序章
ずっと一緒にいれると思っていた。
だけど、それをかなえるためにはこんなにも大きい試練があったなんて、
あの時の 俺ら は 彼女 を守るということがどういうものか
----わからなかった。----
序章 いつもの会話
坂の多い帝都ザーフィネス
四つの国の一つのザーフィネス帝国は風の国ともよばれている。
しかし、この国では部落差別のようなものがあり騎士とそれ以外の職業に就くものの差別の差はとても大きかった。
そんな中、2階建ての建物であろう窓から目の前の急な坂を見つめる少年がいた。
(今日も暇だな。)
漆黒のような黒い髪を後ろで一つに結んでいる少年リューク・マリック。
今年で18になる少年だ。
一年前まで騎士学校の優秀な生徒として生活を送っていたが、わけがあって辞めることとなった。
「リューク。」
ドア付近から女性の声。
リュークは「やっと来たか。」といわんばかりの表情をして振り返る。
「待ってたぜ、ミア。」
「たまにはリュークから来てください。」
栗色のショートボブの少女ミア・ナソードが口をへの字にして言う。
「いつも、私ばかり・・・」とぶつぶつとぼやいていたがいつものことなのでリュークは無視をする。
そんなことより、リュークはミアの腕で抱えている紙袋に目が行った。
「ミアの腕の袋から甘いにおいがする。」
リュークはそう言って顔を紙袋に近付けた。
ミアはそんなリュークの姿を見て「リュークは犬ですか?」と苦笑した。
「今日はクッキーなんですよ。」
「しかも、チョコ味だろ。」
「リュークは本当に甘い匂いならなんでも分かるんですね。」
「ミアのクッキーしっとりしててうまいんだよな。」
そう言ってミアのもつ紙袋の中から一つのクッキー取り、リュークは口へと運ばせた。
サクサクっといった音が部屋に響く。
リュークはクッキーを飲み込むと眉を下げて幸せそうな笑みを浮かべた。
「やっぱりうめぇや。本当にミアって料理うまいのな。」
「どうもありがとうございます。リュークはいつも幸せそうに食べてくれるので見てるこっちもとても幸せになります。」
ミアはそう告げ、何枚もクッキーを口に運ぶリュークの姿に嬉しそうな笑みを浮かべる。
「明日だったな、ミアがザーフィネスに来て7年経つの。」
「そうですね、本当に今まで楽しかったです。」
「そいつは良かった。俺も楽しかったぜ、ミア。」
リュークは更に「ミアの天然なキャラをからかうのが毎日とても楽しくて。」と付け加えたら、ミアはぷぅっとほほを膨らませた。
そんなミアを楽しそうに笑うリューク。
「リュークは意地悪です・・・。」
「んなことねーよ、市民街じゃ面倒見のいい兄貴分と呼ばれてるんだぜ?」
「子どもたちはだまされているんですよ!!ああ、教えてあげたいですね・・・」
ミアははぁっとため息をつく。
こんな会話を毎日のように7年間繰り返したきた。
市民街じゃ、この会話がどうやら名物というか日課というか。
この会話を見ないと一日始まらないわ。などというおばちゃんまで出てくる。
(俺的には、ちょーっと好きな子には優しくしたいだけどね。)
なんて思うリュークだったが、今更気持ち悪いよなと思う気持ちが強くてなかなか優しくできないリュークがいた。
たまにいじめすぎて一日口をきいてくれない時もありさすがにあれはリューク的にもショックを受けた。
しかし、次の日になると前日のことなんか忘れたように「リューク!」と笑顔で来てくれる。
「そうむくれるなって。バイト代入ったら新しいイヤリング買ってやるから。」
「本当ですか?!」
「もうそのイヤリングもボロボロだしな。てか、買わなきゃおばちゃんがうるせーんだよ。ミアちゃんに買わないとか男じゃないねぇ!!ってよ。」
リュークはミアの付けている真っ赤なイヤリングに触れた。
ヒビが入っており、しかも絵具によって汚れている。
よくこの5年間持ったな、長かったな。と思いつつ優しくなでる。
「・・・まあ、ちょっと買ってくれる理由には納得いきませんがありがとうございます。」
「よし、ミアはいい子だな。細かいことを気にするのではないぞ。」
リュークはイヤリングに触れていた手をミアの頭に移し撫で始めた。
自分でも「何者だよ、この口調は」と突っ込みを入れていたがそれはミアには内緒にしておく。
「それよか、明日ユアンが来るらしいぜ。まあ、ミアにとっちゃ誕生日のようなもんだしな。」
「ユアンも騎士団に入団してからなかなかこれなくなりましたからね。」
少し寂しそうな表情をするミアにリュークは少し複雑な気持ちになる。
約2年前、育て親との約束でユアンとともに騎士学校へ入学したリューク。
騎士学校といえば、入学するのはかなり難しいらしく騎士団入団は更に難易度が高い。
特にアリス石を持たない人はより困難とされる。
ちなみに、アリス石は約2000年前人と天使による戦争、天人戦争の際に唯一人間の中で天使に対抗できる魔力をもったアリスが自分の力を石に変えアリス石を持つものは魔術を唱えることを可能にしたと言われている。
だが、治癒術に関しては人間だれでもアリス石がなくても勉強すれば力を得ることができる。
リュークは勉強は苦手ではないが嫌いで、アリス石も持っていなく剣術のみで試験を受けるという他のものとはかなり不利の中トップクラスで合格し、一番上のクラスS組の入学を得られたのだ。
そして、ユアンもS組で将来期待とされていた。
しかし、一年前とある出来事でリュークはユアンやミアに相談をせずに騎士学校を去っていったのだ。
(いつかは話さなきゃいけねぇんだよな。)
「騎士学校か・・・」
「・・・リューク。」
リュークが元気なさそうに騎士学校と呟いていたので、ミアを少し不安になった。
まだ未練があるのか、どうして辞めたのか。いろいろ聞きたいことがあったが一年たっても聞けずにいる。
(きっと、いつか話してくれるはずです。それまで待つと決めたのですから!)
といつものように自分に言い聞かすミア。
「あ、確かユアンと会うのは2年ぶりだったか?」
「はい、もう!騎士学校へ行っていから二人一度も帰ってきてくれないんですもん!!」
「いやー、帰るなんて絶対無理だろ。S組は特に5年かけて卒業するところ1年で卒業しなきゃいけねぇんだからな。」
するとミアは俯いて「・・・分かってます。」と小声でつぶやいた。
リュークはそんなミアを見て、ちょっと申し訳ないなという気持ちがいっぱいだった。
(今まで俺ら3人とおじさんがいたからな。急に一人になって寂しい思いさせちまったのかも。)
リュークはそう思いながら再びミアの頭をなでる。
ミアはリュークのその行動にビクッと肩を揺らした。
「どうした?」
「あ、いえ。突然だったものですから。」
「俺は優しいから、元気のないミアお嬢さんを慰めてやってるのさ。」
リュークはいつもの調子に戻り口を走らせる。
そんなリュークをミアはむぅっと口をとがらせるが、でもなぜか本気で怒れない。
(こういうところもリュークの優しさです。)
ミアはリュークが頭を撫でる手を握った。
そしてその手を自分の頬にもっていき目を瞑る。
「私、リュークの手が好きです。」
ミアの言葉にリュークは固まった。
いつも不意に言い出す褒め言葉というのか、意識させるような言葉に毎度反応できずにいるリューク。
リュークはぷぃっと顔をそらして口を押さえた。
ミアは「リューク?」と自分がどんな意味で言ったのかも分かっていないこの天然ぶり。
昔からこの天然ぶりにはよく悩まされたもんだ。とリュークは思っていたが、さすがにいい加減にしろよ。という気持ちもあったのはミアにはそれも内緒にしておく少年であった。
そんなミアとの出会いは7年前にさかのぼるのであった。