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ドサッ!
静かだった空間に響く、荷物でも降ろしたような音。一斉に上がったそれはギギドナたちが腰を下ろした――いや、体中の力が抜けて倒れこんだ音だった。
それぞれが安堵のため息を吐く。もう、心配はいらないようだった。
本当ならば吾平を追うのが一番なのだろう。実際、身体が動けばそうしていた。だが、思いに反してギギドナの身体は動くことをやめ、全身が麻痺したようにノロノロとしか行動を共にしてくれない。ナマケモノにでもなったかのような遅い動き、身体を包み込む倦怠感。つかの間の休息ではないと本能的に察知した心は安堵に眠りへと精神を誘う。
そんな状態だからギギドナは吾平を追うのを止めた。その深刻な雰囲気も、これで終わるのだというような意思も感じ取っていた。そんな時に己がいても邪魔になるだけでしかない。だからギギドナは腰を下ろし、武器さえも凍った地面に突き刺したまま、問う。
「……山茶花。お前は、本当は何がしたいんだ?」
ギギドナの隣で、冷たく白光する壁に背を預けるオメガ――彼らのよく知る気配を纏う山茶花へと視線を見上げた。
そうだ、吾平のいない時の山茶花というのはこの冷たく澄んだような空気を身にまとうことがあった。いつでも青空のような、そんな爽やかさでいたわけではない。空の広大さと澄んだ透明感は同時に身を切る水のようなものでもあったのだ。
力の完全に抜け、敵意もなにも持ち得ないギギドナを山茶花は一瞥する。
「……吾平が好きで、たまらない。この世界が好きでたまらない」
その言葉を聞いて、ギギドナはもちろん、他の奴らも安堵し、気を抜いた。そして次々と意識をまどろみへと変更させていくようだった。けれど、すぐ隣にいたギギドナには聞こえた。意識を救い上げる、続けられた不穏な言葉。
「――だから、俺は死という責任を果たさなきゃいけない」
「な、に……?」
俯き、舟をこぎ始めた頭を、無理やり再起動させる。山茶花の瞳はギギドナに向かなかった。けれど、心地よい低音が言葉を紡ぐ。
秘玉はきらきらと綺麗だった。子の世界そのもののそれが凄く綺麗だった。掛け替えもないほど、美しく、眩しく、暖かだった。
けれど、それは決して人が触れてはならなかった。それは人の触れてよい領域にはなかった。それなのに、
「手を、伸ばした」
「子どもの背丈で、背伸びすれば届くくらいの距離だったから。綺麗なものに触りたかった、もっと近くで見たかった。それだけだったんだよ」
秘玉は穢れた。そして壊れた。まるで世界が人の欲によって壊されるかのようだった。
「人という種族が世界を壊す。その欲が止まらなくなる。……でも、そんな人をも含めて、世界なんだ」
壊れやすく、穢れやすい世界。だからこそ美しいのかもしれない。
「吾平が黙った真実を、語ろう」
総毛だった。既にギギドナの意識は目覚めきっている。その不吉な言葉が体を震わせる。寒さじゃない、不気味さ。先ほどまで戦闘があった場所で、こんな話をしているその横で意識を睡眠に奪われている奴らが急速に憎く、そして羨ましくなった。
これから、山茶花はギギドナが知らなくてもよいことを語ろうとしている。
深くかかわりの無い、当事者以外はしらなくてもよいことを語ろうとしている。学生で、未成年で、ただ少しだけサリファンダと戦う力があって、吾平と山茶花の友人なだけの自分だ。確かに吾平や山茶花の正体なんて気にしない。
けれどそれは今この場にいる全員が当てはまっている。ただ、意識があるのはギギドナだけ、いや山茶花がギギドナの横にいることを選んだ。そして、ギギドナだけが意識を沈没しなかった。疲労を押し隠せないギギドナは声が届かないように逃げることもできない。
(こいつ……仕組んだな?)
恐ろしい、そう思いながらも、ギギドナは受け入れるしかない。知りたくない、同時に知りたいと思うのは、この二人の友人だからだ。大切に思っている。だから、知っておきたい。――ギギドナは隣に立つ山茶花を恨めしげに見上げ、山茶花もそれに苦笑して見せた。




