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「正直、吾平は一人でくるんだと思ってたよ」
軽く笑ってオメガは言った。傷ついた大人のような、達観した子どものような、境界線上の曖昧な表情。“時”はオメガの中の時間だけは止めてくれなかった。
誰よりも早く、時は過ぎていく。何かを感じ取る暇も得ないほど、早く。
吾平と山茶花は表裏一体。愛羅とオメガは裏表。
そうだ、だから今この時、この場で対峙する時。二人だけの邂逅だとオメガは思っただろう。誰にも邪魔されてなるものか、と。
「……そのつもりだったさ。でもこいつらは俺らが思うより、ずっと――馬鹿だったんだ」
オメガの正体を知っても、仲間だと笑うから。“山茶花の思考”でここまで辿り着いてしまうほどの、バカだから。――今でも尚、“人”として認めてくれる、大馬鹿だから。
「仲間だ、って。笑うんだ」
俺たちを。
「彼らに聞かれても、……知られてもいいんだね」
詰めていた距離、簡単には攻撃の出来ない場所まで飛び退ってそう言った。
その視線はただ一人、吾平にだけ向けられている。
吾平の正体――“人”ではないもの。
“愛羅”……人の身体に寄生する成長する意志。世界を支える柱の一つ。秘玉と呼ばれた力の欠片。世界そのものの意志。
言葉に表してしまえば大仰なその正体は、意思さえもなかった“物”。そんなものに芽生えた意識。けれど、
「――もう、話したよ」
そんな吾平にも、その存在を肯定して、意思を認めた。――仲間だと、彼らは言った。
『あいつに会う前に、みんなに話したいことがある』
そう、切り出した吾平に怪訝な顔をする者も、不満げな表情を見せる者もいなかった。
予め予測していた、分かっていた。いや、話さなければ、何も始まらないと感じていたのだ。それでも、吾平のために何も追求することなく、待っていた。
だから、それに恩赦して――最後の休憩の時、吾平はそれを口にした。
「なんだぁ、こんなところで告白かー?」
冷やかしの言葉。重く考えなくていい、そういう意味合いが感じられる。軽口で、でも軽々しいものではない。真剣みもきちんと伝わって、無理をするなと気にするなと、彼らは態度で示してくる。
「まぁ、似たようなもんだ。……俺は、人間じゃないんだ」
だから、はっきりと言った。受け入れられなくてもいい、そんな覚悟をしていた。
だが、「――知ってた。今まで考えて見ろ、どう考えたってありゃ、人間業じゃねえって」
落ち着いて、普通に返される。そのことに吾平は驚いた。
「思い出したんだ。俺がどういう存在か、自分がなんだったのか。――本当に、人間じゃないんだよ。俺も……山茶花も」
それが、あるいは伝わっていないのかと、より明細に伝達する。具体的に、何がどうなのか。あの場所で、あの祭壇で見たものが何なのか、何を思い出したのか、自分とは――アイラとは何なのか。けれど、一瞬の静寂の後。
「実は俺は男なんだ~とか、そんなこと言われるかと思ったぜ」「そっちの方が驚く」「地味に傷つくわ~」そんな会話が繰り広げられて、緊張感が一気に緩み、吾平は思わず湧いた疑問を尋ねていた。
「おどろかない、のか?」
期待と怖れの混じった問いは思った以上に小さく、周囲の喧騒に紛れてしまうかと思われた。けれど、そうではない。
「それがどうしたんだ。人間じゃないからサリファンダと共闘すんのか」
「んなわけ……っ」
「なら、いいじゃねえか」
押しの強いギギドナの言葉。いつのまにか、再び静寂がそこに広がっていた。
「裏切らないなら、共にいるなら、人種なんて関係ない」
違う?そう、フィガルノに駄目押しされる。
「牙むけなきゃいい。今牙向いてる馬鹿は飼い主にかみついた反抗期の犬だ。それだけだ。……敵じゃねえ」
クラスメイトの誰かが言って、誰かが後を追うように纏めた。
「さっさと行くぜ、馬鹿犬矯正しに」
きっと、皆の気持ちが一緒だった。
正体より、種族より、……心の絆が、一番の証だって。




