは笑っている。私達は負けてしまうのだろう。
そんな風に思った時だ。アイネによって再分配されたエーテルが一際輝いて見えた。その輝きはソードフィッシュから放たれていた。彼は手にした宝石の様な石にエーテルを集束させている。それを見たタラブはつまらない物を見るように云う。
「またそれかい? 懲りない奴だね。無駄な足掻きは評価を下げるぞニンゲン!」
ソードフィッシュはタラブの挑発に乗らず、エーテルの集束に集中している。通常の魔法では見た事の無い密度に凝縮されたエーテルは唸りを上げる。
石はソードフィッシュのエーテルを喰らっている様に見えた。それに、〈マナチャネリング〉の再分配にも干渉をしていた様に思える。
ソードフィッシュが石の前に手をかざすと、集束されたエーテルは箍が外れた様に光の瀑布となって進む。属性などは無い、単純なエーテルの奔流がタラブにぶつかり粉塵を巻き上げる。
「……」
ソードフィッシュは「これでMP切れだ」と云う、それはつまりタラブが生きていれば打つ手が無くなったと云う意味だろう。ミオぴーは座り込んで前を見つめている。粉塵が晴れて来る。
「よし、もう良い」
ソードフィッシュは仲間に向かって云う。切迫した様子も無く、達成感に満たされた様子も無い。ダマには淡々と呟いたと云う感じに聞こえた。
「皆、俺《、》を置いて撤退してくれ。その次はアイネが足止めをして、最後はミオぴーだ」
ソードフィッシュは、決死を覚悟でダマ達を逃がせと云ったのだった。自らの記憶を犠牲にしてでも、自分達〈大地人〉を助けろと云うことだ。
ダマはソードフィッシュが話してくれた向こうの世界の事を思い出す。彼には家族がいたと云う。しかし、今彼がそれをどこまで覚えているかは判らない。強引な蘇生の代償は、自分自身が一番良く知っている。
だからこそ、これ以上彼に無理を強いることはしたく無かった。随分と我儘を聞いて貰った仲間達だ。自分の我儘にこれ以上付き合わせてはならない。痛む頭を無視して、膝に手を付き立ち上がる。
「……アイネはん、もういっぺん〈マナチャネリング〉唱えてもろて構いませんか?」
「ダマ嬢ちゃん? かまへんけど、もう意味無いで……」
ソードフィッシュが「早く撤退しろ」と横目を向ける。ダマはそんな二人に「大丈夫」と短く答えて、覚悟を決める。只1つの可能性を賭けて。
アイネが〈マナチャネリング〉を詠唱した。体からエーテルが抜ける感覚を感じたダマは、そのままソードフィッシュの元へと行く。
彼は「何をしてるんだ、ダマ」と困った様な、ともすれば泣きそう顔で聞いてくる。こんな表情も出来るのかと思うと自然に頬が緩んだ。
ダマは、ソードフィッシュの手にある石に触れる。
もうちょっとだけでも、こうやって旅をしていたかったかな。なんて事を思いながら――
◆
ソードフィッシュは手を添える様に〈エーテルシャード〉を触るダマを横目に見ていた。
アイネの〈マナチャネリング〉をきっかけに、彼女の体は緑色の光に包まれていた。そして同じ色に輝くエーテルシャードは共鳴している様に甲高い音を鳴らす。
エーテルシャードの充填は瞬く間に完了した。
粉塵が晴れると、タラブが刀を構えて立っていた。その体力は半分も残っていない。
「どうせ、最初の様な出力はもう出ないんだろう? 出るならとっくに出してるもんなぁ?」
どこまでも傲慢なタラブに目掛けて再びエーテルの解放を行う。〈エーテルシャード〉の充填が空になる瞬間、再度充填が始まる。ソードフィッシュは手の甲に痛みを覚えて目を向ける。そこにはダマの立てた爪が深く食い込んでいた。傷口は深く、小さな穴まで見える。
(どうしてダマの指越しに傷が見えてるんだ)
今はそれよりも、とタラブへエーテルの流れを上乗せする。目も眩むフラッシュグレネードの如く目映い光が視界一杯に広がって行く。
視界が戻った後、目の前のタラブは消えていた。
「やった……のか?」
ソードフィッシュは仲間達を見る。そして、胸に穴が開いたような感覚に溺れそうになった。
ダマの体は今にも世界に溶けて消えそうな位に透けていた。それは1つの終わりのように感じた。
仲間達も勝利の余韻に浸ることは無く、ダマの姿に呆然としている。
ダマは穏やかに見える表情で云う。
「あぁ、良かった。ほんまに……」
「何が……えーちゅーんや」
アイネも悟ったのだろう。ダマの状態と、これからどうなるのかを。ダマはそれでも悲しい顔を見せずに云う。
「うちら〈大地人〉かて、自分の意志で動けるんどす。人形やったらこんな真似出来ませんよ? そうでっしゃろ」
その台詞は、エリューに向けられていた。エリューは何も言わずにその言葉に只頷くだけだ。彼の表情は苦悶に満ちていた。
「うちの我儘に付き合うてもろて、ほんまおおきに。そしてすんまへん。〈冒険者〉の皆さんがどうか、自分達の世界に戻られる様に……」
その言葉を残して、ダマは世界に溶けて消えていった。
―こうして〈イズモオオヤシロ〉でのソードフィッシュ救出劇は成功に終わった。1人の〈大地人〉の犠牲と共に。