最後の戦い
「条件は単純に殺し合いでいいよね?」
「ああ。」
「不正は
「してない。信じてる。」
ヴェルの言葉を継ぐ。
「いいの?今日まで騙してあげたのに。」
「俺の知ってるお前はそんな卑怯で勝つことをよしとするタイプじゃない。」
「僕の何を知ってるっていうんだか。まあいいけどね。」
そして、俺とヴェルはスタート位置についた。
俺が入ってきた扉の前。
ヴェルが奥の玉座。
「もうこのイス出番ないと思ったんだけどな。」
「オーディンのイスってところか。」
「もしかして名前の由来気づいてた?」
「姉さんが言ってた。禍をもたらす者。なんでそんなイメージの悪い名前にしたのかって悩んでたぜ。」
遠くで姉さんが恥ずかしそうにしている。
「僕にはお似合いでしょ?僕の才能が多くの夢を潰してきたんだからね。」
「その鼻持ちならない自慢の鼻も叩き折ってやるぜ。」
「それは楽しみ。」
いつもと変わらない微笑む顔が悪意で満ちている。
その笑顔を純粋にしてやるために俺は両手に剣を握る。
「はじめようか。」
「いつでもどうぞ。」
階段上の床を踏み込み走る。
ずっと一緒に戦ってきた相棒だ。
俺の手の内なんていくらでも知っているだろう。
求められているのは新しい発想。
仕込みはない。
あるもので新しいものを作っていくことが求められている。
「簡単に手に入ったら嬉しくないからさ!簡単にしなないでよ!」
矢継ぎ早に打ち出される矢。
その一発一発が火の鳥となって俺に殺到する。
外れる矢などない。
剣で撃ち落としても飛び上がって再び攻撃をしかけてくる。
そのせいで数が増えていく。
そのうちさばけなくなる…。
「大丈夫なの?」
それに答える余裕もなく次々と体当たりしてくる火の鳥たち。
もはや8匹の鳥に狙われ続けこれ以上増えると耐えられない。
そこで、俺は月光に水の魔弾を装填した。
そして、撃ち落とす時に水の魔法を刃にわたらせる。
水状態の魔法剣で叩き落とすと鳥は墜落し、黒くこげたただの矢に戻った。
それを繰り返して全ての矢を撃ち落とす。
「どうだ!」
「さすがだね。じゃ次いってみよー。」
光属性の矢を思いっきり引き絞る。
そして、上空に向けて放つとそれは無数に別れ、光の雨を降らした。
俺は直線的にヴェルを目指すことを諦め、本棚の影にとびこむ。
本棚を盾にして右から周りこむ。
「大事な本なんだから盾に使わないでよ。」
そう言いながらもふってくる雨の量は増えるばかりだ。
だが、俺はついにヴェルと同じ高さの段までかけあがった。
ヴェルまでの距離20メートル。
「チェックメイトが近いぞ!」
駆け出した正面には何も障害物がない。
見えるのはヴェルの姿だけだ。
そして、引き絞った弓が見える。
「えい!」
そんな声で打ち出された矢は恐ろしい速度だった。
だが、狙いの位置さえわかっているのだから避けられる。
速度を落とさないための最小限の姿勢を低くする動きで回避。
あと数メートルで俺の距離だ。
が、俺は派手にこけた。
シリアスな状況の中で冗談のようにこけた。
左足にワイヤーが絡まっている。
「はい。やり直し。」
そう言ってヴェルがワイヤーをひっぱりなげると俺は階段の一番下まで落とされた。
「いつまで兄さん気取りだよ!」
「義兄さんって呼んでいいよ?」
「姉さんはお前なんかにやらねえよ!」
再び駆け上がる。
今思いついた秘策が今回はある!
構えるヴェル。
それに対して俺は武器を全て鞄に収納した。
そして言ってやった。
「俺を殺したら姉さんは絶対お前を許さないぞ!」
「え?」
ヴェルが攻撃する手を止める。
予想通りの効果だ。
「卑怯だよ。かなた!」
「元からこの戦いは俺の勝利が決まってたんだよ!策士と呼べ!」
俺が左手に槍、右手に剣を構えなおす。
あわててヴェルも接近戦用のナイフを二つ構える。
左手の槍を投げつける。
回避に関しては俺より上のヴェルを捕らえられるわけがない。
あいた手に二股の小さな槍を装備しなおしながら右手の月光をヴェルの肩めがけて振り落とす。
それを受けようとヴェルが左手のナイフを月光の軌道上に合わせてきた。
そこへ目掛けて左手の槍を突き刺す。
槍はヴェルの手を挟んだまま豪華なイスの背もたれに突き刺さった。
それでも慌てることなく右手のナイフを俺の腹に向けて放つ。
それも月光を投げ捨てあいた右手の二股の槍で挟み、イスに縫い付ける。
そして、すかさず多きめの二股槍を左手に構え、ヴェルの首をイスに縫い付けた。
これが数秒の攻防だった。
「俺の勝ちだな。」
「…負けたよ。僕を殺して英雄になるんだね。」
「は?殺さないし。」
「殺さないとゲームが終わらないよ。」
生への執着を感じさせない言い方だった。
こいつはここで終わる事を望んでいる。
そう言いたいような。
でも、俺はヴェルが最後のボスってキャラではないと知っている。
「言っておくけどな。おまえのこの世界にに対するゲームとしての愛はシュラウドに遠くおよばねぇよ。生活の場として定義するお前には、あいつみたいに命をかけて最後までゲームをやりきる思いはねぇ。村人Aだからな。ヴェルは。だから終わらせろ。」
「僕が死なないと終わらないよ。ねぇ。ファラン。どうだろう。僕でユウの仇をとらない?」
そうやって挑発してでも死に場所を探している。
きっと何もできなくなって死んでいくのが許せなかったのだ。
何か形にして死にたい。
そういう思いがヴェルにとってこの世界を必要とさせたのだろう。
「私はもう仇をうちました。それにあなたが死ぬと悲しむ人がいるでしょ。」
ファランもそれに気づいているのかまったく取り合わない。
「僕が死んで本気で悲しむ人なんていない。僕をみんなと同じ人間として扱ってくれない。そう気づいたから僕は死ねなくなったんだ!みんなわかったような口聞くけど!ニュースとして扱って、残念ねって同情してみんなの世間話のもとになるだけ。そんなのが僕の死だって許せるわけないだろ!僕は誰かに殺されて普通に死ぬんだ!それこそが僕の最後の表現だよ!」
ヴェルの素直な気持ちだったのかもしれない。
天才として多くの人に羨望の目で見つめられることは幸せなことではないのかもな。
天才だからかなわない。
そういう冷たい遠くから見るような目で見られてきたのかもしれない。
ただ平凡な高校生の俺にはそんな気持ちはわかってやれない…。
「私が泣くよ…。」
「私は…あなたがかなたを殺してもきっと憎めなかった…。」
・・・。
え…?
「好きだから。生きて…罪を償って…。」
「…おかしいな…。負けたのに勝っちゃった…。」
ヴェルはそう呟いた。
なんとも間抜けな終わりだったけど…。
俺も姉さんも家族を卒業してこの世界を終わらせた。