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world for you  作者: ロースト
四章 深雪に蹲る
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 突然の出来事に混乱し、絶句する吾平。だが、オメガには予め分かっていたことのようだった。

「反動だよ」

 オメガが吾平の手にする黄金の剣を見やった。すべての原因はそこにあるとでも言うような、憎々しげで、それでいて諦めたような、よくわからない色。

 何もかも見てきた視線で、オメガは現実を受け止めていた。



「言ったろう?僕らは人だ。人は脆い」

 急激に力を失った姿はまさに少女だ。人に守られ愛しまれるただ美しいだけの少女。それは人形が糸を途切れさせた様だ。ファラカイナを使う事の付加。

 吾平が悪いのではない。恐らく、姶良自身がその疲労に慣れ過ぎていた。限界を超えた死闘を幾度も経験する姶良。だが、それは徐々に無視できなくなる。なぜなら、あの剣を使っているからだ。前面から倒れ、白い粉に身を擦るようにして立ち上がろうともがくのは“這い蹲った”としか表現ができない。それでも吾平はその手から武器を取り落とさず、尚立ち上がろうと蠢く。――握られた金塊。

 オメガはそれを握る細い手首に容赦なく手刀を繰り出す。

 ひらひらと、頼りなげに空を浮遊する蝶が羽をもぎ取られたかのように、飛び始めの小鳥が銃で柔らかな羽に穴を空けられたかのように……地面に突きたてられようとしていた剣は淡雪を舞い上げながら重々しく倒れこんだ。支えを無くした吾平も地に沈む。それをもっと上がった白が追随し、銀髪を更に銀に染め上げる。

 間髪おかず、蹴り飛ばされる、金属塊。オメガは障害もなくなったその顔の横へと片膝をつき、片腕で吾平の襟元を掴んで引き寄せる。

「く……っ」

「……君は既にあの日、完成させられていた」

 まるで脅すかのように、もう一方の手は剣を握ったまま、地面へと向けられていた。

「だからね、もとの姿はあったんだよ。すぐそこに」

 指を刺す。それは金の剣だった。吾平の剣だ。弾き飛ばされた剣は美しく朝の陽光を反射していた。錆もなく、夢のような美しい流線を描く姿は立派だった。

 想像力によって顕現するファラカイナ武器は使用者の手を離れればすぐさま形を失う。遠距離攻撃ならともかくも、武器ならばその場で霧散する。けれど、吾平のそれは違う。それはファラカイナによって顕現された武器ではなく、ファラカイナそのものだからだ。 

 黄金の剣、ファラカイナの金塊。初めは無意識に出現させたそれは今まで吾平が飲み込んできたファラカイナが結晶となって身体の内から取り出せるようになった、という仕組みらしい。つまり、その金塊がなければ、吾平は何もできない。そして、今それは吾平の手には無い。

「君はきっと覚えてないんだろうね」

 オメガはふと、吾平を開放する。その代わりに雪に埋もれる吾平を無視して黄金を手に取った。軽く、使い心地を試すかのようにそれを素振りする。

 その長大な身の丈は吾平の手にあって余剰が過ぎた。けれど、今はオメガの元で、実に馴染んでいる。そんな光景に、“もしかしたら”が浮かんだ。

 剣は吾平の手によく馴染んで、懐かしささえも感じることがあった。それは姶良が使用していたのか、と疑っていたが、もしかしたら――“アイラ”が使用する、通例の武器だったのかもしれない。

 おもむろに、オメガは剣を吾平に向けた。膝と両肘をようやく立てたところで、その無造作ともいえる動きに思わず首だけで仰け反る。オメガは吾平の態度にチラとも意識を向けず、切っ先で掬い上げるように、吾平の首に長年鎮座するそれを引っ掛けた。

「月と太陽のモチーフ、ね。“リセット”と“正しい道”?――笑っちゃうね。暗示だよ、これは」

 月のネックレスヘッド、透き通った藍色のカイヤナイト。和名は藍晶石。二硬石ということでディスシーンとも呼ばれる。意味は純粋・清純、表現力、想像力、洞察力や直感といった精神的力を増幅させるに作用。青灰色、暗青色、くすんだ青色、青緑色、白色などあり、トラウマの解消・精神の改革、感情・精神の安定、適応、清浄、リセットという効能を持つ。

 太陽のネックレスヘッド、海の色に似た青色のアイオライト。和名は菫青石。二色の色を持つ色ということでダイクロアイトとも呼ばれる。意味は自己同一性、初めての愛、誠実、徳望、貞操。紫青色、青色、すみれ色などあり、依存心を減らして感情の斑を抑えるたり、アイデンティティを呼び覚まし本来の自分へと導くなどの効能だ。深い瞑想。心に安定。

 ――オメガの言っている言葉の意味はわかる。けれど、理解できない。


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