003 不死身の冒険者
リファクタリング完了。
2日前にミノオの宿を出発して能勢地方の街道を東に進み続け、一行は亀岡辺りまでに来ていた。森林を直線的に進めば倍以上の速さで進むことも出来たが、先導するダマは〈大地人〉である。出来るだけ安全な道を進もうと云うのが旅の方針だった。ダマが〈ミノオの街〉まで来るのに使ったと云う道を進んでいる。
先導する彼女が「後少しでおます」と振り返った場所は河原であった。彼女は疲れた様子も無く話す。
「この川に沿って下って行けば〈ストームマウンテン〉に入ります。半日も歩けば着くかと」
「半日やってぇっ!? まだ歩くんかぁ……」
桂川に沿って下るのは、以外に骨が折れた。元々山の合間を縫って流れている川だ。右へ左へ山を声ながらの旅路となる。山と山の間には、錆び朽ちた梯子のようなものが掛かっている。それを指差してミオぴーが訊く。
「なぁなぁ、あれ何なん? めっちゃボロいけど」
先を行くダマには聞こえないようにして質問に答える。
「あれはトロッコの線路だ。亀岡~嵐山を繋いでいる」
「鉄っちゃんやるやん~」
「息子が好きだから一緒に乗ったことがあるだけだ」
「やるやん~」
ソードフィッシュは、現実世界のことをダマ達〈大地人〉に話すことを避けていた。家族のこと等は話すのだが、文明や土地については触れないようにしている。禁忌に触れてしまうのでは無いかと云う考えが過る為だ。
〈ストームマウンテン〉は元々の世界において、紅葉の観光名所である。〈セルデシア〉においてもそれは同様であったが、今は梅雨の頃である。雨は降っておらず、初夏の訪れを告げる暖かな陽射しが肌に当たる。紅葉の代わりに青々とした紫陽花が、露に濡れて陽光を反射していた。
ソードフィッシュは後ろを歩く少女二人を見やる。金髪で褐色肌のギャルを思わせる出で立ちの〈冒険者〉ミオぴーと、修道服をだぼつかせて着ている〈大地人〉の少女ダマである。
ミオぴーはこの旅程で20レベルまで上がっていた。この世界に誘われてからも初心者に配布されていた〈EXPポーション〉と、師弟システムを使ったパワーレベリングを行った成果である。基礎体力は〈大地人〉の成人男性程は成長しただろう彼女に疲労の影は見えない。──ただし文句は多い。
そんなミオぴーとは対称的なダマである。呻き声を挙げながら足を運んでいる。彼女は冒険者と比べると、成長が遅かった。今のレベルは18であり、ミオぴーには抜かれてしまっている。それでも大地人としてはかなりの成長速度に違いないと、ソードフィッシュは考えていたし、問題とは考えていなかった。
ダマは大きく深呼吸をし云う。
「あの橋を越えれば、じきに寺院です」
「渡月橋か、家族三人でよく旅行に来たことを思い出すな」
「あー。アタシも遠足で来たことあんで」
「トゲツキョウ? なんや変わった呼び方でおますね」
「すまない、我々のいた世界での呼び名だ。気にしないでくれ」
「是非そちらの世界の話云うんも今度訊かせて下さいねぇ。今回はもう終着点でおますし。あそこに建ってるんが、修道院どす」
◆
〈ストームマウンテン〉周辺は街としての機能はもっておらず、人の住むことができるエリアと云う位置付けであった。〈大地人〉の家々も見当たらず、街道と、大きな修道院があるだけだ。ダマによると、修験の地である為に人は滅多に来ないらしい。月に一度、行商が来て生活雑貨を補充しているそうだ。
大きな石造りの修道院の前までやって来た一行は、門の前に立つ女性に声を掛けられる。
「ダマさん、お帰りなさい。何や増えましたなぁ」
そう云って、迎えてくれたのは、背の高い初老の修道女であった。彼女に対し「ただいま」と返したダマは、ソードフィッシュ達に振り返り云った。
「ここの取りまとめをしてくれてはるジュリさんどす。うちの育ての親みたいなもんですわ。ジュリさん、こちらはミノオまで探しに行った冒険者はんでおます」
「よう見つかりましたなあ。良かった良かった」
「早速やけど、一泊したら〈フシミの村〉まで行くからまた暫く帰りまへんよ」
「無理はせんようにね」
ソードフィッシュ達も会釈をしてダマに続いて修道院に入る。ダマは部屋の一つに入り、一行を招き入れる。部屋には、大量の本が散乱していた。足の踏み場すら定かではない。
「まぁ、適当に座っておくれやす。うちは身内に挨拶回りして来ますんで」
(座る……? 足の踏み場すらないこの場所でか!)
そう言うとダマは部屋の外へ出ていった。散らかった部屋には二人だけが黙してたっている。ミオぴーを見ると、何かを云うべきかどうか迷っている様子だ。まずはソードフィッシュが口火を切る。
「えらく汚いな」
「どストレートっ! 何かもうちょいマイルドな云い方あるやろ? 無いか。これは無いかな……」
ソードフィッシュは散らばった本を隅に避け腰を下ろす。ミオぴーもそれに習い腰を下ろした。修道院は石造りだった。木造の建物に親しみがある日本人からすると、無機質で冷たい雰囲気のある建物だ。6月も半ばと云うのに寒いと感じる。
「木の家の有り難みが何か判るわぁ。おしり冷たいし」
「壁紙をどうにかして床を貼れば改善しそうだがな。鉄筋コンクリートのマンションなんて最近では珍しくも無いだろう」
ミオぴーは「冷たいわあ」と云って本を尻に敷く。座布団の代わりと言わんばかりだ。ソードフィッシュはそれを見て云う。
「本はそう言う風に使うものでは無いぞ。代わりのものを探せ」
「何やねん。子供に云うみたいに云わんとってや」
「うちの子供でもやらんことをやるからだ」
「そう言えばソードんとこのお子さんって何歳なん?」
「五つだがそれが何か?」
「いやいや。ガールズトークにそう云うの求められても困るわ。何も出えへんから。んじゃ次の質問、性別は?」
「男だな」
「へえ。やっぱり子供って可愛いもんなん?」
「当たり前だろう。下らんことを訊くな」
「……そっか、ゴメン」
ミオぴーは表情を暗くして黙り混む。初めて見る表情にソードフィッシュは言葉を探す。
(まぁ、全ての家庭が愛情に溢れている訳でも無いか。現実世界のテレビでもネグレクトの話題には事欠かなかったし)
「いや、謝るのは私だ。すまない、思慮が足らなかった。許して欲しい」
「えっ!? いやええよええよ! 気にしてへんし!」
そう云って笑うミオぴーの声には無理を感じた。
一呼吸置いてミオぴーは云う。
「うちんとこアレやねん。ネグレクト? 云うヤツ。両親揃ってな。昔からやからさ、今さらめっちゃ傷付くとかはありえんねん。やけどさ、普通の親やったら、自分の子供どう思うもんなんやろって、気にはなるんや。
んで、ソードんは当たり前って位、息子さんが大事で、やっぱそれって普通のことなんやろ?」
「少なくとも私の家庭、狭い世界では普通だ」
「そうなんやね。息子さんも幸せやな。……ええな、ちよっと羨ましいかな」
「君が親になる時に、それを普通にしてやれば良い。今を継ぐかは君の意思次第なのだから」
「ありがとう。結婚出来るかが問題やけどな。出来ると思う?」
「知らん」
「ええ、冷たいなぁ~っ! そこは応援するとこちゃうんかいっ!」
表情を明るく変えミオぴーは云う。いつもの調子が出てきた彼女に安心する。表情が豊かな少女だと思う。喜怒哀楽がハッキリしていて、それはソードフィッシュからは薄れていったものだ。子供達が持つ純粋な表現である。ソードフィッシュは自身の子供を思い出し、目の前の女子高生と比べる。
「大差無いな」
「あーっ! 何笑ってんねんっ! 絶対バカにしたやろっ!?」
暫くしてダマが戻って来た時には、ミオぴーは膨れっ面をしていて、ダマは「何事?」と目を丸くしたのだった。
◆
結局、修道院では10日も過ごしていた。この10日で判ったこととして、ダマの準備の遅さがあった。彼女は準備をすると云って部屋に篭ると、全く出てこない。部屋にある本を読み耽ってしまうのだ。その都度「堪忍堪忍なぁ」と謝ってくるのだが、一向に改善の気配は無い。
〈フシミの村〉までは、〈ストームマウンテン〉から桂川を左手に見て街道を南下し、鴨川を渡り、半日で辿り着いた。
〈ミノオの街〉と同じく、大きな街ではなく、中規模の村としてデザインされた場所であった。ソードフィッシュはゲーム時代から〈フシミの村〉に寄ったことが無いことを考えていた。エルダーテイルでは様々な場所に様々なクエストがあり、クエストを全てコンプリートするには途方も無い期間が必要だった。
(いや、時間がいくらあっても全ては回れないだろうな。日本サーバーだけだとしても困難だろう)
そして、それだけのクエストがあると云うことはする必要の無いクエストも、やはりそれだけあると云うことだ。必要に迫られるクエストと云うものは厳密には無い。しかし、特定のクエストで得られる報酬は役に立つと云ったものであれば、それはゲームを進めるにはあった方が良い。そう云ったものが必要なクエストと呼べるだろう。
〈フシミの村〉は特別なクエストは無い。〈ミノオの街〉もそうだが、そのようなゾーンは大抵物好きの為のエリアでもあったのだ。故にソードフィッシュに馴染みは無い。無論、現実世界では観光に来たこともあるし、伏見稲荷大社は好きな観光地の1つである。
「ここが〈フシミの村〉? 静かなとこやなぁ」
ミオぴーの云う通り。〈フシミの村〉はとても静かで人の気配すら無かった。〈ミノオの街〉ですら大地人の農夫や、商人がいたにも関わらず。村の家々は静まり返り、梅雨で出来た水溜まりがそこらにある。
(何だ? そう云う設定だったのか? いや……家屋はある。人だけがいない?)
「もう少し見て回ろう」
そう云ったソードフィッシュに声を掛けるのはダマだ。ダマは腕を組み、疑問を口にする。
「おかしいどすな。一月前に用事で来た時はもっとようさんいはったんやけど」
「なぁなぁ、あそこ赤い鳥居めっちゃあるでっ!」
ミオぴーが指差した先には朱色の鳥居があった、それもいくつもだ。小さな家屋ばかりの村に、連なる鳥居は異質なもののように感じた。
(〈フシミイナリ〉か。〈エルダー・テイル〉で行くのは初めてだな)
「行ってみるか」とソードフィッシュは云って〈フシミイナリ〉を目指し、歩き出す。
◆
─もう何日、ここにいるだろう。そもそもどうしてここにいたのだろう。
少女は思い出していた。自分が守ろうとした人々を、そして彼らが居なくなっていく時の絶望を。
(〈冒険者〉と〈大地人〉は違う……〈大地人〉は〈セルデシア〉の民や。なら、あーしら〈冒険者〉は何なんやろか? あかんやっぱ判らん。
記憶がちぐはぐや。何やねんこれ。ゲームをしていたのは覚えとる……けど何やこれ)
少女は夕日が微かに漏れる夕日よりも赤い鳥居の前で思案する。
〈フシミの村〉の人々はとても優しくしてくれた。宿も食事も世話になった。いつから村にいたのかは思い出せない。〈ミナミの街〉にいたような気もするのだけれど。思い出そうにも頭の中で上手く記憶が纏まらない感じだ。
それは棚上げ出来る問題だと少女は思った。今はそれよりも優先しなければならないことがあるのだ。
少女は村で泣いていた男の子を思い出す。〈フシミの村〉にはもうあの子しかいない。他の村人は守れなかった。
その日も夜が来る。
(もーあの子しかおらん。何があっても守らなアカン。この村には衛兵なんておらんねやから。あーしが何とかせんと)
そう、もうあの男の子しか〈大地人〉はいない。今まではもっと多くいた〈大地人〉も、死んでしまったのだ。その元凶が今夜もやって来るだろう。
毎夜毎夜、この村には〈幻霊〉が現れた。そして〈大地人〉を殺していく。何の為にそんなことをするのかは判らない。ただ、そんな暴虐を許してはならないと思った。
毎夜毎夜、〈大地人〉を守ろうとして戦った。けれど力が足りなくて死んでしまった。何日が過ぎただろうか、ついにはあの子を残して村人は殺された。
そして今日もまた、〈幻霊〉が現れる。〈フシミイナリ〉からやってくるのは判っていた。〈フシミの村〉には行かせまいと待ち伏せしていたのだ。
(レベル50 、〈幻霊〉。あーしのレベルは45。今日こそは守りきって見せる)
少女は〈アストラルヒュプノ〉を唱え、〈幻霊〉を眠らせる。レベル差がある為、その効果時間は僅かだ。次に〈キャストオンビート〉を唱えた。〈キャストオンビート〉は直後に使用する魔法を二つまで即時使用可能にするものだ。即時使用する魔法は何れも自己強化だ。〈コンセントレーション〉と〈エンハンスコード〉。〈コンセントレーション〉は足を止め集中力を高め魔法の威力を高めるもので、〈エンハンスコード〉は精神を集中し次に放つ魔法の威力を高めてくれる。
(〈付与術師〉やってなぁ……やり方次第で〈妖術師〉とタメ位張れるっちゅーのっ!)
少女が放つ魔法は〈エレクトリカルフィズ〉。重ね掛けした強化魔法の効果により雷球は巨大化している。少女が放った雷球はまばゆい閃光と共に〈幻霊〉に直撃、体力は3分の1程削られる。眠りから覚めた〈幻霊〉は少女に向けて爪を振るう。〈付与術師〉は元々白兵は得意としない職業である。たった一撃で大きく体力が消失する。一撃を受けた後、〈アストラルバインド〉を詠唱し敵の動きを阻害、そのまま距離を取る。
(〈キャストオンビート〉のリキャストタイムはまだ続いてる……何とかダメージを与えんとアカン。あーしのスキルランクやと、追加ダメージは2発。せやけどダメージ稼ぐんならこれしかないっ!)
少女は〈ソーンバインドホステージ〉を唱える。〈マインドボルト〉、〈ナイトメアスフィア〉と続けて詠唱する。それぞれの魔法に、〈ソーンバインドホステージ〉の追撃が加わり敵の体力を奪う。反撃を行うかに思えた〈幻霊〉は、少女を見るのを止め、〈フシミの村〉の方を向く。
(〈ヘイトリセット〉したっ!? 村の方へいくつもりかっ!)
〈幻霊〉は村に向かってものすごい速さで進み出した。少女が獲得していたヘイトがリセットされた為だ。少女はスキルパネルから瞬間移動魔法を選択し詠唱、〈幻霊〉の前に立つ。
〈幻霊〉の一撃を背中から食らった少女に〈幻霊〉の追撃が迫る。少女の体力ゲージはレッドゾーンに差し掛かっていた。この状況を引っくり返す術は彼女には無い。
(結局守れへんのか……くそったれっ!)
崩れ落ちる少女が最後に見たものは、〈幻霊〉が村へと向かう姿だった。
◆
「おい。鳥居の前に誰かいるぞ」
ソードフィッシュがそう云って〈フシミイナリ〉の中に入っていくのをミオぴーは追った。フシミでの初めて遭遇する人間だ。〈大地人〉にせよ〈冒険者〉にせよ、情報を得られると思う。ミオぴーは鳥居を覗き込む。鳥居の前には一人の少女がうずくまっていた。ソードフィッシュ達を押し退けて駆け寄る。
「ちょいっ! 大丈夫かっ!? アンタ一人だけ……か?」
「ん……冒険者なんか? 誰や? あーしは……そーか、またアカンかったんやな」
ミオぴーは我が目を疑った。こちらに振り返った少女は黒髪のショートヘアに赤い瞳。空色のローブを纏ったその少女を見つめて表示されたテキストには、アイネ/レベル45、〈付与術師〉とあった。彼女は親友の顔にそっくりだった。
「愛音……?」
「ん……誰や?」
「うちやっ! ミオっ! ミオぴーやんかっ!」
「ゴメン。判らへん」
「冗談止めてや。笑えへんてそれ。愛音、無事やったんやな……良かった……ほんま良かった……」
ミオぴーはアイネを抱き締める。自分を〈エルダー・テイル〉に誘ってくれた、孤独を察し優しく声を掛けてくれた親友を、強く抱き締めた。そんなミオぴーをアイネは優しく突き放して云う。アイネは申し訳ないと云った顔で話す。
「ゴメン。正直判らへん。あーしな、記憶が所々飛んどるみたいやねん」
自分のことをあーしと呼ぶのは、ミオぴーの知る親友の癖だ。そして声色もだ。彼女は覚えていないと云う。それも冗談では無さそうな表情でだ。
「嘘やろ? チームのことも? 何もかも?」
「判らへん。ゴメン」
ミオぴーは、涙が込み上げてくるのを感じる。どうしたら良いのか判らない。この親友に掛ける言葉が見つからない。うつ向いたミオぴーに、アイネは穏やかに語り掛ける。
「しゃーかし、ミオぴーか……何や懐かしい感じはするで。このよー判らん世界で初めて逢った〈冒険者〉が、きっとめっちゃ仲良かったんやろー子で良かったかな……」
ミオぴーは溢れ落ちる涙を拭うこともせず、アイネを強く抱き締める。アイネの方もミオぴーの背中を優しく叩いてくれている。この涙が親友に巡り会えた喜びから出たものか、その親友が記憶を失ったことから出たものかは判らなかった。ただ、今は彼女の存在を感じていたかった。
◆
ミオぴーと冒険者アイネはリアルでの知り合いだったようにソードフィッシュは思う。けれども、両者のやりとりを見る限りは一方通行であると云えた。と云うのも、アイネはその時の記憶を失っているらしくミオぴーの事は覚えていない為だ。
(この世界に迷い混んだ時のショックで記憶が飛んだか? あり得ない話でも無いか……記憶障害になっている人物に遭遇するのは初めてだな。どこまで記憶があるのだろうか)
「アイネさん。私はソードフィッシュと云う。すまないが質問をさせてくれ。君は記憶が?」
「判らん。あーしが判るのはミナミから何でかフシミまで来てたってこと位や。何でフシミに来たんかがよー思い出せん」
「そうか。元の世界については?」
「元の? 〈エルダー・テイル〉のアップデート待ってたんとかは覚えとるな」
ソードフィッシュの質問に対しアイネは真剣に答える。
(ミナミから来たことは覚えている。と……何か引っ掛かるな)
「そうか、ありがとう。もう一つ聞きたい。ミナミから来たこと以外に覚えていることはあるか?」
「普通にあるけど……一月前とかはミナミの近くのダンジョンおったかな。もっと前ならミナミの〈冒険者〉たちとレイドをしたりもしてた」
「ありがとう。ところでこの村には君しかいないのか?」
そう問うとアイネは苦虫を噛み潰したような顔を見せうつむく。ローブを握りしめる拳は震えている。下を向いたままアイネは話す。
「今はそーやね。昨日まではまだおったんやけど。居なくなってもーた……あーし、守れへんかった」
「どういうことだ?」
「みんな殺されてもーたんや。あーしにもっと力があれば……」
「殺されただと? この村に何が起きているんだ」
「毎晩、〈幻霊〉が出るんや。そいつが……」
握りしめた拳に涙が落ちる。
「君はいつから〈フシミの村〉に?」
「よー判らん。気ー付いてから数えたんやと大体20日前位やと思う」
「ちょうど〈森羅変転〉が起きた頃でっしゃろか」
隣にいたダマが云う。顔をあげたアイネが「何やそれ?」と聞き返す。ダマは簡単に説明をすると「仮説でおますけど」と続ける。
「〈森羅変転〉によってフシミ近隣の霊的要素、例えば〈幻霊〉のようなモンスターが力を増幅させた。
……霊的要素、つまりエーテル体比率の高い個体でおますな。こう云うのはより強固な個体になる為に、エーテルの収集を行うことがありますの。その〈幻霊〉は、〈大地人〉を食らうことで、霊的要素の拡充を目指したんとちゃうやろか」
「しかしモンスターが自発的に村に侵攻するなんて、滅多にあることでは無いぞ。〈ゴブリン王の帰還〉でもあるまいし」
「今回の〈森羅変転〉で、それが滅多に無いものでは無くなったゆうのも考えられますなあ。まぁこの辺は今考えても判らんでっしゃろ。ところでその〈幻霊〉はどっから来てはるんでっしゃろか? 〈冒険者〉はん知ってはりますか?」
「〈フシミイナリ〉や……」
日没にはまだ早い。〈幻霊〉は毎夜現れると訊いた。〈幻霊〉の出所を確かめる為にも〈フシミイナリ〉へ向かうことをソードフィッシュは提案する。その提案にダマは肯定的な態度を示す。ミオぴーは暫く考えた後アイネを一瞥して云う。
「アタシはアイネに付いときたい。ゴメンやけど……」
ソードフィッシュは「別に構わんさ」と告げる。ダマも「せっかく会えはったんやしね」と云う。何が起きるか判らないのだから無理強いすることも無い。それにアイネにも休息が必要だと考えた。しかし、「ちょっと待って!」と異を唱えたのはアイネだった。
「あーし、皆を殺したアイツを倒したい。気がすまへんねん。守れんかった自分にも、奪ってったアイツにも……っ!」
「また負ける可能性だって無い訳じゃない」
「やけどっ! じっとしてられへん」
ミオぴーは、親友の悲痛な叫びを聞き顔を歪める。「アイネ……何でそんな……」語り掛けられたアイネは一同を見回し云う。
「あーし、フシミにいつ来たかは覚えてへん。やけど気ー付いてここにいた時、何でか知らんけどメッチャパニクってた見たいやねん。面倒見てくれたんよ、村の、〈大地人〉の皆が。毎夜襲ってくるアイツに皆は怯えてた。いつも死んで、失敗してまうあーしに、ありがとーばっか云いよんや。守れへんのに、それでもありがとーゆーて……
あーしは、フシミ来るまでの記憶が曖昧やねん。〈セルデシア〉では長いこと冒険してたと思う。やけど、その頃に〈大地人〉と仲良くしたりって無かった気がすんねん。冒険してたんも曖昧で……
あーしはさ、このフシミの記憶だけやねん。はっきりと、鮮明に思い出せるんわ。やから、この現実だけはちゃんと受け止めんとアカン思う。ちゃんと皆の仇打たなって……
せやから連れてって欲しい」
「私たちは〈冒険者〉だ。自分のケツを自分で拭けるなら、それを止める権利は無い。好きにしろ
……だそうだが、君はどうする?」
ソードフィッシュはミオぴーを見やり云う。「君が決めろ」とボールを渡す。ミオぴーは息を一度吐き出し、迷いを振り切るように強く云う。
「アイネと一緒にいる云うたやろ。アイネはアタシが守るっ!」
◆
〈フシミイナリ〉は鳥居で構成されたダンジョンだった。天井もソードフィッシュの頭の上より少し高い程度であり、横幅は三人並べば通路を塞いでしまう程度だ。ソードフィッシュは閉塞感を感じていた。
(狭いな……それに動き辛い。連携も自然と取り辛くなるか)
ソードフィッシュは後ろに続く同行者を眺める。すぐ後ろを歩いているのはアイネである。今回は彼女に対して師弟システムを使うことにした。彼女の話では〈幻霊〉はレベル50と云う。レベル20のミオぴーに合わせてレベルを落としてしまうと生存率はがくりと下がるだろう。今回の編成はソードフィッシュとアイネのパーティーと、ミオぴーとダマのパーティーでレイドを組む構成だ。
一行は通路が暫く通路を進むと半透明の霞のようなものに遭遇した。今回のレイドグループは基本的な戦闘はミオぴー達が行う。ソードフィッシュ達のパーティーは〈幻霊〉に集中する為に体力温存だ。ソードフィッシュが「回敵っ! レベル25、〈小さな精霊〉」と云うやいなや、後方からミオぴーが飛び出す。ミオぴーは飛び出した勢いのまま〈ワイバーンキック〉を繰り出す。
「こなくそっ! アタシが相手したるっ! かかってこんかいっアホんだらっ!」
ミオぴーの罵倒は〈ラフティングタウント〉となって〈小さな精霊〉のヘイトを彼女に向ける。次にミオぴーは足を大きく開き両腕を独特な形に構える。武道の心得があれば名のある構えに違いない。その構えは〈マンティスアクション〉として〈セルデシア〉は迎え入れる。
〈小さな精霊〉はミオぴーへ腕を伸ばし爪を立てる。その爪を上半身ののけ反りで回避する。
ミオぴーは両手が急に熱くなったことに気付く。何事かと考えようとした時。
「〈キーンエッジ〉やっ! やったれっ!」
親友のサムズアップに頬が緩む。
〈小さな精霊〉を跳躍と共に打ち上げる。打ち上げた推力をそのままに、左拳から横殴りの一撃を加える。その一撃をきっかけとして、無数の乱撃を繰り出す。上昇を続けながら右へ左へと敵を揺らして行く。重力に負け、自由落下を開始する中、ミオぴーは両腕で〈小さな精霊〉の体を拘束する。空中でひらりと身を返すと、〈小さな精霊〉を拘束したまま頭から地面に激突する。ガラス片へと姿を変えた〈小さな精霊〉を一瞥してミオぴーは云う。
「なんぼのもんじゃっ! 空手少女なめんなやっ」
◆
流れるような舞踏だった。元々〈冒険者〉は自分達〈大地人〉とは一線を介した存在だと承知していたダマであった。しかし、実際に目の当たりにすると認識が甘かったと感じてしまう。様々な〈冒険者〉の戦闘職業が扱う特技について、ダマは知識に明るい。先程の思わず魅了されてしまうようなミオぴーの舞踏について思い出す。
〈エアリアルレイブ〉、対象を蹴り上げて空中に浮かす特技だ。初撃はこの技を使って〈小さな精霊〉を打ち上げる。その後に繰り出した拳の一撃は〈タイガーエコーフィスト〉と云い、〈武闘家〉が連撃の初手に良く用いるとされる技だ、その後に連撃の技、〈オリオンディレイブロウ〉を放つ。ここまで繋いだ後に〈マンティスアクション〉からの連続実行で〈グリズリースラム〉によるフィニッシュを決める。
(理屈では大いにやれますけど、それを止まること無く続けて行くやなんて、うちら〈大地人〉には到底出来ひん。〈冒険者〉の身体能力はどれ程あるんやろか)
ダマは〈施術神官〉である。今のような攻撃を行う術は無いが、仮にあったとしても、ああは出来まい。我々〈大地人〉は、〈冒険者〉には敵わないのだ。だからと云って卑屈になるダマでは無かった。むしろ心の奥底から興奮する気持ちが湧き出て止まらない。ソードフィッシュは別格だが、このミオぴーと云う少女も存外面白い存在だなとダマは思った。
◆
ソードフィッシュ達は多くの戦いを経て、今までで一番大きな広間に出た。ソードフィッシュとアイネに戦闘の消耗は無い。ミオぴーとダマがレイドを牽引してくれたお陰だ。彼女達の顔には疲れが見えた。かなりの連戦だったとソードフィッシュは振り返る。MPの回復を待つ間も無く戦い続けていた。広間の一番奥、更に奥に続く通路が見える。そして、通路の前にモンスターの姿もあった。
「よーやくお出ましや。あれが〈幻霊〉や」
静かに怒気の孕む声だった。ソードフィッシュは後方のミオぴーとダマに振り返り、「ここからは我々の出番だ。少し休んでいると良い」と告げる。そして横に立つアイネに云う。
「私は近接戦闘職では無いから、ヘイト管理は期待するな。無闇にDD系を連発したら跳ねるぞ」
「何系って?」
「直ぐにダメージが入るような魔法を連発するなと云っている」
「あー、りょーかい。そーいや、アイツ〈ヘイトリセット〉するから、そん時跳ねてもしゃーないで?」
「了解だ」
ソードフィッシュは〈八式合口〉を抜刀する。続いて詠唱するのは〈オービタルブラー〉だ。これにより、攻撃を的確に当てることが可能になる。そして〈クローズバースト〉を唱える。コンバットメイジの基本となるこの魔法は、全ての魔法の射程距離を至近距離に制限する代わりに、破壊力を増大させるのだ。そして〈幻霊〉に向かって疾走する。ソードフィッシュの背中に声が掛かる。
「えっ!? ちょい何してんねん! ルートでスネアとか、MEZ待ちぃや!」
その声を後方に残し、〈幻霊〉の眼前に立つ。そして〈オーブ・オブ・ラーヴァ〉を唱える。身の丈ほど膨れ上がった業火は〈幻霊〉を包み込む。至近距離で燃える炎はチリチリと頬を焦がす。
ゲームの頃には無かった熱に内心驚く。以前はただダメージが増えるだけだったのだ。過剰な演出は嫌いではない。炎が消える前に次の魔法、〈ガシアスフォーム〉を唱え、ソードフィッシュの体は霧のように霞む。
炎が消え、雄叫びと共に腕を振るう〈幻霊〉の一撃は霧に当たっただけであった。逆手を振り薙ごうとする〈幻霊〉を見やり、〈ブリンク〉を唱える。〈幻霊〉の一撃は中空を切る。一瞬でアイネの横に戻ったソードフィッシュは、こちらを向いた〈幻霊〉へ〈アストラルバインド〉を唱えた。そして唖然としているアイネに云う。
「コンバットメイジと組むのは始めてか?」
◆
アイネは開いた口が塞がらなかった。メイジ系職業であるソードフィッシュが、突貫したことに声を挙げたが、制止させることは出来なかった。何を考えているのかと思えば、これもまた見たことの無い規模の〈オーブ・オブ・ラーヴァ〉を〈幻霊〉へ繰り出したのだ。
(〈妖術師〉とは何度も組んだことあるけど、〈オーブ・オブ・ラーヴァ〉ってあんなイカツかったか? それに一瞬で戻って来てスネアかいな。何やねんこの動き……)
当のソードフィッシュは「コンバットメイジと組むのは始めてか?」などと聞いてくる。そんなもの見たことも訊いたことも無い。彼に「何やそれ」と訊く、返事は「また後でな」であった。
(最初にきーたんお前やんけっ! やけど確かに、まだ何も終わってない。てか、あーしに至っては……)
「始まっても無いわなっ!」
アイネは〈付与術師〉だ。その役目は仲間の強化や、敵に対しての弱体化である。ダンジョンを進んでいる間、ミオぴーに掛けていたものと同じ、〈キーンエッジ〉を唱える。視界に入ったソードフィッシュの武器はナイフのような刃物だった。アイネはまたも自分の記憶に矛盾を感じた。
(何でメイジが刃物持っとんねん。このソードフィッシュゆーの何もんや)
首を左右に振り、雑念を振り払う。目の前の敵に集中するのだ。先程ソードフィッシュが掛けた〈アストラルバインド〉の効果時間はもう切れる。支援呪文を唱える時間を稼ぐために、〈アストラルヒュプノ〉で拘束を延長させる。〈幻霊〉は浅い眠り落ちた。続けて〈ヘイスト〉をソードフィッシュへ掛ける。彼に視線で合図し、〈幻霊〉へ〈ソーンバインドホステージ〉を唱える。〈幻霊〉はそれを切っ掛けに目を冷ます。
◆
アイネが〈ソーンバインドホステージ〉を唱えた瞬間、ソードフィッシュは〈ルークスライダー〉を詠唱し、〈幻霊〉の眼前に再び立つ。合口を振るい一撃を当てる。そこに〈ソーンバインドホステージ〉の追撃が乗る。〈ヘイスト〉によって加速したソードフィッシュは〈ライトニングチャンバー〉を唱えた。〈幻霊〉を五芒星の結界が包み込み、結界内で雷光が炸裂する。再度〈ソーンバインドホステージ〉の追撃が乗り、後方から放たれた魔法の矢が〈幻霊〉に突き刺さる。三度目の〈ソーンバインドホステージ〉が〈幻霊〉をガラス片に変えた。
(最後の矢はマインドボルトか? 良い判断だ)
コンバットメイジは体力の低い敵との戦闘は得意だ。逆は極めて苦手、寧ろ退却も検討すべきだとソードフィッシュは思っている。コンバットメイジの基本戦闘は移動系魔法を駆使した、至近距離による一撃離脱だ。敵の一撃が致命傷になり得るメイジ職では前線に張り付くのは自殺行為である。敵の攻撃を回避し易くなる自己強化は当然として、離脱時の拘束魔法も欠かせない。ここで問題なるのが各魔法のリキャストタイム管理だ。移動系魔法のリキャストタイムは短くない。後方への退却を自走に代えて運用することも可能だが、殲滅速度が著しく低下する。
元々コンバットメイジはソロプレイ向けであり、パーティープレイなどはソードフィッシュも経験が少ない。パーティー参加を申し出れば寄生だなんだと罵るプレイヤーは少なくない。
ソードフィッシュはアイネを見て思う。
(付与術師か……敵の行動阻害はかなり助かるな。それに〈ヘイスト〉が掛かれば武器攻撃の速度は上がるらしい。と云うよりは体がきちんと反応する感じか)
「ちょっと通路の入り口、何かおるでっ!」
振り返った先にいたミオぴーは前方を指しながら叫ぶ。隣ではアイネが狼狽の声を上げる。
「嘘やろ……何やねんあれ。場違いやろ」
ソードフィッシュもそれを確認する。〈業火に燃える悪霊 〉、レベル70、今までのモンスターとは比べ物にならない存在だった。ソードフィッシュはその姿を記憶から探る
(ボスモンスターか? 〈燃えさかる悪霊〉に似ているな……名前も似ている。それの強化版か? 何にせよ勝てないか)
「撤退するぞっ!」
仲間のそれぞれが返事をする。悪霊の雄叫びが響く。ソードフィッシュは直ぐに指示を飛ばす。
「アイネは師弟システムを使わずにミオぴーのパーティーに合流。急いでフシミまで戻れ」
「ソードんはどうすんねんっ!」
「私のレベルなら多少の足止めは出来る。ダマを守って退却しろ。どの道勝ち目はない。フシミの〈大神殿〉で落ち合おう」
ソードフィッシュも師弟システムを解除する。抑制されていた力が解放されていく感覚を覚える。レベル90のソードフィッシュからすれば、相手は格下と云える。しかし、ボスモンスターとなれば話は別だ。この手のモンスターはソロでの討伐用にデザインされていない。それでも十分なレベル差があれば勝てないこともない。戦術がしっかりと検討されていればだが。
(こいつがダマ達を追うのを諦める距離まで彼女達が離れる時間を稼がねばな。勝てない戦いだとしても、諦めることは出来そうにないな。〈燃えさかる悪霊〉と似たモンスターと仮定して始めるとしよう)
レベル70ともなると一撃のダメージは放置出来ない。ダメージを稼ぐよりも時間を稼ぐ。その為の戦術を練ろうとする。しかし相手もそんな時間を与えてはくれない。〈アストラルバインド〉を唱え、思考の時間を稼ぐ。
(時間稼ぎの戦術なんて考えたことも無いな……〈妖術師〉の魔法は攻撃ばかりだ。戦士職共通特技で使えそうなものは何があるっ!)
ソードフィッシュは〈フォートレス・スタンス〉を使用する。体が自然と動き合口を逆手に構え、守る動作を取りやすくなる。次に使用するスキルは〈ブラッディトレランス〉だ。一瞬、体全体を見えない壁に抑えられるように安定した。地に足がキチンと着くようになったとも云える。
拘束から解放された〈業火に燃える悪霊〉が、片手を上げる。掌には赤々と燃える炎が見え、横に薙ぐように振るい火球を飛ばす。ソードフィッシュは向かって来る火の玉を見つめたまま魔法を詠唱、〈エレメンタルシェル〉によって生成されたバリアに包まれる。バーナーで炎を出す時のようなぼうぼうとした音が響く、バリアの外は赤い炎の海だ。
(〈燃えさかる悪霊〉と同様、魔法使いタイプのモンスターか。炎だけを中心に攻撃して来るのであれば〈エレメンタルシェル〉で大幅に軽減出来るな……しかし、〈燃えさかる悪霊〉と同様であれば……)
その時風切り音を訊く。反射的に合口を音のした方に切り上げる。乾いた音が響き、足元に何かが落ちる。再び風切り音が聞こえた方向は後方、反応出来ずに肩に痛みを感じる。見ると矢が貫通していた。ソードフィッシュは舌打ちする。〈燃えさかる悪霊〉と同様であれば、〈骸骨の弓兵〉を2体召喚するのだ。
(〈エレメンタルシェル〉は対魔法用のバリアだ。物理的な攻撃には効果は無い。〈骸骨の弓兵〉自体はレベル20の雑魚か……なら先に片付けるっ!)
ソードフィッシュは〈ルークスライダー〉を唱え、〈骸骨の弓兵〉との距離を詰める。至近距離から〈フレアアロー〉放つ。放たれた矢は爆炎と化し弓兵を焼き尽くす。続いて〈ブリンク〉を唱えもう一方の〈骸骨の弓兵〉へ突撃、放つ魔法は〈フロストスピア〉、圧縮された巨大な槍が相手を貫く。再度〈エレメンタルシェル〉を展開、〈業火に燃える悪霊〉の火球を防ぐ。悪霊へ振り返るとその手には青色の炎がある。
(再行動かっ!〈エレメンタルシェル〉は間に合わないっ!)
青い炎がソードフィッシュを包み込む。苦痛に顔が歪む、体力ゲージは大きく削られていた。続いて聞こえた風切り音に悪寒を感じる。体を横に倒し矢を避ける。続く風切り音には前転で対処する。視認した一匹に向かい走る。そこに再度風切り音か響き矢が刺さる。
(……今度は3体かっ!)
目指していた一匹に〈フレアアロー〉を放ち撃退、次の目標を定める為に振り返る。その光景に目を見張る。
(3体……いや、4体いるっ!流石に〈燃えさかる悪霊〉とは違うと云うことか)
呆然としたソードフィッシュに対し、一斉に矢が放たれる。一つを避けても、三つが当たり、〈業火に燃える悪霊〉の魔法が炸裂する。物量の差に押しきられ、ソードフィッシュの視界はホワイトアウトした。
◆
「いってらっしゃい」
ソードフィッシュはTPSゲームのように世界を俯瞰していた。眼下の男が扉の鍵を掛けると、玄関に備え付けられている自動音声が施錠を伝えた。表札には魚住と書かれている。男は魚住 刀矢、ソードフィッシュ自身の名前であり、彼そのものだ。駅までの道のり、通勤の道のりだ。道を行く人々の姿が見える。新宿区に位置する自宅からは人の往来が激しい。改札を通り抜け地下鉄に乗る。降車する人、乗車する人、人々がどんどん入れ替わる。その中で動いていないのは座席と扉の隅に立つ自分自身だけになった。一体何処まで地下鉄に乗って行くと云うのか、早送りに人々の乗車と降車が続いていく……いつまでも、いつまでも。
◆
「あっ! 気ぃ付かはりました。ミオぴーはん、アイネはん」
ソードフィッシュが目を開けると左手にダマが顔を覗き込むようにしている。呼ばれて近付いて来た二人が右手から顔を覗かせる。固い地面に寝転がっているようだ。ソードフィッシュは手を上げてみる、すんなりと痛みもなく腕は上がる。当たりは日が傾いており、神殿の壁を朱色に染めている。ソードフィッシュは体を起こそうとする、が途中で一時停止する。
「ぶつかるのだが?」
「ああ、堪忍っ」
ダマの顔は拳一つの距離にあった。急いで背筋を伸ばし距離を離した少女を見つつ、体を起こそうとする。そこにミオぴーがわざとらしく覗き混むようにして顔を近付けてくる。ソードフィッシュは今度は無言で頭突きをした。
「あ痛っ!! 何さらすんじゃアホっ!」
「邪魔だったからな」
「ダマの時は紳士的に止まったやんけぇ。差別や、これ差別やで。なぁアイネもそう思うやろっ!?」
「あー。あーし、痛いの嫌いやし……君子危うきに何とやらゆーやつやな」
「ダマはあれだ、息子と同じ位に見えるからな。それに、ふざけたボケには紳士なツッコミを入れただけだ」
「関東の笑いはよう判らんわぁ。そんなんおもんないわ、ノリ悪いわぁ」
「私は元々関西出身だ。今は関東に住んでいるがな」
「カンサイ? カントウ? 何ですのそれは」
ダマが不思議そうに聞いてくる。彼女の正面にいるアイネも眉間にシワを寄せ「んー」と考えている。ソードフィッシュは〈セルデシア〉の言葉を使って説明する。
「我々の世界で関西は、こちらの世界での〈神聖皇国ウェストランデ〉に当たる。関東は〈自由都市連合イースタル〉と云う所だ」
「へぇ。〈エッゾ帝国〉なんかも呼び方違いはるんですか?」
「もちろんだ」
「ソードん西の人なんかいな。せやったら何で標準語なんよ。訳判らんしっ!」
「関東に長く住んでいれば変わるものだ。郷に入っては郷に従えとも云うだろう?」
「そう云うもんかなぁ。関東のどこに住んでんの? めっちゃ都会とか?」
「まぁ都会だな、東京の……」
ソードフィッシュの思考に急ブレーキが掛かる。言葉が出てこないような感覚で、決して小さくない違和感だった。
(東京のどこに住んでいた? 人が多くいたのは知っている。街の景色も浮かんでくる。しかし何て名前だったかが判らない)
「ソードん? どないしたん?」
「いや、何でもない……まぁ東京だ。そんなことよりもだ。ダマ、あのダンジョンは最下層まで行きたいのか?」
「えぇ、そうどすなぁ。何かあると思うてますから。せやけど、あんなモンスターおったら無理でっしゃろか?」
「無理では無いはずだ。アイネ、君の目的であった〈幻霊〉は倒した訳だが、これからどうするんだ?」
「あーしは……やることもあらへんし。ミオぴー達に付いてくわ」
「ほんまけっ!? アイネ愛してる~っ!」
「あはは、仲ええどすなぁ。ほんでソードんはん、どないしはるんでっしゃろ?」
「まずは敵の情報を展開する。その後戦術を練ろう」
◆
ソードフィッシュは〈業火に燃える悪霊〉について説明をした。今は戦術について話し合っている最中だ。
「ダマは自分の回復を最優先で行ってくれ。ミオぴーは〈武闘家〉だから属性攻撃に対しての防御力は高いはずだ。〈業火に燃える悪霊〉の魔法にもそれなりに耐えられるだろう。途中で召喚される〈骸骨の弓兵〉はアイネが担当してくれ。恐らくだが、倒すと最初に召喚した数以上を召喚して来る。アイネは敵を倒すのではなく、足止めに徹すること」
「他に注意せんとアカンことは?」
「連続で魔法を唱えてくる可能性がある。ミオぴーが耐性が高いと云っても連続で魔法を食らうのは危険だ。それに対しては私が〈エレメンタルシェル〉で支援する」
「あーしは、足止め以外にやることは?」
「〈ヘイスト〉での行動支援を頼む。後は追加の召喚があれば、それらに対応してくれ。ボスは、戦闘状況によって行動を変えてくるものだからな。ある程度柔軟に動けるように余裕を持っておこう。誰か一人でも死んだら全力で退却すること」
死と云うキーワードに全員が固唾を飲む。今回の要はやはり前衛のミオぴーだ。彼女のレベルは30まで上がっているが、敵はレベル70、普通に考えても圧倒的戦力差がある。今のミオぴーでも一撃位はカバー出来るだろう。しかし、敵は連続攻撃をしてくる。それを補うのはソードフィッシュの仕事だ。
「明朝には再突入するぞ。寝床としては最悪だが、この神殿で寝るとしよう」
◆
翌朝、〈フシミイナリ〉に再突入したミオぴー達は、昨日とほぼ同じパーティー構成で進んでいた。ソードフィッシュとアイネがパーティーになっていないと云う違いはあった。昨日と同じく道中にはモンスターがいた。そのモンスター達をミオぴーは倒し進む。以前よりずっと、体が動かし易いと感じたミオぴーはレベルアップと云うものを、体の使い方を知ると云う風に理解している。〈幻霊〉のいた広場に差し掛かる通路に辿り着いた頃、ミオぴーのレベルは35に達していた。
「流石にレベルの低い内は上がりが早いな。〈EXPポーション〉の効果もあるが。ダマもレベル30まで上がっているぞ」
「あぁ、ほんまどすか? 何やミノオいたときよりも力が湧いてくる気がしてたんはそのせいかも知れませんなぁ」
ミオぴーはダマを見る。レベル30と表示されたそれは、〈大地人〉であるダマには見えないと云う。〈大地人〉と〈冒険者〉には様々な違いがあるらしい。ダマはそれについて「〈冒険者〉云うんは英雄でおますからねぇ」と云っていた。そこには嫉妬などは感じられず、当たり前のことだと云う感じだ。
「ソードん、もうこの道抜けたらボスんとこやで?」
「予定通りいくぞ。ミオぴーのタウントが決まったらスタートだ」
ミオぴーは前方の通路を進み広場に出た。すぐ後ろには仲間達が着いてきている。ミオぴーはソードフィッシュの言葉を思い出す。
『〈武闘家〉のヘイト管理は攻撃を主体として行う。攻撃を当てつつ、防御スキルを発動しなければならないこともあるはずだ。落ち着いて対処すれば良い』
(落ち着けアタシ、落ち着けアタシっ!)
視界に〈業火に燃える悪霊〉を捉える。回りに僕はいない。「敵はボスだけやっ! 始めるでっ!」そう叫ぶミオぴーの武器が光を放つ。アイネの〈キーンエッジ〉だろう。約50メートル先に立つ悪霊目掛けて疾走する。こちらに気付いた敵は雄叫びを上げる。間近で訊くと恐怖が込み上げてくる。駆け出した足を止めて引き返したい衝動に駆られる。その時、体を包み込む暖かい風が舞う。恐らくダマが何か魔法を掛けてくれたと思ったミオぴーは、咆哮と共に残りの距離を跳躍、飛び蹴りの姿勢で滑空する。
ドンと云う音と共にぶつかるミオぴーと悪霊、間髪入れず〈エアリアルレイブ〉で打ち上げる。打ち上げられた悪霊はその手に赤い炎を作り出す。それを見たミオぴーは悪霊を蹴り落とし、バックステップで距離を取る。着地の瞬間、炎が向かって来る。腕を眼前で組み衝撃に備える。思わず目を瞑る。しかし、炎の熱は感じられない。目を開けるとソードフィッシュが立っており、炎を防いでいた。
◆
(あれは〈カバーリング〉っ! メイジ系職業が使えんのかっ!?)
アイネは横に立っていたソードフィッシュに〈ヘイスト〉を掛けるように云われ、その通りにした。〈ヘイスト〉が掛かった彼は、自分自身に〈エレメンタルシェル〉を唱え、とてつもない速度でミオぴーの元へ疾走した。〈ブリンク〉や〈ルークスライダー〉と云った移動系魔法を使わずにだ。そんなスキルはメイジ系職業には無い。
ミオぴーにも〈ヘイスト〉を唱えようとするが、距離が離れ過ぎていて届かない。アイネは後ろのダマに肩越しに叫ぶ。
「ダマちゃん前行くでっ! とーすぎてアカンっ!」
「わかりましたっ!」
二人は仲間達の元へ急ぐ。その時、風切り音が聞こえる。腕に熱を覚え目をやると、矢が刺さっていた。ダマが「アイネはんっ!」と声を挙げる。矢の刺さった方向から敵を探す。アイネはダマに向かい「先行ってっ!」と叫ぶ。そして〈骸骨の弓兵〉に対し〈アストラルヒュプノ〉を唱え眠らせる。
(ソードんの情報やと、もー1匹いるはずや)
首を回し弓兵を探す。そこに新たな風切り音が生まれ、そちらに振り向く。肩に刺さる矢を無視し、もう一匹に〈アストラルバインド〉を唱える。そしてダマを追い掛ける為に走り出した。
◆
ソードフィッシュは〈カバーリング〉の後、〈フロストスピア〉を悪霊に放った。その威力はヘイトを一気に上昇させる。後ろにいるだろうミオぴーに向かい指示を飛ばす。
「〈〈幻霊〉ステップ〉で回り込んだ後、タウントっ!」
影を伴ってミオぴーは悪霊の背後に回り込む。
「おいっ! アホアホアホーっ! こっち向けっ!」
その叫びは小学生かと思える内容であった。大人の社会で云ったところで相手にされるようなものではない。しかし、〈セルデシア〉はそれをスキルと認めたようだった。ぐるりと体を回し背を向ける悪霊は、まんまと挑発に乗ったのだった。ダマとアイネの声が後方から聞こえる。恐らく〈骸骨の弓兵〉が出たのだろう。ここまでは想定通りに来ている。
ミオぴーは打撃を繰り出している。ソードフィッシュも合口で切りつける。悪霊に魔法の茨が絡み付く、アイネの〈ソーンバインドホステージ〉だ。ミオぴーとソードフィッシュの打撃に追撃を重ねていく。悪霊は青く光る炎を右手に作り出す。それを見て叫ぶ。
「連続攻撃警戒っ!」
一撃目は〈エレメンタルシェル〉が防ぐ。左手に白き炎を作り、薙ぐ悪霊の一撃がミオぴーを襲う。ミオぴーの体力ゲージが半分程削られる。〈ヒール〉で一先ず回復をすればまだ戦える。悪霊の体力も三分の一まで減らせている。しかし、悪霊の様子が変わった。その名の通り体から赤い炎を吹き上げる。
(三連撃だとっ! 不味い……っ!)
吹き上がる炎は悪霊を中心に炸裂した。ソードフィッシュは体力ゲージが半分まで減るのを見た。このダメージ量は不味い。ミオぴーを見ると、彼女の体力ゲージはもうギリギリのところにあった。
(ヘイトを私に向けて、距離を稼ぐ!)
ソードフィッシュが唱えた魔法は、雪崩を思わせる冷気をもって、悪霊を押し退ける。ミオぴーから引き離された悪霊はソードフィッシュを睨み炎を投げつける。〈エレメンタルシェル〉を展開しそれを防ぐ、続いて青い炎が身を焦がす。間髪入れずに白い炎が悪霊の手に生まれる。ソードフィッシュは自身の体力ゲージを確認する。3分の1まで減っている。あの一撃を食らえばこの戦いは負ける。
「退却だ!」
「こっち向けアホんだらあっ!」
退却指示と同時、挑発を繰り出すミオぴーに対し、向き直った悪霊は白い炎を投げつける。ミオぴーに直撃した。瀕死のミオぴーは、耐えきった。直撃の直前、ミオぴーの体力は回復した。しかし、その量はダマの〈ヒール〉だけでは補えない量だ。ソードフィッシュは記憶を辿る。そして一つの可能性に辿り着く。
(ブレスコントロールで体力を回復させたのかっ!)
しかし、次に悪霊が構えているのは先程の範囲魔法だ。ソードフィッシュはダマに指示を飛ばす。
「ダマっ! ミオぴーに〈エナジープロテクション〉!」
「わかりましたっ!」
〈エナジープロテクション〉によってミオぴーは、この一撃を耐えるだろう。ソードフィッシュは相手よりも早く〈フロストスピア〉を放つ。これで倒れてくれれば勝ちだ。しかし、悪霊の体力はまだ残った。炸裂する魔法がソードフィッシュを襲う。その前に立つのはミオぴーだ。彼女が〈カバーリング〉を使ったのだ。
「これで貸し借り無しやな!」
二人分のダメージを〈エナジープロテクション〉で軽減しつつ、〈武闘家〉のスキル〈ハードボディ〉を使用した彼女は、炎をものともしない。ミオぴーは、その場で一回転すると悪霊を凪ぎ払う。
「ソードん、しまいやで!」
「ああ!」
ソードフィッシュはキャスト可能な冷気属性の魔法を唱える。〈フリジットウィンド〉、冷気を伴う突風が悪霊を凍てつかせる。体力ゲージがゼロになった悪霊は悲鳴と共にガラス片へと変わっていく。〈骸骨の弓兵〉を片付けたアイネとダマが駆け寄る。ソードフィッシュは腰を下ろし息を吐いた。
(最後の最後でミオぴーに助けられたな。レベル1だった頃に比べると信じられない進歩だ)
ミオぴーはソードフィッシュの視線に気付き、微笑む。この少女はたまに大人びた雰囲気を出す。微妙な年頃の子供達が出せる魅力だろうとソードフィッシュは思う。
「いや、良かったやんっ! 全員無事や!」
「ミオぴーはん、とてつもないガッツですわぁ」
「あーし、マジ終わった思たわ」
「みんなよくやった。これであの通路を進むことが出来る訳だ」
ソードフィッシュが指差す方に、仲間達も視線をやる。〈業火に燃える悪霊〉の報酬は大量だった。フシミに戻ってから分配することに決めて、休憩もそこそこにソードフィッシュ達は通路を進むことにした。
道すがら、アイネはソードフィッシュに話しかける。
「なー、アンタ〈妖術師〉やのに何で、戦士職の特技使えとんの、チートか?」
「〈魔剣士〉のサブ職業の特性は、刀剣の装備解禁ともう一つ、戦士系共通スキルの解放がある。ゲームだった頃はソロプレイばかりだったし、死にスキルでしかなかったのだがな。勿論、サブ職業を変更すればその恩恵も受けられない」
「まーメイジがヘイト稼いでタンクしても自殺行為やしなー。にしてもけったいなサブ職業やな」
彼らが話し終わる頃には通路を抜け、6畳程の狭い小部屋に着いた。部屋には明かりは無かったが、暗く無かった。その理由は部屋の中心に緑色の光源があった為だ。それは水晶のような石だった。ソードフィッシュは力が抜けて行くような感覚を覚えた。仲間を見ると、アイネも気だるげな表情をしている。
「何だこの部屋は、体が重いぞ」
「この石……本で見たことがありますわぁ。今回の〈幻霊〉の件はこれが原因ちゅうとこでおますなぁ」
「ダマちゃん、どーゆーことや?」
「みなさん、この部屋入ってから何やダルい感じしたでっしゃろ? うちはダルい何てもんやないんどすが。これ、この石のせいやと思いますのよ。〈エーテルクリスタル〉云うて、エーテルを吸い寄せる力があるんとす。せやから、みなさんダルい感じになってるんでおます。うちもほんまもん見るんは初めてどす。ほんでこれに溜まったエーテルを媒体にさっきの悪霊が〈幻霊〉を召喚したんやないかと考えます」
「そんなものが存在するのか?」
「文献にはありましたなぁ。うちがフシミから感じてたエーテルのざわつきは、これが原因かぁ。また〈幻霊〉やら何やら出ても困りますし、壊しときましょ」
「オッケーっ! ぶっ壊れろっ!」
ドカンと云う響きと共に砕け散るクリスタルは、キラキラと光り落ちて行く。体から感じていた気だるさは消え、ソードフィッシュ達の魔法による灯りだけになった。砕け散ったクリスタルの欠片を見ると、アイテム化されて取得可能になっている。秘宝級アイテム〈エーテルシャード〉、ソードフィッシュは上着のポケットにそれを入れた。
「もうこれ以上先は無さそうだな」
「魂魄理論の一端に触れること叶わず、悲しい話でおます。折角、フシミまで来たと云うのに」
「あーしは、アンタらが来てくれて助かったわ。あーし一人やったら仇も取れへんかったやろーし」
「アタシはアイネに会えたから、フシミ来て良かった思ってんで」
ミオぴーはアイネに抱きついて喜んでいる。
ソードフィッシュはダマに訊く。
「で、次の目的地とかは決まっているのか?」
「いいえ全く。結構当たりやと思ってましたんで……」
「村で戦利品を分配したら、〈ストームマウンテン〉に戻るぞ」
「えぇ、またあの道歩くんかいなっ!? ……やけどずっと野宿は辛いしな。しゃあないか」
「あんさー。あーしも付いてってええ?」
「アイネっ! 当然やん、むしろ来うへんとか云う選択肢あらへんからっ! もうずっと一緒やでっ!」
「まぁ、五月蝿い奴の相手が大変だろうが歓迎する」
「旅の仲間が増える云うんは嬉しいもんでおます。アイネはん、今後ともよろしゅうに」
「ありがとー。皆、宜しく頼むわ」
ソードフィッシュ達は、それぞれについて話ながら半日かけて〈ストームマウンテン〉へ帰還した。
会話と文章の区切りに迷いが見えるのです。