ラストライフである理由
「なんでってきまってるじゃないか必要だからだよ。かなたが。」
この部分だけ聞いたら、俺は愛されちゃってるのか、男に…。
と思うことひとしきりだ。
「かなたの想像力はすごく面白いんだ。その想像力と僕の世界を定義する力があれば、この世界は無限大に広がっていく。現実を越えて、リアルでファンタジーな世界を作ることができる。だから、かなた。僕とこの世界で生きていこうよ。」
「断る。俺はこの世界が好きだよ。でも、俺達が欲しいのはこういう形で人を強制的に縛って作る世界じゃないだろ。」
「なんで?もっとリアルであるべきなんだよ。現実では何もできなくなっていく僕は、この世界ならまだ人間として表現者として生きていけるんだ。だからこそ、こここそが現実でなきゃいけないんだ。ラストライフ。みんな最後の命。人の死を本当の死として悲しみ。生きることに本気で執着する。それが世界をリアルにする必要な要素だよ。」
「ヴェルの状況に同情しないわけじゃないし、気持ちもわかる。だが、それに人を巻き込むのは認めない。」
「わかってくれないんだね。」
「わかってやってるさ。だから、この世界を解放しよう。そして、やり直そう。誰も気づいてやれなかったお前の孤独も…。」
「もういらないや。」
その返事は予想通りだった。
あいつは既に俺に見切りをつけてる。
まるでいらなかったおもちゃのように捨てているのだ。
「だろうな。それはあの時からそう思っていただろ。俺がお前に銃を向けた時。お前に歯向かった時に。だけどな、自分の価値は自分で決めろ。相手に決めてもらおうっていう考えだからそうなるんだ。」
「氷花。氷花ならわかってくれるよね。僕と一緒に。」
俺に言ったときとは違う。
本気の熱意がこもった声だった。
それに対して姉さんの言葉は受け入れられないという意思がこもったものだった。
単純に最後の疑問を解決するために言葉にする。
「ひとつきかせて。なんでこんな事になるってわかってたのに私に近づいたの。最後は殺しあう運命じゃない。」
「必要だと思ったからだよ。好きだから。」
「そんな言葉じゃ騙されないわ!」
見てられなかった。
だから、ヴェルの代わりに言ってやった。
「姉さん…。ヴェルは本気だったんだ。姉さんを愛してしまった。きっとそれが無ければ、あいつはちゃんと最後のボスとして俺達とここで戦ったはずなんだ。システムいじってクエストを緊急で発生させて戦いを避けようとしたりもしなかったはずなんだ。それだけ本気なんだよ。」
「そんな本気なんて…。」
そんな自分の気持ちすらも否定しようとする姉さんを俺は止めたかった。
だから、手を握った。
「あいつを改心させてみせるよ。待ってて姉さん。」
涙で濡れた顔のままこくんとうなずく。
「ヴェル!姉さんをかけて戦おうぜ!俺が勝ったら現実に帰らしてもらう!お前がかったら姉さんヴェルにやる!」
「馬鹿!」
イオとファランにまで言われた。
「こんな最低な奴に氷花さんあげるとか女の幸せをなんだと思ってるの!」
イオには殴られた。
「姉さん…いいよな?」
「うん…。」
「氷花がそれでいいなら僕もいいよ。」