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扉の内側の世界には犇くようにして在学生がこちらを観察していた。特に初端から目立っていた吾平へと視線は向けられる。――じっくりと身体の上を走る視線が不快だ。
二階三階と吹き抜けになったその場はただのホールだ。中央を開き、円になるようにして待ち伏せた生徒たち。その大半が一般生徒。“隊員”ではない。
授業のカリキュラムは共通して実践演習がある。しかも授業はこれにその殆どを占められている。そしてそれは正しく、サリファンダと戦うこと。一般生はグループとなってそれに対応する。しかも万一のためにこの雪山から出ることもない。
この要塞の背後にはファラカイナの鉱窟が幾つもあり、それ故にここは狙われ、また負け知らずの異名を持つ。そのことに一役買う、それが一般生徒。
しかし“隊員”となれば話は別だ。彼らはもっと積極的に、それこそ英雄的に活動する。
この山を守るのはおまけ程度、軍に籍を置く部隊の補佐に回る他、実際に街に出てサリファンダの狩りを行う。そこで手が負えなくなれば部隊に回されるという、直接的な実践・戦闘を日々繰り返す。――そこで卒業を迎えればそのまま軍部隊に抜擢されるという寸法。
つまり、エリートの集まり。誰もがこの危険を知りつつ、憧れる。
「あ、君!」
「さっきはごめんね?龍城、馬鹿だから勘違いしてさ」
振り向けば先ほど上着を剥ぎ取った男と、いきなり勘違いとやらで切りつけてきた奴。
「連夜、てめぇーが指示したんだろうが」
「俺、連夜っていうんだ。こっちは龍城」
龍城という奴の言葉をきれいさっぱり無視して話しかける連夜。
(……たぶんこいつ、女たらし)
男臭くない繊細なつくりの顔立ちで始終冷静な、爽やかな笑顔の仮面をつけている。
話を聞けば、この二人は今回“隊員”に選ばれたということで大役(つまりは逃げてきた生徒たちへの処分という歓迎)を預かっていたらしい。殆どの場合がこうであり、例から外れれば次の機会に回されるそうだ。――隊員も一般生から伸し上がった者。その実力を正しく見せつけなければ士気が上がらない、ということ。
観察の眼はこいつらにも向けられていた。隊員と一般生の両方から、その役に値するかどうかを見極めるために。
(俺には、関係ないか)
「部屋、分かる?教えようか」
「いい」
言って、他に話しかけてくる奴がいないことに気付いた。他の生徒たちは分け隔てなくグループの勧誘を受けている。
「かわいくねー奴」
パンッ!
言葉にカッとなって頬を叩いた。
「姶良の肌に傷をつけたからな。変態」
にっこり笑って去る。勧誘など、初めから受けるつもりもないのだ、ここに用はない。