序章-過去-
「リューク早いよ・・・。」
「ユアンがおせーの!!」
過去-天使との出会い-
ザーフィネスの市民街かた少し外れた小さな森の中。
この森はザーフィネスの結界の中なので魔物に襲われるという心配はない。
「早く行っておじさんを喜ばせてやるんだ!」
「でも、急いで行って怪我したらおじさん悲しむよ。」
金髪の少し天パが入っている10歳の少年ユアン・セシルはリュークに注意をする。
ユアンは真面目で慎重派で、野心が強いリュークとは正反対の性格をしている。
それはともかく、何故二人の少年が森の中にいるのかというと二人の育て親であるマークという男性が二人に太い木材を取ってこいと言われたからだ。
しかし、この森はいくら結界が張っていても足場も悪いし道も間違えやすい。
子供だけでは普通は行かせないところなのだが、マークは「子供のころにいろいろと経験するものだ。」と言い、市民街の人々に反対されながらも二人を森の中へ何度も行かせる。
最初は少し不安があったリュークとユアンであったが、今ではそんな気持ちもなく快く森の中へ行くようになった。
「リューク、もっとゆっくり!!」
ユアンは少し声を張って言う。
それがリュークは気に食わなかったのか一度立ち止まりユアンのほうに振り返る。
そしてユアンのことを青い目で睨みつけながら「弱虫。」と告げた。
またユアンはその言葉に怒りを感じ、リュークのことを睨み返す。
心配して注意してあげているのにどうして分かってくれないんだ。という気持ちで一杯だった。
そこで引ければ大人なのだが、まだ幼いユアンはリュークに言い返す。
「ぼ、僕リュークの治癒してあげないんだからな!!」
ユアンはたった10歳というのに、簡単な治癒術は身についていた。
いつも本ばかりを読んでいたため、身についてしまったのだ。
そんなユアンは市民街でも人気者で、学校でも優等生扱いとされていた。
そういうユアンに対し、リュークは少し嫉妬していた。
しかし、リュークはユアンより体が柔らかく運動能力がものすごく高かった。
またユアンもそんなリュークに少し嫉妬していた。
つまり、二人は常にライバル意識が高かった。
「勝手にしろよ、ユアンのしょぼい治癒がなくったって舐めときゃ治る。」
「な、なんだと!!」
リュークの言葉にユアンは更に怒りを増す。
そんなユアンを知らない振りしてリュークは再び前を見て再び早足で先に進んでしまった。
ユアンは二人バラバラになることだけは駄目だと思いリュークに追いつくためにまた早足になる。
(リュークのバカ・・・)
ユアンは眉間にしわを寄せながらリュークの頭を見る。
いつもこんなケンカばかりだ、と大きなため息をつきつつなんだかまだスッキリしないので再びリュークに何かを言いだそうとするユアン。
「リューク、いい加減に・・・うああああ!!!」
ガラガラガラアッ!
大きな音とユアンの悲鳴が耳に入ったのかリュークは勢いよく振り返った。
振り返るとさっきまでついてきていたユアンの姿がない。
リュークは頭の血の気が引いていくような感じがした。
「ユアン・・・」
リュークの頭の中は真っ白で、何も考えられずしばらく固まっていた。
(えっと、えっと・・・ユアン・・・ユアン・・・)
リュークはどうすればよいのか分からずその場にしゃがみこみ頭を抱える。
冷静になれ、冷静に考えるんだと頭を左右に振り少しずつ引いた血の気が戻っていくような感じがした。
そして少し冷静になったところリュークはいきなりユアンがいなくなったことについて考える。
いきなり消えるということはつまり、落ちたしか考えられないと思いリュークは更に思考を働かせた。
(そういえば、さっき足場の悪いところがあったはず。)
リュークは立ち上がり、さっき自分が通った足場の悪い所へ行き足場がかなり崩れていることに気がつく。
そして、リュークはさらに下を見下ろすと顔と手から血を流しているユアンの姿があった。
(うわ、あんな派手な怪我俺だってしたことねぇよ!!)
リュークはユアンの姿を見て再び固まる。
しかし、固まってたら駄目だということを自分に言い聞かし首をぶんぶんと左右に振った。
「ユアン!!!」
「・・・ん・・・・リュ・・・」
リュークの声にユアンは反応した。
まだ、意識はある。とリュークは一瞬ほっと安心したが、早く市民街に戻って病院に連れて行かないとユアンは死んでしまうかもしれないと思った。
「今そっちに行くからな!!」
リュークは声を張り上げてユアンに届くように言った。
リュークは飛び下りようとしたがかなりの高さがあることに気付いた。
「さて、どうやっていくべきか。」と小さな声で呟いたが、飛び下りるしか方法はないだろう。
捕まるところがないため慎重に行くほうが危険だと感じた。
(やっぱ飛び下りるしか方法はねぇか。)
怪我は絶対するだろう。
かすり傷で済んだらきっと運がいい。
リュークは震える脚に対し手でパンパンとたたいた。
「よし。」と覚悟を決めたリュークは地面を右足で蹴ろうとした瞬間。
「私に任せて。」
という声とともに後ろから誰かに手首を引っ張られてリュークは止められた。
リュークはぐりんっと後ろを振り向いた。
そこには茶髪の真っ白いワンピースで素足の少女が立っていた。
リュークは彼女と視線が交わり、真っ赤な赤い彼女の瞳から視線を外せられなくなっていた。
「ウィング」
彼女が一言そう言い放つとユアンの背中から羽が生え浮かび、リュークたちの元へ来た。
リュークはユアンのその姿に目を大きくさせる。
-天使の羽
リュークにとってはそれはとても信じられない光景だった。
それもそのはず、人間と天使は犬猿の仲であるから。
しかし、リュークにとって理由はそれだけではない。
リュークの両親は天使によって殺され、何よりも天使を憎んでいる。
彼女はそんなリュークを知らずに、手首から手を離しユアンの元に座った。
そして、ユアンが怪我しているところに手をあて「ヒーリング。」と唱えた。
すると、ユアンの大きな傷口が綺麗にふさがった。
これは治癒術と呼ばれるもので、特に彼女が唱えた「ヒーリング」は中級術とされている。
(俺らと同じ歳ぐらいでこの能力の高さ・・・)
「これで大丈夫。」
少女はそう言ってから立ち上がり、リュークの顔を見た。
一体何があったのかわからないリュークはユアンの眠っている姿をじっと見つめる。
というよりも、ユアンの背中の羽を見つめていた。
「あんた・・・何者・・・?」
リュークはやっと口を開き、少し震えながら彼女に問う。
彼女はリュークの顔をじっと見つめ、首をかしげた。
「分からない。」
無表情にして言う彼女にリュークは目を丸くする。
そんなリュークを見て彼女はユアンに指をさした。
「そろそろ、起きるんじゃない?」
彼女がリュークに向かってそういうと、ユアンが「・・・ん・・」と小さく声を出した。
そして、ゆっくりとユアンの瞼が開かれる。
そんなユアンを見て安心したリュークは腰が抜けたのか座り込んでしまった。
「ユアン・・・」
「あれ、僕・・・」
ユアンは確か足を踏み外してどこかに落ちて、傷だらけだったはず・・・と思っていたのをリュークは察したのか彼女のほうに指をさす。
ユアンはリュークのその行動に首をかしげるとリュークは「彼女がお前を助けたんだ。」となんとも複雑そうな顔で言う。
「彼女?ああ、助けてくれてありがとう。君は優しいんだね。」
ユアンは何も疑いもなく笑みを浮かべて彼女にお礼を言う。
お礼を言われた彼女は首を横に振った。
(この女、さっきの羽といい表情といい・・・)
リュークはもしかしたら目の前にいる彼女は天使なんじゃないかと疑っていた。
天使はもちろん羽はあるし、無表情というより、感情がない。
でもリュークには一つ突っかかるところがあった。
(天使は常に背中に羽が生えているもんかと思ってたけど・・・)
リュークは自分で答えがでなさそうなので考えることをやめた。
そして聞いてみたほうが早いやと思い、リュークは口を開く。
「あんた、天使か?」
リュークは彼女を睨みながらいう。
そんなリュークをユアンは「リューク!!失礼じゃないかッ!!」と怒鳴りつけるが今のリュークにはそんなことは耳に入らない。
ただ、彼女のことをじっと睨むのみ。
「私は・・・ヴヴッ」
彼女の顔は一瞬にして険しくなった。
つまり、無表情ではないのだから天使でないことをリュークは確信してほっと胸をなでおろす。
しかしそんな安心してる場合ではないことにリュークは気付かされる。
なんと、彼女が倒れこんでしまったのだ。
相当苦しいのかかなり息を切らしていて汗がひどい。
「おい!あんた大丈夫か?!」
「リューク!早く市民街に行っておじさんの家までつれていこう!!」
リュークは自分が持っていた荷物をすべてユアンに預け彼女をおぶって市民街へと向かったのだった。