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world for you  作者: ロースト
四章 深雪に蹲る
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「正直、吾平は一人でくるんだと思ってたよ」

 軽く笑ってオメガは言った。傷ついた大人のような、達観した子どものような、境界線上の曖昧な表情。“時”はオメガの中の時間だけは止めてくれなかった。

 誰よりも早く、時は過ぎていく。何かを感じ取る暇も得ないほど、早く。


 吾平と山茶花は表裏一体。愛羅とオメガは裏表。

 そうだ、だから今この時、この場で対峙する時。二人だけの邂逅だとオメガは思っただろう。誰にも邪魔されてなるものか、と。

「……そのつもりだったさ。でもこいつらは俺らが思うより、ずっと――馬鹿だったんだ」

 オメガの正体を知っても、仲間だと笑うから。“山茶花の思考”でここまで辿り着いてしまうほどの、バカだから。――今でも尚、“人”として認めてくれる、大馬鹿だから。

「仲間だ、って。笑うんだ」

 俺たちを。




「彼らに聞かれても、……知られてもいいんだね」

 詰めていた距離、簡単には攻撃の出来ない場所まで飛び退ってそう言った。

 その視線はただ一人、吾平にだけ向けられている。


 吾平の正体――“人”ではないもの。

 “愛羅”……人の身体に寄生する成長する意志。世界を支える柱の一つ。秘玉と呼ばれた力の欠片。世界そのものの意志。

 言葉に表してしまえば大仰なその正体は、意思さえもなかった“物”。そんなものに芽生えた意識。けれど、

「――もう、話したよ」


 そんな吾平にも、その存在を肯定して、意思を認めた。――仲間だと、彼らは言った。




『あいつに会う前に、みんなに話したいことがある』

 そう、切り出した吾平に怪訝な顔をする者も、不満げな表情を見せる者もいなかった。

 予め予測していた、分かっていた。いや、話さなければ、何も始まらないと感じていたのだ。それでも、吾平のために何も追求することなく、待っていた。

 だから、それに恩赦して――最後の休憩の時、吾平はそれを口にした。


「なんだぁ、こんなところで告白かー?」

 冷やかしの言葉。重く考えなくていい、そういう意味合いが感じられる。軽口で、でも軽々しいものではない。真剣みもきちんと伝わって、無理をするなと気にするなと、彼らは態度で示してくる。

「まぁ、似たようなもんだ。……俺は、人間じゃないんだ」

 だから、はっきりと言った。受け入れられなくてもいい、そんな覚悟をしていた。

 だが、「――知ってた。今まで考えて見ろ、どう考えたってありゃ、人間業じゃねえって」


 落ち着いて、普通に返される。そのことに吾平は驚いた。

「思い出したんだ。俺がどういう存在か、自分がなんだったのか。――本当に、人間じゃないんだよ。俺も……山茶花も」

 それが、あるいは伝わっていないのかと、より明細に伝達する。具体的に、何がどうなのか。あの場所で、あの祭壇で見たものが何なのか、何を思い出したのか、自分とは――アイラとは何なのか。けれど、一瞬の静寂の後。

「実は俺は男なんだ~とか、そんなこと言われるかと思ったぜ」「そっちの方が驚く」「地味に傷つくわ~」そんな会話が繰り広げられて、緊張感が一気に緩み、吾平は思わず湧いた疑問を尋ねていた。


「おどろかない、のか?」


 期待と怖れの混じった問いは思った以上に小さく、周囲の喧騒に紛れてしまうかと思われた。けれど、そうではない。

「それがどうしたんだ。人間じゃないからサリファンダと共闘すんのか」

「んなわけ……っ」

「なら、いいじゃねえか」

 押しの強いギギドナの言葉。いつのまにか、再び静寂がそこに広がっていた。


「裏切らないなら、共にいるなら、人種なんて関係ない」

 違う?そう、フィガルノに駄目押しされる。

「牙むけなきゃいい。今牙向いてる馬鹿は飼い主にかみついた反抗期の犬だ。それだけだ。……敵じゃねえ」

 クラスメイトの誰かが言って、誰かが後を追うように纏めた。

「さっさと行くぜ、馬鹿犬矯正しに」

 きっと、皆の気持ちが一緒だった。

 正体より、種族より、……心の絆が、一番の証だって。



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