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「待てって。言ったよ、俺」
「てめぇが言ったんだろ。何か文句あんのか」
それに犬のように言うな、と言う。
「文句はないけど、さ」
言いにくそうに言葉を一度切ってから、一気に告げる。
「この子、合格者だよ。正確には、この子“達”だね」
真実って程でもないが、勘違いしたのは本当のこと。
例年、ここに来るまでサリファンダに襲われる新入生。勿論、その時期を狙って行っている行事ではあるが、その結果としてパターンは別れている。
一つ、きちんと教師を先頭にして指示に従い、うまく生き残る者。
一つ、教師ともども仲間を捨てて逃げ、運のいい事に生きたままここに逃げ込んでくる者。(そういう時は逸れただなんだと言い訳をしてくるけどね)
一つ、全滅し、教師一人が帰ってくる。大体がこれに当てはまる。
つまり、一番に生徒が顔を出す場合とは逃げてきた者。そしてそういう奴らはここにはいらない。落第者として正当なる処分が下される。
で、今回の場合。どこにでも例外があるということ。
「逃げたにしてはこの人数――いくらなんでも多いよね?」
「は」
「龍城の初撃を受け止められた時点で気付くべきだったんだよ。先生もいるし、ほら」
指で示せば気配もなく、しかし随分と近い距離に魔女はいた。
静かに、寝ているかのように目を瞑ったまま身じろぎもせず門へと背を預けている。
「遅すぎ」
暗に、どこで道草食っていた、というものだ。
それもそのはず、学校に近づいた時点で生徒は全て合流し後続を待っていたというのに、前が見えた途端に姿を消したと聞いた。見えた、といっても何もない雪山だからこそ見えただけで距離は十分にあった。その間に襲われれば一溜まりもない。
何をしにどこへ行ったのやら、職務放棄か。
「なんて様だ」
(あくどい笑み。自分のことを棚にあげてよく言う)
「まさか味方から攻撃受けるとは思わなかったからな」
魔女はフン、と鼻を鳴らしただけだった。
目前で硬直する男を無視し、その隣の間抜け面から上着を剥ぎ取って、これまた無視。目の前で展開されたちょっとした騒動を見ていた生徒たちのところへと向かう。
「さあ、次の課題だ。各自、今日中に己の部屋に行って、十分休むように。机の上に各自、明日の注意事項が書かれているから読んでおくんだな」
開け放たれたままの扉に入り込んでから、その一言のみを告げて魔女も去る。