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池か湖か迷う大きさのその場所は決して古くあったわけではない。山陸の多い国の中で比較的平地にあるのはそれが街の造営に際して作られた人工の遺物である。
そこは王都に近い、けれどそれほど発展したわけでもない街の、唯一の目玉といえる池だった。気候が崩れ、王都と周辺いくつかの街以外には人気もまばらな、そんななかでは薄く氷の張った池など忘れ去られたようなものだった。
かつて人々が穏やかに笑い合い、麗らかな春の陽気を過ごした場所は今、伸びた草が鬱蒼と取り囲む、氷水。常に薄暗い天の元、寂れたような椅子がそこかしこに留められていた。池に漕ぎ出すためのボートやオールはすぐさま使えるように端にまとめられているだけで見咎める人もいない。
これでも、夏の季節はもう少しマシだ。冬国といえども暑いときがある。逆に山の方が照り返しがあって人の肌に辛い。海は常に荒れ模様のためにこの国では夏の暑さを凌ぐのにこのような池やプールを選ぶ。
だが今は春だ。やや寒空が多く、また多くの先例に倣うことなく今年は寒い春がやってきた。
もう実際に身に知るものの無くなった、数百年前。
この国は四季豊かとして他国からの来訪も珍しくない土地だった。今のようになったのは世界がズレたためだ。その時に何があったのか、正確にそれを伝えるものはない。
人は一歩一歩、歩んだ道を刻んでいた。それでも、どこを探してもその時が歴史として伝えられることはなかった。世界がそれから一変した。特にこの国は有様を変えていた。
四季の美しい国は常冬の地となり、山々には白いレースのような、錘が乗せられた。自由に流れていた水は時を止め冷たく交流を閉ざされ、人々は消えた。世界中に現れた化け物によって命を奪われた。
(今日、今日こそは!彼女をゲットする!)
心新たに硬く決心するが、その言い方自体が古いことにはちっとも気付かず、思考に耽る。
いつもいつも、何故だか邪魔が入る……。しかし!今日はそんなことは絶対ない!なぜなら、(湖の上だからだ!!)
初デート、って呼んでいいのだろうか。
話がある、と来てもらったはいいが彼女にはまだ何も話していないのだ。
状況を掴めていないだろうか、しかし察しのいい彼女ならばこの雰囲気、気付いているだろう。既に幾度もそんな雰囲気を作り出したのだ、あとは言葉だけ、という状況で達成が出来なかった数々の経験。しかし、―――密室、白鳥ボート、横並び。そのおいしい状況といったら!
「(やばいやばいやばい)」
視線を下に向けそうになって、我慢する。とても平静ではいられない。
(だって、スカートなんだ)
脚をコギコギ進むのだから、もちろんスカートでは白く柔らかそうな脚がちらちらと見え、その先までも……と考えただけで鼻血が出てきそうだ!
普段、少しおてんばなところのある彼女は女らしい格好などしてくれない。オシャレという言葉自体に興味がないといった風だ。しかし、今日はきちんと着飾ってきてくれている。
しかも履きなれないからか、そのガードが随分薄いのだ。ラッキーなことには変わりない。
「ねえ、話って……」
「好きだ!」
彼女から切り出した話題に正面きって告白する。
「え、ちょ―――」
頬を真っ赤に染めたまま、声だけの抗議をする彼女に堪らなく愛しさを感じ、
「ごめん、我慢できません!」
謝りながら押し倒す。
(ここだ!行け、男だろっ!突き進め!なし崩しだ、押せ!)
「あっこんなところで……だめぇ!」
彼女のかわいらしい抵抗を聞きながらも止まることはない。周囲には誰もいない事は確認済み。
そもそも、水も凍りそうな中で真冬にボートを漕ぎに来るなど、めったにないことだろう。その時点で自分たちが変だということに気付けという話だが。氷水となった湖の中央、岸に誰かが通ったとしてもそこからは何をしていても見えない。
(つまり、大丈夫!氷も俺たちの熱で溶ける。寒さなんて感じないさ!)
どんな解釈だ、と突っ込んでくれる第三者がいないことは彼らにとって幸いだったにちがいない。いなければ、の話だが。
「まっ、てぇえええええ――!!!」
突然響き渡る怒声。続いて上がる水柱。それは今押し倒したばかりの彼女が上げた静止の声ではなかった。紛れもなく、第三者。しかも馴染みつつあった声でもあった。
一般人な二人はこのごろよく遭遇する戦闘とその人物たちに、仕方なく回避行動に移った。つまり、戦闘で揺れる水を全速で漕ぎ岸に向かうこと。
((またしても―――っ!!!!))
その場にいる全員の心境が被った。




