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「さあ、生徒はこいつに続け!私は最後尾を行く!」
白い世界の中、真っ赤なコートの魔女が叫んだ。緊張感だけが伝播して状況のわからない不安にざわめく生徒が大半で、その指示は一気に理解を深めた。即ち、この雪原を行くのだと。自らを守るものが何もない、その不安と恐怖に顔を歪ませながら、それぞれが懐からアクセサリーを取り出した。
何の説明もない。だが、ここにいるものは自覚している。この世界に蔓延る悪を。その狙いを。そして自らのなすべき事を。確実に迫っている生命の危機がここにある。
世界はファラカイナを必要としている。そしてサリファンダもファラカイナを食物として狙う。ならば自分達がすべき事はただひとつ、対抗すべき事。そのためのアカデミアであり、そのために彼らは今ここにいるのだと、新入生は大志を胸に抱く。
危機は教えられることでなく理解するものだ。死の危険性など予告なく訪れる災厄だ。だがサリファンダは違う。悪意に塗れている。排除すべき対象。守る。守るのだ、世界を。
「現象化は己を守る!死にたくないなら、生きたいなら武器を取れ!」
吾平は言葉にして皆の士気を引っ張り上げる。だが、内心は寒々しい自らの言葉に嘲笑を浮かべていた。足手まといは所詮足手まといだ。この場にいるのは皆、アカデミアに今期から入学する生徒達だ。それまではどこか、サリファンダ除けの結界が張られた大都市に住んでいた者たちが多い。ファラカイナを扱う素質あり、とアカデミアからの招待が来たことで大挙して入学と相成った、状況に流されただけの馬鹿だ。戦闘経験どころかまともにサリファンダを見たことさえない。
実物を見ては驚きの合間に食い殺されるだろう。ファラカイナを扱う練習だけはして来たようだ、と次々と念じて現象化を起こす群れを見て吾平は結論付けた。
「お前たちは既に守られる存在じゃない!狙われているんだということに気付け、戦え!」
生徒達に武器を取り上げるよう、演説する。内容はただの煽り。士気が上がればそれだけ生き残る確立も変わってくる。――吾平はそう、どうでもいい。自分がアカデミアに入学できれば、皆の前で戯言に熱弁を振るうことも構わない。それで死のうがどうでもいい。
魔女の観察するような面白がるような視線を横に浴びながら吾平は腕を振り上げた。
生徒達の視線が吾平の腕に向かい、そしてその背後にあるものに気づいた時、その顔はそろって恐怖に引きつった。
(いくら戦闘経験がないといって、見ただけでこれとは、)
ひゅっ!――風を切る音をさせて鎌を持った腕を降ろす。自身へと被さる影の持ち主、その背を切りつけて首を刈り取りながら溜め息をつきたくなった。
(先が思いやられる)
向き直り、その巨体を真正面から切りつける。その間に、首が宙を舞った。