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電車

 突然、身体がびくりと反応し、起きた。随分と眠ってしまっていたようだ。寝過ごしてしまってないか心配しながら、ゆっくりと目を開ける。ここは……草原? 

 日本とは思えないほどのだだっ広い草原の真ん中にポツンと、電車だけがある。辺りを見渡すが、レールや銅線なんてない。僕が眠っている間に何が起きたのだろうか。


 まずは、状況把握。小さい頃にボーイスカウトで習ったことだ。電車の中を移動して、乗客の様子を見てみる。皆やはり、とても動揺している。でも三つの車両を全部回ってみたが、怪我をしている人は一人もいないようだった。皆にそれを伝えると、車両内の緊張の糸が少し解れた。

「どうしちゃったんでしょうね、ほんと」

 品のよさそうな初老の女性が話しかけてきた。

「さっきから携帯の電波が届かないんですよ。いったいここはどこなんでしょうね」僕はそう言ってぎこちなく笑った。


 さて、これからどうしたものかなと考えていると、草原の向こうから大きな熊が近づいてくるのが目に映った。

「熊です! 皆さん、電車の中から出ないでください! 大きな熊がこちらに近づいてきています!」

 僕がそう叫んだのも束の間、ふと見ると反対側の窓にも大きな熊が一、二、三、四……四匹映っていた。車両内はパニック状態。元々乗っていた人が少なかったとはいえ、十人はいる。そしてその中で、若い男は僕一人しかいない。あとは子供か女性かお年寄りだ。車掌はどこへ行ってしまったのだろう?

 僕たちは、二両目の車両の真ん中らへんに集まった。大きな熊はついに電車の窓に触れられる位置まで近づき、興奮した面持ちで車内を眺めている。

 いったいなんなのだこれは? 熊が平野で群れて行動するなんて聞いたことがない。それによく見ると、この熊の大きさもおかしい。熊という生物は最大でも三メートル台であると覚えていた。しかし、目の前の生物はどう見ても五メートルはある。


 遠くのほうで窓が割れた音がした。音から判断すると、車両の上に乗っている熊もいる。

「み、皆さん、絶対にこの場から離れないで!」

 普段は人から馬鹿にされ、舐められている僕でも、こういった時になると、少しは変われるのだなと思った。なぜだか僕は今、冷静に第三者の目線で自分を観察している。そんな余裕なんてあるはずがないのに。

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