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第四段 追憶の遺跡

 三人と一匹は間も無く追憶の遺跡に辿り着いた。正面の扉には上部に不可思議な形の装飾が施してあり、その下には「鍵」と同じ形の窪みが存在した。

 ペリが預かっていた「鍵」を懐から取り出して窪みに嵌め込むと、「鍵」と扉が発光して激しく鳴動した。

「きゃっ!」

「わっ!」

「うおっ!」

「キュー!」

 発光と鳴動は短時間でやみ、扉が独りでに左右へ開いた。

「おお、開いた。スッゲー!」

「キュー、キュー!」

「でもさ、粘土を嵌め込んだり、そこら辺の石を削って同じ形にすれば、やっぱ開くんじゃないの?」

「それ、どっちももうやった。両方とも失敗済み」

 エイダンの素朴な疑問に、ペリは素っ気なく答えた。考えることは皆同じ。

「それより、陣形を決めよっか」

「今まで通り、僕が前衛で二人が後衛じゃ駄目なの?」

 ペリは頭を振った。

「通路が狭そうだから訊いてるの」

「なら、エイダン、ペリ、俺の順でいいんじゃね? 一応、俺は格闘もできるし」

「そうね。挟み撃ちされたら対応よろしく」

「それじゃあ、僕から中に入るよ」

 エイダンが松明を灯してから遺跡に入ると、そこはホコリとカビの臭いが充満していた。三人と一匹は鼻を覆いつつ、通路を慎重に進む。程なく、行く手を阻むようにモンスターの一群と遭遇した。

「ジェリーか。液体状の補食系モンスターだな。主に動物の死体にへばり付いて消化液を出し、じわじわと喰らう。別名、ダンジョンの掃除屋」

 クーロンの解説をエイダンが補足する。

「確か、火に弱いんだよね。動きがノロいから、松明の火を押し付ければーー」

「ーーああっ! ダメェーッ!!」

 ペリの制止を聞くより早く、エイダンが松明の火を先頭のジェリーに押し付けてしまった。その個体は一瞬で焼け焦げたものの、同時に強烈な悪臭を放った。

 その悪臭に耐えかね、悲鳴を上げながら入り口まで全速力で逃げ戻る一行。

「ちょっと、エイダン! 狭い通路で悪臭を嗅がされる身にもなってよ!!」

「……ごめん、うっかりしてた」

 三人と一匹は肩で息をしつつ、外界の新鮮な空気を胸に取り込んだ。

「でも、どうする? 僕の長剣やペリの短剣で切り刻んでも、分裂して増えるだけかもよ?」

「フッフッフッ」

 エイダンの懸念の声に、クーロンが腕組みして胸を張った。

「俺様の太陽拳が役立つ時が早くも来たようだな!」

「「太陽拳?」」

 思わずハモった二人に、クーロンは自慢げに説明を加える。

「説明しよう! 太陽拳つーのは俺が元いた教団に伝わる拳法でな、特殊な呼吸法で得られる『気』、まあ力の一種だな、そいつを拳に乗せて相手に叩き込む技だ。その『気』の波動が太陽の律動に由来するから、付いた名前が『太陽拳』。太陽は火に属するから、当然、火属性の打撃技だ。それでジェリーを攻撃したらどうなると思う?」

「「燃えてやっぱり悪臭を放つ」」

 再びハモった二人に対し、クーロンは「チッチッチッ」と三度舌打ちをしつつ指を振って否定した。

「蒸し焼きになって蒸発する、はずだ!」

「はずって推測かよ!?」

 エイダンからのツッコミをクーロンは聞き流す。

「ふふふ。百聞は一見に如かァーずッ! 我が太陽拳の威力、篤と見るがいいィーッ!!」

 そして豪快に高笑いをしながら遺跡の通路に再び突入し、ジェリーの大群を蹴散らしてゆく。遺跡の入口に留まって中から悪臭が流れ出てこないことを確認したエイダンとペリは、そっと互いに目配せすると頷きを交わし、クーロンの後を追った。アンニンもトコトコとそれに続く。

 クーロンの思惑通り、太陽拳を叩き込むたびに、ジェリーは臭いすら残さずに蒸発していった。

「おお、凄い!」

「きゃー、カッコいい!」

「へへーん、任せな!」

「キュー、キュー!」

 暫し、ジェリー殲滅戦を謳歌する一行だったが、通路の曲がり角でクーロンの足がピタリと止まった。

「あれ? どうしたの、クーロン?」

「飽きた」

 エイダンの問いにクーロンは短く答えた。

「歯応えが無さすぎる。ジェリーの群棲地は抜けたようだから、後は頼むわ」

 そう告げてクーロンは最後尾に下がった。

 確かにジェリーの姿はもう見えず、松明の灯りの先にはコウモリの大群しか見えなかった。

「コウモリか。だったら、今度はーー」

「ーーあたしの出番ね!」

 エイダンの言葉を遮ってペリが得意気に前へ進み出た。

「ひとつ! ふたつ! みっつ!」

 そして懐から短剣を次々と取り出したかと思うと、素早く立て続けにコウモリに投げつける。

「よっつ! いつつ! むっつ!」

 短剣は狙いを外さず、あるいは心臓を貫き、あるいは首を刎ね、確実にコウモリの急所を捉えてゆく。

「ななつ! やっつ! ここのつ!」

 ペリは撃破数を数える掛け声を発しつつ、軽快な足捌きで先へ先へと疾駆する。

「おっと、見とれている場合じゃないな。僕も行くぞ!」

「ほーい。手傷を負ったら言ってくれ。薬草なら腐るほどあるからな」

 ペリに続いて戦闘態勢に入ったエイダンに、クーロンは背嚢をポンポン叩いて示した。

 最前列のペリが撃ち漏らしたコウモリを、エイダンの長剣が一閃して両断する。クーロンはほとんど見物モードだ。時々、思い出したようにペリやエイダンの元へ駆け寄り、傷を器用に治療する。そして瀕死状態で地面に落下したコウモリたちを、アンニンが踏み潰してトドメを刺す。

 一連の激闘の末、一行は遺跡の最深部に到達した。その一室に扉は無かったので、一行は通路から中の様子を窺った。

「松明の灯りって案外届かないね。奥の方は見えないや。どうする?」

「しゃーない、あいつらを呼ぶか」

「「あいつら?」」

 エイダンとペリに訊かれたのにクーロンはそれには答えず、何やらブツブツ呪文を唱え始めた。

【よう、ブラザー

 俺らの出番だ

 クールに決めるぜ

 マッスル、ハッスル♪

 治癒キュア!】

「サムぅぅぅ!!」

「ボブぅぅぅ!!」

「「兄者ァァァ!!」」

 小さな半裸のマッチョ妖精が二匹、突如として現れて互いに抱き締め合った後、クーロンに抱きつこうとしたが、デコピン二発で呆気なく撃退された。

「寄るな、暑苦しい」

「ホント、暑苦しい」

「確かに、暑苦しい」

「キュー、キュー!」

 三人と一匹からの酷い言われように、約二匹は空中でうなだれた。その周囲だけが仄かに明るく光っている。

「ボブ、サム。命令だ。偵察に行って来いさ」

「「ええー!」」

「ボブ、サム。命令だ。二度言わせるな」

 クーロンがギロリと睨む。マッチョ妖精のボブとサムは力無く頷いた。

 その次の瞬間、一陣の剣風が唸りを上げて一行に襲い掛かった。


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